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北の大地のスタートアップ 北海道で起業する若者たち

2022.12.28 :

ビジネスの着想からわずか半年でサービス開始にこぎつけ、全国的な注目を集める。
 
ことし、札幌の企業で実際に起きたことだ。
 
短い期間で急成長をめざす「スタートアップ」。
 
いま、北の大地、北海道で新たなビジネスを興そうという若い世代の動きが活発になっている。
 
若者たちは、北の大地でなぜ起業するのか。その姿を追った。

ふるさと納税にNFT!?
余市町で始まった取り組みに全国が注目

                               
ワインを手にした女性が描かれたイラスト。

余市町が「ふるさと納税」の返礼品として出品した「デジタルアート」だ。

特徴は、作品ごとに「シリアルナンバー」が付いていることで、コピーをしても、複製だとわかるNFTと呼ばれる最新の技術を使っている。デジタル空間上のアートながら、リアル空間上の美術品と同じように所有できる。

寄付金額は1点12万円と安くはないが、価値を見いだしたコレクターは、高い金額でも入手したがるという。
                             
瞬く間に「在庫切れ」になった作品もある。

余市町の観光名所を背景にしたキャラクターだ。「ローソク岩」と呼ばれる日本海にそそり立った岩やワイン畑を背景に、余市町特産のワインを持ったウサギのキャラクターが描かれている。
                           
1点3万円だが、222点が3分でなくなった。

担当者のもとには、ことし5月に取り組みを始めて以降、問い合わせの電話が鳴り続いたという。
余市町企画政策課 糠塚英司さん
(余市町企画政策課 糠塚英司さん)
「大きな反響をいただいていて、反響の成果もあり、今後も続けていきたい」
余市町が新たな取り組みを始めた狙いは2点あるという。

ひとつは、ふるさと納税に新たな層を取り込むこと。もう1つが、余市町に関わる人を増やすことだ。

実は、デジタルアートにはほかにも特典がついている。余市産の珍しいワインを優先で購入できる抽選に参加する権利や余市町を訪れるとアートの絵柄が変わる機能だ。

いずれも余市町に興味を持ってくれる人を増やすことを狙ったものだ。
(余市町企画政策課 糠塚英司さん)
「人口減少の歯止めがきかないと考えていて、人口が減っても町を持続的に発展させるために新たな仕掛けで盛り上げてくれる人を増やしたい」

作ったのは10代~20代の若者たち

余市町のデジタルアートの技術開発を担ったのは、札幌市のスタートアップだ。

代表の畠中博晶さん(26歳)は東京出身で、2年前、札幌市に移住、自分の会社を興した。

畠中さんの会社の強みは「デジタルアート」に「シリアルナンバー」をつけるNFTの技術だ。

余市町での好評を受け、大阪府太子町や福井県坂井市など全国各地の自治体が採用。北は北海道から南は沖縄まで各地から問い合わせを受けていてビジネスは好調だという。
畠中博晶さん
(畠中博晶さん)
「3番目に入った社員も21歳で年収700万なので、すごいことだと思う。組織を作って世の中に影響を与えていくのは面白い」
畠中さんは、京都大学で過ごした学生時代、東京と地方の人材や情報の格差を強く実感したという。

「大好きな札幌の町で起業し、お金を稼いで街を盛り上げたい」。

実際、畠中さんは暗号資産の取引で移住費用を稼いだ。
得意とする暗号資産をベースにしたNFTの技術を生かしてビジネスが出来ないか考えていたところ、去年11月、起業アドバイザーからNFTとふるさと納税を掛け合わせるのはどうか、とのアイデアをもらった。実現する仕組みを考え、投資を取りつけると、余市町を紹介された。

10代、20代の社員と共に、技術面の開発や、ふるさと納税に新技術を導入するにあたっての法律面での検討を重ね、ことし5月、実現にこぎつけた。

アイデア段階から実現まで、わずか半年のことだった。
(畠中博晶さん)
「いつも本当に確率1%みたいな話がずっと起きているような状況。チャンスがあればやると決めていたからというのはあると思う」
畠中さんが感じるのは、コロナ禍で生じた起業のチャンスの変化だ。

これまで東京に行かないと起業について先人から学ぶことも、ビジネスの交渉もできなかった。しかし、いまはリモートで多くのことができるようになった。

最近、畠中さんの活動を見た札幌在住の大学生2人が、NFT技術を使ったサービスを提供する企業を相次いで設立。

いまの起業家の姿を見て、次の起業家が生まれる。新たな起業のサイクルが生まれ始めていた。

活況帯びる北海道の「スタートアップ」の世界

実際、道内で起業しようという動きは活発になっている。

ことし10月、札幌市のナイトクラブを舞台に、国が開いた、新たなビジネスのアイデアを競うコンテストでは、審査に全国の投資家たちが参加。数々のアイデアのなかから、実現可能性や収益を見極めて、資金提供などにつなげようとしていた。

