文化

「読書離れ」に書店はどう挑む 

「読書離れ」に書店はどう挑む 

2022.10.06

「読書の秋」は、もともとは唐の文学者、韓愈の詩にある「燈火親しむべし」という一節からきているらしい。季候も良く夜が長い秋は灯りを点して読書をするのに適しているという意味だ。

しかし、今、秋と言えば「読書」と答える人はどれだけいるだろうか。

娯楽や情報がますます多様化する中で、読書はどうなっていくのだろうか。

紙の本の手触りを懐かしく思う世代が少なくなると、明かりの下で紙の本を手に取ってという、これまでのような読書は消えてしまうのではないか。

「読書」を支える書店の取り組みを取材した。

とまらぬ”読書離れ”

国立青少年教育振興機構の資料をもとに作成

全国大学生活協同組合連合会が2021年に全国の大学生を対象に行った調査によると、一日の読書時間が「0分」と答えた割合が50.5%に上った。
また、同年、国立青少年教育振興機構が20代から60代を対象に行った調査では、1か月に読む「紙の本」は全体では49.8%が「0冊」。世代ごとでは20代、30代、40代で、それぞれ50%以上が「0冊」と答えたという。
さらに気になるデータもある。出版科学研究所によると、国内の出版物の推定販売額は1996年には2兆6564億円だったが、去年は電子出版を合わせても1兆6742億円と、ピーク時のおよそ63%にまで減少している。
そして、1999年には2万2296店舗あった書店も2020年には1万1024店舗と半減していた(出版科学研究所)。

ネット通販や電子書籍、それにいわゆる「サブスク」など、書籍購入のあり方も変化しているため一概に関連付けることはできないのかもしれないが、少なくとも書店の店舗数は減り続けている。

この状況、書店自体はどう考えているのだろうか。

「良い本」を守る使命

電子書籍やオンライン書店も展開する大手書店は、ことしの1月、創業100周年となる2027年に向けて、店舗を倍増させる方針を明かした。
現在は国内68店舗、海外39店舗を展開しているが、それぞれ100店舗まで増やすことを目指すという。

「紙の本が売れない時代」にどうしてリアルの店舗を増やすのか。

この書店の藤則幸男副社長に話を聞いた。

この書店が店舗を増やす方針を打ち出した背景には、「読書離れ」に対する危機感があるという。

紀伊國屋書店 藤則幸男 副社長

「ただでさえ時間をネットに使い、活字に向き合う時間が減っている中、まず身近なところで書店を増やさないと、ますます本を読む習慣がなくなってしまう」
(紀伊國屋書店 藤則幸男 副社長)

とはいえ「紙の本が売れない時代」に店舗数を増やすことは経営的にも簡単ではないと感じる。どうやって店舗を増やすのだろうか?
この書店では、リアル書店としての「店舗部門」と大学や研究機関などに営業を行う「外商」、それに「海外事業」の3つを組み合わせることで、店舗拡大を目指すという。

例えば「外商」部門では、2018年から学術書の電子図書館サービスの提供を始めた。教育・研究に重要な学術書を電子書籍化し、インターネットを通じて自分のPCやスマートフォンから利用できるようにするサービスだ。コロナ禍で大学などの閉鎖が相次いだ際には、家から学術書などを閲覧できるとして注目を集め、今では国内外の大学や企業、公共図書館などを中心に420の施設で利用されているという。

また、海外事業も重要だという。日本の漫画ブームなどもあり海外で書籍などの売上は好調で、こうした部門と組み合わせることで、店舗倍増を目指すことができるということだった。

店舗内の様子 (紀伊國屋書店提供)

今後、書店が必要とされている地域や商業施設には積極的に新規出店をアプローチしつつ、地方で経営に悩んでいる書店の相談に乗ることも検討しているということだ。

この書店がこうした取り組みを進める背景には、「良い本」が書店から姿を消すことへの強い危機感があるという。

「回転率の悪い本や専門書などを書店にあまり置かないというのは経営的にはやむを得ないのかもしれません。しかし、そうなると専門書の出版社などが良い本を出しても、書店に並ばなくなってしまう。今でも、ほかで置いてもらえないからうちの書店に置いてほしいという話が来ることがあります。書店は良い本を出している出版社を大事にして、それを読者に届けていくということをしなければならない」(紀伊國屋書店 藤則幸男 副社長)

店舗を増やすという決断の背景に、「良い本」を並べるのが書店だという矜持があると感じた。

AI活用で「もうかる書店を」

CCCへの取材の様子(右下:鎌浦慎一郎さん、左上:内沢信介さん)

