「死にたい」「苦しい」「消えたい」。
若い女性たちの支援を行う団体にSNSで次々に寄せられる切実な心の声。
生きづらさを抱えた女性たちが助けやつながりを求めています。
減少傾向だった自殺者の数は、コロナ禍に入って男性の減少が続く一方、女性は増加に転じています。
コロナ禍が女性の自殺にどのような影響を与えているのか。
最前線の支援の現場で女性たちの声に耳を傾けました。
※悩みや不安を抱えたときの相談先は記事の最後にあります。
若い女性から届く「死にたい」

コロナ禍になって、10代や20代の女性からの相談が相次いでいます。
次から次へと相談が入ってきて順番で対応している状態です。私たちができることにも限界があるとも思っていますが、支援が必要な女の子たちの話を聴きながら、いっしょにどうすればいいか考えてあげることが大事だと思っています。

約30人のスタッフが対応に当たっています。
中には、「死にたい」「苦しい」「消えたい」といった自殺をほのめかすことばも。
先ほども関東地方に住む高校3年生の女の子が家族の虐待から逃げたいと助けを求めてきました。所持金も29円しかなく、民間のシェルターに払えるお金もないということで、知っている支援団体につなごうと動いています。
コロナ禍でオンライン相談も

この日は、18歳の高校生からの相談に対応していました。
コロナ禍で、もともとうまくいっていなかった家族と一緒の時間が長くなってさらに険悪になり、今は一人暮らしをしていると言います。

高校生
自分のまわりに壁があるみたい。孤独感が強いから、この世界に自分しかいないみたいな感覚。

高校生
薬飲んだりしてごまかしている。ふわふわして、しんどいのが紛れる。
そして、最後には、苦しさを1人で抱え込まず一緒に悩んでいこうと声をかけていました。
連絡したくないときもあるかもしれないけど、私たちはよかったら待ってるよ。ありがとね。またね。

スタッフ

高校生
うん。
女性をさらに追い詰めるコロナ禍
直接の面接の相談は毎月100件以上行っています。

ナナさんは、ずっと、死にたいという気持ちを抱えているといいます。
どういうときに死にたくなっちゃう?

橘さん

ナナさん
1人で寂しいとき。親に「産まなきゃよかった」と否定されてきたから、自分はそういう人間なんじゃないかって思っちゃう。
高校2年のころ、家にいることが苦しくなり、死にたいと思うようになりました。
このときに、SNSで連絡を取ったのが、この支援団体でした。

「家がしんどいです」というようなメッセージを送ったら、すぐに(代表の)ジュンさんが 返信をくれてうれしかったです。こんな内容で相談してもいいのかなと思いましたが、ずっと1人で抱えていたことを聞いてもらって、ちょっと楽になりました。
学校が休校となったことに加え、母親もテレワークで自宅で仕事をするようになっていっしょに過ごす時間が増えたのです。
お母さんは1人で子育てをしてくれていたから、会社や子育てのストレスが私に向いたのかなと思っています。もうお母さんが 怖くなってしまって、いっしょにいるときはドキドキしながら過ごしていました。もとから大変だったことが、コロナをきっかけに表に出たという感じです。
死にたいという気持ちに突然襲われる

SNSでかけてくれた優しそうなことばはうわべだけで、怖い思いもしたと言います。
ナナさんは、その後、児童養護施設や自立援助ホームなどで保護され、親とは離れて暮らすようになりました。
今でも、ふと孤独を感じ、死にたいという気持ちに突然襲われることがあるといいます。
コロナで人と会わなくなって、1人の時間が増えて、孤独感みたいなものがあります。一度に50錠から100錠くらいの薬を飲むと、ふわふわした感じになって、つらい現実から逃げられる、一瞬だけど。

もともと大変だった状況が、コロナ禍でさらに深刻になっていて、それで追い詰められたりしているのが、若年の女性たちなのだと思います。周りで見ている人たちが、見て見ぬふりしないことが大切で、ふだんと違う様子だと思ったら、国などが提供しているさまざまな相談先があることを教えてあげるなどしてほしい。
コロナ禍で自殺者数の傾向は
男女別でみると、男性は1万3939人と2020年より116人減った一方で、女性は7068人と2020年より42人増え、コロナ禍以降、2年連続で増加しています。
超過死亡 約8500人 若年女性に最も影響か

東京大学の仲田泰祐准教授などのグループは、コロナ禍がなかった場合の自殺者の数を試算し、実際の自殺者数と比較するシミュレーションを定期的に行っています。


20歳未満の女性も同じ年代の男性と比べて多く、約300人でした。
日本では、失業率が上がると自殺者数が増える傾向が知られていますが、約8500人のうち、失業率の増加で説明できるのは約1300人にとどまるということで、何らかの別の理由があるのではないかと、仲田准教授は考えています。
景気後退とそれに伴う失業率の増加では、説明できない自殺者がかなり多いことが伺われる結果だ。人と人との接触の減少や家庭内で過ごす時間の増加など生活様式の変化が何らかの精神的なストレスにつながっていると推測される。
女性自殺の原因に迫る研究も

九州大学の香田将英講師などのグループは、新型コロナの感染者が国内で最初に確認された2020年1月から2021年5月までの期間、国の自殺統計で理由が報告されている約2万1000人分のデータを詳細に分析しました。

例えば、「子育ての悩み」を理由にした自殺は、試算よりも40%増加していた月もあったということです。
グループでは、コロナ禍で学校が休校になったり、医療や福祉のサービスが受けにくくなったりして、家族の世話や介護などを女性が負担することが増えたことなどが、自殺の増加につながった可能性が考えられるとしていて、そうした傾向に配慮したきめ細かい支援体制の整備が必要だと訴えています。
母親が育児や介護などの役割を引き受ける日本社会の中にある固定的なジェンダーの問題が、コロナ禍の生活の変化で女性へのしわ寄せにつながっているのではないか。自殺に至る原因はさまざまだが、男女で異なる傾向があることがわかった。それぞれに適切に合った自殺予防の対策や心理的なストレスの軽減につながるサポートが大事だ。
悩みや不安を抱えたときの相談先
周囲に心配な人がいる場合もぜひ参考にしてください。
「#いのちSOS」
フリーダイヤル 0120-061-338
午前6時~深夜0時 ※月曜、木曜、金曜のみ24時間対応
「よりそいホットライン」
フリーダイヤル 0120-279-338
(岩手県・宮城県・福島県からは0120-279-226)
※24時間対応
「いのちの電話」
ナビダイヤル 0570-783-556
午前10時~午後10時
フリーダイヤル 0120-783-556
午後4時~午後9時 ※毎月10日は午前8時~翌日午前8時
「チャイルドライン」
フリーダイヤル 0120-99-7777
午後4時~午後9時
詳しい相談方法は各ウェブサイトで確認できます。
「生きづらびっと」
https://yorisoi-chat.jp/
「あなたのいばしょ」
https://talkme.jp/
「こころのほっとチャット」
https://www.npo-tms.or.jp/public/kokoro_hotchat/
「BONDプロジェクト」
https://bondproject.jp
自治体などの相談先情報は、厚生労働省の「支援情報検索サイト」で調べられます。
https://shienjoho.go.jp/
このサイトでは、電話やメール、SNSなど利用したい方法ごとに各地の相談窓口を紹介しています。