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ネット時代に消費者は守られるのか

2021.10.05 :

「偽ブランド品が届いた」「健康食品の宣伝がウソだった」

 

ネット通販でのトラブルから消費者を保護する新しい法律が公布された。

 

デジタルプラットフォームと呼ばれるネットで取り引きの場を提供する企業などを規制するものだ。

新しい法律で、消費者はどこまで守られるのか。

 

通販サイトで購入したバッテリーから出火

火災後の加藤さんの部屋
加藤尚徳さん
「午前3時に火災報知器が鳴りました。幼い子どもを抱えてベランダから裸足で逃げ出しました。事故が起きたらメーカーが補償してくれると思っていますが、十分な対応はありませんでした」
こう話したのは、会社員の加藤尚徳さん。

4年前、自宅マンションの一室が半焼し、家電や家具など1000万円を超える被害が出た。

火元となったのは大手通販サイトで購入したモバイルバッテリー

消防などが調べた結果、絶縁部分の劣化が原因だった。


通販サイトの問い合わせフォームで、バッテリーを販売していた中国のメーカーに連絡をとり、被害を訴えると、商品代金7000円ほどが返金された。

火災による被害が大きく、さらに交渉したいと考えたが、連絡が取れなくなった。

そこで、大手通販サイトのカスタマーセンターに、フォーム以外での連絡手段を問い合わせた。

ところが、返答は、
「記載されている情報以外は教えられない」
その後、現地の弁護士に相談するなどして、メーカー側と連絡は取ることができたが、メーカー側は「製造しているのは別の会社で責任はない」と主張。

その後も、1年余り交渉を続けた結果、見舞い金として180万円が支払われることになった。
ただ、加藤さんは「十分納得したとはいえない」と話す。
加藤尚徳さん
「火事のあとも事業者はビジネスを続けているにも関わらず、火災事故が起きたという情報は、ほかの消費者には伝えられていない。通販サイトの運営会社からも情報提供や解決に向けた協力が十分得られず、トラブルにあった消費者が取り残されている状況だと思う」

ネットのトラブルは増加

加藤さんと同じような大手通販サイトの利用者からの相談は、消費生活センターなどにも数多く寄せられている。

全国の消費生活センターへの相談は、2020年は29万件余り

前の年から6万件ほど増加、この10年で最多となった。

相談事例では、
▼偽物のブランド品が届き、ショッピングモール運営者に相談したが、十分な対応が得られず、販売者にも連絡がつかなかった

▼ネットショップでマスクを購入したところ、「発送済み」と画面に表示されたが、1か月たっても商品が届かなかったケースなどが報告されている。

明確に示されていなかったプラットフォームの役割

これまでの規制では、プラットフォームの責任は明確ではなかった。

特定商取引法は、通信販売の事業者に対して商品の品質や効能に関する誇大広告を禁止。また、販売する際には原則として事業者名や住所、電話番号などを消費者が分かるように表示しなければならず、違反した場合には業務停止を命じられることもある。

また、景品表示法は、商品が実際よりも著しく優れているかのように表示して販売することなどを禁止している。

しかし、こうした規制は、販売したり、商品を供給したりする事業者が対象で、仲介役となっているプラットフォーム企業の責任は明確に示されていなかった

残る課題

今回の新法、専門家は、一定の評価を示す一方で、まだ課題が残されていると指摘する。


とりわけ、
▼消費者と事業者との連絡手段の確保
▼販売事業者の身元確認など、

プラットフォーム企業がトラブル解決のために実施する措置が努力義務にとどまったことをあげる。
板倉陽一郎弁護士
板倉陽一郎 弁護士
「プラットフォーム企業自身への行政規制として法律の受け皿ができたことは重要だ。ただ、新たなルールは、努力義務であって、詐欺まがいの商品を扱う事業者が集まっているような悪質なプラットフォームに義務を果たしてもらう構造にはなっていない。そうしたプラットフォームが増えれば、強制的な措置が必要になる。また、フリマアプリなどでも問題は起きているが、今回、消費者間の取引は対象にならなかった。引き続き検討していくべきだ」
購入したバッテリーから出火した加藤さんも、消費者が守られるためにさらなる制度と体制作りが必要だと訴えている。
加藤尚徳さん
「プラットフォーム企業の協力なければ問題は解決しない。問題点をさらに洗い出して、商品が消費者に届くまでの一連の流れの中で、どうしたら消費者が守られるかを国や企業にしっかり考えてもらいたい」

デジタル時代の消費者保護

新しい法律は、公布から1年以内に施行される見通しだ。今後、企業が取り組むべき具体的な内容などを示した指針づくりも進められることになっているほか、官民による協議会も設置されることになっている。
どれだけ消費者保護が図られるのかは、実効性のある運用にかかっている。

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科学文化部記者

秋山度

 

2012年入局。中学のときに「元素周期表」を覚えるのにハマったのをきっかけに科学の道へ。

大学では生物学を専攻し「生命の神秘」と「社会の不条理」を知る。

科学の魅力などを伝えたいと思い、記者になってからは福井局・水戸局を経て、2019年から科学文化部。

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記事の内容は作成当時のものです

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