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ベランダ転落死 身長より高い柵 5秒で登る子も

2021.11.09 :

見上げる高さの柵 - 5歳児は、ためらうこともなく柵に飛びつくと、わずか5秒ほどで登りきってしまった。

実験の様子を目の当たりにした私は “一瞬目を離した隙に” そんな言葉が浮かんだ。

 

過去10年間で124件。子どもがマンションなどから転落して死亡する事故は毎年起きている。

悲しい事故を防ぐため、専門家たちが集結して独自の取り組みをはじめた。

マンションのベランダから転落か 4歳死亡

転落事故が起きた大阪・北区のマンション(2021年10月)
ことし10月、大阪・北区の高層マンションで4歳の女の子がベランダから転落して亡くなったとみられる事故が起きた。

さらに、その1か月ほど前の9月には、札幌市のマンションで子ども部屋の窓から誤って転落したとみられる4歳の男の子が亡くなっている。

建築基準法では、マンションなどのベランダの柵の高さは、転落防止のために110cm以上にするよう定めている。

しかし、子どもが柵を乗り越えるなどして転落するケースはあとを絶たない。

転落死亡事故 1歳~4歳が全体の6割余

国の人口動態調査によると、14歳以下の子どもがマンションのベランダなど建物から転落して死亡した事故は、毎年、発生し、過去10年間で124件に上っている。

このうち、2018年までの5年間に起きた37件の死亡事故について消費者庁が詳しく分析したところ、年齢別では、3歳が最も多く、1歳から4歳で全体の6割余りを占めていた。

また、医療機関から収集した事例では、
▼5歳の子どもが家族を見送るためにベランダの手すりにつかまっていたところ前のめりになって転落したケース

▼高さ90cmの柵がある2階のベランダから4歳の子どもが転落したとみられるケース
などが報告されている。

医療機関にかかっていないケースなどは把握が難しいため、実際の子どもの転落事故はさらに多いとみられる。

実証実験で転落を防ぐ効果的な対策を

実証実験の様子(2021年11月)
子どもの転落事故を「環境を変えること」で防げないか。

研究者や医師などの専門家が集結し、独自の取り組みをはじめている。

その一環となる実証実験が京都府長岡京市の保育園で行われると聞き、取材に向かった。

専門家グループのメンバーが実験の意義を語ってくれた。
子どもの事故防止に取り組むNPO法人 北村光司理事
「ベランダの柵は簡単に取りかえることができないですし、対策されたものに変えることも難しいので、あとづけで対策をするにはどうしたらいいかということを考えて実験をすることにしました。保護者の方が気をつけていても、目を離す瞬間が出てきてしまうので、お子さんがやろうと思ってもできなくする環境の改善が大事だと思っています」

身長より高い柵 5秒で登る子も

登り切る子どもたち
マスクを着用し、園児をグループごとに分けるなど、感染対策に十分注意しながら実験が始まった。

この日の実験には、3歳から6歳までの50人余りの園児が参加。

子どもたちの前には、ベランダの柵を模した装置が設置され、その隣に緑色の特注の器具3種類用意されていた。

実験では、器具を装置に取り付けて120cmから140cmまで高さを変えながら、柵を乗り越えられるかを年齢別に1人ずつ調べるという。

許可を得て、私も装置のすぐ近くで実験の様子を見学させてもらった。

子どもによって身長に差はあるものの、柵は見上げる高さ。
見慣れない装置ということもあって、登ることをためらう子どもも多いのではないか - そんな私の予想は、すぐに外れる。

ほぼすべての子どもが「登ってみて」などと声かけられると、すぐに柵に飛びついた。
驚く私の目の前で、素足を柵にペタペタと貼り付けるようにしたり、わずかな隙間に指をかけたりして上手に柵を登っていく。

中には、最初はなかなかバランスが取れなかったものの、何度か挑戦して登り切る子や登れないことが悔しくて泣き出してしまう子も。

5歳児と6歳児のグループでは、自分の身長より高い140cmの高さでもわずか5秒ほどで登ってしまう子どももいた

登ろうと思えば簡単に柵を乗り越えてしまう姿を目の当たりにして、私は “一瞬目を離した隙に”という言葉が浮かんだ。

実験を終えた専門家メンバーに改めて話を聞くと、今後も実験などを続け、社会全体に成果を共有していきたいと話してくれた。
NPO法人 北村光司理事
「どういう条件であれば子どもが登りにくいのかということを明らかにして、実際に製品作りをしているメーカーとも情報共有をしながら、具体的な製品になって広がっていくといいなと思っています。データとして成果を残したいと思っています」

みんなで事故を防ぐ意識を

専門家グループでは、高さだけでなく転落防止につながる柵の形状も調査したいとしている。

「子どもをより安全な環境で育てたい」と思う一方、賃貸マンションなどでは、共用部分となっているベランダの柵を改修することが難しいというケースもある。

子どもが産まれてから、あとづけで転落予防を強化し、子どもが大きくなったら元に戻す。そういった選択肢が増えれば、改修をためらう保護者も減るのではないだろうか。

研究グループの成果におおいに期待しつつも、いまからでもできる対策がある。
「保護者の見守り」はもちろん重要だが限界があるため、まずは転落しやすい環境を改善することが大切だ。
○ エアコンの室外機はベランダの手すりから離す
○ 窓の周りやベランダ柵近くには足場となるような物を置かない
○ 保護者が見ていない間に、窓を開けたり、ベランダに出ないよう子どもの手の届かない位置に補助錠をつける
こうした対策は、自宅だけでなく、祖父母の家やマンションの共用スペースなど、子どもたちが遊ぶ場所でも重要となる。

私自身も含めて周りの大人ひとりひとりが行動することで、子どもたちにとってより安全な環境を広げていきたい。
NHKでは、ベランダからの子どもの転落事故について取材しています。体験談や情報、ご意見などお寄せください。

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科学文化部記者

秋山度

 

2012年入局。中学のときに「元素周期表」を覚えるのにハマったのをきっかけに科学の道へ。

大学では生物学を専攻し「生命の神秘」と「社会の不条理」を知る。

科学の魅力などを伝えたいと思い、記者になってからは福井局・水戸局を経て、2019年から科学文化部。

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記事の内容は作成当時のものです

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