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今も続くロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻。
ウクライナの惨状が、さまざまなメディアによって明らかになっています。
一方、ロシア国内では、今回の侵攻はどのように伝えられているのでしょうか?
そもそもどんなメディアがあって、どんな報道内容なのか。
ロシア国内のメディアの状況や報道内容を、専門家に聞きました。
(国際部記者 後藤祐輔)
ロシア国内のメディアの状況は?
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まず、ロシア国内のメディアについて、ロシアの政治や外交に詳しい防衛省防衛研究所の長谷川雄之さんに聞きました。
長谷川さんによると、とりわけ国営テレビの影響力は無視できないといいます。
中高年より上の層や地方に居住する人たちは、国営テレビを中心に情報を得るため、特に影響力が大きくなるといいます。
プーチン政権にとって、国営テレビは国内世論を形成する上で非常に重要な役割を果たしていて、政権の意向に沿った内容を放送しているのだそうです。
※ 総務省のまとめ(令和2年度)によると、ロシアのテレビ局は、国営の「ロシアテレビ」「第1チャンネル」のほか、ロシア公共テレビ、商業放送のNTVなどがある。
政権に批判的なメディアはあるの?
長谷川さんによると、独立系の新聞やラジオなどもあり、この中には政府に批判的なメディアもあるということです。
ただ、年々、こうしたメディアに対する締めつけは厳しくなっているといいます。
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具体的には、2012年以降の第2次プーチン政権において、いわゆる連邦法にある「非営利団体について」という法律の改正が繰り返され、批判的なメディアを「外国の代理人」(※)に指定できるようになったのだそうです。
さらに2020年の憲法改正も、言論の自由や報道の自由の制限につながり、批判的なメディアは、非常に厳しい状況に置かれているのだといいます。
※ 外国の代理人
いわゆる「外国のスパイ」を意味し、指定されると資金の収支について詳細に報告することが求められるなど当局の監視が強まる。ロシアのメディアは、スポンサーから資金の提供を停止され経営難に陥り、事実上、取材活動が制限される。
侵攻が始まって以降の状況は?
長谷川さんは、若い世代を中心に、インターネットで欧米メディアなどが発信する情報を得ようとする動きがある一方で、独立系メディアの締めつけによって、国営メディアの影響力が相対的に増していると指摘しています。
そして、プーチン大統領がここまで、批判的なメディアへの締めつけを強めるとは、想定していなかったとも話しました。
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「プーチン政権は、ある程度言論の自由を認めつつ、コントロールしていくと考えていました。インターネットの規制はハードルが高く、プロパガンダに一定のほころびは見えますが、今の特別な政治体制のもとでは、国営メディアの影響力がますます強まっているとみられます」(長谷川さん)
ロシアの報道の自由度は?
長谷川さんの指摘を裏付けるように、国際的なジャーナリストの団体「国境なき記者団」は、ウクライナへの軍事侵攻が始まって以降、報道の自由度が下がっているとしています。
「国境なき記者団」は5月、180の国と地域について、2022年の報道の自由度に関する報告を発表しました。
この中で、ロシアは、前の年から順位を5つ下げ、155位でした。
この報告書の中で「国境なき記者団」は、ロシア国内のメディアの置かれた状況について、次のように分析しています。
「侵攻以降、ほぼすべての独立系メディアが禁止や阻害されるか、『外国の代理人』に指定されている。そのほかもすべてが軍事検閲の対象になっている。欧米のソーシャルネットワークも次第にブロックされつつある。ニュースや情報を完全に支配している」
「国境なき記者団」の報告書
ロシアテレビ、何を伝えた?
