2022年12月28日
DeNAの創業者、南場智子さん。会社を成長させるなかで社内に数々のチームを作ってきましたが、成功しているチームからは中心となっている人をあえて異動させ、優秀な社員には起業を促す…といいます。大胆なチームづくりの秘訣を聞きました。
(聞き手:梶原龍 本間遥)
南場さんがチームをつくる時に意識していることはありますか?
これまで仕事をしてきて思うのは、本当に素晴らしい事業って常識の延長線上にはないんですね。
「常識的に考えてこれはこう」ってうまく頭を整理できる人たちだけが集まると、新しい発想が広がらない。
まったく変化しないチームができてしまうんですが、それだとダメになっちゃう。
私たちは世の中をおもしろく変えていきたい。だから、常識を疑って世の中にない価値を作れる人が必要なんです。
南場智子さん
津田塾大学卒業後、1986年にマッキンゼー・アンド・カンパニー入社。マッキンゼーで役員(パートナー)を務めたあと、99年に退社してDeNAを創業。2011年に夫の看病を優先するために社長から退く。2015年にDeNA会長と横浜DeNAベイスターズオーナーに就任。2021年から女性初の経団連の副会長も務める。
目の前に敷かれているレールに乗っていいのかを疑って、そこから外れる勇気を持っている人ってそれだけで祝福してチームに呼びたくなるんだよね。
いろんな視点を持って考えることができる人が必要だと…。
そうですね。いまの社会って、多様性が大事って言われるけど、本当の多様性って、“経験の多様性”なんですよ。
経験が違う人だと違う角度から違う意見をしてくれるじゃないですか。
だから私は多様な経験をした人がいるチームは、どんどんおもしろい方向に進んでいくと思うんですね。
多様な人材で成功した例ってありますか?
まさに横浜DeNAベイスターズがいい例かな。
ベイスターズって元々野球をずっとやってきた生え抜きの人たちでずっと運営されていたんです。
でも2011年にDeNAがチームを買収して、これまでDeNAの社内の人事をやっていた人やマーケティングをしていた人、あとはコンサルタントとして第一線でやっていた人たちが加わったんです。
そのメンバーたちが「負けてもファンに楽しんでもらうためにはどうしたらいいのか」ということを考えて、球場をプロ野球を見るだけの場所から、スポーツエンターテインメントを提供する場所に変えていきました。
もちろん勝つのがいちばん。でも勝てない日もお客様はいるのだから、やはり楽しい思いをしていただきたいという考えです。
例えば、試合のイニングの間はご飯を買ったり、トイレに行ったりといったことにあてるのが多くの人の常識だったと思うんです。
そこに、本当にそうなの?なんで?っていう発想を持ち込んで。
イニング間でもエンタメ性のあるイベントを充実させて、野球観戦をより楽しんでもらえるようにしていったんですね。
ほかにも、試合が終わったらおしまいではなく、試合後に照明を落とし、ファンと一体になってスタジアムを青に染めてライブ会場のように盛り上げるイベントを開催したり。
そうやって、空席率が目立っていた横浜スタジアムをほぼすべての試合で満員にすることができました。
球団運営をしてこなかった人たちだからできたことなんでしょうか?
そうですね。
でも、もちろん、間違っていることもいっぱいあります。野球をずっとやってきた人の方が分かることもたくさんあるしね。
ベイスターズに優秀な社員が移ってしまって、DeNAの事業運営に影響はなかったんですか?
会社はね、大丈夫なの。
DeNAではゲームやヘルスケア、街づくりなど多様な事業を展開しているので、多くのチームが動いています。
そのチームの中の大黒柱を引き抜くことをよくやるんです。
え~?!
チームの中で明らかにこの人が支えているなって人がいると、みんなその人に頼ってしまうんです。
あと、やっぱり自分が主役だった方が夢中になれるじゃないですか。
大黒柱を引き抜いて、もう一度みんなに主役になってもらうと、その中からまた、ちゃんとしたリーダーが出てくるものなんだよね。
やるときは、怖いけどね(笑)。
どうして、怖い思いをしてまでやるんですか?
