2022年9月8日
ウクライナ ロシア ヨーロッパ

ロシア軍占拠のウクライナ原発で何が?元職員が語る実態とは?

「職員を森に連れていって顔の近くで銃を発砲し、暴力を振るっています」

ロシア軍に占拠された原子力発電所から逃げ出した元職員の証言です。

ロシア軍の兵士から「お前たちは手錠がついているようなものだということを忘れるな」と言われ続け、うその証言まで強要されたという男性。

ウクライナにあるヨーロッパ最大級の原子力発電所で、ロシア軍はいったい何をしているのか。
6月まで現地で働いていたという男性が証言してくれました。
(国際部記者 高須絵梨)

ロシア軍の実態 証言してくれたのは?

10年間にわたってウクライナ南東部にあるザポリージャ原発で働いていたウクライナ人の技術者、アンドリー・トゥーズさん(32)です。トゥーズさんはザポリージャ原発の原子炉やタービンの管理のほか、広報としても働くなど、さまざまな業務に当たっていたということです。

しかし6月、持病を抱える高齢の母親とともに国外へ避難しました。

(以下、アンドリー・トゥーズさんの話です)

原発でのロシア軍兵士の様子は?

占拠されて1か月くらいのときに尋問を受けましたが、そのときの態度はまだ優しかった。暴力などもありませんでした。「ロシア側に協力してほしい」と言われました。

しかし少しずつ、ロシア軍の兵士たちが使う手段が残酷になっていきました。尋問の際に武器を使って恐怖を植え付けようとするようになったのです。

職員を森に連れていって顔の近くで銃を発砲し、暴力を振るいました。

「お前たちは手錠がついているようなものだということを忘れるな」とよくロシア軍に言われました。

ロシア側からの指示はあるのか?

はじめの頃、ロシア軍の兵士は原発の運転に関わる施設の中には入らず、地元の行政府や原発の上層部に指示するだけでした。

しかし、徐々に施設の中に入ってくるようになり、占拠から3か月ぐらいたつと職員たちが働いているところまで入ってきて、一般の職員にも指示をするようになりました。

ザポリージャ原発の敷地内にいるロシア軍(2022年3月)

いまも連絡を取っている同僚によると、最近では原発の制御室の中にまで入るようになっているということです。

フェイスブックでこのような状況について不満の声をあげた職員はロシア軍に連れ去られてしまいました。

原発の敷地内に尋問部屋をつくって、仕事中の職員をそこで尋問しています。仕事中でもロシア軍によばれるため、職員は常に恐怖感に襲われているといいます。

まだ原発で働いている私の同僚は「余計な発言をしないようにしている」と言っていました。

どんな圧力や嫌がらせがあるのか?

同僚の中には食料や飲み物をほとんど与えられず、地下室に2週間くらい閉じ込められて拷問され、痩せ細った人もいました。私も5回尋問を受けましたが、そこまではされませんでした。私は尋問と脅迫だけでした。

仕事場で問い詰められたり住所を調べられたりした上、自宅に押しかけられて武器で子どもが脅された同僚もいます。みな奥さんや子どもたちが連行されないか心配していました。

知り合いや友達の中には実際に連れて行かれた人もいますし、銃で撃たれて殺されてしまった同僚もいます。

ロシア軍が占拠してから私たちの自由は奪われてしまいました。誰もが、原発で何が起きているのか話すことに恐怖を感じています。自分たちの命に関わることだからです。

うその証言を強要された?

6月21日、高齢の母親と一緒にまちを出ましたが、ロシア側に拘束され原発から南東におよそ600キロ離れたロシアのソチまで車で連れて行かれ拷問を受けました。

「何年も刑務所に入ることになる」「母親とは一切会えなくなる」などと言われ、彼らの指示通りに話す動画を撮影するよう言われたのです。

私は3月にザポリージャ原発がロシア軍の攻撃を受けたときに広報担当として「ロシア軍からの攻撃を受けた。ロシア軍が消火活動を阻んでいる」といった内容の動画を発信したのですが、それを否定する内容を読まされました。

ロシア軍の指示どおりに話したという動画

車でどこかの公園に連れて行かれ、携帯電話を渡されて「休暇でソチに来ていて人々はとても親切だ」「3月の動画は事実ではない」といった内容の動画を歩きながら撮影させられました。

その動画はロシアのメディアで拡散されています。

その後も尋問は続きましたが、7月11日に解放されました。ジョージア、ギリシャ、アルバニア、クロアチア、モンテネグロ、オーストリア、ドイツを経由して、スイスにたどり着き、9月からはアメリカで生活しています。

原発はいまどんな状況に?

常にリスクがあります。

攻撃された原発関連施設(2022年3月)

ミサイルによって原子炉建屋が壊されてしまうかもしれません。

また、送電線が被害を受けるなど、安全性は非常に揺らいでいます。

電源を喪失し冷却システムが機能しなくなると、燃料の温度が上昇して福島のような事故が起こる可能性もあります。蒸気が出てきて爆発につながります。6基の原子炉が爆発したらどうなるか想像してみてください。

万が一に備えた設備はありますが、毎回危険にさらされてリソースがどんどん失われています。原発事故のリスクが高まっています。

どれぐらいの人が残っている?

ロシアによる軍事侵攻後、避難するなどした職員も多く、いまはおよそ5000人ほどだと思います。以前はおよそ1万2000人がザポリージャ原発で働いていました。

いま原発で仕事をしているのは原発を動かすためのエンジニアのみで、機器などを修理するチームは必要な時にしか出勤していません。

3交代制で400~600人が8時間ずつ働いています。本当は5交代制が一番望ましいのですが、戦時下なのでそのような状態で動いています。

原発に残ってる人たちはどういう状況?

ロシア軍に占拠されたザポリージャ原発

今は仕事中に武器を持った兵士が職員たちの後ろで見張っているような状況です。

出勤する時も家に帰る時も砲撃の中で移動しなければいけない。原発をコントロールしながら、作業中も家にいる家族が安全かどうか常に心配しています。とても大変な状況です。

戦争が起こる前、原発の上空は航空機が飛行することはできませんでしたが、今はクリミアからドニプロ川方面へ、原子炉建屋の上をミサイルが飛んでいます。私も実際に見たことがあります。

この状況は普通ではありません。残っている職員たちは異常なプレッシャーを感じながら、原発事故を起こさないために全力を尽くしているのです。

どうすれば状況は改善するのか?

できるだけ早くすべての軍人を原発とその周辺から撤退させ、非武装化することが必要です。

原発内にいるロシア兵士(2022年3月)

ロシア軍が原発やその周辺に残っている限り、砲撃などによって原発事故が起こる危険性は非常に高いままです。

そして職員たちがプレッシャーを感じることで、ヒューマンエラーでの事故の可能性もあります。 今のような状況では、原発で実際に起こっていることや見たこと、誰が砲撃をしたか、どこからなど、誰もひと言も真実を言うことはできません。

知り合いや友人、同僚は原発周辺にまだ残っていて連絡もとれますが、ロシア側が情報も含めてすべてコントロールしているため、原発の状況を伝えることを怖がっています。

ロシア軍が撤退しないかぎり、真実は明らかにならないのです。

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