では国営テレビでは具体的にどんなことを伝え、その内容からはどんなことが見えてくるのでしょうか。
インテリジェンスやプロパガンダに詳しい、日本大学危機管理学部の福田充教授に分析してもらいました。
今回、分析の対象に選んだのは、4月11日(月)から15日(金)にロシアで放送された国営のロシアテレビのニュースです。(各ニュースの詳しい内容は、文末にまとめてあります)
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この時期、ロシア軍はウクライナの首都キーウ近郊から撤退し、東部マリウポリへの攻勢を強めていました。
11日「マリウポリに外国人ジャーナリスト」
(ロシアテレビニュース冒頭より)
「マリウポリできょう、ドネツク人民共和国が港湾を完全掌握したと、人民共和国の首長が発表しました。
この戦略的成功のおかげもあり、きょう、多数の外国人ジャーナリストの訪問が実現しました。
ロシア軍の安全対策は、決して過剰なものではありませんでした。
というのは、すぐ隣のアゾフスターリ工業地区にはネオナチが立てこもっており、今もそこから銃撃が行われているからです。
西側メディアを含む外国メディアの代表は現状を目にし、地元住民の声も聞くことができました」
“エンベッド取材”で客観性
福田教授は、この報道の意図について「エンベッド取材」というキーワードを使って次のように分析しました。
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「『エンベッド』は埋め込むという意味で、『エンベッド取材』というのは、記者団を軍に“埋め込む”、いわゆる従軍取材のことです。取材者全員を同じバスに乗せて移動したり、取材・撮影場所を軍側が指定したりするなど、軍による厳しい制約がある中で、取材が許されます」
「今回の取材も、厳しいルールが設けられたはずで、インタビューを受けたとされる市民も、ロシア側が用意した人物だと考えられます。こうした様子を伝えることで『世界のメディアもロシア軍を信用してマリウポリ入りしているんだ』という安全性と、ロシア側の『東部住民を守る』という主張に客観性を持たせることを意図しているとみられます」
13日「マリウポリでウクライナ側の兵士1000人投降」
(ロシアテレビニュース冒頭より)
「旅団のうち残っていた1000人の海兵隊が、武器を置いてマリウポリのイリイチ製鉄所の敷地から出てきました。
キエフの司令部が裏切り行為のようにけしかけた突破が失敗した後、彼らは状況が絶望的で、これ以上の抵抗は無意味だと気づいたようです。
およそ300人が負傷しており、全員に治療が行われました。投降した捕虜の中からネオナチを見つけ出す作業も続いています」
(冒頭に続くリポートより)
「捕虜およそ300人が負傷しており、90人が自力で動けないため、仲間の兵士が運びました。
『生き抜いて家に帰りたい。死なないことが一番大事』(捕虜とされる兵士のインタビュー)」
“イグゼンプラー効果”で印象づけ
福田教授は、この捕虜とされる兵士のインタビューについて「イグゼンプラー効果」をねらったものではないかと分析しました。
「『イグゼンプラー効果』とは、実在する人物から直接発信される情報は、より信頼される傾向にある、というものです。ウクライナ兵の捕虜のインタビューは『イグゼンプラー効果』として使われていると考えられます。放送を見た人は『まさかこの捕虜がうそを言っていることはないだろう』『カメラを向けられて本当のことを話しているはずだ』という見方をします」
「『家に帰りたい。死なないことが大事』といった発言は、見ている人に『ウクライナ人も無理やり戦わされているんだ』という印象を与えます。市民を戦わせているウクライナのゼレンスキー大統領こそが『ネオナチ』であり、ウクライナ兵士たちも犠牲者だと見せることで、『東部の兵士や市民を助けることにつながる正義の戦い』だと印象づけていると考えられます」
プーチン政権の計算ミス?
