2024年03月18日
就職活動で不安を感じるものといえば「面接」。いったい、どんな人が出てくるのか、何を聞かれるのか…。
ところが、今、学生が面接官を選べるという制度を導入する企業が出ています。さらに、学生が面接の内容や回数も選べるという動きまで。その背景にあるものとは?
「フェアな就活にしたいという思いで、“選べる面接官”を始めました」
こう話してくれたのは、東京都内のIT企業「ナイル」で新卒採用の責任者を務める宮野衆さんです。
デジタルマーケティングなどの業務を行うこの企業は2007年創業。社員は約240人で、10人前後を新卒採用しています。
25年卒の就職活動から、学生が1次面接の面接官を指名できる取り組みを始めました。
その仕組みです。
学生は20人の社員のプロフィールを確認
↓
そこに書かれている「入社前のキャリア」「入社後の担当業務」「仕事で最もやりがいを感じた瞬間」「学生時代に取り組んでいたこと」「趣味や休日の過ごし方」を読む
↓
面接官として話してみたい人を5人選ぶ
↓
その中から希望の日程とあう人を会社が選び、事前に学生側に誰が面接官になったかを伝える
↓
実際の面接
取り組みのきっかけは、面接官は学生の情報を持っている一方で、学生はどんな人が面接官として出てくるか分からないという情報の差が大きいことに、課題を感じていたことでした。
宮野さんは、その差を減らすことが、学生の人柄や考えをより深く知ることにつながるといいます。
さらに学生が面接官を選ぶために、より詳しく会社の情報を事前に見てくれることから、これまでより深い質問をしてくれるようになったこともメリットだとしています。
宮野衆さん
「心の準備として、学生も面接官が分かっていたほうがより余裕を持てますよね。余裕を持てることで、素の自分が出せる。変にかたくなりすぎないで、いつも通りのコミュニケーションができるということが非常に大事です。学生からすれば面接への納得感があがると思いますし、私たちからすると、学生が面接官に向き合う熱量が変わるので、お互いに良い点があると感じています。」
こうした就活を“カスタマイズ”できる動きは、ほかの企業でも広がっています。
動画配信サービスなどを提供しているU-NEXT HOLDINGSは、学生が面接官を選べるだけでなく、面接官との1対1の面接か、グループディスカッションかなど、学生が得意な形式を自由に選べるようにしています。
さらに、就活生に対して、何人に内定を出しているか、どのくらいの枠が残っているかもオープンにしています。こうした情報をもとに、学生が最終面接に進むタイミングも選べるようにしているということです。
この狙いについて、採用担当者は、自分で考えて自分で判断する力を大切にしていて、学生にも就活の段階からそのように取り組んで欲しいといいます。
採用担当 住谷猛さん
「会社に入って仕事していくうえでも、自分で考えて、判断して決めていくことがすごく大事。これからAIと一緒に仕事をしていく時代になると、判断力がもっと必要になっていくと思っています。」
U-NEXT HOLDINGSの取り組みについて、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
企業が手間をかけてまで、こうした取り組みを進める背景には、採用状況が大きく変化していることがあります。
新卒採用の充足状況(採用人数が計画に対して足りているかどうか)を、企業に聞いた調査では6割近い企業が「足りていない」と回答していて、年々、状況は悪化しているということです。
さらに、内定辞退者が多いことも企業にとって悩みの種となっています。
ことし(2024年)3月に卒業予定で内定をもらった大学生に聞いた調査では、去年12月1日の時点で、2社以上から内定を得た学生は63%でした。4社以上という学生も20%余りとなっています。
どの業界でも人手不足が叫ばれるなかで“売り手市場”を色濃く表す状況となっています。
面接官を選べる選考を実際に取り入れる企業はまだ少ないということですが、就職活動をめぐる状況に詳しいリクルート就職みらい研究所の栗田貴祥所長は、企業にとっては採用活動は「学生を選ぶためのもの」ではなく、「学生に選ばれるためのもの」となってきていると指摘しています。
栗田貴祥所長
「一律的で画一的な採用施策、人事施策がもう限界にきているように感じている。立場が強い側の企業が学生個人の価値観や志向に合った選択肢を準備して、きちんと選べる状態を作ってあげるということが、多様なルートから多様な人材を集めていくうえで非常に大きなポイントになりつつある。」
「学生の価値観が多様化している」とも言われるなかで、採用の時点から学生1人1人に選択肢があることを明示することで、入社後も個人の価値観を認めてくれる企業だというメッセージを伝えることにもつながるということです。
選考方法じたいが、学生の企業選びのポイントの1つになってきていると言えそうです。
そのうえで栗田所長は就活において選ぶという経験をすることは学生にとっても大きな意味があるとしています。
栗田貴祥所長
「何かを選ぶ、仮決めするということは、自分の考えや思いの解像度を上げていくために、すごく重要なプロセスです。就活に正解はなく、正解にどう近づけていくものかと考えたときに、それは人から言われて決めるのではなく、自分で決めるために、情報を収集し、自分自身のことを振り返り、試行錯誤しながら、磨き上げていくことが大切です。そうすることで、本当に納得できる選択肢に出会える可能性がグッと高まっていくと思います。」
(1月25日のNHKラジオ第1「NHKジャーナル」で放送)
NHKジャーナルは平日・夜10時からのニュース番組です。「きょう1日と今の時代がわかる」を目指して、ニュースデスクが詳しく丁寧に解説します。就活中のみなさんも、ぜひお聞き下さい。⇒番組HPはこちら
あわせてごらんください
就活ニュース
就活生のギモンを採用担当者に聞く(2) 「ガクチカ」ってすごくないとダメなの?
2024年03月08日
就活ニュース
DeNA会長 南場智子さんに聞く 横浜DeNAベイスターズの運営から見る「チームづくり」の秘けつ
2022年12月28日
就活ニュース
ヤフー社長→東京都副知事 宮坂学さん ”異世界”で発揮したリーダーシップ
2022年11月11日
就活ニュース
“入社してすぐ転職サイト登録の新社会人”が急増!? その訳は…
2023年10月26日
就活ニュース
”転職は当たり前の時代”と言われるけれど…新卒で入社した会社、何年働きたい?
2024年01月17日
就活ニュース
企業の採用意欲は引き続き高い 内定を出す時期はさらに早期化か
2023年11月02日
若手社会人に聞く“働くことのリアル”(3) 入社後のギャップはあった?
2024年06月25日
若手社会人に聞く“働くことのリアル”(2) 仕事は怖いと思っていたけど…
2024年06月14日
就活の採用面接 政府ルールでは6月1日から 人材不足で前倒しも
2024年06月03日
若手社会人に聞く“働くことのリアル”(1) 「就活の軸」どう決めた?働いて変わった?
2024年05月30日
26年卒・就活スタートガイダンス(2)「就活の軸」ってどうやって見つけるの?
2024年05月29日
26年卒・就活スタートガイダンス(1)まず何から始めればいいの?
2024年05月21日
25卒の求人倍率は1.75倍 3年連続で上昇 コロナ禍前の水準に回復
2024年05月08日
25年卒が選ぶ「就職企業人気ランキング」ことしの注目企業は?
2024年05月01日
就活のギモン(番外編)「地方で働く魅力」ってなに?若手社会人に聞いてみた!
2024年04月18日
就活生のギモンを専門家に聞く(6)面接で想定外の質問や緊張が!?こんな時どうする?
2024年04月12日
就活生のギモンを専門家に聞く(5)就活の志望企業ってどう絞り込めばいいの?
2024年04月05日
変わる入社式 “服装は自由に” “先輩も親も見守る” その背景は?
2024年04月02日