科学と文化のいまがわかる
原子力
2020.02.22
日本を、そして世界を震かんさせた、東京電力・福島第一原子力発電所の事故。国と東京電力は、廃炉作業がすべて終わるまでには最長で40年かかるとしています。そのおよそ4分の1となる9年がたとうとしている今、作業はどこまで進んでいるのでしょうか。もしくは、進んでいないのでしょうか。シリーズ「原発事故9年 福島第一原発7つの疑問」。全7回の2回目です。
皆さんの多くが、こうお感じではないでしょうか。
「福島第一原発の事故には大いに関心があるが、どの号機がどうなったか、あまりに複雑でよく分からない」
こうした状況に応えられるよう、この特集では、ひとつひとつの号機について、丁寧に分かりやすく整理していきます。
福島第一原発には、1号機から6号機まであわせて6つの原子炉があります。事故の時に稼働していたのは1号機から3号機です。4号機から6号機は定期検査中でした。
1号機から3号機の3基は、津波などによる影響で冷却装置が停止。核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」を起こしました。
さらに発生した水素が建物の上部にたまり、1号機と3号機、それに4号機で「水素爆発」が起きました。
あのとき各号機では、それぞれ何が起きていたのでしょうか。
・最初に状況が悪化
・事故当日に「メルトダウン」
・翌日には「水素爆発」
最初に状況が悪化したのは1号機でした。
地震の揺れを感知し、核分裂反応を止める制御棒が自動的に挿入され、原子炉は緊急停止しました。
しかし、地震で、外から電気をうけるための設備が損傷。そして、津波によって、非常用発電機や電源盤などが浸水して、すべての電源を失いました。
冷却装置も動かなくなり、核燃料が高温になって溶け落ちる、メルトダウンが起きたのです。
翌日の12日には、溶けた核燃料のカバーなどから発生した大量の水素が建物の上部にたまり、水素爆発が起きました。原子炉建屋の最上階が骨組みだけ残して吹き飛びました。
・冷却装置 3日後に停止「メルトダウン」
・「水素爆発」はせず
・ベント失敗などで格納容器が破損か
2号機では、当初は冷却装置が動いていましたが、その冷却装置も事故発生から3日後の3月14日に停止し、メルトダウンを起こしました。
2号機は、水素爆発はしませんでしたが、原子炉を納めた「格納容器」の大きな破損を防ぐため内部の圧力を下げる「ベント」と呼ばれる操作に失敗するなどし、大量の放射性物質が外部に放出されたとみられています。
・当初はバッテリーで冷却装置動かす
・事故発生の2日後に停止
・「メルトダウン」 「水素爆発」
3号機では、被害を免れたバッテリーで冷却装置を動かし続けていましたが、事故発生の2日後の13日に停止。
核燃料がメルトダウンし、水素爆発が起きました。建屋の最上階が1号機と同じように吹き飛びました。
・当時は定期検査中
・すべての核燃料がプールに
・事故4日後 3号機の水素で「水素爆発」
4号機は、当時、定期検査中で、すべての核燃料が原子炉から取り出され、水を張った燃料プールに移されていました。このため1号機から3号機のような原子炉でのメルトダウンは免れました。
しかし、3号機から配管を通じて水素が流れ込み、事故から4日後の3月15日には、原子炉建屋で水素爆発が発生、分厚いコンクリート製の壁や天井が大きく破損しました。
そして、燃料プールの冷却も止まったことから、多量の燃料が溶けて高濃度の放射性物質が外に放出される懸念が広がりました。
このため、自衛隊や消防などによるプールへの放水が試みられたのです。
幸いにもプールの水が無くなることはなく、核燃料は溶けませんでしたが、一時は首都圏の退避なども政府内で検討されました。
こうした世界最悪レベルの原発事故からまもなく9年。
廃炉作業には最長で40年かかるとされていますが、そのおよそ4分の1がたとうとしています。
