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【全文】藤井聡太棋聖「将棋に頂上はない」

2020.07.29 :

将棋の八大タイトルの1つ「棋聖戦」を制して、自身初のタイトル獲得を果たした藤井聡太棋聖。17歳11か月、史上最年少でのタイトル獲得の快挙に、将棋界を超えて大きな注目が集まりました。その藤井棋聖がNHKのインタビューに応じ、熱戦を振り返っての思いと、棋士として抱く今後への思いを語りました。インタビューの全文を掲載します。

(科学文化部・河合哲朗)

「いい将棋を指す」という思いがタイトル獲得に

「棋聖戦」五番勝負第4局での藤井聡太七段と渡辺明三冠(段位・タイトルは当時)
7月16日、「棋聖戦」五番勝負で渡辺明三冠を3勝1敗で破り、史上最年少でのタイトル獲得を果たした藤井聡太棋聖。

7月19日に18歳になり、その翌日にインタビューに応じました。
タイトル戦で見せた和服姿から一転、普段着で現れた藤井棋聖に、まずは、熱戦を振り返っての思いから話を聞きました。

ーー渡辺三冠との五番勝負を振り返り、改めて、今の心境を聞かせてください。
タイトル獲得という結果を非常にうれしく思っていますし、渡辺先生との五番勝負を体験できたことは、非常に大きな経験になったと思います。全4局を通して自分のパフォーマンスをしっかり発揮できたと思っていますが、その中でも渡辺先生から、こちらが気づいていない好手を指される場面も多く、非常に勉強になりました。
ーー「3勝1敗」でのタイトル獲得。この結果はどう受け止めていますか。
自分の実力以上のものが出せたと思います。渡辺先生はずっと棋界のトップで戦われてきた方なので、今回対戦できることを非常に楽しみにしていました。結果よりも、しっかり指していい将棋にしたいと思って臨んだことが、幸いしたのかなと思います。
ーーこれまでもたびたび目標に語ってきた「タイトル」を最年少で獲得したこと、感慨深さがありますか。
そうですね、やはりそれは非常にうれしいですし、「東海地方にタイトルを」ということが板谷進先生(藤井棋聖の大師匠/1988年・47歳で他界)の代からの悲願でしたので、それを達成できたことは、杉本師匠にも一つの恩返しができたと思います。
ーー初めてのタイトル戦から得られたものはありましたか。
和服での対局など今までに経験のないことも多かったですし、渡辺先生の指し手や立ち居振る舞いなども見習いたい部分が多いと感じたので、今回の経験を生かして、今後、タイトルホルダーとしてしっかりやっていきたいです。
ーー小学生の時から指導を受けてきた、師匠の杉本昌隆八段に対して、今どんな思いがありますか。
師匠には入門する前からずっとお世話になってきたので、今回タイトルを取れたことで一つの恩返しができたかなとは思います。ただ、それだけでは足りないのかなという思いもあるので、これからさらに高みを目指していくことがさらなる恩返しになると思っています。

新型コロナで対局休止 有意義な成長の時間に

中学2年生でのプロ入りから、4年足らずでタイトルを獲得した藤井棋聖。この間の成長について「中盤力の伸び」をあげています。

新型コロナウイルスの影響で対局ができなかった期間が、有意義な時間になったと語りました。
ーー最近の取材では、自身の成長点として「中盤の力」をあげています。具体的にはどう成長できたと感じていますか。
中盤は、「読み」と「形勢判断」の両方が非常に深く問われるところだと思っていますが、その中で、読みに頼りすぎてバランスを欠いた判断をしてしまったり、あるいはその読みが足りなくて見落としが出てしまったりということがこれまでの対局でもあったので、そこを改善したいと思っていました。まずは自分の将棋にそうした課題があることを認識することが大事だと思いますし、その上で将棋ソフトなども活用しながら改善していけたのかなと思っています。
ーー新型コロナウイルスの影響で、ことし4月からおよそ50日にわたって対局が中断しました。この期間はどのように将棋と向き合いましたか。
今までの方法を特別大きく変えたことはなかったのですが、しばらく対局が空いたことで、よりじっくりと1つの課題に向き合うことができました。やはり対局があると、そのことを意識せざるを得ない面がありますので、まとまった時間でじっくりとできたことがよかったと思います。
ーー自分の将棋を見つめ、どんなことに気がつきましたか。
これまでの自分の対局、特に負けてしまった対局を振り返ると、中盤でミスが出て途中から差をつけられてしまう展開や、中盤から終盤の入り口で相手に後れを取ってしまう展開が多いと思ったので、そこを改善したいと思いました。
ーーそれをどのように克服したのでしょうか。
自分の傾向として、判断に迷ったときに1つの読み筋を深く掘り下げすぎてしまうところがあると思ったので、適当なところで読みを切り上げて形勢判断に移ることや、局面によっては、なるべく多くの手を拾って読むことを意識しました。
ーー今回の五番勝負の中では、第2局の「3一銀」や、第4局の「8六桂」など、周囲が驚く手も登場しました。こうした手はどのようにして見つけるのでしょうか。
中盤では、なるべく多くの手を拾って考えるということ、あるいは終盤では、形に頼りすぎずに読みを入れるということを意識しているので、そういった自分の特徴から出たところがあるのかなと思います。
ーー意表を突こうという狙いはない。
はい、そういったことは特にないですね。どの局面であっても自分なりにしっかりと考えて、いいと思った手を指したいと考えています。
ーートップ棋士を相手にする対局も増えましたが、経験の差を痛感するようなこともありますか。
トップの方と対戦すると、自分には気がつかない好手を指される場面が多いので、やはりそこは自分の課題と言えると思います。ただ、そういうところから学んで改善していくことは可能だと思います。対局を通して得られる相手の感覚を自分なりに解釈して取り入れていけたらなと思っています。

