文化

AI・メタバースLabo ~未来探検隊~

AIは人間を“拡張”する~アートから見えてきた可能性~

AIは人間を“拡張”する~アートから見えてきた可能性~

2023.12.18

AIを使って制作したアート作品のコンテスト「AIアートグランプリ」が開催された。
全国から100を超える応募があり、グランプリには、AIで誰でも自由に変身することができる世界を表現した動画「明日のあたしのアバタイズ」が選出された。
いま、特別な技術や知識が無くても誰でも簡単に創作を楽しめる時代が来ている。

AIアート 個性的な作品がズラリ

会場には最終選考10作品が展示された

「AIアートグランプリ」は、CGクリエーターやAIの研究者などの有志で作る実行委員会が開催している。

今回で2回目となる大会には、AIを使って制作した動画やゲームなど、小学生からお年寄りまで、幅広い年代からプロ・アマ問わず124作品の応募があった。

11月4日、東京・秋葉原で最終審査会が開催された。

最終審査に残った10作品は、人の手で使った影から、AIが新しい「影絵」を作り出するものや、空想の景色が切れ目なく次々と映し出されるものなど、手の込んだ、個性的なものばかり。

最終選考会でのプレゼンの様子

制作者たちは、作品に込めた意図や制作過程、魅力などを3分でアピールし、グランプリ受賞の吉報を待った。

グランプリは“FAXが現役”の職場の事務員に

グランプリを獲得した快亭木魚さん

審査の結果、グランプリには、さまざまな姿に変身できる面白さと、誰にでもなりすますことができる懸念を描いた、東京在住の快亭木魚さんの作品「明日のあたしのアバタイズ」が選出された。

この作品は、AIで誰でも自由に変身することができる世界を表現した動画だ。

快亭木魚さん作「明日のあたしのアバタイズ」

ブロンドの長髪の女性や科学者など23のアバターが登場するが、もとになったのはすべて快亭木魚さん本人だという。

実は快亭木魚さん、AIともアートとも関係のない「FAXが現役」という職場で事務職として働いているという。

グランプリの受賞の喜びを、次のような言葉で語った。

喜びを語る快亭木魚さん

「ふだんはChatGPTの“チャ”の字も出てこないようなAIと関係のない職場にいる私だが、いろんな人がAIを使えるようになったことで私のような人でもグランプリに届くことができた。今回の募集テーマは『明日』だったが、AIは私が想像しなかった明日に連れてきてくれた」

どのようにAIアートを制作したのか、創作の過程や魅力について聞いた。

アイデア次第で可能性広がる

快亭木魚さんの作品に登場する、長髪のブロンドの女性や怪しげな科学者。

AIで生成された23のアバターだ。

さん

「すべて私の自撮りの動画をAIで加工しています。さっきの女性も全部私なんです」

すべて快亭木魚さんの画像がベースとなっているというアバターの撮影の過程を再現してもらった。

まずは長髪の女性について。

快亭木魚さんが持参した袋から取り出したのは、「毛布」と「バラの造花」。

いずれも「変身」するための小道具だ。

快亭木魚さんは、その毛布を頭からかぶり、さらに造花を耳に引っかけた。

毛布と造花を身につけた どのように変化するのか?

そして「こういう感じでカメラに向かって手を振ると、ちょっと女性っぽくなる」と話し、スマホに向かって両手で手を振っている様子を動画で自撮りした。

撮影した動画を、ソフトを使って1枚1枚の画像に分割し、その中から加工に適した画像を選択。

次に使ったのは「画像生成AI」だ。

撮影した画像をAIで加工するには「プロンプト」と呼ばれる指示文を打ち込み、自分が「変身」したいイメージをAIに指示する。

プロンプト(指示文)を打ち込む

ここでは「ビューティフルガール、美人、美女、18歳」などと入力。

いざ、画像を生成させると・・・。

ブロンドヘアの女性に変身 動画サイトより抜粋

毛布をかぶっていた男性(快亭木魚さん)が、花の耳飾りを付けた、ブロンドヘアの女性に「変身」した。毛布が髪に変化したのだ。

画像生成AIの拡張機能を使うことで、身につけた小道具や日用品などが、まったく違うものに変換することができるのだという。

続いてハンガーやコードなどを頭に巻き付けた画像をAIに読み込ませて変換させると・・・。

SF風の科学者にもなれる 動画サイトより抜粋

まるで機械類を頭部に組み込んだサイボーグのような、SF風の科学者に変身した。

さん

「ハンガーなどを無理矢理かぶっているだけなのに、良い感じのSFの人物を出してくれる。変身には意外とアナログな努力が必要なんです」

快亭木魚さんは、特別な知識や経験がなくても、持ち前の「アイデア」次第で、何にでも変身できることが最大の魅力だと語る。

快亭木魚さん

「AIの専門的な技術がなくても、絵が上手というわけでなくても、面白い動画が作れるというところが一番良いところなんです。自分、こんなに変身願望があったんだなと。AIには、それを実現させてくれる良さがある」

亡き妻の歌声をAIで

AIを使って、親しかった人を“よみがえらせた”人もいる。

「ずっと妻と音楽を続けていくつもりだった」

松尾公也さん

そう話すのは、東京都のクリエーター・松尾公也さん。

「Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]」と名付けられたミュージックビデオから流れてくる歌声。