最初はやむをえずやっていたんです。
会社の事業が増えていくに伴って新しいチームをつくると、そこを束ねるリーダーが必要となるので。
でも、リーダーを引き抜かれたチームがダメになるかというと、そんなことないって気が付いたんです。一時期、パフォーマンスがちょっと下がるんですが、その後、ガッと上がって。
へぇ~。
結局、チームが誰か1人に依存し始めたら、その場所から動かした方が良いということがわかったんです。
最初はダメージがあるけど、必ず、それを補おうとする力が発揮されるんですね。
人の力って環境によってすごく引き出されることがある。
時には、自分でも気づかないくらいバカ力を持っていることもあって、それが発揮できる場所をつくってあげることも大切なんです。
そうなんですね!
もっと驚かれることがあって、優秀な社員には「起業しないの?」って一度会社から離れることを促すこともあるのよ。
えっ、優秀な人を自分から手放しちゃうんですか!?
そう。経営者になりたいとか、将来起業したいと言っていた人には、プロジェクトの切り目とかに直接声をかけるんです。
起業をする際の資金を調達するための投資会社も作りました。
優秀な社員がいなくなるのは損失なのでは・・・?
やっぱり、会社にとって優秀な人材がいなくなるのは痛手で人事部長とよく喧嘩してるんだよね(笑)。
でも、いつかは起業したいというチャレンジャーたちが会社に集まって来てくれることが、次々と新しいことを生み出す力になるんですよね。
それに、彼(女)らが起業して成功したらDeNAと提携してもらって、一緒に世の中に喜びを提供していくことができる。
1つの星をつくるんじゃなくて、星座をつくるみたいな感じです。“DeNAギャラクシー”って呼んでるんですけど。
その発想でよりスケールの大きい仕事が実現できると思っています。
いつかは起業したいって思いを持っている人もいるとは思いますが、数としては何の疑いもなく大企業に入ることを目指している若者の方が多い気がします…
なんで大企業に普通に入ろうと思ってるんですかって聞かれたとき、どう答えるかな?
「みんながそっちの方がいいって思ってるから」とか、親の期待に応えたいと思っていますとか?
多くがそういう答えだと思います。
人生においてどの会社で働くかってすごく大事な意思決定なんですよ。
どんな優秀な学生であっても、入社したてのころは乾いたスポンジなので。
スポンジ?
そう。会社に入った時、スポンジが水を吸うかのように、いろんなことを吸収していくわけです。
自分の中のスポンジが何を吸収するのかを決めるその大事な意思決定を他人の尺度で決めようとしているのはよくありません。
なるほど・・・
大企業だと、なんだかんだ言って安定しているとかよく聞くけど、会社が従業員を守ってくれる時代なんて、いつまで続くか分かりません。
そう考えると、本当の安定って自分で力をつけることだと思うんだよね。
事業がすごくうまく行っていて、やり方が固まっているところでは、工夫をさせてもらえないんです。
その業界、その会社でしか通用しない仕事のやり方を覚えさせられる。
結果、その会社の外に出たら使えない、その会社に何かあった時に無用な人材になっている可能性だってありますよね。
それに気づかないまま、なんとなく就職してしまいそうです・・・
大企業を選ぶなと言っているわけではありません。
大手でも力が付くところがあると思うし、スタートアップだったらどんな所でも力が付くというワケでもありません。
自分がたくさん失敗をさせてもらえる場所かなとか、やり方をいろいろ工夫させてもらえるかなとか、そういったところで選ぶのが大事だと思います。
最後に若い世代に向けたメッセージをいただけますか?
まず大事なことは焦らないこと。
何がやりたいか、つまり自分のパッションがどこにあるかって、特に若いときは分からないことが多いんだよね。
若い時ってまだまだ見ていないことも多いんですよ。
だから大学生ぐらいの頃はやりたいことが見つからなくても全然よくて。
湧き上がるものが見つからない時は、まずは、この人たちと一緒に仕事したいなっていうチームに入るのがいいと思いますね。
この人たち本当にすごいなって思う人がたくさんいる会社に巡り会えたら、いつのまにか3年後、5年後には自分がそうなってるはずですよ。
ありがとうございました!
撮影・編集 岡谷宏基
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