どんな「異名」で呼ばれたい?

ーーこれまでの名棋士は、羽生善治九段の独創の一手「羽生マジック」や、谷川浩司九段の並外れた終盤力「光速の寄せ」など、棋風を表す異名と共に語られています。今後、自分の将棋にそうした呼び名が付くとしたら、どんな名前がいいと思いますか。
いやあ、自分から特に「これ」という希望はないので…。ぜひ、何かいい名前をつけていただけたらうれしいですね。(笑)
ーー自身の将棋については、どんな棋風だと考えていますか。
うーん、棋風というのは、自分で意識してしまうとそれにとらわれてしまうというか、縛られてしまうところがあると思うので、自分としては棋風はあまり意識していないです。ただ、見ていただく方にとっては、特徴のあるおもしろい将棋が指せればと思っています。

“最強の棋士”を目指して

ーートップ棋士に話を聞くと、タイトルを取ったあと、それが重圧になったと語る人もいます。タイトル獲得が自分の将棋に影響を与えることはあると思いますか。
“タイトルホルダーらしい将棋”というものはないので、やはり自分の将棋を指していくしかないと思います。これから取り組んでいくことは、タイトルを取る前も後も変わらないのかなと思います。
ーーこれまで目標としてきた「タイトル」を獲得した今、次の目標としてはどんなことを目指したいですか。
今回の棋聖戦や王位戦は自分にとっても非常にいい経験だと感じているので、その経験を生かして成長したいと思っています。対局を通して自分の課題が見えた場面もあるので、そこを改善してより強くなれるように取り組みたいと思っています。
2016年のプロ入り直後に、当時中学2年生だった藤井棋聖が書いた色紙
ーー藤井棋聖がプロ入り当時に書いた色紙には、「最強の棋士」という目標が書かれています。今、この目標にどこまで近づけたと思いますか?
将棋は、どこまで強くなったとしても終わりがないと思っていて、そういう意味では、本当の意味での頂上というものもないのかなと思います。四段になった当初の色紙ということで懐かしいんですが、なかなかいい目標だなと思ったので、引き続きこの目標を胸に頑張っていきたいと思います。
ーー今後長期的な視点で、藤井棋聖が目指す棋士像はありますか。
将棋界には、谷川先生、羽生先生、渡辺先生といった本当にすばらしい先輩方がおられますので、そういった方の姿勢を勉強しながら、より多くの方に将棋の魅力を伝えられるようになりたいなと思っています。

盤上の「探究」これからも

インタビューの最後、棋士としての今後の心構えについて、色紙に一筆を求めました。

藤井棋聖が記したのは、タイトル獲得翌日の記者会見でも見せた『探究』ということばでした。

ーー「探究」ということばには、どのような思いを込めていますか。
タイトルを取ったときに「探究」と書いたんですけど、やはりその思いは今でも変わらないというか、将棋というものはすごく深いゲームなので、探究心を持って取り組みたいという思いは変わりません。
ーープロ入り当時に書いた「最強の棋士」の目標と、今記した「探究」。思いに変化はあるのでしょうか。
棋士になってから4年弱がたちますが、多くの対局を通していろいろな新しい発見がありましたし、将棋の奥深さを感じる機会が多かったと思うので、これからも盤上に対して探究心を持って、引き続き取り組んでいきたいと思っています。
ーーその探究心こそが、目標である「最強の棋士」につながっていくのかもしれませんね。
そうですね。より強くなって新しい景色を見たいという気持ちは、当時も今も変わらないと思っています。
ーー現在は「王位戦」七番勝負も進行中で、ここまで2連勝です(7月20日時点)。今後への意気込みを聞かせてください。
当然、タイトルを獲得したいという思いはあるんですが、それは「結果」であって、実力をより高めることによってでしか実現できないと思っています。第2局まででも、木村(一基)王位の指し手には非常に勉強になるところが多かったので、そうしたところをしっかりと振り返って、第3局以降に生かして頑張りたいと思っています。
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科学文化部記者

河合哲朗

平成22年入局。前橋局・千葉局を経て、平成27年から科学文化部で文化取材を担当。文芸・文学史をはじめ、音楽や映画などのポップカルチャー、囲碁・将棋まで幅広く取材。

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