2022年9月22日
ウクライナ ロシア ヨーロッパ

ロシアに「奇襲」成功なぜ? ウクライナ高官が語っていたこと

ロシアによる軍事侵攻への抵抗を続けるウクライナの戦いが大きな転換点を迎えました。
ウクライナ軍が東部ハルキウ州の大部分を奪還し、「大きな勝利」(ゼレンスキー大統領)を挙げたのです。

奇襲ともいえる攻撃。実は、1か月前の8月下旬にNHKの取材に応じたゼレンスキー大統領の側近は、この展開を示唆するかのようなことばを残していました。

「いまの戦いは、国境を完全に取り戻すために行われている」

9月に何が起きた?

ウクライナ軍の部隊がロシアと接する東部ハルキウ州で大規模な反転攻勢を行い、ロシア軍は10日、重要拠点イジュームからの撤退を表明しました。いったい何が起きたのか。

実はウクライナ軍は8月下旬から東部ではなく、まずヘルソン州など南部で領土奪還に向けた攻勢をかけていました。この攻勢にロシア軍は防戦を余儀なくされ、主力を南部に移動させていたとも伝えられていました。しかし、9月6日ごろからの5日間で、ウクライナ軍は東部で反撃を展開。劇的に解放していったのです。

いわば、ロシア軍を南部に集中させ、東部で「奇襲」をかけた形でした。アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、この5日間で解放した地域は3000平方キロメートル以上にのぼり、これは4月以降にロシア軍が奪った領土を上回る規模だとしていました。専門家や研究者の間でも驚きの声があがるウクライナ側の成果でした。

1か月前、ゼレンスキー大統領の“側近”は

彼は、こうした状況を見据えていたのではないか。そう思える発言をしていたのが、ウクライナのポドリャク大統領府顧問です。ふだんは大統領府長官に外交や内政に関する助言を行いますが、ゼレンスキー大統領にも直接助言することもある高官です。8月23日に首都キーウで行ったインタビューで、南部の動きについて興味深いことを語っていました。

ウクライナ ポドリャク大統領府顧問(右)

クリミアでの関与を示唆?

軍事侵攻が始まって半年となった8月。南部で注目される出来事が起きていました。ロシアが8年前に一方的に併合したクリミアのロシア軍施設などで、何者かによる爆発や攻撃が相次いだのです。

クリミアで発生した爆発(2022年8月9日)

この時期、ウクライナ軍は同じ南部ヘルソン州などで支配された地域の奪還を目指し反撃を続けていました。ポドリャク氏は、直接の関与について認めなかった一方で、こうも語っていました。

ポドリャク氏
「クリミアでこの2週間で起きたこと(ロシア軍施設での爆発や攻撃)は、クリミアで行う軍事作戦も、占領されたザポリージャ、ヘルソン、ルハンシク、ドネツク、ハルキウと同じものになることを示している。これらの地域とクリミアの間に違いはない」

「ロシアの社会にパニックをつくりだし、士気を下げる。これはうまくいっている」

ウクライナ軍の総司令官は、9月に入ってクリミアのロシア軍基地での爆発について、ウクライナ側による攻撃だと認めました。いま振り返ると、ポドリャク氏は、インタビューをした当時、ウクライナ軍は南部だけでなく東部の奪還を見据え、準備をしていると示唆していたのではないか、そう考えてしまうほどのその後の展開でした。

ウクライナ軍の戦い方は

また、ポドリャク氏はロシア軍との違いを強調し、ウクライナ軍の活動をこう語っていました。

「ウクライナはロシアのようには戦わない。ロシア軍は兵士の犠牲を顧みず、100メートルでも200メートルでも前進しようとするが、われわれはクリエイティブに戦う。最小限の犠牲で領土を奪還するため、ロシア軍のインフラを重点的に破壊している。弾薬、燃料庫、戦術的な指揮所、物流拠点をできるだけ多くねらっている」

国旗を掲げて走行するウクライナ軍の装甲車(ハルキウ州・2022年9月15日)

「国境」を完全に取り戻す戦いに

この時期は、南部でのウクライナ軍の攻勢に注目が集まっていたさなか、ポドリャク氏はこうも語っていました。

「侵攻が始まった当初、誰もがウクライナによる領土の割譲を話題にしていたが、半年で状況は大きく変わった。いまの戦いは、国際的に認識された国境を完全に取り戻すために行われている」

「国境を取り戻す」。ロシアと国境を接する東部ハルキウ州の大部分を奪還した今の状況を見ると、まさにポドリャク氏の発言どおりになったともいえます。

ウクライナが奪還した重要拠点イジューム(ハルキウ州・2022年9月14日)

「戦術的勝利」の積み重ねが必要

さらに、ロシアに打ち勝つために必要だとポドリャク氏が強調したのが、ウクライナが「戦術的勝利」を得ることでした。

「戦術的勝利とはロシアの戦術的な敗北の積み重ねを意味する。ロシアに占領された都市を含む一定の領土の解放であるべきで、また、前線のロシア軍が武器、弾薬、燃料に事欠くようになり、徐々に占領地から撤退していくか、その大多数がせん滅される。これが交渉プロセスの始まりのカギとなる」

奪還したイジュームに入ったゼレンスキー大統領(2022年9月14日)

これは「ヨーロッパの戦争」

そのために何が必要か。ポドリャク氏は、依然としてロシア軍は火力で優勢に立っていると認めた上で、長距離砲や高機動ロケット砲システム=ハイマースなど、供与を求める兵器を一つ一つあげた上で、欧米各国からの協力を呼びかけました。

「彼ら(欧米)に理解してもらいたいと思うことがある。この戦争を一刻も早く終わらせたいと思うならば、どれくらいの兵器が必要になるのか計算してみることが必要だ」

高機動ロケット砲システム「ハイマース」

「これはヨーロッパの戦争だ。ウクライナだけでなく、ヨーロッパ全体へ影響をもたらす。ロシアが勝てば、ロシアの支配が待っている。ヨーロッパに自国のルールを押しつけてくる。ヨーロッパの人々へのメッセージはとてもシンプルなものだ。いまはまだ家の暖房の温度を下げるだけでいいが(ドイツなどでロシア産の天然ガス不足対策として暖房の温度を下げる動きを指す)、いまロシアを止めなければ、それでは済まなくなる」

日本へのメッセージ

私たち日本に何を求めるのか。ポドリャク氏は、日本の立場に理解を示しながら、復興での役割に期待を示していました。

「日本が私たちウクライナ寄りの姿勢をとってきてくれたと理解している。日本の地政学上の位置を考えると非常に重要なことで、とても好ましいことだと考えている。 日本が兵器の供与が出来ないことも十分に理解している。日本がウクライナの戦後の財政再建などで主導的な役割を担ってくれると信じている」

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