これまでに作業はどこまで進んだのか、安全上もっとも懸念される核燃料への対応を中心に整理します。
・プールに核燃料が残されたまま
・がれきの撤去作業続く
・全体をカバーで覆う方針 今後設置へ
・デブリはまだ確認できず
水素爆発で原子炉建屋の上部が吹き飛んだ1号機。最上階にある燃料プールには392体の核燃料が残されています。
この取り出しに向けて、爆発で発生したがれきの撤去が継続的に行われています。
また、建物全体をカバーで覆う方針で、今後、設置工事が行われる予定です。
一方、メルトダウンを起こして格納容器の下の方に溶け落ちた核燃料、いわゆる「デブリ」がどうなっているのか、ロボットを使った調査も重点的に行われています。
1号機では、事故から6年後の2017年3月の調査で、事故の前にはなかった砂のような堆積物が見つかりました。しかし、デブリそのものはまだ確認できず、引き続き調査が進められることになっています。
・プールに核燃料が残されたまま
・遠隔操作で除染へ
・デブリをロボットでつかむ
水素爆発を免れた2号機。1号機と同様に燃料プールにはまだ615体の核燃料が残されたままです。
水素爆発はしなかったものの燃料プールがある最上階は人が立ち入れないほど放射線量が高いため、今後、遠隔操作で除染などの作業を行うことにしています。
そして建屋の壁に穴をあけてクレーンなどを入れて、プールから燃料を取り出す計画です。
デブリの調査は2号機がもっとも進んでいます。
格納容器の底でデブリとみられる堆積物を確認、去年2月、遠隔操作のロボットで動かしたり、つかんだりすることに成功しました。
このため、国と東京電力は来年(2021年)、まず2号機で、デブリの取り出しを開始する計画です。
・プールから燃料取り出し中
・デブリとみられる堆積物確認
・内部の水位下げる方法 検討必要
3号機では、燃料プールからの核燃料の取り出しが、去年4月から始まりました。566体の核燃料が順次、別の建物のプールに移されています。
溶け落ちたデブリの調査については、2017年7月にデブリとみられる堆積物を確認しました。
ただし、1号機と2号機に比べて格納容器の内部の水位が高く、デブリの取り出しに向けて水位を下げる方法の検討が必要となっています。
・プールから燃料の取り出しを完了
4号機は、前述のように、原子炉に核燃料はなかったものの、燃料プールには使用済み燃料を中心に1535体もの核燃料が入っていました。
リスクが高かったことから、事故の2年後の2013年11月に他の号機よりも先行して核燃料の取り出しを開始、翌年、2014年12月にすべて別の建物に運び終えました。
このように各号機では、まずは、燃料プールに残る使用済みなどの核燃料を安全な場所に移す作業が進められています。今後の廃炉作業を進める上で、これをやらなければ先に進めないからです。
しかし、その作業は、全体としては、当初の計画より遅れています。
建物の内部に、高い汚染が残り、ロボットによる遠隔作業でなければ、作業ができなくなっているためです。
3号機の取り出し開始は、当初の計画は2014年末でしたが、実際は4年余り遅れた去年4月でした。
1号機の取り出し開始は、当初の計画では2017年度となっていましたが、現状ではまだ作業が始まっておらず、計画より10年ほど遅れ、2027年度か28年度に着手の見込みとなっています。
2号機の取り出し開始も、当初の計画では2018年度となっていましたが、現状ではまだ作業が始まっておらず、計画より7年前後遅れて2024年度と26年度の間に着手の見込みとなっています。
今後の廃炉作業を確実に進める上で、この9年間に進められたもうひとつの重要な作業が原発の敷地内の放射性物質への対策です。
福島第一原発は敷地全体が汚染されたため、廃炉にあたる作業員などは、敷地全体で防護服や二重のゴム手袋を身に着けなければならず、動きにくいうえに細かい作業に支障が出るなど課題となっていました。