冒頭で、ロシア国内のメディア状況について話を聞かせてもらった防衛省防衛研究所の長谷川さんは、こうした一連の世論形成について、ロシアの思惑通りには成果を上げられていない可能性を指摘しました。
「ロシアの国営や政府系メディアは、多言語発信もして対外的な世論を形成し、親ロシア的な人や反米の人たちを意識して対外宣伝工作をやってきました。8年前にロシアがクリミアを一方的に併合した際は成功しましたが、それ以降、欧米諸国は対抗策として国内世論を守ろうと努めてきており、今回は“ロシアの言説に惑わされない”という一種の強じん性のようなものが出てきたと思います」
「ロシアの方も作戦目標の1つであった『対外宣伝オペレーション』に失敗したことを認識し、国内世論も揺れ動く中で一気に内向きになってきているとみられます。今回の軍事作戦で掲げている“非ナチ化”という目標は、ロシア人でも理解するのが大変なところもあって、プーチン政権に計算ミスがあったと言えるかもしれません」
ロシア国内は?国際社会は?
国際社会からロシアへの非難が相次ぐ一方、民間の世論調査機関「レバダセンター」(※)が5月に行った世論調査では、「ロシア軍の行動を支持するか」という質問に「明確に指示する」と「どちらかといえば支持する」と答えた人は合わせて77%でした。
これは、前の月に比べて3ポイント増えています。
一方、アメリカ政府は5月に発表したロシアに対する追加制裁で、ロシア国営などのテレビ局3社について「プーチン大統領による残忍な侵略をうそで隠し、プロパガンダの道具にもなっている」などとして、アメリカの企業が中継技術やカメラといった機材などを提供できないようにしました。
これに対して、ロシア外務省は、6月6日、モスクワに拠点を置くアメリカの報道機関各社の代表を呼び、ロシアメディアに対する厳しい措置が改善されなければ、ロシアでの取材活動ができなくなる恐れがあると警告しています。
※「レバダセンター」
2016年、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けている。
以下、ロシアテレビのトップニュース詳細
4月11日(月)
冒頭
マリウポリできょう、ドネツク人民共和国が港湾を完全掌握したと、人民共和国の首長が発表しました。
この戦略的成功のおかげもあって、きょう、多数の外国人ジャーナリストの訪問が実現しました。
ロシア軍の安全対策は、決して過剰なものではありませんでした。
というのは、すぐ隣のアゾフスターリ工業地区にはネオナチが立てこもっており、今もそこから銃撃が行われているからです。
西側メディアを含む外国メディアの代表は現状を目にし、地元住民の声も聞くことができました。
グリゴーリー・ドーミンのリポートです。
リポート
きょう、ドネツクには、さまざまなマイクがやってきました。
外国人ジャーナリストを乗せたバスが、ここ数日で最大の被害を受けた9階建ての建物にやってきました。
ここでは2人が死亡し、子ども1人が今も重体です。
「西側・ウクライナのメディアは情報を歪曲して伝えている」(ドネツク人民共和国の首長インタビュー)
ドネツク人民共和国の首長は、オープンな対応の手本を示し、ジャーナリストの質問に答え、近くのベンチに座る人たちに話しかけています。
「現代の戦争は、兵士が武器を持って戦うだけではない。情報戦も重要だ」(インドのジャーナリストのインタビュー)
インド、アラブ、フランスのテレビ局がいました。ヨーロッパは、非公式なメディアの代表者が増えています。
「私のような小さなチャンネルでなければ、客観的な情報を把握することはできない」(ジャーナリストのインタビュー)
マークは驚くべき人物です。元警察官で、上司の汚職を告発しました。その戦いの結果、ロシアに政治亡命し、今はブログを運営しています。
