東京電力福島第一原子力発電所の事故では6つある原子炉のうち、1号機から3号機の3基で核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が起きました。
国と東京電力がまとめた廃炉の工程表では、すべての作業を終えるまで最長で、事故から40年かかるとされています。
中でも重要なのが、「燃料デブリ」と、使用済み燃料プールに残された「核燃料」の取り出しです。
最大の難関 デブリ取り出し
燃料デブリは、溶け落ちた核燃料が構造物と混じり合ったもので、今も、1号機から3号機の原子炉と、原子炉を覆っている格納容器の中にあります。その量は、合わせて880トンと推定されています。
東京電力は、燃料デブリの取り出しに向けてロボットによる調査を行い、これまでに2号機と3号機の格納容器の中でデブリとみられる堆積物が見つかっています。
2号機で初の接触調査

※2号機の調査についての詳細はこちらの記事に
「福島第一原発2号機「燃料デブリ」接触調査」
来年度後半には、少量の堆積物をサンプルとして取り出すなどさらに詳しく内部を調べる予定で、今のところ、デブリの取り出しに向けた調査や検討がもっとも進んでいます。
3号機は水位が課題
ただ、3号機は、格納容器内部の水位が高いため、デブリの取り出しに向けて水位を下げる方法が検討されています。
1号機サンプル調査へ
来年度の前半に水中を潜る機能を持つボート型のロボットを格納容器内に投入し、堆積物のサンプルの取り出しを目指しています。
こうした調査を経て、国と東京電力は来年度中にデブリを最初に取り出す号機と方法を決め、2021年から取り出しを始める予定です。
気中工法の前例のない取り組み
格納容器は事故による損傷で穴があいていて、修理も難しいことなどから、現状では放射線を遮蔽する水で満たした状態で取り出すことはできません。
そのため、水位は低いまま、空気中で取り出す「気中工法」と呼ばれる方法を軸に進めるとしています。
これは、世界でも例がなく、放射性物質の飛散を防ぐ対策や、放射線量が高い環境での安全対策を徹底しなければならず、具体的な計画を立てられるかが課題になります。
燃料プールからの燃料取り出し
使用済み核燃料がある専用のプールは原子炉建屋の最上階にあり、核燃料がもつ放射性物質の量は燃料デブリを上回るほど大量で、事故当時は合わせて3108体が保管されていました。
4号機は取り出し完了
3号機 トラブルで遅れ
作業が最も早く進む3号機は、使用済み核燃料を取り出すために必要なドーム型のカバーや、クレーンなどの設置が去年2月までに完了し、11月から取り出しを始める予定でした。しかし、設備や機器に不具合が相次ぎ、取り出しの開始が遅れ、今月末としていた使用済み核燃料を取り出す計画を来月以降にさらに延期しました。
1号機水素爆発影響で厳しい環境
このため1号機では遠隔操作で除染だけでなく、がれきの撤去も慎重に行い、2023年度をめどに取り出しを開始する計画です。
2号機 建屋の線量高い
2号機では、除染などを慎重に行ったうえで、1号機と同様、2023年度をめどに取り出しを開始する計画です。
使用済み核燃料の取り出しは、当初の計画に比べて、1号機と2号機で6年ほど、3号機で4年以上遅れて作業を始める予定になっています。
原発事故から8年「汚染水」が今も大きな課題に

なぜ汚染水が出てくる?
さらに山側からの地下水が建屋に流れ込むなどして、建屋内の汚染水は、2015年度の平均で1日490トンずつ増え続けていました。
汚染水減らす対策は?
▽建屋の上流側で地下水をくみ上げて海に流す「地下水バイパス」や、
▽建屋周辺の井戸で地下水をくみ上げる「サブドレン」と呼ばれるもので、地下水が流入する量を減らしてきたのです。
さらに汚染水対策の柱として2016年3月から運用が始まったのが「凍土壁」です。建屋の周辺の地盤を凍らせて氷の壁で取り囲み、地下水の流入を抑える対策で、パイプに氷点下30度の液体を流しておよそ1.5キロの氷の壁を作り、東京電力は2017年11月、おおむね完成したとしました。
この効果について、東京電力は発生する汚染水の量は凍土壁がない場合に比べ、1日およそ95トン減少しているという試算を公表し、一定の効果があると評価しています。
これらの対策で、1日490トン発生していた汚染水の量は180トンに減りました。
しかし、凍土壁について、会計検査院は去年3月、最終的な経費が国からの補助金およそ345億円を含む562億円にのぼるとしたうえで、「凍土壁の整備による効果を適切に示す必要がある」と指摘し、東京電力は引き続き、費用対効果の検証を求められています。
タンクには大量の水
原発の敷地内で保管されている汚染水を処理したあとの水は112万トンで、タンクの数は948基にのぼり、このうち、89%の100万トン近くがトリチウムなどの放射性物質を含む水です。
こうした水は今も増えていて、東京電力は2020年末までに137万トンを保管できる建設計画を示していますが、タンクの建設に適した用地が限界を迎えつつあるといいます。
福島第一原発の廃炉では取り出した燃料デブリを保管する場所など、今後の作業で一定規模の土地が必要になるからだとしています。
水をどうするか検討は難航
しかし、去年8月に福島県内などで開かれた公聴会では地元の漁業者などから「風評被害」を理由に海に放出するなどの処分に反対する意見が相次ぎました。
さらにたまり続けている水にはトリチウム以外の放射性物質も基準を超えて含まれていることについて東京電力が十分、説明してこなかったことにも批判が集まり、東京電力はことし1月、専門家などで作る委員会から「いまだにコミュニケーションが効果的にできていないことが不満だ」と指摘を受けました。
処分に対する風評被害の懸念に加え、東京電力や国の情報公開への消極的な対応が問題を複雑化させたと言えます。
トリチウムなどを含む水の取り扱いはどうすべきなのか。地元の人だけでなく、国民の幅広い理解が欠かせない問題です。
事故から8年 数字で見る東電・福島第一原発

