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え、北海道にウナギ!?

2022.08.12 :

「え、北海道にウナギ!?」

絶滅のおそれが指摘されているニホンウナギの稚魚や幼魚が、これまで生息地とされていなかった北海道の川から相次いで見つかったと、東京大学や北海道大学の研究グループが明らかにした。北の大地で何が起きているのか。

北海道の川にニホンウナギが

ことし7月、北海道南西部の川で網を手にした一団が、魚の調査を行っていた。

私も胴長をはいて、同行させてもらった。

川岸の茂みを探ると「おっ、いた!」
網の中には、にょろにょろと動く魚が入っている。ニホンウナギだ。

大きさは、20センチほどの幼魚から、もう少し大きなものまで。さまざまなサイズのウナギが取れた。
ヤマメやニジマスといった冷水魚とともに確かに取れた、ニホンウナギ。

これまでの常識を覆す光景が広がっていた。

ニホンウナギの生息の北限は青森県とされてきたからだ。

サケの調査でウナギが取れた

ニホンウナギは、日本では本州や四国、九州といった「温帯」に住む魚だ。

それが津軽海峡を越えた、北の大地に生息している。

この新たな発見をもたらしたのは、日本を代表するサケとウナギの研究者たちだった。

1人は、東京大学大気海洋研究所の森田健太郎教授。最近まで北海道にある国の研究所で、サケ科の魚の生態について研究を続けてきた、サケのスペシャリストだ。

もう1人が、東京大学大学院情報学環の黒木真理准教授。南太平洋やインド洋で長期の航海を続けながら、ウナギの産卵場所や回遊ルートの解明にあたってきた、ウナギのスペシャリストだ。
きっかけは、おととし5月、当時、北海道にいた森田さんがサケの稚魚の調査を行っていた時のことだった。

サケの稚魚と共に、細く白く透き通った魚が取れた。ニホンウナギの稚魚、いわゆるシラスウナギだ。一晩で6センチほどの稚魚、16匹が取れた。
調査で取れたニホンウナギの稚魚(撮影:森田健太郎)
これは偶然の出来事なのか、それとも継続して起きていることなのか。

よくとし、黒木さんや北海道大学の研究者たちも参加して調査が行われた。

その結果、同じ川で稚魚9匹に加えて、体長20センチほどの幼魚も確認されたという。

北海道で成長の初期段階の稚魚の生息が確認されたのは初めてとのことだ。

北海道では過去に、成長したウナギが取れたとの記録がわずかにある。ただ、かつては放流も行われていたことから、天然のウナギかどうかはわかっていなかったという。
調査で取れたウナギの幼魚(撮影協力:北海道大学 岸田治准教授)

札幌の老舗うなぎ店も驚き

北海道でウナギが取れたことについて、札幌にある創業74年の老舗うなぎ料理店「うなぎ二葉」の店主、松野吉晃さんも驚きの様子だった。

店を訪れると、夏の土用のうしの日を前に、大勢の客で賑わっていた。
うなぎ料理店にとって、ウナギの資源減少は深刻な問題だ。
養殖に用いる稚魚の漁獲量が激減して、うなぎの仕入れ値は高止まりしている。

松野さんは、主に九州や東海地方で稚魚から養殖されたうなぎを仕入れていて、1匹を有効に利用しようと大きめに育てられたうなぎを仕入れるようにしているという。

松野さんは、北海道の稚魚や幼魚が取れたことについて、「東北までは聞いていたんですけど、北海道とは思っていなかった」と話した。

ウナギはどこから来たのか?

北海道のウナギはいったいどこからやってきたのか?

ニホンウナギは、日本や中国、韓国、台湾などの東アジア地域に生息している。

黒木さんたちの研究によると、ニホンウナギの産卵場所は太平洋のマリアナ諸島沖とされ、そこで生まれた稚魚が北赤道海流や黒潮に乗って、東アジア地域の沿岸にたどり着いて、川などで育つとみられている。

稚魚は南の方から日本にやってきて各地にたどり着く形で、その行き先が、本州より北の北海道まで伸びていると考えられている。
その理由については、複数の可能性が考えられるという。

北海道まで稚魚がたどり着くようになった直接の理由としては、黒潮の流れが強まったり海水温が上昇したりした可能性がある。

さらに、そうした変化の背景には、温室効果ガスの排出による地球温暖化の可能性もあれば、数十年単位で起きる地球規模の気候変化の可能性もある。

理由を解き明かすのは容易ではなく、さらなる調査が必要だという。

北海道の川はウナギにとって理想郷なのか?

解明が必要なことは、ほかにもある。

北海道の川でウナギがどう育っているか、ということだ。

北海道の川は、ヤマメやニジマスといった冷水魚が生息していて、本州や四国、九州の川に比べて水温がだいぶ低い。
ことし7月に行われた調査でも川の水温は17度ほどだった。

ウナギにとって冷たすぎるのではないか?冷たいと育ちが遅くなるのではないか?といった疑問が生まれる。

いっぽうで、水温は低くても、エサは豊富かもしれない。

森田さんはウナギの取れた場所の特徴をこう指摘する。
東京大学大気海洋研究所 森田健太郎教授
「ウキゴリやモクズガニなど、ニホンウナギのエサとなる生物が豊富だ」
研究グループでは「耳石」と呼ばれる、魚の頭にある木の年輪のように魚の年齢が分かる組織を採取して、成長のスピードを調べるとともに、胃の中のエサも分析するなどして、北海道で発見されたニホンウナギの生態を詳しく調べる予定だ。
そして、最終的に重要なのが、北海道で育ったウナギが子孫を残せるかだ。

北海道で育ったウナギが、親として太平洋を回遊してマリアナ諸島付近まで産卵に戻っているのかについても調べたいという。
東京大学大学院情報学環 黒木真理准教授
「今後、地球が温暖化した時に環境として北海道という地域がウナギの生息地として重要な場所になるかもしれない。どのような場所を好んでウナギが生息しているのかを調べることは、保全の上でも非常に重要だ」
絶滅危惧種に指定されながら、その生態が完全には明らかになっていないニホンウナギ。

新たに加わった「北海道のウナギ」という謎を解き明かして、保全につながることを願いたい。

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札幌放送局記者

黒瀬総一郎

2007年入局。岡山局、福岡局を経て2014年から科学文化部で海洋や天文のほか、サイバーセキュリティーやAI倫理、ネット社会の問題を中心に取材。また、全国の水辺を巡って、ウナギやサンゴなど、生態系の保全や資源管理に関する取材を続けてきた。2021年からは札幌放送局で、北海道の自然環境やデジタルに関する取材を進めている。川で取ってきたニホンウナギを、長年、自宅で飼育し、体長は80センチに(すでに死亡)。

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記事の内容は作成当時のものです

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