2022年10月20日
プーチン大統領 ロシア ヨーロッパ 注目の人物

プーチン大統領 次なる一手は?核使用は?ロシア専門家に聞く

一方的な併合を行ったウクライナ4州に対し、戒厳令を導入し戦時体制に移行したプーチン大統領。首都キーウなど各地の民間インフラ施設を狙ったミサイルや無人機による攻撃も続けるなど、さらなる強硬措置に踏み切っています。

「プーチン政権は軍事侵攻の大義を『祖国防衛のための戦い』に変えた」

こう指摘するのが、プーチン政権にも近い、ロシアの政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」のアンドレイ・コルトゥノフ会長です。
核戦力が使われるおそれは?
停戦が実現する可能性は?

ロシアの国際政治学の第一人者に、プーチン大統領の真意を聞きました。

※ 以下、コルトゥノフ氏の話

4州の一方的な併合 何が起きている?

ロシアの政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」 アンドレイ・コルトゥノフ会長

プーチン政権は、今回の『特別軍事作戦』を『祖国防衛の戦争』として見せようとしています。つまり、併合した地域で戦闘が起きればロシアの領土の一体性への侵害としてとらえ、自分たちの領土を守るために、しかるべき対応をとるということです。

今回の併合を、勝利として位置づけようとしているのでしょう。プーチン政権にとって、併合が国際社会にどの程度承認されるかは関係ありません。

4州の併合を定めた「条約」とする文書に署名するプーチン大統領(2022年9月)

これらの目標を達成して、政治の地図に新たな現実を定着させ、そこに留まらせるための根拠としたいのでしょう。

なぜ部分的動員に?国内での影響は?

特別軍事作戦が始まった直後から、ロシア国内では右派やタカ派は動員の必要性を言い続けていました。その要求に応えたものです。ロシアにとって30万人の動員は重大なことではありません。

動員された予備役のロシア兵の訓練(2022年10月)

もし動員がこの範囲内に限定されるのであれば、おそらく政権にとって深刻な政治的リスクを生み出すことはないでしょう。

ただ、動員の規模がこれに限定されるのかどうか、それにロシア国民の長期的な反応がどのようなものになるかも分かりません。動員によって、事態が大きく変わっていて、当然ながら社会の雰囲気に影響を及ぼすことになるのは明らかです。

核戦力を使う可能性は?

紛争が核のレベルにエスカレートするリスクは、特にNATOがこの紛争により直接的で、より大規模に参加するようになった場合に増加すると思います。

ウクライナ4州を併合したことで、プーチン政権は、今では戦争がロシアの領土内で直接起きていて、ウクライナだけでなく核兵器の保有国を含む欧米側が活発に関与していると主張することができます。

ロシア南部のチェチェン共和国の指導者のカディロフ氏が戦術核兵器の使用について発言しましたが、私は、政治の中枢、クレムリンで真剣に協議されることがないよう願っています。

チェチェン共和国の指導者 カディロフ氏

クレムリンは欧米からのウクライナ支援が今後も継続し、さらに増えていくことに非常に深刻な懸念をもっています。当然ながら、ロシア指導部を不安にさせるからです。

いずれにしても核戦争が始まったら、超大国であるアメリカとロシアの核兵器が用いられることになります。

ロシアの大陸間弾道ミサイルの発射実験(ロシア アルハンゲリスク州・2022年4月)

これはロシアとアメリカの間で最も喫緊で重要な問題で、両国の何らかの協議や接触が必要となります。

停戦の見通しはあるの?

9月に開催された上海協力機構の首脳会議で、中国とインドの両国から特別軍事作戦について懸念が表明されました。プーチン大統領にとって、この紛争を早く終結させようとする刺激となった可能性があります。

併合した地域を『勝利』として示せば、軍事作戦の目標がかなり達成されたと訴えられますから。

プーチン大統領などが出席した上海協力機構首脳会議(ウズベキスタン・2022年9月)

一方で4州の併合を決めたことは、少なくとも近い将来におけるウクライナとの政治的調停の可能性を閉ざすことは明らかです。

ロシアが併合したとする ウクライナの4州

今、主導権はロシアよりもウクライナに多くあります。

ウクライナが大幅な領土の損失を受け入れ、認めることに同意するというのは想像できませんし、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の間で対話が再開される可能性は低いと思います。

そもそも、このような対話は実質的にこれまでもありませんでした。何らかの停戦に関する合意について話すことができるようになるためには、しばらく時間がたたなければなりません。

領土問題を含めて日本との関係は?

何らかの肯定的な傾向を期待するのは非常に困難だと思います。

平和条約に関する交渉についての最近の論争は、今は何か小さな成功でさえも期待するのは非常に難しいということを示していました。

いずれにしても両国が、このような対話が可能になったときに対話を再開できる可能性を残しておくことが重要だと思います。例えば、日本はサハリンプロジェクトから撤退しなかったということができます。

日本の企業が出資・参画する「サハリン2」プロジェクトのLNGプラント(サハリン州)

日本のビジネス界の一部はロシア撤退を急いでいないということもできます。何らかの接触は維持されています。

もちろん今の全体的な情勢で、ネガティブな様相を変えることは原則的にありませんが、控えめでもいいですが、現実的な行動から始めなければならないという前提に立って取り組まなければならないと思います。

今後のロシアは?

2024年に大統領選挙が予定されていますが、数多くの要因によって左右されると思います。

特別軍事作戦が今後どうなるか、何が達成でき、何が達成できないかなどです。

ロシア経済システムがどの程度適応できるか、あるいは反対に硬直化しているのか、これがいかに新たな現実に適応していくかにもよります。おそらく、これはロシアの政治エリート内の雰囲気に左右されます。

モスクワ(2022年10月)

2024年まではまだ時間があります。とても多くのものが変化する可能性があります。

国内には、もっと大規模な軍事活動を望むタカ派もいれば、早急な平和を望むハト派もいます。つまり完全な結束はありません。今はもちろん、とても多くのことがプーチン大統領の立場で左右されています。

ただ、将来についていえばきっと外交政策をどのようにするか、指導部内での何らかの闘争が立ちはだかることでしょう。それはウクライナ問題の解決をどのように試みるかをめぐってもです。

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