科学

“北極海ケーブル”で日欧をつなげ!~背景にはウクライナ情勢と気候変動が~

“北極海ケーブル”で日欧をつなげ!~背景にはウクライナ情勢と気候変動が~

2023.06.01

北極海を経由して、日本からヨーロッパまでを新たな光海底ケーブルで結ぶプロジェクト。EU=ヨーロッパ連合がその調査費用として資金提供を始め、ことし4月からルートの調査が始まった。ロシアの影響を回避して大量のデータをより安全で高速にやりとりできるようにするのが狙いで、激動する国際情勢を踏まえての新たな動きとして注目されている。

(札幌放送局記者・黒瀬総一郎)

実現すれば世界初 北極海ケーブル調査開始

ことし4月、駐日欧州連合代表部のステファン・クレイマー一等参事官は、NHKのインタビューに応じ、EU=ヨーロッパ連合が、新たな光海底ケーブルの構想に対して、初期の調査費用などとして、最大で315万ユーロ、日本円にして4億6000万円あまりの資金の提供を始めたことを明らかにした。

駐日欧州連合代表部 ステファン・クレイマー一等参事官
「欧州と東アジアのデータ通信は世界の中でも飛躍的に増大していて、新たなルートは志を同じくする国、特に日本とのつながりを強化するものだ」

「光海底ケーブル」は、光ファイバーの線を束ねたケーブルを海底にはわせ、世界とのデータのやりとりを可能にするものだ。国際間のデータ通信の99%を担うと言われ、オンライン会議から通信販売、SNSと、生活のあらゆる場面で欠かせないデジタル時代の重要インフラだといえる。

北極海ルートの構想図

今回、構想を進めているのは、日本とアメリカ、それにフィンランドの3つの企業でつくる共同事業体「ファー・ノース・ファイバー」。海底ケーブルを北海道などから、アメリカのアラスカ州などを経て北米側の北極海を通り、フィンランドやノルウェー、アイルランドと結ぼうとしていて、実現すれば世界初となる。

全体の費用はおよそ1500億円に上ると見込まれ、EUの資金提供を受けて、ことし4月から1万4000キロあまりのルートについて、地図や文献を使った調査が始まった。

なぜEUが資金提供?

なぜ、EUは資金提供に踏み切ったのか。背景にあるのがウクライナ情勢だ。

日本とヨーロッパの間の通信は、アメリカを横断するルート、東南アジアや中東などを経由するルート、それに、ロシア国内を通るルートがあるが、EUとしては、より安全で高速にデータをやりとりできるルートを確保したい狙いがある。

そして、北米側の北極海ルートが実現した場合、ロシアの影響を回避出来るうえ、太平洋・大西洋ルートや南回りのルートに比べて、2割あまり高速化できる。

駐日欧州連合代表部 ステファン・クレイマー一等参事官
「いくつかのルートで地政学的リスクが高まっている。北米側の北極海ルートではリスクが低くなると考えている」

海底ケーブルをめぐっては、G7広島サミットでも首脳声明の中で、海底ケーブルの安全なルートを確保することが盛り込まれた。北極海ルートはそれを実現する重要なルートのひとつとして注目されている。

気候変動への対応でも注目

この構想に注目が集まるもう1つの理由は、気候変動だ。

地球温暖化は急速に進んでいて、今回、北極海に海底ケーブルが敷けるようになったのも温暖化によって海面を覆っていた氷がとけて、船が通れるようになったことが大きい。

実は、いま、この気候変動に対して、デジタルインフラも対応が求められている。

社会のデジタル化が進み、動画配信やAI=人工知能などの利用が増えるなか、世界のデータ通信量は爆発的に増えると見込まれ、総務省の情報通信白書によると、2030年までに2018年ごろの30倍以上になると試算されている。

こうしたデータは、世界各地にあるデータセンターで処理されるが、機器を動かしたり冷却したりするのに大量の電力を消費するため、温室効果ガスの排出をいかに抑えるかが課題となっている。

科学技術振興機構によると、楽観的な予測でも、世界のデータセンターの消費電力は2050年に2018年の16倍あまりに膨れ上がると見られている。

このため、北半球の国々では、大規模なデータセンターをより北に設置して消費電力を抑えようという動きが出ている。

北海道石狩市にあるデータセンター

冷涼な気候で冷却にかかる電力を減らせるほか、風力や太陽光といった再生可能エネルギーを活用出来る可能性があるためで、北海道でもデータセンターを設置する動きがある。

駐日欧州連合代表部 ステファン・クレイマー一等参事官
「北極海ルートは北半球の北部に作られたデータセンターを結ぶ役割も期待されている。データセンターが世界中で北上する傾向が見られデータ容量が北部でも増加するため、北極海ルートが重要になるだろう」

3年後の運用開始目指す

3月に東京で開かれた北極圏の政治や科学に関する国際会議で構想を説明

プロジェクトを進める共同事業体「ファー・ノース・ファイバー」の代表で、アラスカのアンカレッジ市の元市長でもあるイーサン・バーコウィッツ氏は、構想の実現に向けて調査を確実に進めていきたいと話した。

ファー・ノース・ファイバー イーサン・バーコウィッツ代表
「来年海洋調査を行ったあとケーブルを敷き2026年中に運用開始を目指したい。そうなれば日本とヨーロッパの人のやりとりはもっと速くなるだろう」

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