ネット上などの膨大な情報を学習し、まるで人間のように会話ができるAI「ChatGPT」。
世界中で急速に利用が広がり、私たちの生活に大きな影響を及ぼし始めている。
「インターネットや携帯電話の発明に並ぶ革命だ」(ビル・ゲイツ氏)
「恐ろしくすごい。危険なほど強力なAIが現実味を帯びてきた」(イーロン・マスク氏)
正と負の両面が、大きくクローズアップされている“異次元”のAI。
「私たち人間は、AIとどう向き合っていくのか」。
避けられない命題が、いま、突きつけられている。
小学生が作文に
「主人公を守ろうとする姿勢に共感し、その命運に思わず涙しました」
先月、小学5年生が提出したハリーポッターシリーズの読書感想文の一節。

これは「ChatGPT」を使って書かれたものだった。
感想文の提出を受けた担任の先生は、こう振り返る。
「構成がしっかりしていて、書き方も大人が使うような表現だったので驚きました。たぶん書いたのは本人ではないと感じ、尋ねたら、ChatGPTに書いてもらったと言うことでした。ですが、書き方を写すだけでも学びにはなりますし、新しいものを意欲的に取り込んだという姿勢は評価しています」
ビジネスに革命 大幅な業務改善
すでに劇的な業務効率化の効果がでていると言う。

「プレゼンテーションの台本を作ったりとか、議事録の作成とかに使っています。口語的な英訳も出してくれるので、楽になります」
「とにかくどんな質問にも返してくれます」
1人1人が何を課題としているのか、自由記述欄に書かれた記述を読み解くには多くの時間がかかる。その内容を自動的に評価してくれるプログラムを書くよう指示を出してみる。

これまで1時間かけて書いていたプログラムの作成が10分でできるようになった。
「かなり正確に、ものすごくきれいな構文で出てくるので、そのまま使うことも出来ます。プログラムの知識が無くても書けるようなところがあります。劇的にスピードが上がると思います」
下請法を学んでもらうために、クイズ形式の教材の作成を依頼すると、AIは瞬時に設問とそれにあわせた答えとして4つの選択肢を提示、解説も示した。

「ChatGPTで助けてもらうともう一つのアイデアが生まれる感じがあります」
▽「最近のことは回答できません」
▽「パブリックな情報からしか回答できません。社内情報は学習していません」
▽「英語の方が正確な回答が返ってきます」
▽「未来のことはわかりません」

「想定していた以上に、各社員ごとに千差万別な使い方ができていると思う。効率化が図られた分、人間側は判断することやブラッシュアップなどに時間をかけていくということにシフトできると考えています」
仕事が一変 雇用への懸念も
コネティカット州で50年近く続く旅行会社のオーナー、オデッド・バタットさん。

依頼したのは、「パリへの旅」そして、「予算は3人で5000ドル」。すると、ルーブル美術館など有名な観光スポットを効率よく回ることができる4泊5日のプランが瞬く間に提案された。

「これがより洗練されたものになれば驚異的です。この技術を使いこなせばお客さんをつかむことができるでしょう。しかし、時代の流れに乗り遅れれば、仕事を続けるのは難しいかもしれません。もしかしたら旅行会社を衰退させたり、仕事を奪ってしまうものになるかもしれない」
この中では「アメリカでは80%近い人々の仕事に、何らかの影響がでる」とされた。
SF雑誌 応募に殺到

アメリカのSF雑誌の編集長を務めるニール・クラークさん。有名な文学賞も輩出してきた雑誌だが、ことしに入ってChatGPTを使ったと見られる投稿が激増した。

「きっかけはYouTubeやTikTokでChatGPTを使ったお金もうけの方法が取り上げられたことでした。ChatGPTを使って作品を書く方法や、その投稿先を紹介していたのです。私の雑誌も、標的の1つになってしまったのです」

「気がめいりました。新しい作品を受け付けられないと、革新や変化は生まれません。同業者の中には、『もう作品の公募はしない』という人もいます。そうやって扉が閉まっていく度に、業界全体が打撃を受けるのです」
教育に大きな影響
アメリカのノーザン・ミシガン大学で、哲学を教えるアントニー・オーマン教授は、学生たちが使う、ChatGPTにどう対応すべきか頭を悩ませている。

「私はChatGPTを使ってレポートを書いています。助けてもらっています。とても賢くて知識も多いし、1人で作るより、ずっといいものが作れるようになるんです」
「僕は使い続けます。Googleをつかうことと何が違うのですか。ChatGPTがなくてもカンニングする子はしますよね」

「私は禁止すべきと思っています。歴史を教えていますが、資料については自分で読んで考えて欲しいと思っています。自分の力でやり遂げることに意味があると思うのです」
オーマン教授はまだ判断がついていないと話した。
「すごく葛藤しています。使わせてあげたいという気持ちもあります。これから当たり前になってくるのですから。一方で、これまでやってきたことが台なしになるのではという不安もあります」
教育現場 日本でも対策
こうした中、国内の大学でも対応や見解や注意喚起を始めるところも出てきた。
東京大学は、学内向けのホームページに副学長名で見解を示し、「学位やレポートについては生成系AIのみを用いて作成することはできない」などとした。

