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エステ広告 満足度第1位は「根拠なし」 消費者庁が処分

エステ広告 満足度第1位は「根拠なし」 消費者庁が処分

2022.06.17

6月15日、都内に本社のあるエステティックサロンが、バストアップの「施術満足度」が実際は2位だったのにもかかわらず「第1位」とインターネット広告で表示していたなどとして、消費者庁はサロンの運営会社に対して景品表示法の「優良誤認」にあたるとして、再発防止を求める措置命令を出した。

 

「第1位」などの最上級表現は、分かりやすく、消費者にとって魅力的に映るかもしれない。

 

一方で、こうしたいわゆる「No.1」広告と呼ばれるものは、これまでも消費者に誤解を与えるおそれのある表現がたびたび問題とされてきた。今回、消費者庁の処分について改めて取材すると、いかにNo.1ありきの調査と、調査結果に対する恣意的な操作が行われていたのか、その一端が明らかになった。

消費者庁 不当なNo.1エステ会社に措置命令

消費者庁の記者会見の様子

エステティックサロンのバストアップとボディ痩身について「施術満足度」が実際は2位だったのに「第1位」とインターネット広告で表示していたなどとして、消費者庁は都内のサロンの運営会社に対して景品表示法の「優良誤認」にあたるとして再発防止を求める措置命令を出した。

措置命令を受けたのは東京に本社があり、全国でおよそ30店舗のエステティックサロンを運営している「PMKメディカルラボ」。

消費者庁によると、この会社は去年9月10日からことし5月27日までの間、美容系のポータルサイトの中に開設した自社のWEBサイトで一部の店舗の実績として「バストアップ 第1位 施術満足度」「ボディ痩身 第1位 施術満足度」などと、いわゆる「No.1表示」の広告を記載していた。

ところが、表示の根拠として示されていたアンケート調査の内容を消費者庁が確認したところ、実際には施術を受けてなかった人を「施術満足度」の調査対象にしていた上に、順位も「1位」ではなく、いずれも「2位」だったことがわかった。

このため消費者庁はこうした表示は景品表示法の「優良誤認」にあたるとして、再発防止などを命じる措置命令を出した。

消費者庁によると、会社が調査を委託した広告代理店とマーケティングのコンサルタント会社が、もともと400人から回答を得て2位だったアンケート調査の結果を、ほかのサロンを選んだ回答者を省くなどしておよそ280人に減らして「1位」という結果に変えて会社に報告し、会社側はそれを知らずに広告を制作したとしていう。

消費者庁によるとPMKメディカルラボは「措置命令受けたことに対して真摯に受け止めます」と話している。

業界団体が是正に取り組む中でのNo.1処分

今回、消費者庁から措置命令が出されたエステティックサロンの広告は、最上級表現の第1位などを使ったいわゆる「No.1広告」と呼ばれる広告だ。これまでも消費者に誤解を与えるおそれのある表現が問題になってきた。

市場調査会社など170社余りが加盟している業界団体の「日本マーケティング・リサーチ協会」は「No.1広告」などランキング広告に関するガイドラインをことし5月に公表し、適正な表示につながるよう加盟社に取り組みを促すなど対策に乗り出している。

日本マーケティング・リサーチ協会
「詳細は調査中であるが、このような不当表示に『市場調査』が悪用されたことは誠に遺憾である。今後はこのような不当表示がなされないように市場調査を広告に利用する多くの企業においてガイドラインが尊重されることを期待している」

No.1ありきの発注と有利な設問設定

対象となった“第1位”の表示

消費者庁によると、今回処分を受けた広告の表示は、広告主のサロン運営会社が広告代理店に対して「施術満足度No.1」のキャッチフレーズを使うことを前提にした調査を依頼していた。

そして、代理店とマーケティングのコンサルタント会社は『調査のアンケート対象者にこのサロンのホームページを見せて、競合他社の10社ほどは名前だけ並べ「痩身施術満足度が高いエステ店はどこだと思いますか。ご存じない場合はイメージでお答えください」』などと、このサロンに有利な設問を設定した上で実際にアンケート調査を行うリサーチ会社の「楽天インサイト」(当時は楽天リサーチ)に調査を発注していたという。

サイトの”イメージ調査”を恣意的に加工か

No.1が作られるまでのイメージ(出典:消費者庁)

消費者庁によると、その発注を受けた「楽天インサイト」はイメージ調査と呼ばれるインターネットを使ってサイトの写真などから印象や満足度を尋ねる調査を行い、今回のケースでは400人から回答を得て、結果は2位だったということだ。

さらに400人は実際にこのサロンで施術を受けた人ではなく、インターネットで集めた人でバストアップの施術満足度を聞く項目も含まれていたが回答者のうちおよそ300人は男性だった。

そして、その調査結果について広告代理店とマーケティングのコンサルタント会社が広告主のサロン運営会社の依頼に合わせるために、ほかのサロンを選んだ回答者を除くなどして結果を「1位」に変えていたというのだ。

サロン運営会社は、こうした調査結果の恣意的な加工を一切知らなかったと話しているという。

代理店やコンサル会社は“処分対象にならず”

今回、処分を受けたのは広告主であるサロンの運営会社だけで、調査結果を恣意的に操作したと見られる広告代理店やマーケティングのコンサルタント会社は、処分の対象になっていない。

消費者庁
「現在の景品表示法では商品やサービスを提供している広告主だけが処分の対象となるが今回の処分が広告主だけではなく、関連する調査会社の団体や広告代理店などの自浄作用に一石を投じることになることを期待している」

アンケート調査を行った楽天インサイト
「消費者庁発表の通り、当社からNo.1を標榜する調査データを提供した事実はありません」

今こそ問われるNo.1広告

今回は広告主だけが処分の対象となった。「No.1の結論ありきの調査」や「調査結果の恣意的な操作」。これらは、市場調査そのものの信頼性を揺るがしかねない行為だ。公正さを保つ倫理観が求められるのは、広告主だけではなく、No.1が生み出される過程に関与したすべての関係者のはずだ。No.1の価値は魅力的かもしれないが、偽りのNo.1のメッキが剥がれたとき「信頼」という何ものにも代え難い価値を失うということを忘れてはならないと思う。

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