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No.1広告 どうする どうなる

2022.05.31 :

ネットや店舗で目にする「No.1をうたう広告」。

中には、根拠となる調査結果と広告内容がかけ離れ、消費者が誤解するおそれのあるケースもある。

(取材班による「No.1広告」の裏側に迫った記事は“こちら”)

 

こうした現状に、業界団体やネット広告の配信会社なども取り組みを始めている。

業界団体が異例の抗議

市場調査を手がける170社余りが加盟している業界団体「日本マーケティング・リサーチ協会」は、ことし1月、ホームページに「非公正なNo.1調査」に対する抗議状を掲載した。
抗議状(一部抜粋)
「No.1調査」を請け負う事業者やこれらをあっせんする事業者の中に、あたかも「No.1を取得させる」という「結論先にありき」で、調査対象者や質問票を恣意的に設定する非公正な調査の実施をうかがわせる者が散見されます。厳重に抗議し、中立的立場で公正に「No.1調査」を行うべきことを要請します
現状を放置していると、市場調査自体の信頼性が損なわれてしまうという危機感から抗議状の公表に踏み切ったという。
中路達也 事務局長(取材当時)
「市場調査は結論ありきだと消費者が誤解してしまうことにつながり、調査の社会的な信頼性が失われてしまう。消費者を保護する使命と広告主である企業の信頼を失わせないという2つの使命を調査会社の業界団体として果たしたい」
協会は、ことし4月、この「No.1調査」をテーマに、広告主の企業や調査会社、マーケティングの専門家を招いて、オンラインイベントを開催した。
イベントでは、登壇者から、不動産業者の広告で「顧客満足度No.1」などと表示しているにも関わらず、実際には利用者ではない人も含めたアンケート調査が根拠となっているケースがあることなどが紹介され、専門家からは調査の恣意性が指摘された。
マーケティングの専門家 萩原雅之さん
「広告やプロモーションの分野では、集めたデータのうち都合のいい結果だけを世の中に出すことは一般的に行われている。調査自体は科学的に行われていても、やはり恣意性が混じることになる」
大手調査会社の役員は、消費者を裏切らないデータを示し、それを残すことが必要だと訴えた。
大手調査会社役員 鈴木文雄さん
「広告主の表現のひとつとしてNo.1もあると思うが、きちんと説明できるデータを調査会社が残しておくこと、基礎的なデータを示していくことが必要だと思う。責任を持ってデータ収集し、消費者を裏切らない調査結果を出していきたい」
一方、広告主である企業からは、No.1広告は、企業にとっては有用だという声もあがった。
企業担当者 高橋直樹さん
「No.1になること、あるいはその可能性があることについては、マーケティング上、大きな意味がある。No.1を取れる自信がないので(正当な範囲内で)調査会社に相談に乗ってほしいという広告主の思いも考えるべきだ。素性の分からないNo.1と、しっかりしているNo.1のように、No.1の中身はどうなっているのかということが簡単に分かるようにする仕組み、情報開示が大事だと思う」

ガイドライン「情報開示で消費者保護を」

協会は、こうした議論もふまえて、ことし5月、加盟社が守るべきNo.1広告などのランキング広告に関するガイドラインを公表した。
ガイドラインでは、景品表示法上、広告を作った責任は広告主であり、原則として調査会社に責任はないとする一方で
▼広告主が問題となる表示をする意図があることを事前に知っていたにも関わらず対応を怠った場合
▼恣意的な質問票の設定などを行った場合
こうした場合は、調査会社にも一定の責任があり、協会の懲罰委員会の審査対象とすることを明確化した。

さらに、調査に関する情報をできる限り開示することが求められるとして
▼広告主との契約時に情報開示に関する取り決めを行うこと
▼調査で使用した質問文や選択肢などを公表すること
こうした取り組みなどを望ましいとした。

そして、
▼営業秘密などを理由に調査結果を公表できないケースや
▼情報開示されても専門知識がないと正しい調査だったか判断しにくいケースなどを想定して、
消費者などからの要請に応じて協会が非公開で広告表示に関する検証を行える仕組みを設けることも検討するとした。