東北大学では「未発表の論文や秘密にすべき情報を入力してしまうと、意図せず漏えいしてしまう可能性がある」などとする、注意喚起を行った。
このほか、小中高校生の「読書感想文」の今年度のコンクールについても、主催する全国学校図書館協議会が、応募要項に「盗作や不適切な引用等があった場合、審査対象外になることがある」と追記したほか、文部科学省も、今後、学校現場での取り扱いを示す資料を作成する方針だ。
大きな脅威も
アメリカでは、非営利団体が、高度なAIの出現で人類が文明を制御できなくなるおそれがあるなどとして少なくとも半年間は開発を中断するよう求める書簡を公表。

データ利用の問題は
データには、個人情報やビジネスの機密情報なども含まれる可能性がある。
イタリアの当局は、個人データを法的根拠がないまま収集し、利用者の会話の内容や支払いに関する情報についてデータの侵害があったとして、個人情報の保護に関する法律に違反している疑いがあると一時的に使用を禁止すると発表した。
これに対して、開発企業は、AIが学習するデータには個人情報も含まれているものの可能なかぎり削除している、AIが作成する回答は、暴力などを含む内容は生成されないようにしている、としている。
また利用者は18歳以上、または保護者の許可を得た13歳以上に限り、今後、年齢を確認する仕組みの導入を検討しているとしている。
フェイク生成 サイバー犯罪への悪用は

特定の国や政治家などに好意的、または悪意をむけるような記事を量産すれば世論をコントロールできてしまうおそれもある。
サイバー犯罪に悪用されるリスクも指摘される。
アメリカの調査会社が公表した、2023年の世界10大リスクではロシア、中国に次いで3位に「大混乱生成兵器」というタイトルで、ChatGPTなどの生成系AIの進歩や普及が、政治・経済的な混乱に広く影響するおそれがある、などとしてランクインした。
東京大学の松尾豊教授は、ルール作りの必要性を指摘する。
「人間の意思決定に、大きな影響を及ぼす可能性もあるので、『このように使うことは良い・悪い』といったルール作りをなるべく早く行うべきだ。自動車ができて制限速度とかシートベルトができたのと同じように」
開発者に独占インタビュー
サム・アルトマンCEOは、NHKの単独インタビューに次のように答えた。

「開発者がすべきことはリスクから目を背けず対処する方法を考え、人々が大きな利益を享受できるようにすることです。この新しい技術を使えば、驚くような新しいことが可能になり、今はまだ想像も付かないような方法で私たちの生活を豊かにしてくれるでしょう。AIは、SFの世界では人類を奴隷にするロボットのように何十年も描かれてきて、そのように考えることは簡単です。しかし、私たちは人間がルールを設け、止められるように作っています。規制に関する議論は非常に重要です。政府はその議論をする義務がありますし、その議論には喜んで参加します。テクノロジーには大きなメリットと深刻なデメリットがあり、産業革命でも同じようなことが言われていました。AIは私たちの創造性を高めるもので(人間に)代わるものではありません」
AIと暮らす未来
山形県高畠町の小学校では、ChatGPTを取り入れ、「AIとの付き合い方」を学ぶ授業が始まっている。

周りの人たちもかずや君のことをだんだん、おかずと呼ぶようになり、かずや君は、ますます学校へ行く足取りが重くなっていく。
先生は、かずや君の悩みをChatGPTに相談してみた。すると…。
「まずあなたがやるべきことは、友達にそのあだ名が気に入らないと伝えることです。言い出すことが難しい場合は友達にメールや手紙を書いて自分の気持ちを伝えてもよいでしょう」

「最後に判断するのは誰?」
ドラえもんの国
技術幹部のシェイン・グウさん。日本人のChatGPTへの接し方について、面白く、ユニークで深いとして、ドラえもんを例に挙げ、次のように話した。

「日本は他の国と違ってAIをおそれていない、道具として見ていない。それは、ドラえもんの影響が大きいのかなと思う。AIと一緒に生きる世界がどういうものなのかを幼少期から何となく理解している。これは世界の中でも独特だと思う。生成系AIの分野で伸びしろが一番あるのは日本だと思う」
スカイネットかドラえもんか
取材をすればするほど、期待と不安が入り交じる複雑な考えや思いに触れ、翻弄される。AIの進化のスピードは速く、世界中で何が起きているのか、正確に把握することが困難になりつつあると、専門家ですら口にする。
革新的なテクノロジーは、いつの時代も歓迎と困惑で迎えられてきた。
インターネットの時もスマートフォンの時もそうだった。
ネットやスマホが、私たちを豊かにしたか、幸せにしたか、結果は出ていない。
そして、このChatGPT。試されているのは、今回も人間。私たちの生き方だ、と思う。
人類を滅ぼす「スカイネット」か、最高の友だち「ドラえもん」か。
その未来を選び取っていくのは私たちだ。
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