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藤井聡太と豊島将之 2人が見た盤上の景色

2021.12.10 :

将棋界最高峰のタイトル「竜王戦」を制した藤井聡太四冠(19)。竜王として挑戦を受けた豊島将之九段(31)との全4局は、トップ棋士たちが一様に語る“名勝負”となりました。

 

今回、激闘を終えた2人が、NHKの単独インタビューに応じました。

 

「純粋な将棋の楽しさを共有できたことが本当にうれしかった」(藤井聡太四冠)。

 

「これから自分が強くなれたら、この対局がきっかけだったということになる」(豊島将之九段)。

 

お互いを「大きな存在」と語る2人は、どんな対局を繰り広げていたのか。今だから話せる竜王戦の舞台裏や将棋にかける思いを聞きました。

“うまく指せた”よりも “課題を感じた”対局

11月、序列最高峰の「竜王」を獲得し、八大タイトルの半分を占める「四冠」となった藤井聡太さん。

19歳3か月での四冠達成は史上最年少。

現在の棋士で最多のタイトル保持者となり、名実ともに将棋界の頂点に立ちました。

藤井さんへのインタビューは「四冠」となって2週間後。
「ようやく一息つけました」。
和やかな表情が印象的でした。

4勝、負けなしで「竜王」奪取。
しかし藤井さんが口にしたのは、達成の感慨ではなく、冷静に自分を見つめ直すことばでした。
「竜王戦ではいい結果を出せましたが、内容を見ると、こちらが苦しい場面も多かったので、豊島さんの強さを感じたシリーズだった気がします。うまく指せた対局よりも、うまくいかずに課題を感じた対局が印象に残っています」
藤井さんが特に印象に残ったと話すのは第1局。

判断を誤って苦しくなった場面を挙げ、「課題を突きつけられた1局だった」と振り返りました。
「少し苦しいながらも粘れていると思って指していましたが、豊島さんの手が思った以上に厳しく、はっきりと苦しくなってしまいました。自分の形勢判断を下方修正したうえで、少しでも粘れる手はないかと考え直しました」
劣勢に立たされてからの戦い方に、多くの学びを得たといいます。
「不利になったときは、苦しいながらもなるべく局面を複雑に保てる手を選んで、読み切られないようにしようという意識で指しました。自分で考えてみて、自分の負けまで読み切ることができなければ、相手にとっても負かすことが難しい場合が多いと思うので、苦しい状況でも抵抗して、すぐには負けに近づかないように指したいと思っていました」

難敵・豊島将之が語る“藤井の強さ”

藤井さんがことしの4つのタイトル戦のうち3つで対戦したのが、現役最強の1人・豊島将之さんでした。

藤井さんにとって豊島さんは、同じ愛知県出身の先輩。
プロ入り前から練習対局で教わる間柄でした。

去年までは6戦全敗で、ただ1人、大きく負け越す相手。

3つのうち最初のタイトル戦「王位戦」開幕時の会見で藤井さんは、「豊島さんは常に目標としてきた先輩」「自分の成長につながる機会だと思ってしっかり戦いたい」と語っていました。

その2人がぶつかった、「王位」「叡王」「竜王」の3つのタイトル戦。

6月から半年近くにわたる、全14局の戦いとなりました。
王位戦は初戦、豊島さんが完勝するも、その後、藤井さんが4連勝。

叡王戦はフルセットにもつれ込む熱戦。

そして迎えた竜王戦は、トップ棋士たちの想像を超えるハイレベルな戦いとなりました。
豊島さんは、この連戦の中で、藤井さんの進化を感じたといいます。
「成長なのか、リズムなのか、理由はわからないですが、竜王戦のほうが藤井さんの将棋のクオリティーが高かった気がします。序盤から終盤まで、どこをとっても強さがあります。序盤は、新しい戦術を取り入れるスピードが早いです。中盤は、手をとにかくたくさん読める。終盤は、詰む・詰まないの判断が非常に正確で早い。竜王戦で自分がミスをした場面をひもとくと、自分には難易度が高かったと感じる局面が多かったのですが、そうした中でも藤井さんは正確に読めていると感じることが多くありました」

“藤井聡太の登場が新たな目標になった”

藤井さんの前に、常に大きな壁として立ちはだかってきた豊島さん。

自身にとっても、藤井さんの存在が大きくなっていったことを、今回のインタビューで明かしました。

幼い頃から才能が注目され、将来の名人候補と期待されてきた豊島さん。
しかしプロ入り後、タイトル獲得までの道のりは遠く、苦しい時間が続きました。

3年前、悲願だった初タイトルをつかんだときの心の内を語りました。
「タイトルを取るまで苦戦したので、最後のほうは『タイトルが1つ取れればいいや』みたいな気持ちになっていて、それ以外の目標がなくなっていました」
そこに現れたのが、かつて練習対局をした藤井さんでした。
「藤井さんは、プロ入り後の29連勝や詰将棋の解答の速さ、指す将棋の内容も、その年齢にして脅威的なものがあったので、将来は本当にすごいレベルの、これまでにいなかったレベルの棋士になると感じていました」

