原子力

もし原発が攻撃されたら… 日本は?世界は?

もし原発が攻撃されたら… 日本は?世界は?

2022.06.22

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では、稼働中の原子力発電所が武力攻撃を受けるという、かつてない事態に見舞われました。

 

原子力施設への攻撃のリスクにどう対応すればいいのか。

 

実は、日本で“ある想定”に基づいた実験が行われているとの情報を入手。研究の最前線に初めて“潜入”し、衝撃の映像を目にしました。

ザポリージャ原発では…

ロシア軍に攻撃されたウクライナのザポリージャ原発。

攻撃から3か月以上たった今もロシア軍による掌握が続いています。

敷地内には500人以上の兵士や軍用車両が配置され、爆発物も置いてあるといいます。

ウクライナ原子力発電公社「エネルゴアトム」のペトロ・コティン総裁代理は、5月31日の記者会見で危機感をあらわにしました。

ウクライナ原子力発電公社「エネルゴアトム」 ペトロ・コティン総裁代理

(ペトロ・コティン総裁代理)
「ロシア軍は管理棟などを攻撃し完全に破壊した。このような行動は『核の大惨事』につながるおそれがある」

今回の攻撃には、どのようなリスクがあったのでしょうか?

防衛省防衛研究所の一政祐行主任研究官が当時の映像を分析。一歩間違えば、原子炉などが壊れ、放射性物質が漏れ出しかねない深刻な事態だったと指摘します。

防衛省防衛研究所 一政祐行主任研究官

(一政主任研究官)
「原子炉に非常に近い場所で砲撃が行われていた痕跡があり、大変なリスク」
「車両を連ねた部隊が非常に強い火力支援を受けながら原発の敷地内部まで侵入してくる。今までの想定を超えた軍事侵攻としての側面だと思います」

それまで原発への攻撃として想定されていたのは「テロ」。

今回のように軍隊による組織的な攻撃に対しては守るすべがなかったといいます。

砲撃されるザポリージャ原発

ザポリージャ原発は、想定を超える攻撃に見舞われたものの、原子炉に被害はありませんでした。

日本での想定は

もし国内の原子炉が攻撃されたらどうなるのでしょうか?

その事態を想定した実験が、日本で唯一の原子力に関する研究機関「日本原子力研究開発機構」で行われていることをつきとめました。

研究の最前線の現場にカメラが入るのは初めてです。

日本原子力研究開発機構の施設(茨城県東海村)

行われていたのは、「原子炉を狙った航空機による衝突」を想定した実験です。

原子炉の壁を模したコンクリートの塊に、航空機に見立てた鉄製の筒をぶつけます。

筒は、長さがおよそ50センチ、幅が8センチ、板の厚さが0.3ミリから0.5ミリで、実際の航空機の構造を参考にしています。

時速およそ200キロから700キロと速さを変えながら衝突させ、壁の損傷度合いや振動などのデータを収集。あわせて原子炉建屋の内部にある機器への影響も調べます。

日本原子力研究開発機構の資料をもとに作成

筒を左側から右側の壁に衝突させます。

壁の損傷度合いや内部の機器への影響などを調べる

下の画像が実際の様子です。

比較的低速の時速およそ200キロでぶつけたケースでは、筒の前方が壁に押しつぶされる結果になりました。

時速約200kmで衝突(提供:日本原子力研究開発機構)

さらに、壁の厚さや筒の強度を変えて実験。

角度を変えて衝突させる実験では新たなことがわかってきました。

垂直に衝突(提供:日本原子力研究開発機構)

壁に垂直に衝突させるより、斜めに衝突させた方が、「表面」の損傷範囲は広くなることが明らかになりました。

一方で、垂直に衝突させた場合は、壁の「裏面」の損傷が大きくなることもわかったといいます。

斜めに衝突(提供:日本原子力研究開発機構)

日本原子力研究開発機構の西田明美副ディビジョン長は、さまざまな条件の実験データを解析し、原発の安全対策に役立てたいとしています。

日本原子力研究開発機構 西田明美副ディビジョン長

(西田副ディビジョン長)
「いろいろな条件に対応した解析、評価ができていくということ。将来的にはガイドラインなどにまとめて、広く使っていただけるようにできればと思っています」

想定は「テロ」 武力攻撃は…

ただ、この研究はあくまでテロによる攻撃を想定したものです。

航空機による衝突などは、原子力規制委員会が電力会社に対策をとるよう求めています。

一方、ウクライナで起きたような武力攻撃は、テロの範囲を超え「防衛」の問題となるため、原子力の安全規制では対応できないというのが国の立場です。

5月30日の参院予算委員会で原子力規制委員会・更田豊志委員長は次のように答弁しました。

原子力規制委員会 更田豊志委員長

(更田委員長)
「規制基準において、武力攻撃に備えることは現在要求しておりませんし、また今後も要求することは考えておりません」

世界では新たな議論も

こうした中、いま世界では原発の安全性をめぐって、新たな議論も始まっています。

アメリカのシンクタンク「核脅威イニシアチブ(NTI)」では世界各国の原発のテロ対策などを評価し、政府への提言を行っています。

武力攻撃への対応はこれまで評価には含まれていませんでしたが、スコット・ローカー副代表は、今後、その基準を見直す可能性があるとしています。

「核脅威イニシアチブ(NTI)」 スコット・ローカー副代表

(スコット・ローカー副代表)
「ウクライナの軍事侵攻は、私たちの評価に大きく影響する。原子力施設への攻撃における国際的な規範についても検討していく」

どう対応すればいいのか

今後、原発への攻撃という新たなリスクにどう対応すればいいのでしょうか。

原子力規制庁元幹部で長岡技術科学大学の山形浩史教授は、ハード面の強化よりも、運用面での備えを検討するべきだと指摘します。

長岡技術科学大学 山形浩史教授

(山形教授)
「攻撃に対してできるだけ被害を抑える有効な方法は、国の命令で原発を緊急停止させること。緊急停止の手順や誰が対応するのかなど、日頃から国や電力会社、自衛隊などが連携して訓練を行い、備えておくべき」

一方、原発に批判的な立場から政策提言を行っているNPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は、大量の放射性物質を放出した東京電力・福島第一原発事故の教訓に立ち返るべきだといいます。

NPO法人「原子力資料情報室」 松久保肇事務局長

(松久保事務局長)
「攻撃対象になり得る原発がある中で、周辺住民にリスクを負わせるのかという話になる。原発を使い続けるのか、皆で議論しなければならない」

国は、原子力を「最大限活用する」姿勢を示しています。

今後、原発の安全性をめぐる議論もさらに深めていく必要があると思います。

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