ほかにもリアルの店舗を持続可能なものにするために、独自の体制作りを進めている書店がある。

「これから目指したいと思っているのは、まずは儲かる書店に生まれ変わること。ただ、本を売ることだけでは来店してもらえると思っていないので、『儲かる書店を作ること』と『体験価値を変えていくこと』の2つをスローガンに取り組んでいます」
(「蔦屋書店」展開 CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)執行役員・鎌浦慎一郎さん)

そう話すのは、別の大手書店を展開する会社の鎌浦慎一郎さんたちだ。
この会社では、雑誌や書籍に関連した生活雑貨の販売コーナーを書店に設けるなど、これまでも新たなコンセプトを打ち出してきた。

鎌浦さんたちが、現在取り組んでいることの1つが、本の返品を減らすことだという。
返品とはどういうことか?

日本の出版業界には特有の「委託制度」と呼ばれる制度がある。これは「出版社、販売会社(取次)、書店の三者での契約に基づき、定められた期間内であれば書店は売れ残ったものについて返品が認められる出版物販売方法」のことだという。

書店にとっては安心して仕入れができる制度のように感じるが、実際には返品はコストを押し上げる要因になっているという。

「物価高の影響で、書店の返品送料の値上げはもちろん、出版社や取次においても送料が高騰しているので、返品率削減の取り組みによって、出版業界全体のコストを下げ、業界全体の利益向上を目指すことが不可欠です」(鎌浦さん)

出版科学研究所によると、一般的な書店で売れずに返品される本の割合は、去年のデータで、書籍が32.5%、雑誌が41.2%だという。

そこで、この会社では返品を減らすため、ことしから「AI発注」を導入した。
ポイントカード会員およそ7000万人の情報をプライバシーを保護した形でビッグデータとして活用し、各店舗の発注や返品などのデータ、書籍のデータなどとあわせてAIを使って解析する。AIの解析により、より読者のニーズにあった品揃えや発注量を決めることができるという。

「従来は取次から届く新刊と書店員による経験を基に各店の仕入れを行っていましたが、AIで書誌同士の類似性をビジュアル化することで、この本が売れている書店であればこの本が売れるのではないかというふうに、店舗ごとに違う品ぞろえ、発注量を設定することができるようになりました」(CCC・BOOK本部 本部長 内沢信介さん)

AIを用いて書誌同士の類似性をビジュアル化 (画像提供 CCC)

会社では、ことし(2022年)8月から直営店舗でこのシステムを導入したところ、このシステムで発注した売り場の実売率がそれまでより1.2倍ほど良くなったという。このため、今後、全店でAI発注を始める方針だ。

「本の買い切り」も進めている。特に雑誌については完全買い切りとしているという。雑誌は情報の鮮度が重要であるため、1か月程度で返品されるケースが多い。しかし買い切りにして、売れ残った雑誌をバックナンバーとして値下げ販売することで返品を減らそうとしている。これにより9割以上が売れることも少なくないという。値引きによって売り上げは下がるが返品の送料などコストが減る分、書店の利益が減ることはないという計算だ。

「通常、雑誌は読者層に応じて棚を分けて販売していますが、バックナンバーコーナーはいろいろな雑誌をまとめて展示しているため、新たな読者の開拓にもつながっています。例えば通常男性向けの棚に置いている『おいしいラーメン屋さん特集』のような雑誌が女性の目にとまって購入してもらえるようなケースが出てきています」(鎌浦さん)

様々なジャンルが混合して置かれるバックナンバーコーナー(画像提供 CCC)

さらに、新型コロナウイルスの流行によりワークスタイルが変わりつつあることを受けて、ほかの業種ともコラボレーションできないかについても模索を続けているそうだ。

そして“書店のある町”へ

アプローチの方法はさまざまだが、今回紹介した2つの大手書店以外にも、書店関係者への取材で共通していたのは「町から書店を絶やしてはいけない」という強い思いだった。

読書離れが進むと書店が無くなっていく、読書離れを防ぐためには書店を無くしてはならない、この2つは密接に絡み合っている。

本が売れなくなると新たな本の出版ができなくなり、本の文化自体が衰退していくのではないか、そういった懸念を訴える声も聞かれた。

ITやネットが飛躍的に進歩し、娯楽やライフスタイルが多様化する中で、書籍のあり方も変わっていくのはしかたがないのかもしれない。

しかし、思いがけず出会った本によってその人の人生が変わる、そんな体験を1人でも多くの人にして欲しいというような強い思いを持って、挑戦を続けている書店はまだまだ多くある。

しばらく本屋に寄っていないなという方は、きょうにでも近くの書店に寄ってみてはいかがだろうか。

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