ジャーナリストたちは防弾チョッキを着用します。戦争で破壊された町を横断します。第5学校でイベントが行われます。きょうは、戦闘終了後、授業が再開される「始業式」です。
こちらでは、ジャーナリストが通訳を介して、教師と生徒にインタビューしています。
どんなことを質問され、どう答えたのかを聞きました。
「ロシア軍を待ち望んでいたか聞かれたので、待ち望んでいたと答えた。8年間大変な思いをしてきた」(教師のインタビュー)
「ナチスから解放されてうれしいか聞かれた。兵士たちがキエフを掌握し、狂った政府を追い出してくれることを願っている」(生徒のインタビュー)
もちろん、CNNやBBCでこのようなインタビューを見ることはないでしょう。
イタリアのジャーナリストに、といっても普通のブロガーですが、感想を聞こうとしたところ、断られました。
別のジャーナリスト(トーマス)がその理由を説明します。
「彼は本国イタリアで問題になるのを恐れている。圧力がすごいから。言論の自由がないのだ」(トーマスのインタビュー)
トーマスは40年間シュピーゲル(ドイツの有力誌)を読み続けてきましたが、2014年以降、現実と映像が一致しないことに気づきました。
そこで独自の編集部『アンチ・シュピーゲル』を立ち上げました。こうした別の視点への需要は着実に高まっています。
地区中央病院もジャーナリストの訪問先の1つです。ウクライナ軍が撤退前にここで行ったことを、院長も患者も皆、見ていました。
ウクライナ軍は戦車をこのスロープで少しバックさせ、大砲を上げて、病院の2階に目がけてまっすぐに砲撃しました。
1階には集中治療室、地下には人がいました。そのことを戦車部隊はよく知っていました。それまでに、患者や病院職員と何度も一緒にお茶を飲んだりしていたからです。
これは、この地域にウクライナ軍が駐留していた中で最も都合の悪い事実でしょう。どんなプロパガンダ製造機でも説明がつきません。
西側の主要メディアもドネツクで取材することは十二分に可能です。誰も真実を隠そうとはしていません。
しかし、西側の主要メディアは急いで来ることはしません。彼らには自分たちの真実があり、ほかの真実には興味が無いのです。
4月12日(火)
冒頭
「特別軍事作戦は、参謀本部の当初の計画通りに進んでいる。もっと早く終わらせることもできたが、そうすれば損失はもっと大きくなっただろう」
プーチン大統領がボストーチヌイ宇宙基地でメディアの質問に答えて、このように語りました。
プーチン大統領は、ガガーリンの飛行記念日にベラルーシのルカシェンコ大統領と宇宙基地を訪問しました。
リポート
ロケット「ソユーズ」の組み立て工場です。同盟国の首脳であるプーチン大統領とルカシェンコ大統領は、共同記者会見の会場にここを選びました。
このロケットは模型ではありません。まさにこのロケットが「ルナ25」ミッションに参加し、人工衛星を打ち上げます。
人工衛星は南極付近で水を探します。2人の大統領は、この宇宙基地で1日を一緒に過ごしました。
プーチン大統領とルカシェンコ大統領は宇宙のことを話し合っただけではありません。
プーチン大統領はルカシェンコ大統領に、ドネツクとルハンシクを守るための特別軍事作戦の進捗状況を詳細に説明しました。
そして、それをジャーナリストらにも語りました。
「特別軍事作戦は計画通りに進んでいる。世論に隠していることはない。兵士の勇気に感謝している。ロシアの国益を守っている」(プーチン大統領)
「ロシアが特別軍事作戦を少しでも遅らせていたら、ロシアが攻撃されていただろう」(ルカシェンコ大統領)
「ルカシェンコ大統領の言うとおり。選択肢はなかった」(プーチン大統領)
西側は、ウクライナとロシアを分断する試みを100年以上続けています。その目的のためならどんな危機でも利用してきました。
「ウクライナのナショナリズムは19世紀からある。西側は『分断して統治せよ』でロシア民族を分断しようとしてきた。
