2022年6月30日
ウクライナ ロシア ヨーロッパ

【詳しく】ロシア侵攻 各国の姿勢は一致?それとも温度差?

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって6月24日で4か月がたちました。停戦に向けた交渉は中断したまま進展は見られません。

こうした中、欧米各国の足並みはそろっているのでしょうか?それとも、温度差があるのでしょうか?

専門家の分析や、海外の調査を元に読み解きます。
(国際部記者 松田伸子、田村銀河)

そもそも各国の足並みはそろっているの?

慶應義塾大学の鶴岡路人准教授

国際安全保障に詳しい慶應義塾大学の鶴岡路人准教授は、各国の立場には一定の違いはあるものの、経済制裁などでロシアに対して圧力をかけていく点では結束していると分析しています。

「いつも『足並みが乱れている』と指摘されるヨーロッパ各国ですが、今回は足並みが極めてそろっています。アメリカとヨーロッパの間でも高いレベルで結束できています」

アメリカの姿勢は?

アメリカでは、バイデン大統領がウクライナへの兵器の供与や人道支援などを強化するため、約400億ドル、日本円にして5兆円余りの追加の予算案に署名し、法律が成立しました。(5月21日)

軍事面では、携帯型の地対空ミサイル「スティンガー」や対戦車ミサイル「ジャベリン」などを供与してきましたが、ウクライナが求める長距離ミサイルの供与には慎重で、ロシアを過度に刺激したくないという思惑もあるとみられます。

対戦車ミサイル「ジャベリン」

こうしたアメリカの姿勢について、鶴岡准教授は、ウクライナとの合意形成に基づく支援を行う姿勢を維持しているとした上で、次のように指摘しました。

「アメリカは、ヨーロッパ各国の中で、“ロシアに厳しい姿勢の国”と“甘い対応だと言われる国“との中間に位置しています。バイデン大統領は『ウクライナに関する決定をウクライナ抜きで行うことはない』と繰り返し強調しており、この原則は非常に重要です」

ロシアと地理的に近い国は?

ロシアと地理的に近いバルト3国は、今回の軍事侵攻に危機感を強めています。

このうちリトアニアでは、5月10日、議会がロシアの軍事侵攻を「ウクライナ人に対する集団虐殺」だとする決議案を全会一致で採択しました。

こうした国の姿勢について、鶴岡准教授は、ロシアに近い場所に位置するポーランドやバルト3国は「ロシアを負けさせるべきだという主張を非常に強く打ち出している」として、ロシアに最も厳しい姿勢で臨んでいる立場だと分析しています。

「これらの国々は、今回の侵略戦争によってロシア側にも得るものがあったという結末になってしまうと、ロシアが再び侵略すると考えています。その場合、次に侵略される対象が自分たちの国になると真剣に考えているんです」

フランスやドイツは?

マクロン大統領(左)とショルツ首相(右)

フランスは、マクロン大統領が、フランスの新聞のインタビューで「ロシアに屈辱を与えてはならない。外交的な手段で出口を作ることができなくなるからだ」と述べました。(6月3日)

この発言は、停戦交渉でフランスが仲介役を担うためにもロシアのプーチン大統領と対話ができる関係を維持したいという考えを示したものでしたが、ウクライナ側の強い反発を招く結果となりました。

ドイツは、ショルツ首相が、5月13日、プーチン大統領と電話で会談し、一刻も早く停戦を実現し外交による解決を模索するよう促したほか、5月28日には、マクロン大統領とともにプーチン大統領との3者による電話会談を行いました。

この会談についてドイツ側は、ショルツ首相とマクロン大統領は、プーチン大統領にゼレンスキー大統領との直接交渉を呼びかけたとしています。

ただ、ロシアと対話するフランスとドイツの首脳について、ポーランドのドゥダ大統領は、ドイツメディアとのインタビューの中で「第2次世界大戦の最中に、ナチス・ドイツを率いるヒトラーと電話でやり取りするのと同じだ」と批判しました。(6月8日)

こうしたポーランドやバルト3国との姿勢の違いについて、鶴岡准教授は、次のように分析し、ロシアとの対話を重視する立場だと位置づけています。

「フランスとドイツには、ロシアの脅威に対する差し迫った切迫感はありません。ロシアを排除して孤立させても、中長期的にはヨーロッパの安全は保障できないと考えています」

各国の軍事支援などの支援額は?

各国が表明したウクライナに対する軍事支援や人道支援などを含む支援の額について、ドイツの「キール世界経済研究所」は、2022年1月から6月7日までの総額をまとめ、6月16日に発表しました。

内容は次の表の通りです。

・アメリカ 426億ユーロ(約6兆円)
・EU=ヨーロッパ連合 155億ユーロ(約2兆2000億円)
・イギリス 48億ユーロ(約6800億円)
・ドイツ 32億ユーロ(約4500億円)
・ポーランド 27億ユーロ(約3800億円)
・総額 780億ユーロ(約11兆円億)※億ユーロ以下切り捨て

支援額が各国のGDP=国内総生産に占める割合については、ロシアに地理的に近く、歴史的にもロシアを脅威と捉えてきた国々が上位を占めています。

1.エストニア 0.87%
2.ラトビア 0.73%
3.ポーランド 0.49%
4.リトアニア 0.31%
5.アメリカ 0.22%

13.ドイツ 0.09%
14. フランス 0.08% ※小数点第3位を四捨五入

ヨーロッパ各国の国内世論は?

ヨーロッパの調査研究機関「欧州外交評議会」が、2022年4月下旬から5月中旬にかけてヨーロッパの10か国で、あわせて8000人を対象に調査を行いました。

調査では「たとえ領土をロシアに渡すことになったとしても、もっとも大事なのは可能な限り早く停戦することだ」という回答を選択した人たちを「和平派」としています。

一方「たとえさらに多くのウクライナ人が殺されたり、避難を余儀なくされたりしても、もっとも大事なのは侵攻したロシアを罰することだ」という回答を選択した人たちを「正義派」としています。

調査結果は次のようになっています。

国別の「和平派」と「正義派」。
・イタリア 52%、16%
・ドイツ 49%、19%
・ルーマニア 42%、23%
・フランス 41%、20%
・スウェーデン 38%、22%
・スペイン 35%、15%
・ポルトガル 31%、21%
・フィンランド 26%、25%
・イギリス 22%、21%
・ポーランド 16%、41%

今後の国際社会の姿勢はどうなるの?

鶴岡准教授は、国際社会は次のような考えで一致しているとしています。

「ウクライナにとっては、領土内のロシア軍を押し返すことがいまの戦争の目的であり、それが勝利です。ロシアが勝ったという形にしてはならないというのが国際社会の一致した考えなのです」

その上で、鶴岡准教授は、戦闘の長期化が世界各国の政治経済にも影響すると指摘し、6月19日に行われたフランスの議会下院にあたる国民議会の選挙で、与党連合の議席が過半数を下回る結果になったことについて「ウクライナ情勢を受けた物価高騰に対応しきれなかった政府への不満が背景にあると言える」と分析しています。

こうした点を踏まえて、鶴岡准教授は、今後のロシアの姿勢について次のように指摘しました。

「ロシアにとって『物価高騰の責任は欧米各国の経済制裁にある』と主張することは、ほぼ唯一残された手段となっています」

※文中の円換算の為替レートは、いずれも6月24日時点

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