2022年8月9日
ウクライナ ロシア

夏の青空に鳴り響く防空サイレン ウクライナの夏が過ぎていく

一面に広がる黄色のひまわり畑、もくもくと立ち上る入道雲、それに、どこまでも続く真っ青な空。

真冬に始まったロシアによる軍事侵攻は、すでに6か月近くも続いています。

戦闘と抵抗が続く中、季節はめぐり、ウクライナの厳しい夏が過ぎています。

(ウクライナ現地取材班 別府正一郎)

ウクライナの夏の大地

7月下旬、首都キーウから車で東へ5時間ほどの中部の州、ポルタワに向かいました。

目に飛び込んできたのは、広大な大地に広がる、ウクライナの夏の風景です。

真っ青な空とひまわり畑の鮮やかな黄色は、まるでウクライナの国旗のようです。

もくもくと立ち上る大きな白い入道雲は、きょうも夕立が来ることを伝えていました。

一方で、こうした風景とは対照的に、町ではミサイルの危険を伝える防空サイレンが頻繁に鳴り、携帯電話の専用アプリからも、危険を知らせるアラームがけたたましく鳴ります。

ポルタワに近づくと、検問所での兵士の数が増え、頻繁に記者証やパスポートの提示を求められました。

道の両脇にある土のうは、キーウ市内よりも高く積まれていて、激しい攻撃が続く東部の戦闘地域に近づいていることを肌で感じました。

「1か月で戻れると思っていたのに」

到着した州都ポルタワには、東部ドンバス地域などから、約6万人が逃れてきて、市内の学校などが避難所となっていました。

このうち、幼稚園には100人余りが身を寄せていました。その中の1人、ライーサ・オロブチェンコさん(73)は、4月に東部ドネツク州のスロビャンシクから、夫と孫と共に逃れてきました。

ライーサ・オロブチェンコさん(右)と孫(中)と夫(左)

スロビャンシクは、ドネツク州の完全掌握を目指すロシア軍による攻撃が激しくなっています。

オロブチェンコさんが最も心配するのが、今もそこに残る娘のオルガさんのことです。オルガさんは、いつか家族が戻れるようにと家を守っているのだといいます。

「今朝も、3回ほど砲撃音が聞こえたし、きのうの夕方には、近くの町で何度も砲撃があった」

オルガさんは、電話の向こうから厳しい現状を母親に伝えていました。

オロブチェンコさんが故郷に戻ることができないのは、攻撃による命の危険があるからだけではありません。ロシア軍の攻撃によってインフラが破壊され、そもそも生活ができるような状況にないからだといいます。

娘のオルガさんと電話をするオロブチェンコさん

「ガス、電気、それに水道も止まっています。そうした中で、どこに戻れというのでしょうか?最初は1か月も避難すれば、戻れると思っていました。でも、すでに避難して4か月です」

標的になる市民の生活

ロシア軍の攻撃は東部だけではなく、戦線から離れ、市民が避難するポルタワ州にも及んでいます。

6月、ポルタワから車で2時間ほどの町にあるショッピングセンターにミサイルが撃ち込まれました。ミサイルは、建物の壁を突き破って床に着弾して爆発し、爆風で屋根などが吹き飛ばされました。

爆撃されたショッピングセンター

現場を訪れると、建物の骨組みだけが残り、残った鉄骨もぐにゃりと曲がっていて、爆発の威力を物語っていました。

ミサイルが撃ち込まれたのは、午後5時前。

夕食の食材を買い求める大勢の客で混雑していたということで、地元当局によると、22人が死亡、100人以上がけがをしました。

爆撃を受け火災が発生するショッピングセンター (2022年6月27日に爆撃)

また、州内の別の場所への攻撃では、火力発電所が破壊され、約18万人に影響が出ています。

ポルタワのバレリ・ポルホメンコ副市長は、ロシア側の狙いについて市民の生活基盤を破壊するのが目的だと指摘しました。

「ロシア軍の攻撃を見れば、ミサイルで生活インフラを狙っているのは明らかで、市民生活への脅威です」

人々を諦めさせるのが意図なのか

ウクライナ国防省は、ロシア軍による攻撃の7割が、民間施設などを標的にしていると非難しています。

特にインフラ施設が執ように攻撃されていることについて、ウクライナの人々は、自分たちの暮らしそのものが標的になっていると感じています。

ウクライナの人たちに、自分たちの土地で暮らすことを諦めさせ、追い出した上で、その土地を手に入れようという意図もあるのではないかと指摘されています。

他国の領土を一方的に武力で奪い取るための、卑劣で残忍なやり方だと言えます。

続く攻撃、市民には疲労の色も

2月の侵攻当初、ウクライナ軍は首都キーウを防衛し、ロシア軍が目指した首都制圧という事態は回避できました。

しかし、5月には東部の要衝マリウポリが奪われ、7月上旬にはルハンシク州が掌握されました。一部では「戦線はこう着している」という見方もありますが、ミサイルによって、多くの命と市民の生活が瞬時に奪われ続ける状況に変わりはありません。

取材したポルタワの町で

ウクライナの人たちは、こうした死の恐怖と隣り合わせの生活を、6か月近くも続けています。

季節は、凍てつくような寒さが続く冬から、真夏に変わりました。

戦闘が長期化する中、防空サイレンが鳴っても、以前のように慌てて地下に避難する人の姿は、ほとんど見かけることはありません。

恐怖を感じなくなったからではありません。

「もちろん、不安はあります。でも、毎回毎回、仕事を中断するわけにはいきません」
「もう、逃げることにも疲れました」

こう話す人々の顔には、疲労の色が見られました。

長期化を覚悟する人たち

こうした中、ポルタワのバレリ・ポルホメンコ副市長は、すでに冬の心配をしていました。

「インフラが標的になる中、住宅、暖房、水道などをどう市民に提供できるかが課題です。冬が、また近づいてくるのです。時間はありません」

市民に話を聞いても、多くの人たちが、ロシアによる攻撃の、さらなる長期化を覚悟していました。

それでも「国を諦める」という声は聞かれませんでした。

「諦めたら、侵略者の思い通りになってしまう」と、多くの人たちが口にします。

終わることのない攻撃と、必死に抵抗を続けるウクライナの人たち。

ウクライナの厳しい夏が続いています。

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