特別軍事作戦をスピードアップさせることもできた。けれど、損失を最小におさえて目的を達成することを優先した。
第1次世界大戦のときも、大祖国戦争のときも、ウクライナは利用されてきた。今もそう。
西側はウクライナを支援しようとしているのではない。ウクライナとは全く関係のない目的のためにウクライナを利用している」(プーチン大統領)
ナショナリストに少しでも譲歩すれば、すぐに挑発が行われます。ブチャでの出来事がそれです。
ロシア軍が撤退したときには、大量の犠牲者はいなかったのに、ウクライナ軍が入るやいなや、遺体が現れたのです。
ウクライナ軍によるこの犯罪がどのように準備されたのか、両大統領は詳細に協議しました。
「ルカシェンコ大統領から書類を受け取った。それをロシア諜報部に渡した。誰がどう関わっていたのか、傍受してある」(プーチン大統領)
「(ブチャのことは)イギリスの心理作戦だ。準備に使われた車のナンバーも分かっている」(ルカシェンコ大統領)
これまで西側の政治家や世論が、第三世界の民間人の犠牲者を気にしたことなどなかったのは象徴的です。
「西側の首脳と会談することがある。ブチャの話になると、アメリカ空軍がイラクを攻撃し、街中に数か月も遺体が放置されていたのを知っているのか、と聞く。アフガニスタン、シリアも同様だ。
イスタンブールの停戦交渉では、ウクライナの安全保障にクリミア、セバストポリ、ドンバスが入らないことで一定の合意ができていた。
それなのに、ブチャでの挑発が起こり、ウクライナ側は合意をほごにした。ウクライナ側のこのような行動は合意を遠ざける。合意が得られるまでは軍事作戦は続く。課題を達成するまで続くのだ。
ヨーロッパはアメリカのいいなりだ。一致団結してロシアに制裁することで、アメリカの利益に資そうとしている。西側による経済の突撃戦は失敗した。
ロシアの金融・産業・経済は安定している。物流の問題はある。ロシア船が港湾に入れなければ、ロシアとベラルーシの肥料が世界市場で不足する。
そうなれば、農業がダメになり、食料不足になり、飢きんが起きて、難民が出る。どこかで売買できなくなれば、ほかの国に売買する。
世界は冷戦時より複雑化している。一極世界は成り立たない」(プーチン大統領)
「欧米には『さようなら』と言えばいい。ルーブルで決済する」(ルカシェンコ大統領)
「ロシアでハイテク製品の製造業が育ってきたら、西側は複合材料の納入をストップさせた。ロシアを抑止するためだ。ベラルーシは兄弟だ。ベラルーシは助けてくれると確信していた」(プーチン大統領)
「ロシアとベラルーシの軍は共通だ」(ルカシェンコ大統領)
「西側はインフレで内政が不安定化する。西側はロシアの内政の不安定化を狙っているようだが、ロシアは苦しいときには団結する。ロシアに問題を起こしてやろうとして、自分たちが問題に直面する。ロシアは切り抜けられる」(プーチン大統領)
ロシア側は、来年にもベラルーシの宇宙飛行士を乗組員に加えることを提案しました。
4月13日(水)
冒頭
旅団のうち残っていた1000人の海兵隊が、武器を置いてマリウポリのイリイチ製鉄所の敷地から出てきました。
キエフの司令部が裏切り行為のようにけしかけた突破が失敗した後、彼らは状況が絶望的で、これ以上の抵抗は無意味だと気づいたようです。
およそ300人が負傷しており、全員に治療が行われました。投降した捕虜の中からネオナチを見つけ出す作業も続いています。
全プロセスを軍事特派員のアレクサンドル・スラトコフが取材しました。
リポート
マリウポリでは、特別軍事作戦が始まって以来、最大規模のウクライナ軍の投降が終わりました。
負傷者が多くいます。今、担架を持ってくるようです。負傷者を運びます。かなりの人数になりそうです。捕虜およそ300人が負傷しており、90人が自力で動けないため、仲間の兵士が運びました。
