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新型コロナ対策 新たなカギは「下水」

2022.12.28 :

“これからの感染症対策を変えるかもしれない”
 
いま、大きな期待を集める新たな技術が、北海道で開発されています。
カギとなるのは、「下水」。
一体どのような技術なのか、最前線を取材しました。

下水から新型コロナ流行把握

札幌市内にある下水処理場です。訪れると、「自動採水器」と呼ばれる機械で2時間に1回、下水のサンプルが採取されていました。いったい何のために?担当者に尋ねたところ「週に3回、北海道大学に持ち込んでいる」というのです。


そのサンプルを受け取っている、北海道大学工学研究院の北島正章准教授です。実は2020年から、下水を通して新型コロナの感染の広がりを調べてきました。

新型コロナに感染した人の排せつ物は、ウイルスを含んでいます。北島准教授は少量の下水からウイルスを検出する新たな技術を開発しました。
北海道大学 北島正章准教授
驚くべきは、その感度。これまでの方法よりも100倍高く、1日の新規感染者が10万人あたり1人という少なさでも、しっかり検出できるといいます。

(北海道大学 北島正章准教授)
「この方法であれば感染者が非常に少なくても検出できるので、感染拡大の兆候をいち早くつかむことができます」

強みは“流行の全体像”把握

下水を使った、新型コロナの調査。最大の強みは、感染が疑われる人を検査しなくとも流行の「全体像」を把握できることです。無症状の人や、検査を受けていない人の感染も確認できるからです。

さらに、医療機関の報告をもとにしてきた従来の調査の方法よりも、1週間程度早く、流行の状況がわかるといいます。
(北海道大学 北島正章准教授)
「下水の調査では、人々の受診行動や、検査数の上限などの影響を排除して、客観的に感染動向を把握することができます。下水のウイルス濃度のモニタリングを定期的に行うことは、次の波に備えるという意味でも非常に有効な手段だと思います」

感染症の“監視” 自治体も注目

この技術、国や自治体も注目しています。
医療機関や感染者に新たな負担をかけずに対策を強化できるからです。

このうち札幌市では、市内の下水の調査結果を、週に1回ホームページで公表し、市民が流行の状況を把握できるようにしています。ホームページには、流行の度合いを示すグラフと合わせて、注意を呼びかけるコメントも掲載されています。
調査結果を掲載した札幌市のホームページ
札幌市下水道河川局 渡邊浩基 処理施設課長
(札幌市下水道河川局 渡邊浩基 処理施設課長)
「下水を調べることでそのエリアの状況がわかるので、効率的に感染状況を把握することが可能だと考えています。下水疫学調査というのは、下水道に“感染症の監視”という新たな役割を与える、可能性のある取り組みだと思っています」

全国での実用化に向け ロボット導入も

さらに。全国レベルでの下水調査を可能にしようと、ロボットの導入も進んでいます。
茨城県つくば市にある研究所では、ヒト型ロボットを使って下水の分析が行われています。

その名も、「まほろ」。ヒトのように扉を開けたり、サンプルを手に取って移動させたりすることができ、その動きの精度は1ミリ単位だといいます。
下水を分析する汎用ヒト型ロボット「まほろ」
ちなみにロボットであれば、ヒトよりも10倍程度、分析の効率が高まるといいます。全国の自治体で採取された下水の検査業務をロボットに任せることができれば、全国レベルの調査も、素早く、そして効率的に行えるというのです。
ロボティック・バイオロジー・インスティテュート 松熊研司社長
(ロボティック・バイオロジー・インスティテュート 松熊研司社長)
「ロボットであれば、繰り返しの作業を、安全かつ精度高く行うことができます。さらに疲れないので、長時間に渡って検査を続けることができます。これからさまざまな変異ウイルスが出てくる可能性もありますが、素早く対応できると考えています」

感染症の調査が変わる

下水を使った、新たな技術。北島准教授によりますと、新型コロナだけでなく、インフルエンザなど、ほかの感染症にも活用できるといいます。

このうちインフルエンザについては、すでに複数の自治体で下水の分析調査が始まっています。さらに技術的には、1つのサンプルから20種類以上の感染症を検出できるということで、感染症の調査と対策を大きく変える可能性を持っているとしています。
(北海道大学 北島正章准教授)
「コロナの次の感染症のパンデミックも見据え、感染症に強い社会をつくるための検査インフラとして、下水の調査を社会に実装したい、そのような思いを持っています」
国はこの技術について、20の自治体と実用化に向けた実証実験を進めています。下水を感染症の調査に生かそうという動きは新型コロナをきっかけに世界で広がっていて、その中でも北島准教授が開発した技術は最も高い感度を誇るということです。パンデミックへの対応をより迅速にする新たな試みで、国が進める実証実験の結果が注目されています。

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札幌放送局

浅井優奈

2018年入局。初任地の函館放送局を経て2020年から札幌放送局。新型コロナやがんの取材をきっかけに医療に興味を持つ。現在は北海道の地域医療や教育などの分野を担当している。

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