2022年6月28日
NATO フィンランド ロシア ヨーロッパ

【詳しく】北欧フィンランド 隣国ロシアに脅かされて

「私たちが何も恐れずに、平和な時代に生きているのは、特別なことなのかもしれない。私たちの親や祖父母の世代はこんなぜいたくは享受できなかった」

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のあと、フィンランドの市民がつぶやいたことばです。ロシアとの国境は約1300キロ、実に札幌ー福岡間の直線距離と同じくらいの長さです。

ロシアに脅かされてきた北欧の国では今、軍事的に中立の立場をとり続けるべきなのか議論が活発に。なぜなのでしょうか?

※この記事は2022年4月6日に公開したものです。

フィンランドとロシアの関係は?

人口が約550万のフィンランドに対し、ロシアは1億4000万人以上。フィンランドの歴史は、隣国の大国とどう向き合い、独立国家として生き残っていくのか模索する歴史でもありました。

1917年、ロシアから独立を果たしましたが、その後の第2次世界大戦では当時のソビエトから軍事侵攻を受けました。

“わが国の安全が脅かされる”

ウクライナ侵攻でも繰り返されてきた理由です。

この「冬戦争」「継続戦争」と呼ばれる2度にわたる戦いで、フィンランドは多くの犠牲を出しながらも、独立を守り抜きました。戦後は東西両陣営のはざまでソビエトからの影響力を一定程度受け入れながらも、中立政策をとります。

冷戦が終結したあとEUには加盟しましたが、軍事同盟であるNATOには加盟していません。フィンランドは常にモスクワを刺激しないよう、細心の注意を払い続けてきたのです。

ウクライナ軍事侵攻で方針転換?

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けてフィンランド国内で強まっているのは、NATOへの加盟を支持する意見です。軍事侵攻が始まった2月24日前後に行われた世論調査では「加盟支持」が53%と、初めて半数を超えました。

2月の下旬、マリン首相は「ウクライナにライフルや対戦車兵器を供与する」と発表。「紛争国に兵器を供与しない」という長年貫いてきた軍事的な中立を転換させたのです。

フィンランド国防省で政策立案を担当する部門のトップ、ヤンネ・クーセラ氏は、理由をこう説明しました。

フィンランド国防省 政策担当トップ ヤンネ・クーセラ氏
「仮に今後、フィンランドがNATO加盟を申請するとしたら、それはロシア自身の行動が原因だ。私たちに今できるのは、ほかのEU諸国と同じように行動することだ。将来フィンランドが厳しい状況に置かれたとき、NATOは私たちを助けてくれるだろう」

ロシア軍のウクライナ侵攻後、3月9日から11日に行われた調査では、NATO加盟支持が62%に達しました。

注記:フィンランドは2022年5月、スウェーデンとともにNATOへの加盟を正式に申請しました。トルコは難色を示していましたが、交渉を続けた結果、加盟を支持する立場に転じ、6月29日の首脳会議で、両国の加盟交渉を正式に始めることが決まりました。

市民の受け止めは?

ヘルシンキの市民からは
「ロシアは脅威であり、今後も脅威であり続ける」
「これまでは中立がいいと思っていたが、結局、中立であり続けることはできない」
などとNATOへの加盟を肯定的にとらえる声が聞かれました。

これまで、NATOは軍事同盟だとして否定的な見方も強かったといいますが、ロシアに対して加盟国が団結して防衛にあたっていると評価する見方が広がっているようです。

一方で
「侵略を受けた歴史や、長い国境を接している現実を考えると、行動には気をつけるべきだ」
「経済や社会などあらゆる面で、ロシアとは隣人としてのつながりがある。その関係を一気に変えるのは難しい」
という複雑な思いを持つ人もいました。

ロシアへの警戒感の高まりを背景に、みずから有事に備えようという人が増えています。

国防省の関連団体が行っている「防衛訓練」は、参加希望が急増。

最も人気があるという射撃訓練の会場を訪れてみると、若者から年配の人まで、さまざまな人たちが銃で標的をねらっていました。

フィンランドには徴兵制度があり、多くの人は、慣れた手つきで銃を扱っていました。30年ぶりにこうした訓練に参加したという男性は「現在の緊迫した状況を考え、かつて習得した技術を確認しておきたいと思った」と話していました。

ロシアはどう反応?

フィンランドで高まるNATO加盟の議論に、ロシアは神経をとがらせています。

フィンランドが加盟することになれば、ロシアはNATOと国境を接することになり、いわゆる「緩衝地帯」はなくなります。

2月25日、ロシア外務省のザハロワ報道官は「フィンランドなどがNATOに加盟した場合には、軍事的、政治的に対応する必要がある」などと強くけん制しました。

さらに3月に入ってからも、ロシア外務省の高官はロシアの通信社の取材に対し「仮にNATOに加盟すれば、その関係は変わることになる。報復措置が必要になるだろう」と重ねて強調しています。

本当に“中立”から決別するのか?

フィンランド政府は、4月にも安全保障の現状についてまとめ、議会ではNATOへの加盟も含めた議論が交わされる見通しです。

NATOへの加盟は、軍事的な中立と完全に決別することを意味します。

フィンランド議会 アッテ・ハルヤンネ議員

フィンランド議会 アッテ・ハルヤンネ議員
「安全保障をめぐる状況が劇的に変わる中でどう行動していくべきか、歴史的な転換点に立っている。答えは私たち自身で見つけていかなくてはならない」

フィンランド国防省 政策担当トップ ヤンネ・クーセラ氏
「私のこれまでのキャリアの中で、現在のような不透明な状態は初めてだ。今後どんなヨーロッパになるのか、どんなロシアと隣人として向き合っていかなくてはならないのか。2022年が転換点となるのかどうかは、歴史が示すだろう」

フィンランドは中立を保ちながらも徴兵制度は維持し、ここ数年、国防費はGDPの2%近くに上ります。

民主的な国家と“十分な備えがあれば、ロシアであろうと、どんな国であろうと簡単に攻撃することはできない”ーそれが、フィンランドが学んできた教訓です。

「世界で最も幸福な国」とされるフィンランド。

その裏には、大国ロシアと向き合う苦悩と、覚悟があります。

国際ニュース

国際ニュースランキング

    世界がわかるQ&A一覧へ戻る
    トップページへ戻る