「生き抜いて、家に帰りたい。死なないことが一番大事」(捕虜インタビュー)
「選択肢はあまりない。死ぬか、捕虜になるかの2択。包囲は厳重で、抜けるのは不可能だ」(ドネツク人民共和国軍のインタビュー)
ドネツク人民共和国内務省は、敵を捕虜にすることに長けていますが、それでもすべてのプロセスには15時間以上を要しました。
70人のウクライナ海兵隊員が、合意していない別ルートで脱出しようとしましたが、捕まってトラックで集合地点に連れてこられました。
合計1000人以上の水兵と将校が投降しました。今、70人が集まっています。
検査が行われており、(それが終われば)バスに乗って、後方へ連れて行かれます。その後、選別です。全員が捕まっています。逃げようとしても、全員捕まります。女性もいます。このような場では珍しいです。
事実上、イリイチ製鉄所への道は解放されました。マリウポリ解放に尽力しているすべての軍の共同の功績です。
そして、何よりも重要なのは、ウクライナのもっとも活発な戦闘部隊、第36海兵旅団が消滅したことです。全員が投降しました。
4月14日(木)
冒頭
マリウポリできょう、さらに130人以上の海兵隊員が投降しました。ドネツク人民共和国の部隊がロシア軍の支援を得て、イリイチ製鉄所の掃討を行っています。
投降した人の中に、イギリス人傭兵のエイデン・エスリンがいました。彼は証言を始めていますが、大変なようです。
彼は戦闘行動に参加していないと主張していますが、彼自身のSNSの投稿のほか、尋問の中で明らかになった詳細がそれを反ばくしています。
アレクサンドル・ビリボフの独占映像です。
リポート
ドネツク人民共和国人民警察の特殊部隊の隊員が、重火器部隊の支援を得て、マリウポリの工業地域の掃討を続けています。
敷地内にはまだ、ウクライナ軍兵士やナショナリスト・アゾフ大隊の武装兵が残っています。なかには外国人傭兵も少なくありません。
今、きのう武器を置いて投降した人たちから証言をとっています。ノッティンガム出身のエイデン・エスリンはイギリスの傭兵です。
シリアにもいて、その後、ウクライナに渡り、マリウポリでナショナリスト側について戦っていました。自身の犯罪行為の様子をSNSにも投稿していました。
しかし、身を隠そうとしたところをドネツク人民共和国内務省に捕らえられ、一気に威勢を失いました。
また、特派員のアンドレイ・ルデンコの質問に対して、自分は平和維持軍かのように語りました。
「アゾフスターリ製鉄所には、何人の外国人傭兵がいる?」(特派員)
「100%の確信はないが、アゾフスターリに外国人の将校がいると聞いたことがある。イギリス人を1人知っている。ジョン・ホーダーだ」(エスリン)
エイデンの言葉が誠実だと信じるわけにはいきません。彼自身を注意深く見る必要があります。
彼の腕にはタトゥーがあります。
「HappyDays」
スナイパーが彫るタトゥーです。人差し指にはマメができています。明らかに引き金によるものです。
「上官に戦闘はしたくないと言って、シェルターにまわしてもらった。指のマメは4年間の訓練によるものだ」(エスリン)
こちらの独占映像を入手しました。ドローンが撮影した動画です。ウクライナ海兵隊が、マリウポリの工業地域を突破しようとしています。
車列は行く手を阻まれ、砲撃を受けます。砲撃の結果、数台の車両が破壊され、兵士は車両を放棄して逃亡を試みます。包囲を抜けるには、両手を挙げるしかありません。
ウクライナ海兵隊がそれをやっと理解したときには、すでに多数の兵士が自力では動けなくなっていました。
仲間の兵士が負傷した兵士を運びました。医療支援が必要な人は、共和国の病院に搬送されました。
病院のベッドの上で、負傷した海兵隊員は恐怖で投降することは隊長から禁止されていたと語りました。
「戦いたくないと言ったら、隊長に、出て行けば銃殺すると言われた」(負傷した兵士のインタビュー)
