原子力

事故から8年 福島第一原発 廃炉作業の状況は

事故から8年 福島第一原発 廃炉作業の状況は

2019.03.11

東京電力福島第一原子力発電所の事故では6つある原子炉のうち、1号機から3号機の3基で核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が起きました。

国と東京電力がまとめた廃炉の工程表では、すべての作業を終えるまで最長で、事故から40年かかるとされています。

中でも重要なのが、「燃料デブリ」と、使用済み燃料プールに残された「核燃料」の取り出しです。

最大の難関 デブリ取り出し

このうち、廃炉の最大の難関が燃料デブリの取り出しです。

燃料デブリは、溶け落ちた核燃料が構造物と混じり合ったもので、今も、1号機から3号機の原子炉と、原子炉を覆っている格納容器の中にあります。その量は、合わせて880トンと推定されています。

東京電力は、燃料デブリの取り出しに向けてロボットによる調査を行い、これまでに2号機と3号機の格納容器の中でデブリとみられる堆積物が見つかっています。

2号機で初の接触調査

2号機では先月、格納容器の底でデブリとみられる堆積物に直接触れる調査が初めて行われ、小石状の堆積物を持ち上げ、動かすことができましたが、粘土状に見えたものは硬く、動かせませんでした。

※2号機の調査についての詳細はこちらの記事に
福島第一原発2号機「燃料デブリ」接触調査

来年度後半には、少量の堆積物をサンプルとして取り出すなどさらに詳しく内部を調べる予定で、今のところ、デブリの取り出しに向けた調査や検討がもっとも進んでいます。

3号機は水位が課題

また、3号機ではおととし、魚のマンボウに見立てたロボットを原子炉の真下に投入し、内部の状況を調べた結果、事故の前にはなかった岩のような塊などが堆積しているのが見つかり、東京電力は燃料デブリの可能性が高いと評価しました。

ただ、3号機は、格納容器内部の水位が高いため、デブリの取り出しに向けて水位を下げる方法が検討されています。

1号機サンプル調査へ

一方、1号機では、燃料デブリとみられる堆積物は確認されていません。

来年度の前半に水中を潜る機能を持つボート型のロボットを格納容器内に投入し、堆積物のサンプルの取り出しを目指しています。

こうした調査を経て、国と東京電力は来年度中にデブリを最初に取り出す号機と方法を決め、2021年から取り出しを始める予定です。

気中工法の前例のない取り組み

では、デブリはどのように取り出すのでしょうか。

格納容器は事故による損傷で穴があいていて、修理も難しいことなどから、現状では放射線を遮蔽する水で満たした状態で取り出すことはできません。

そのため、水位は低いまま、空気中で取り出す「気中工法」と呼ばれる方法を軸に進めるとしています。

これは、世界でも例がなく、放射性物質の飛散を防ぐ対策や、放射線量が高い環境での安全対策を徹底しなければならず、具体的な計画を立てられるかが課題になります。

燃料プールからの燃料取り出し

一方、福島第一原発のリスクを下げるためにもう1つ重要な作業があります。それが、使用済み核燃料の取り出しです。

使用済み核燃料がある専用のプールは原子炉建屋の最上階にあり、核燃料がもつ放射性物質の量は燃料デブリを上回るほど大量で、事故当時は合わせて3108体が保管されていました。

4号機は取り出し完了

このうち、4号機は、プールに移されていたためメルトダウンを免れました。そのため4号機で先行して使用済み核燃料の取り出しが進められ、2014年12月に作業は完了しています。

3号機 トラブルで遅れ

一方、1号機から3号機は、メルトダウンの影響で建屋の中が激しく汚染されたため、除染やがれきの撤去が進められてきました。

作業が最も早く進む3号機は、使用済み核燃料を取り出すために必要なドーム型のカバーや、クレーンなどの設置が去年2月までに完了し、11月から取り出しを始める予定でした。しかし、設備や機器に不具合が相次ぎ、取り出しの開始が遅れ、今月末としていた使用済み核燃料を取り出す計画を来月以降にさらに延期しました。

1号機水素爆発影響で厳しい環境

また、1号機は、使用済み核燃料を取り出すための重さ160トン余りのクレーンなどが水素爆発で崩れ落ちた屋根の下敷きになっていて、すぐ下にあるプールに落ちるおそれがあります。

このため1号機では遠隔操作で除染だけでなく、がれきの撤去も慎重に行い、2023年度をめどに取り出しを開始する計画です。

2号機 建屋の線量高い

2号機は水素爆発を免れ、原子炉建屋はそのまま残されていますが、使用済み核燃料を取り出す装置を新たに設置するため、建屋の最上階を解体する計画です。しかし、建屋の最上階も人が立ち入れないほど放射線量が高い状況です。

2号機では、除染などを慎重に行ったうえで、1号機と同様、2023年度をめどに取り出しを開始する計画です。

使用済み核燃料の取り出しは、当初の計画に比べて、1号機と2号機で6年ほど、3号機で4年以上遅れて作業を始める予定になっています。

原発事故から8年「汚染水」が今も大きな課題に

事故から8年となる今も福島第一原発で大きな課題となっているのが「汚染水」です。

なぜ汚染水が出てくる?