協会は、ガイドラインの対象になっていない非加盟の調査会社広告主にも理解を求めていきたいとしている。

ネット広告配信大手 約1500万件を非承認に

ネットでNo.1広告を配信しているネット広告の配信会社も取り組みを進めている。

ヤフーでは、2020年度、No.1などを含む最大級表示がされた広告素材、あわせて約1500万件を「非承認」、つまり配信を認めなかったという。

会社では、No.1広告について根拠となる調査データの出典と調査した時期を明記するよう広告主に求めていて、さらに調査データは「1年以内のもの」に限っている。

基準を満たさない広告が消費者に届かないよう、AI=人工知能も活用しながら取り組みを進めているという。

プレスリリースも基準を強化

審査部門を紹介する三島映拓 取締役
また、企業などのプレスリリースを、新聞や雑誌、テレビなどのメディアに配信しているPR TIMESも、No.1広告がついたリリースに関する利用基準を、ことし6月から強化することを決めた。

新たな基準では、調査に関するリリースの場合、以下の5点の記載を必須としている。
▼調査期間
▼調査機関
▼調査対象
▼有効回答数(サンプル数)
▼調査方法(集計方法、算出方法)
No.1広告に関しては、さらに厳しい条件を定めた。

順位付けをする場合には、上記の5つの項目に追加して、設問内容や選択肢で示した商品名や会社名なども、できる限り分かるようにすることを求めている。
プレスリリース配信会社 三島映拓 取締役
「『自分たちが一番である』ということを発信したい気持ちはよく分かるが、客観性を担保していただいた上で情報発信をいただきたい。消費者に誤認を与えてしまう内容があった場合には放置できない。プレスリリース全体の信頼性というものを守っていきたい」

ネット広告を市民が監視

法律に違反する表示のあるネット広告などを監視している行政の中にも独自の取り組みを進めているところも出てきている。

埼玉県は、数名しかいない担当職員だけではネット広告すべてを監視できないとして、消費者団体若者に協力してもらっている。

消費者団体「埼玉消費者被害をなくす会」に委託して、動画投稿サイトやSNSなども含めたネット監視を進めているほか、県内の大学や高校で出前授業を開催。

ネット広告に関する消費者トラブルや景品表示法についての知識を紹介している。

授業を受けた学生や生徒には、実際に気になる広告を探して報告してもらっている。
2021年度は1300件余りの報告を受け、事業者の指導につなげているという。

ネット広告の中には、購入データや検索履歴をふまえて表示される仕組みがあるほか、同じWEBサイトであっても時間帯によって表示される広告は変化している。

埼玉県によると、高校生や大学生が自分自身のスマートフォンなどで広告を探すことで、若者を狙って表示されるようなNo.1広告の情報も行政が把握しやすくなったという。

惑わされないために

こうした広告に消費者が惑わされないようにするにはどうすればいいのか。マーケティングが専門の青山学院大学・小野譲司教授「常に疑問を持つこと」が大切だと指摘する。
青山学院大学 小野譲司 教授
「ネットショッピングの普及で、消費者は、数多くの選択肢の中から商品を選ぶことになるが、No.1の表記は消費者に非常にインパクトがあり、例えば、初めて経験したり購入したりする場合には、選択がゆがめられたり、結果的に期待通りのものを選べなかったということもありえる。数字をうのみにしない、このNo.1はどうやって調査したのか、いつの時点のものか、さらに業界No.1と表示しているがどの業界のことを指しているのか、などといったことに対して、常に疑問を持つことが大事だ」
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科学文化部記者

秋山度

2012年入局。中学のときに「元素周期表」を覚えるのにハマったのをきっかけに科学の道へ。

大学では生物学を専攻し「生命の神秘」と「社会の不条理」を知る。

科学の魅力などを伝えたいと思い、記者になってからは福井局・水戸局を経て、2019年から科学文化部。

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報道局 科学文化部 

島田尚朗

2010年入局。

福岡県出身。

広島ー静岡ー福岡を経て科学文化部へ。
元・理系ということもあり「科学番組を作りたい」という一心でNHKに入局。
ローカル時代は「1人科学部」を自称し、科学系の取材に専念。
福岡の方言が抜けないまま、宇宙や海の生物、昆虫などの取材を手がけてきた。
現在はIT・文化班にてサイバーセキュリティーや消費者問題などを担当。
新たな得意分野にしようと、最近プログラミングも始めた。

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