こちらはドネツクの共和国外傷センターです。ここにもたくさんの負傷者が来ています。民間人で、ドネツクの各地区の住民です。
2月末以降、このセンターを訪れた患者数は1000人を超えており、その人数は毎日増え続けています。
「戦闘行動は2014年、2015年よりも激しく、負傷者の重症度も高い」(副院長のインタビュー)
「隣人は亡くなった」(患者のインタビュー)
ドネツク人民共和国の各都市では激しい銃撃が続いています。ここ数日、ウクライナのナショナリストは前線に近い町だけでなく、首都ドネツクでも攻撃を強めています。
「ドネツクの5地区が銃撃されるのは久しぶりだ」(軍人のインタビュー)
きょう、激しい攻撃を受けた地区では、攻撃に「GRAD」が使われました。その結果、1人が死亡、3人が負傷しました。
4月15日(金)
冒頭
マリウポリできょうの夕方、アゾフ大隊のネオナチがアゾフスターリ製鉄所の突破を試みましたが、包囲網を抜けることはできませんでした。
こうした絶望的な突破の試みは、武装勢力の危機的な状況を物語っています。ナショナリストを追い出した後の市立第4病院では、多数の遺体が見つかりました。
また、ドネツク人民共和国の首長が、きょうマリウポリを訪れました。
市内の解放された地区では復興作業が始まっています。軍事特派員のアレクサンドル・ビリボフが、ネオナチの最後の砦にできるかぎり近づきました。
リポート
マリウポリの左岸地区です。つい数日前までこの荒れ地は前線でした。
壊れた家屋や爆発でなぎ倒された木々の間を縫って、ナショナリスト・アゾフ大隊の最後の砦である工業地区に最大限近づきます。
マリウポリの郊外に工業地帯があります。今いるこの場所からアゾフスターリ製鉄所までは600から700メートルほどです。製鉄所にはアゾフ大隊のテロリストやナショナリストが立てこもっています。
彼らの攻撃を砲弾、迫撃砲、ロケット砲で抑えたあと、ロシア軍とロシア親衛隊の特殊部隊、チェチェンとドネツク人民共和国の兵士からなる合同部隊がこのエリアを掃討します。
彼らは突破しようとする者を押し戻し、残ったナショナリストを密集砲火で全滅させます。
この区画にはチェチェン共和国の部隊もいます。隊長の1人に民間人は残っているかと聞きました。答えはイエスです。
「民間人を脱出させてから掃討作戦を行っている」(チェチェン軍兵士のインタビュー)
開けたルートからアゾフスターリ製鉄所に近づくのは無理があるため、建物の中を抜けていきます。
ここは学校だった場所ですが、今は前線になっています。これがまさに前線です。
ここからよく見えるあの2階建ての住宅にはロシア軍が陣取っていますが、そのすぐ向こう側にはアゾフ大隊のナショナリストの陣地があります。
窓に近づかないほうがいいです。近づくとスナイパーに狙撃されます。出入り口の前も素早く通り過ぎるようにします。
場所を変えて、アゾフスターリ製鉄所を北側からう回します。ここでは、住宅地が製鉄所に隣接しています。
空からの偵察で300メートル先の動きを捉えました。敵です。ドローンが、敵が突破しようとしているのを捉えたので部隊がアゾフ大隊に砲火を浴びせました。
前線の兵士たちは、製鉄所に立てこもったアゾフ大隊のせん滅は数日中に達成されると確信しています。
マリウポリのほかの地区はすでに解放されており、ドネツク人民共和国人民警察が90%以上を掌握しています。
きょう、ドネツク人民共和国の首長がマリウポリを訪問しました。
「投降する人は投降した。残っているのはナショナリストだけだ。せん滅する」(首長インタビュー)
ドネツク人民共和国の首長はマリウポリ市長と会談し、市内に山積する問題を話し合い、最優先課題が何かを決めました。
優先すべきは、安全の確保と食料と水の確保です。
また、首長はナショナリストからのマリウポリ解放作戦で功績のあった人民警察の兵士を表彰しました。