1号機から3号機では溶け落ちた核燃料を冷やすため、原子炉に水を注ぐ必要があります。これが核燃料に触れることで、高濃度の汚染水となって建屋の地下にたまっているのです。

さらに山側からの地下水が建屋に流れ込むなどして、建屋内の汚染水は、2015年度の平均で1日490トンずつ増え続けていました。

汚染水減らす対策は?

東京電力は汚染水を減らすために建屋に流れ込む地下水を抑えようと対策に取り組んできました。

▽建屋の上流側で地下水をくみ上げて海に流す「地下水バイパス」や、
▽建屋周辺の井戸で地下水をくみ上げる「サブドレン」と呼ばれるもので、地下水が流入する量を減らしてきたのです。

さらに汚染水対策の柱として2016年3月から運用が始まったのが「凍土壁」です。建屋の周辺の地盤を凍らせて氷の壁で取り囲み、地下水の流入を抑える対策で、パイプに氷点下30度の液体を流しておよそ1.5キロの氷の壁を作り、東京電力は2017年11月、おおむね完成したとしました。

この効果について、東京電力は発生する汚染水の量は凍土壁がない場合に比べ、1日およそ95トン減少しているという試算を公表し、一定の効果があると評価しています。

これらの対策で、1日490トン発生していた汚染水の量は180トンに減りました。

しかし、凍土壁について、会計検査院は去年3月、最終的な経費が国からの補助金およそ345億円を含む562億円にのぼるとしたうえで、「凍土壁の整備による効果を適切に示す必要がある」と指摘し、東京電力は引き続き、費用対効果の検証を求められています。

タンクには大量の水

くみ上げられた汚染水は専用の設備で放射性物質を取り除く処理が進められていますが、トリチウムという放射性物質は、取り除くことができません。

原発の敷地内で保管されている汚染水を処理したあとの水は112万トンで、タンクの数は948基にのぼり、このうち、89%の100万トン近くがトリチウムなどの放射性物質を含む水です。

こうした水は今も増えていて、東京電力は2020年末までに137万トンを保管できる建設計画を示していますが、タンクの建設に適した用地が限界を迎えつつあるといいます。

福島第一原発の廃炉では取り出した燃料デブリを保管する場所など、今後の作業で一定規模の土地が必要になるからだとしています。

水をどうするか検討は難航

国の有識者会議は、トリチウムなどを含む水の処分を検討していて、2016年には海への放出や地中への処分など5つの方法のうち、トリチウムの濃度を基準以下に薄めたうえで、海に放出する方法が最も早く、低コストで処分できるとする評価をまとめています。

しかし、去年8月に福島県内などで開かれた公聴会では地元の漁業者などから「風評被害」を理由に海に放出するなどの処分に反対する意見が相次ぎました。

さらにたまり続けている水にはトリチウム以外の放射性物質も基準を超えて含まれていることについて東京電力が十分、説明してこなかったことにも批判が集まり、東京電力はことし1月、専門家などで作る委員会から「いまだにコミュニケーションが効果的にできていないことが不満だ」と指摘を受けました。

処分に対する風評被害の懸念に加え、東京電力や国の情報公開への消極的な対応が問題を複雑化させたと言えます。

トリチウムなどを含む水の取り扱いはどうすべきなのか。地元の人だけでなく、国民の幅広い理解が欠かせない問題です。

事故から8年 数字で見る東電・福島第一原発

3基の原子炉がメルトダウンするという世界最悪レベルの事故から8年がたった、東京電力・福島第一原発に関するデータをまとめました。

事故直後の大量放出は

事故で外部に放出された放射性物質の量について、東京電力は周辺で測ったデータやシミュレーションをもとに試算を公表しています。

それによりますと、事故発生翌日の2011年3月12日から31日までの間に放出されたヨウ素131とセシウム137は、合わせて90京ベクレルとみられるとしています。

これはチェルノブイリ原発事故で放出された放射性物質の17%余りにあたります。

翌4月の放出量は4兆ベクレルとなり、当初の1000分の1以下に減ったと推定されています。

放出量は大幅減少 一時的に増加も

その後、放射性物質の放出量は低下して、放出量の基準を大きく下回る状況が続いています。

現在、1号機から4号機の原子炉建屋から放出されている放射性物質による線量は、原発の敷地境界の地点での1年間の値でも最大で0.22マイクロシーベルトにとどまると評価されています。

