2022年04月13日
「新入社員とどう接したらいいか分からない」。上司たちは悩んでいます。専門家のアドバイスは、「もう、管理職は手本にならない」。どういうことでしょうか。
NHK
中山デスク
先日、10年以内に退職を考えている新入社員が半数以上いるという調査を見ました。
一方でより安定した就職先がいいという人も半数くらいいるというデータもあって、こういう状況をどう見ればいいですか。
安定志向と成長志向というか、そういった2種類の若手がもちろん存在しているんですが、実はその根っこにある思想は一緒だなと思っています。
リクルートワークス研究所
古屋さん
何かと言うと、「コスパ志向」です。
就活でも「コスパが軸です」みたいな、働くうえでの価値観で「効率よく対価を得ることが非常に重要」と答えた割合がだんだん高くなってきているんです。
20代がぶっちぎりで高いわけですが、この「コスパ」ということばが厄介で、2つの全く違う側面を含んでいるですよね。
リクルートワークス研究所 古屋星斗さん
新卒で経済産業省に入省し、2017年から現職。労働市場の分析と若手社会人のキャリア形成を主に研究。若い社会人へのインタビューも継続して行う。
「コスパ」の捉え方を仮にA群とB群と二つに分けてみます。
A群のコスパ志向と言う方々たちは、例えば自分の名前で仕事ができるようになるために、30代前半までに他の人はできない大きな成功体験をしたいと考えています。
つまり、この人たちが言う「コスパ」は、効率よく対価としてのスキルや実績がほしいということなんです。
なるほど。
一方でB群の人の代表的な言い方は「同僚と異なることをして周りからにらまれるのが嫌だ」とか、「給料は一定でいいので人より早く帰りたい」とか。
A群とB群で同じコスパということばを使うわけですけど、あまりに違いすぎる。
NHK
関デスク
なるほど、そうするとB群の人は大きな成功体験を得るのは大変かもしれませんね。
そうですね、B群は「ありのまま」ではいられるかもしれませんが、「何者か」にはなれないままキャリアを作っていくことになるんですよね。
B群の人たちに仕事に対してどうモチベーションを持ってもらうかが、管理職としては重要になると思うんですけど。
そうですね、B群は「低刺激」状態なのでいかに刺激を与えていくかですよね。
ただし、刺激はストレスにも感じてしまうので、そう感じないような刺激のスイートスポットを特定するために、まずはしっかり見て考えるしかないんです。
まず見るというフェーズ、そのうえでその人のキャリアの戦略、何が満足につながるのか見定める、そういうフェーズが入らざるをえないんですよね。
おっしゃる通りなのですが、企業は「刺激をするな」っていう方向になってきたと思います。
いろいろあって低刺激になっていると思うのですが、それって不幸だと思うんです。
やっぱり、コミュニケーションスタイルを変える必要があります。
刺激を与えるという「中身」を変える必要はないと思うんですよね。
思い当たる節があって、「こういうこと言っちゃいけない」、「ああいうことしちゃいけない」って研修でも重ねてきた結果、「過保護」になってしまった気がします。
そういう意味でコミュニケーションスタイルを変えるってもう少し具体的に聞きたいです。
大前提として認識すべきは、管理職の方々は若い人たちのロールモデルにはなり得ないということなんです。
若い方々にとって響く対象の年齢がどんどん縮まってきているんですよ。
職業生活で大きな影響を受けた人はどんな人ですかって聞くと、若い方々はだいたい2~3歳上の先輩をあげる人が極めて多いんですよね。
最高で5歳くらい上で、管理職40代50代の方々は実はほとんど、なんというか・・・
眼中にない。
これはしかたがなくて、近視眼的だと思う方もいらっしゃると思いますが、それだけじゃなくてリアリストなんですよ。
ある種、自分のキャリアを自分で作っていこうという志向の表れかなと思っています。
そうですよね。
皆さんのようなキャリアのある方ってある意味で「雲の上の存在」なので、それに向かってずっと努力するって不可能なんですよね。
社会の状況も全然違いますし、皆さんが歩んだキャリアを歩めるわけじゃない。
若手にとって管理職は正解になり得ないんです。
そうかもしれません・・・
正解になり得ないので教えることがない。
なので、やっぱり管理職は聞くしかないんですよね。
はい。
聞いたうえで、どういう志向を持っていて、何がモチベーションの源泉かっていうのを突き詰めて、それに対してアプローチする。
昔であれば正解をひとつ教えればいい、背中を見せればいいっていうことでしたけど、その前にその若手のベクトルを把握するというフェーズが入るということですよね。
そのフェーズが入らないと、その人にとって全く響かないことに時間を使うことになってしまいます。
とどのつまり、個々の考え方に合った方法を見つけるというのはそうだなって思うんです。
一方でチームとして求められる成果とかパフォーマンス向上と必ずしも合致しないと思うんですよ。
例えば、もうプロジェクトの締切で結果を求めざるを得ないような状況で、どう振る舞えばいいんでしょうか。
「理不尽さ」を無くすことだと思います。
理不尽さっていうのは、若手にとって悪の親玉みたいなふうに思われているんです。
理不尽な仕事の振り方、やり方ではなくて、丁寧に説明する、事前にです。
はい。
「死ぬ気で頑張ってもらわなきゃ困る」っていう瞬間はあるんですけど、理不尽さはなくせると思うんです。
事前に、この仕事を今なんでやらなきゃいけないのかしっかり話すとか、その仕事で何を得ることを期待しているとか、実は言えることがいっぱいあるんですよね。
終わったあとに「ほらみろ、やってよかっただろ」とかはむだなストレスを生んでいるんですよね。
われわれの時代は「理不尽の先に何かあるかもしれない」っていう幻想があった気がします。
その幻想を示せなくなっている背景っていうのは何かあるんですかね。
信じて無我夢中にやってみれば成長するし、社会も豊かになるし、全員幸せになれるっていう神話が崩壊してしまったことがそもそもの原点ですよね。
だから「ほらみろ、よかったじゃないか」って言うのが成立しなくなってるんですよね。
なぜやる必要があるのか、なぜ自分がそれをやらなきゃいけないのかって聞かないと全力で動けない。
そうですね。
背景にあるのは、自分の身は自分で守らなきゃいけないっていうリアリズムだと思うんです。
そういった社会の大きな変化の流れの中で、理不尽さみたいなものに対して敏感になっています。
改めて、そういった中で若手にどう接していけばいいのか、心構えみたいなものはありますか。
やっぱり大前提としては若い方と同じ土俵には絶対立てないです。
そのうえで皆さん自身が自律的なキャリア形成をする当事者であるというスタンスを示すことかなと思ってるんです。
自分の趣味にしろ家庭にしろ、うまく取り込んで自分のキャリアにつなげていくアクション。
社外のコミュニティー、PTAとか地域の行事に参加するとか、お祭りでみこしを担いでみるのもいいのかもしれません。
そういう経験が仕事に役に立ったとか伝えていく。
なるほど。
それによって「この課長かわいいな」って接点があるように感じる、話を聞く価値があると感じる確率が高まっていくと思うんです。
充実している側面、仕事と関係ないところも出すことに意味があるということですね。
最後に、これから社会に出る学生の皆さんのことはどんな存在だと思っていればいいですか。
やっぱり、1人の人間ですよ。
それぞれの人が違うマインドで、違うモチベーションで動いているので、会話をすることで初めて分かりあえるということを忘れないでいただきたいです。
ありがとうございました。
取材・編集:加藤陽平
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