事故直後の大量放出は
それによりますと、事故発生翌日の2011年3月12日から31日までの間に放出されたヨウ素131とセシウム137は、合わせて90京ベクレルとみられるとしています。
これはチェルノブイリ原発事故で放出された放射性物質の17%余りにあたります。
翌4月の放出量は4兆ベクレルとなり、当初の1000分の1以下に減ったと推定されています。
放出量は大幅減少 一時的に増加も
現在、1号機から4号機の原子炉建屋から放出されている放射性物質による線量は、原発の敷地境界の地点での1年間の値でも最大で0.22マイクロシーベルトにとどまると評価されています。
ただ、廃炉作業によって一時的に放出量が増加したと推定されることもわかりました。
NHKが東京電力の公表資料をもとに計算したところ、いずれも推計で、去年1月までの1年間の放出量が、最大で4億7100万ベクレルほどだったのに対し、ことし1月までの1年間の放出量は最大で9億3300万ベクレルほどとなり、2倍近くになっていました。
これらの値は、東京電力が厳しく定めた放出量の基準を1年間に置き換えた場合の値876億ベクレルを大きく下回っています。
一時的に放出量が増加に転じた原因について、東京電力は1号機のがれきの撤去作業や、2号機の原子炉建屋の放射線量を測る調査にともなう作業での際、放射性物質を含むちりが舞ったからではないかとしています。
東京電力は「8年間の大きなトレンドでは減少傾向だが、廃炉作業によって放射性物質の放出が一時的に増えたのが原因とみられる。一般の環境には影響はない値だが、廃炉に携わる作業員などの無用な被ばくを避けるために対策を講じたい」と説明しています。
原子炉建屋から1キロの放射線量
事故直後の3月下旬には、1時間あたり最大で236マイクロシーベルトが観測されていて、8年前と比べて200分の1以下になっています。
正門付近を含め福島第一原発の敷地内で防護服の必要のないエリアは、敷地全体の96%になっています。
作業員4000人余で推移
作業員は去年4月以降、およそ4000人から4300人の間で推移していて、ピークだった4年前の3月時点に比べると、3200人程度少なくなりました。
原発事故後 全国の原発の状況は

5原発9基が再稼働済み
審査は「PWR」=「加圧水型」と呼ばれるタイプの原発が先行し、6原発12基が合格しています。
これまでに再稼働したのは、
▽愛媛県にある伊方原発3号機
▽福井県にある高浜原発3号機と4号機
▽大飯原発3号機と4号機
▽佐賀県にある玄海原発3号機と4号機
福島と同じ型も審査進む

廃炉の原発相次ぐ
廃炉が決まった原発は
▽敦賀原発1号機
▽美浜原発1号機と2号機
▽大飯原発1号機と2号機
▽佐賀県にある玄海原発1号機と2号機
▽島根県にある島根原発1号機
▽愛媛県にある伊方原発1号機と2号機
▽宮城県にある女川原発1号機
廃炉が相次ぐ背景には、原発事故のあとに強化された規制基準への対応と、運転期間を原則40年に制限する新たな制度があります。
このうち2月、廃炉が決まった玄海原発2号機は去年再稼働した3号機と4号機の半分程度の出力しかなく、運転開始から40年に迫っていました。原子力規制委員会の認可を得れば最長で20年延長できますが、規制基準への対応で安全対策に多額の費用がかかるわりに発電量が少なく、残された運転期間も短いことから再稼働は経営上のメリットが小さいと判断したとみられます。
このほかに福島第二原発の4基が廃炉の方向で検討が進められています。