Desperado by 妻音源とりちゃん[AI]

この歌声は10年前に亡くなった妻・敏子さん(当時50歳)の声を、松尾さんがAIを使って再現したものだ。

生前の妻の歌声や写真などをAIに学習させ、生成されたものを組み合わせたスライドショーとなっている。
妻の敏子さんと松尾さんは、松尾さんが大学で組んでいたバンドのキーボード担当が抜けたため、代わりのメンバーを大学の掲示板で募集した際、敏子さんから電話がかかってきたことが出会いの始まりだったという。

松尾さんの妻・敏子さん

好きなアーティストがジョン・レノンで共通していたことなどから、その後、バンドの練習をしているうちに仲良くなった。

新しい思い出をつくりたいが…

松尾さんは、なぜ妻の声で歌を作ろうと思ったのか。

松尾さん

「僕の一方的な願望ではあるが、妻がいつもそこにいる状態にしたいと。せめて声だけでもずっと聞いていたいと。ビデオやカセットには、いくつか声が残っているが、新しい思い出にはならない。妻は亡くなる前に『常に僕の周りにいる。存在を感じていて欲しい』と言っていた。それならばと思って始めたのが、共通の趣味であり、今後も続けていくつもりだった『歌』だったんです」

松尾さんの手元には敏子さんの写真や動画、それに3曲分の歌声が入ったカセットテープなどが残されていた。

残っていた音源の素材

そこで、自身もライターとして、合成音声の技術を取材・記事にした経験がある松尾さんは、残っていた音源や音声を組みあわせることで、新しい歌ができるかもしれないと考え、まずは既存の音声合成技術を使って実践してみた。

発音記号1つ1に分解して、それを滑らかに聞こえるように再構成する方式だった。

しかし、残っていた音源はわずか3曲分で、この方式で作った声は、どこか機械的で必ずしも満足がいくものではなかった。

「今の技術では、これ以上のものを作るのは無理だ」

松尾さんには、まったく新しいアプローチが必要だった。

生成AIがブレイクスルーに

そこで登場したのが、去年、登場した生成AIだった。

妻の写真をAIに学習させたところ、生成された画像は本人に近いものだった。

生成された妻・敏子さんの画像

さらに、海外で合成音声活動をしている人のアドバイスも受けて、生成AIを使って「声」を再現してみることにした。

ビデオやカセットなどに残っていた妻の歌声や話し声といった音源をもとに、五十音や単語、短いフレーズなど565ファイル、時間にして1時間分のデータをAIに学習させて、妻の声が出せるAIモデルを作成した。

500余の「音素」ファイル

そして、歌声や話し声を、別の声に変換するという技術を使った。

この技術と新たに作り出したAIモデルを使えば、まるでボイスチェンジャーのように、松尾さんが話したり、歌ったりした声が、「妻の声」として返ってくる。

松尾さんがイーグルスの名曲「Desperado」を熱唱すると・・・。

スピーカーを通して、聞こえてきた歌声は、妻の歌声だと認識できるクオリティーだったという。

「ぞわぞわ来ました。あまりにも妻の声に近いので、これはすごいなと。AIを使う前に制作したものとはまったくレベルが違って、偽物だと思う部分がなかったんです。本物だと思い込むことができるくらいになっていました」

ただし、批判の声もあった。

「自分だったらそうしない」
「奥さんは望んでいないのではないか」
「冒とくになる」

こうした批判に、松尾さんは次のように考えているという。

「新しい技術ができて、それが亡くなった方を含めて現実との境界を曖昧にするものだとすれば、反感も生まれると思います。今はそういう段階なのだと受け止めました。ただ、癒やしやケアの1つとして生成AIを使って亡くなった方を思い出すために役立てる手段としてはあると思います」

松尾さんはこれからもAIを使って妻との新しい思い出を紡いでいくという。

松尾さん

「妻とずっと歌い続けていきたいというのが本当に自然な形でできる。今、そんなところまできているんです。こういうことができて良かったなと、ある意味1つの到達点に行けたと思っています」

【取材後記】

クリエーターの2人は、AIについて「人に力を与えてくれるもの」と話していた。

人間には生まれ持った才能や後天的に身につけたスキルなど、さまざまな能力があるが、必ず何かが欠けている。

能力だけではない。

「情報」が欠落しているために作り上げることができないものもある。

AIはそうした欠けたものを、1つ1つ埋めてくれるような存在だという。

それはAIが人間の足りない能力を補完し、拡張するためのサポート的な存在になり得ることを示唆しているように思う。

クリエーティブな世界においてはAIが人間に置き換わることは、まだ難しいが、AIと“協働”することで、より高次の創造性へ踏み出こめる可能性があることを、2人の取材を通して感じた。

一方で2人は、共通の懸念についても指摘していた。

生成AIは誰でも簡単に創作への道を提供するが、それは、悪用しようと思えばいくらでもできるということも意味している。

フェイク画像がネット上であふれる状況はすぐには止められないだろう。

新しい可能性を提供してくれるAIをどのように使えば、お互いに高みに上がることができるのか。まずは、われわれ“人間”が“彼らの手”を取り、導いていかなればならない。

ご意見・情報 お寄せください