ただ、廃炉作業によって一時的に放出量が増加したと推定されることもわかりました。

NHKが東京電力の公表資料をもとに計算したところ、いずれも推計で、去年1月までの1年間の放出量が、最大で4億7100万ベクレルほどだったのに対し、ことし1月までの1年間の放出量は最大で9億3300万ベクレルほどとなり、2倍近くになっていました。

これらの値は、東京電力が厳しく定めた放出量の基準を1年間に置き換えた場合の値876億ベクレルを大きく下回っています。

一時的に放出量が増加に転じた原因について、東京電力は1号機のがれきの撤去作業や、2号機の原子炉建屋の放射線量を測る調査にともなう作業での際、放射性物質を含むちりが舞ったからではないかとしています。

東京電力は「8年間の大きなトレンドでは減少傾向だが、廃炉作業によって放射性物質の放出が一時的に増えたのが原因とみられる。一般の環境には影響はない値だが、廃炉に携わる作業員などの無用な被ばくを避けるために対策を講じたい」と説明しています。

原子炉建屋から1キロの放射線量

原子炉建屋からおよそ1キロ離れた福島第一原発の正門で計測される放射線量の値は、先月初めに1時間あたり1マイクロシーベルト程度となっていて、去年とほぼ変わっていません。

事故直後の3月下旬には、1時間あたり最大で236マイクロシーベルトが観測されていて、8年前と比べて200分の1以下になっています。

正門付近を含め福島第一原発の敷地内で防護服の必要のないエリアは、敷地全体の96%になっています。

作業員4000人余で推移

廃炉の作業にあたる東京電力や協力会社の作業員の数は、ことし1月時点では、1日あたり平均4190人となっています。

作業員は去年4月以降、およそ4000人から4300人の間で推移していて、ピークだった4年前の3月時点に比べると、3200人程度少なくなりました。

原発事故後 全国の原発の状況は

福島第一原発の事故のあと、新しい原発基準のもとでこれまでに合わせて5原発9基が再稼働した一方、福島第一原発を除き、多額の安全対策費用などを理由に廃炉が決まったり、廃炉を検討したりしている原発は8原発15基にのぼっています。

5原発9基が再稼働済み

廃炉が決まったり、検討したりしている原発を除くと全国には15原発33基があり、青森県にある建設中の大間原発と島根県にある島根原発3号機を含めこれまでに27基で再稼働の前提となる規制基準の審査が原子力規制委員会に申請されました。

審査は「PWR」=「加圧水型」と呼ばれるタイプの原発が先行し、6原発12基が合格しています。

これまでに再稼働したのは、

▽鹿児島県にある川内原発1号機と2号機
▽愛媛県にある伊方原発3号機
▽福井県にある高浜原発3号機と4号機
▽大飯原発3号機と4号機
▽佐賀県にある玄海原発3号機と4号機

の合わせて5原発9基です。

福島と同じ型も審査進む

事故を起こした福島第一原発と同じ「BWR」=「沸騰水型」と呼ばれるタイプの原発は8原発11基で審査への申請が行われ、これまでに合格したのは新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発6号機と7号機と、去年、運転期間を延長する認可を得た茨城県にある東海第二原発です。

廃炉の原発相次ぐ

一方、福島第一原発の事故のあと、廃炉が決まった原発も増えています。

廃炉が決まった原発は

福井県にある
▽敦賀原発1号機
▽美浜原発1号機と2号機
▽大飯原発1号機と2号機
▽佐賀県にある玄海原発1号機と2号機
▽島根県にある島根原発1号機
▽愛媛県にある伊方原発1号機と2号機
▽宮城県にある女川原発1号機

の合わせて7原発11基です。

廃炉が相次ぐ背景には、原発事故のあとに強化された規制基準への対応と、運転期間を原則40年に制限する新たな制度があります。

このうち2月、廃炉が決まった玄海原発2号機は去年再稼働した3号機と4号機の半分程度の出力しかなく、運転開始から40年に迫っていました。原子力規制委員会の認可を得れば最長で20年延長できますが、規制基準への対応で安全対策に多額の費用がかかるわりに発電量が少なく、残された運転期間も短いことから再稼働は経営上のメリットが小さいと判断したとみられます。

このほかに福島第二原発の4基が廃炉の方向で検討が進められています。

福島第一原発2号機「燃料デブリ」接触調査

NEWS UP福島第一原発2号機「燃料デブリ」接触調査

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