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今なぜブーム? 応仁の乱

2017.03.06 :

今、一冊の新書の予想外のヒットが話題になっています。

本のタイトルは「応仁の乱」。その名のとおり、室町時代の応仁の乱について詳細に記した学術的な内容でありながら、発行部数は20万部を超えました。

この本のヒットをきっかけに、関連書籍を集めて「応仁の乱フェア」を開いている書店もあります。今なぜ「応仁の乱」なのか。何が読者の心を捉えているのか、その理由を探りました。

不人気のはずが

応仁の乱は、今から550年前の1467年に始まり、京の都を中心に11年も続きました。教科書にも登場し、名前はよく知られていますが、将軍家の後継者争いと有力大名の対立が複雑に絡み合い、乱の原因や展開は非常に複雑です。
このため小説やドラマにもなりにくく、これまで出版業界では「応仁の乱は人気がない」とあまり扱われてきませんでした。
ところが、中公新書「応仁の乱」はちょっと様子が違います。出版した中央公論新社は当初、2万部から3万部売れればいいほうと見込んでいましたが、去年10月に発売されるとネットで話題となってじわじわと売り上げを伸ばし、発行部数は今月6日の段階で15刷28万部に達しました。
ツイッターには「やっと応仁の乱の大要がつかめた気がする」「まるで迷宮のような深みがたまらなく面白い」といった書き込みが見られ、担当した編集者は「いまだに信じられない」と好調な売れ行きに驚きを隠せません。

登場人物は約300人

この本の著者は、日本中世史が専門で国際日本文化研究センター助教の呉座勇一さん。応仁の乱について「多くの失敗を重ねていった結果なので、わかりやすく単純明快に説明するのが非常に難しい」と考え、複雑な乱の実態を単純化しすぎないように気をつけたと言います。
この乱を説明する場合、教科書などでは足利将軍家と両軍の有力大名が主に取り上げられますが、呉座さんが本の中に登場させた人物は、およそ300人。利害関係者が多くなりすぎたことや、その場しのぎの解決策に終始したことが乱の長期化につながったと捉え、相次ぐ裏切りや同じ一族での争い、それに早期終結への反対など、それぞれの人物の思惑や人間関係を詳細に描きました。
「一度始まってしまうと、なかなか終わらせることができない。参加している大名からすると、途中で明らかに損している状況になった。だから早く終わらせなければとみんな思ったはずで、終戦の努力は何度も行われたが、ちょっとしたメンツにこだわったり保身に走ったりと、反対する人が出てきてご破算になるという形で、ずるずる長引いた。何のために戦っているのか誰にもわからない状況になってしまった」

キャッチコピーは大胆に

学術的な記述に対し、宣伝は大胆です。出版社が考えたキャッチコピーは「地味すぎる大乱」。ほかにも「スター不在」や「ズルズル11年」など、あえてマイナスイメージの言葉を並べ、関心を持ってもらおうと工夫を凝らしました。
編集を担当した並木光晴さんは、難しいものを難しいままに描いたことがヒットの理由の一つではないかと感じています。
「わかりやすく、わかりやすくという雰囲気が世の中にあると、『それってリアルではない』と冷静に思う人が結構いるのではないか。みんながみんな、わかりやすくて柔らかいものだけを求めているのではなく、時にはこういう挑戦する価値のある本を読みたいんだなと思えたのは、すごくうれしいです」と話していました。

歴史に求めるものが変化?

また、著者の呉座さんは、歴史への興味の持ち方に変化が出てきたのではないかと感じたと言います。織田信長や坂本龍馬など名をなした人物の行動よりも、失敗だらけで11年も続いた乱からのほうが、今を生きるヒントが多く得られるのではないかというのです。
「応仁の乱というのは、英雄的な登場人物がまるで出てこない。このような歴史に興味を持たれる方がいるというのは、これはやはり今までとは歴史に求めるものが違ってきているのかなと。どうやって生き延びればいいのかと非常に悩んだり迷ったりしている人たちに、興味を持ってもらえているのではないかなと思う」

小説家も注目

新書が予想を超えるヒットとなる一方で、応仁の乱をテーマにした小説にも関心が集まっています。垣根涼介さんが手がけた歴史小説で、ことし直木賞の候補にもなった「室町無頼」。応仁の乱前夜の京都を舞台に、一揆を起こそうと画策する浪人や、棒術を極めて浪人に仕える若者の姿などを描いています。
新書「応仁の乱」は権力者を中心とした記述が続きますが、この小説に登場するのは、秩序や権威にあらがい、新たな生き方を模索する庶民たちです。
「実際に制度が古びて苦労するのは、足利義政や日野富子ではなく、その下で生活している庶民。私は物書きなので、まず、庶民の立場から書きたい」と垣根さんは説明します。

混迷の時代を生き抜くには

垣根さんはこれまでリストラをテーマにした「君たちに明日はない」など現代を舞台にした多くの小説を描いてきました。今回、この時代を選んだのは、経済的格差の拡大や先行きの見えない閉塞(へいそく)感など、現代に通じるテーマがあると感じたからだと言います。
「(室町時代も今も)結局、社会、国が守ってくれることを完全に期待していていい時代ではない。そういう時代の中でどうやっていくのかというのが、『室町無頼』に登場させた主人公たちにも、今生きている人間たちにも共通して言えるテーマではないかと」
今から550年前に起きた『地味すぎる大乱』について、呉座さんも垣根さんも、現代との共通点が多く、それゆえに学ぶべきことがあると指摘していたのが印象的でした。にわかに高まる「応仁の乱」への関心は、不透明感が増す現代社会に生きる私たちの心の反映なのかもしれません。

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科学文化部記者

阿部智己

2008年入局。福井局、札幌局を経て2015年から科学文化部。2年間、消費者庁を担当し、製品事故や子どもの事故などを取材。その後、原子力分野を担当。福島第一原発事故の検証や廃炉の課題の取材を続けている。小さな頃の夢は相撲取り。当時の憧れは逆鉾、琴錦。得意技は上手出し投げ。ブラジルの教育学者、パウロ・フレイレの言葉、「誰かが誰かを教育するのではない。自分を自分一人で教育するのでもない。人は自らを教育し合うのだ。相互の交わりの中で」にひかれ、大学、大学院では教育学を専攻。2児の父。小学生の息子が相撲をしてくれないのが悩み。

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