真理の追究「棋は対話なり」

互いに大きな存在と語る両者が盤を挟んだ、ことしのタイトル戦。

2人が印象に残っていると答えたのが、いずれも竜王戦が決着する第4局の最終盤。

ファンや関係者が勝負の行方に注目する中、2人が語ったのは、勝敗を超えて「将棋の真理を追究できた」という充実感でした。

第4局の最終盤、トップ棋士たちが「あまりに難解だった」と振り返る局面。

豊島さんは長考して答えを探し続けましたが、わずかに読みが先を行った藤井さんが勝利をつかみました。

2人は対局後もしばらく、この場面について考え続けていたといいます。
(豊島将之九段)
「結果がどうとかではなく、『もう少し対局を続けたかった』という思いはあります。難しい局面については、1人でも考えることはいくらでもできるのですが、限られた時間の中で藤井さんから返ってくるいい手に、『ああ、なるほど』と感じることが多かったんです。難しい局面で正解を指していけば続いていくので、羽生善治さんが“テニスのラリー”に例えていたことがありましたが、あの局面でもう少し正解を指し続けたかったという思いです。ことばにするのは難しいですが、純粋に、対局している瞬間が気持ちのいい時間でした」
(藤井聡太四冠)
「終局してすぐに浮かんだのは、タイトルを獲得した実感ではなくて、『将棋のことをもう少し考えていたい』という思いでした。最終盤でこれほど複雑な局面は珍しくて、その局面を考える時間は、勝ち負けとは別にすごく楽しい時間でした。『棋は対話なり』と言われますが、人間どうしの対局で選ばれる指し手には、対局者が考えた“意味”や“意思”のようなものが込められます。もう一方の対局者が、その意思を受け取ってまたそれを返す。それが『対話』なんだと思います。もちろん、勝敗が大きな意味を持つ1局なのですが、その中でも、純粋な将棋の楽しさを共有できたことが本当に幸せだったと思います」

“強くなりたい もっとおもしろい局面に出会いたい”

藤井さんとのタイトル戦を終え、無冠となった豊島さん。

インタビューでは、“これから先”を見据えたことばがあふれました。
「ここまで完璧にストレート負けしたのは初めてですし、根本的に将棋の実力を上げなければ勝負にならないという人は、タイトルを取ってからはあまりいませんでした。3つタイトル戦に敗れて無冠になったので、まずは、これからの取り組み方を変えなければいけません。今回の対局がどんな意味を持つのかは、これから自分がどれくらい活躍できるか、どれくらい成長できるかにかかっていると思います。これから自分が強くなれたら、この対局の日々がきっかけだったということになるんだと思います」
一方、将棋界の頂点に立った藤井さん。

今後について尋ねると、これまでと変わらず「強くなりたい」。
そして、藤井さんの視線は、強くなった先にある世界に向けられていました。
「1人の方とこんなに続けて対局することはなかったので、対戦を重ねることで相手の将棋や考え方がより深くわかるところがあって、すごく貴重な経験でした。豊島さんは、自分にとっては今後も1つの目標であり続ける方だと思っています。自分は将棋を指すうえで、『おもしろい』と思えることがいちばん大事なことだと思っています。ここが到達点だとか、明確な目標があるわけではありませんが、もっと強くなることで、これまでよりもおもしろい局面に出会えることが多くなると思うので、少しずつでも、そういうところに近づいていきたい」
次々と記録を打ち立てている藤井さんは、今後どんな境地にたどりつくのか。
無冠となった豊島さんは、竜王戦での戦いを糧に、どのような歩みを見せるのか。
これからも2人の活躍を追い続けます。

※12月12日(日)午後9時放送の「NHKスペシャル」では、2人のインタビューに加えて棋士の証言から「竜王戦」の激闘を振り返ります。また、同日の「おはよう日本」でも、2人のインタビューを放送します。

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名古屋放送局 記者

河合哲朗

2010年入局。前橋局・千葉局を経て、2015年から科学文化部で文化取材を担当。文芸・文学史、音楽や映画、囲碁・将棋などを取材。現在は名古屋放送局で、文化をはじめ幅広い分野の取材を担当。

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科学文化部記者

岩田宗太郎

平成23年入局。宇都宮放送局を経て、平成28年から科学文化部。

江戸川乱歩の「少年探偵」シリーズに始まり、綾辻行人さんの「十角館の殺人」でがっちりと心つかまれたミステリ好き。(最近は阿津川 辰海さん推し)。趣味は国内外の博物館を巡り、その土地のお酒を飲むこと。文化財保護や「今起きていることを後世に伝えるための資料収集」に関心があり、取材を進めています。

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