このため、東京電力では、汚染された土をはぎ取ったり地面を舗装したりするなどの除染作業を進めてきました。
その結果、現在は、防護服を着用する必要がないエリアが福島第一原発全体の96%になり、その中の一部のエリアでは、マスクも不要になっています。
現在では、原発の敷地内には、食堂やコンビニも設けられるなど、事故当時の状況とは大きく様変わりし、作業の環境は改善されつつあります。
一方で、福島第一原発では、いまも、毎日170トンの汚染水が発生しつづけ、これが、廃炉を進める上での大きな足かせにもなっています。
溶け落ちた核燃料、デブリを冷やすため、「原子炉」と「原子炉を納めた格納容器」に水を入れ続けていて、これが高濃度の汚染水となって発生し続けています。
さらに、建屋の山側からは大量の地下水が流れ込み、これが汚染水と混じり合って水量が増える原因となっています。
地下水の流れ込みを抑える対策の柱とされたのが「凍土壁」の設置です。
凍土壁は、建屋のまわりに埋めたパイプに氷点下30度の液体を流して、地下に全長およそ1.5キロのいわば“氷の壁”を作るもので、2014年に建設を開始し、2017年におおむね完成しました。
しかし、地中に別の設備や配管などがある一部の場所については完全に凍らせるのは難しく、地下水の流入を100%止めることができません。
そこで、建屋の上流側で地下水をくみ上げて海に排水する「地下水バイパス」という対策や、建屋周辺の「サブドレン」と呼ばれる井戸で地下水をくみ上げ、建屋に流れ込む地下水の量を抑える対策も進め、汚染水の発生量を抑えようとしてきました。
その結果、事故後は1日あたりおよそ500トン発生していた汚染水の量は、およそ3分の1にまで減りましたが、それでもなおおよそ170トンが発生し続ける状況となっています。
この汚染水には、放射性物質のトリチウムも含まれ、この処理をめぐる問題については、シリーズの1回目で特集しています。
廃炉作業に詳しい元メーカーの幹部で日本原子力学会廃炉検討委員会の宮野廣委員長は、ここまでの作業は従来の技術の延長でできることだとした上で、これからの作業がまさに未知の領域になると指摘します。
「汚染水の対策や放射性物質の飛散防止策、使用済み燃料プールからの核燃料の取り出しなどは、大変な苦労があったと思うが、ある程度進んできた。ただ、ここまでの作業は、従来の技術の延長でできることでもある。肝心なのはこれからで、もっとも重要なデブリの取り出しなどは、経験したことのない領域で、新たな技術を開発しなければならず、まさに未知の領域になる」
廃炉作業はこれからより難しい段階を迎えます。
最大の難関とも言われるのが、溶け落ちた核燃料、いわゆるデブリの取り出しです。
デブリは、極めて強い放射線を出していて、溶けた原子炉周辺の構造物も混じり合って非常に扱いにくくなっています。
いまも、1号機から3号機の原子炉と、原子炉を納めている格納容器の中にあり、その量は、合わせて880トンと推定されています。
「格納容器」は事故による損傷で穴があいていて、穴をふさぐ修理も難しいことなどから、現状では、格納容器の中を水で満たした状態で取り出すことはできません。
水で満たすことができれば放射線を遮蔽できるので、本来なら、そのようにできることが望ましいのですが、それができないのです。
そのため、東京電力は、空気中で取り出す「気中工法」と呼ばれる方法を軸に進めるとしています。
これは、実は世界でも例がなく、放射性物質の飛散を防ぐ対策や、放射線量が高い環境での安全対策を徹底しなければならず、そもそもそうした工法について、具体的な作業の計画を立てることができるのかどうかが課題となっています。
はたして国と東京電力は、残りのおよそ30年で廃炉の作業を終えることができるのか、作業を進めていくために何が課題となるのか、シリーズの3回目で考えます。