国の担当者は、北海道には新たなビジネスを生み出す「土壌」があると話す。
北海道経済産業局 産業技術革新課 南智彦 課長補佐
北海道経済産業局 産業技術革新課 南智彦 課長補佐
「起業家を生み出すぞという機運が本当に高まってきているし、支援する側も、新しいビジネスを作っていく側も盛り上がりは見えるなと」

投資家も動き出している

道内の若者たちに自ら働きかけて、新たなビジネスを生み出そうと取り組む投資家もいる。

大久保徳彦さん(37歳)。

帯広市出身で、東京の大手通信企業やスタートアップ企業に勤めたあと北海道にUターン。おととしから札幌で投資家として活動している。
大久保徳彦さん
(大久保徳彦さん)
「スタートアップは課題があるところに新しい概念のサービスを投入して、課題を解決していくための存在なので、いまむしろ東京よりも地方の方がいろいろな課題ってたくさんある。北海道は起業にすごい向いている土地だなと思う」
大久保さんは、北海道は起業の機会に満ちあふれているとみる。

人口減少や過疎化が全国に先駆けて進み、一次産業も高齢化で存続が厳しい場所もあるが、その対策として、オンラインでの教育や医療、公共交通のサービスなどに需要があるほか、農業や酪農にデジタルを活用すれば新たな産業にシフトさせることができる可能性もある。さらに宇宙といった新たな産業の芽や北海道大学を中心とした技術のタネもある。

ところが、北海道のスタートアップが去年投資家から資金を調達した金額は、東京都の120分の1にとどまっている。チャンスはたくさんあるのに、スタートアップが少ないのが現状だという。

そこで大久保さんは、日本でも珍しい北海道という地域に特化したベンチャーキャピタル(投資会社)を設立。

東京の投資家から資金を集めて、道内の若い起業家に提供している。
これまでに、乳製品や小麦を使わないお菓子を販売する企業を支援して、デパートの地下の食品街への出店につなげるなど、成果を上げてきた。
ことし9月。大久保さんは、起業したばかりの女性起業家とエンジニアとの打ち合わせに参加していた。

女性は大学卒業後、8年間、観光業界で働いてきた。

その中で、道内の温泉施設で経営者や従業員の高齢化と人手不足などが深刻化し、利用客を増やすための取り組みが十分に出来ていない現状を目の当たりにしてきたという。
「人手不足に悩む温泉施設を支援するアプリをつくりたい」

女性のビジネスプランに可能性を感じた大久保さんは、起業に必要な1000万円の資金を提供した。

女性にとって、大久保さんは、資金を提供するだけでなく、ともにビジネスを育ててくれる存在だと感じている。
起業家 渕上菜摘さん
(起業家 渕上菜摘さん)
「起業はスタートから1人で始めたので気軽に相談できて一緒に前を向いて前向きの言葉をかけていただくという存在はすごく大きい。本当に心強い」
アプリの実現に向けて、構想段階から二人三脚で取り組む。それが地域特化型の投資会社の強みだと大久保さんは考えている。
(大久保徳彦さん)
「自分たちで起業しようという芽をつかまえて、失敗しないようにしっかりと支援することで、成功したスタートアップを増やしていくことをまずは地道に始めたい。そして北海道に新しい仕事や新しい産業を生み出すことを進めていきたい。
山登りでいうとまだ1合目だと思うが、これからやるべきことをしっかりやっていけば、5年後10年後、全く違った世界が見えると思っている」
いまや、世界的な企業になっている「グーグル」や「アマゾン」を生み出したスタートアップ。

国は日本の新たな経済成長につながるとして、スタートアップ育成に本格的に乗り出している。

なかでも、地方での成功事例をつくっていくことは喫緊の課題で、北海道の未来を担う新たな企業が生まれるのか、引き続き、注目していきたい。

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札幌放送局記者

黒瀬総一郎

2007年入局。岡山放送局、福岡放送局を経て、科学文化部でサイバーセキュリティーやAI倫理などIT分野のほか、海洋や天文などの分野を担当。また、全国の水辺を巡って、ウナギやサケ、サンゴなど、生態系の保全や資源管理に関する取材を続けてきた。2021年からは札幌放送局で、北海道の自然環境やデジタル分野の取材を進めている。川で取ってきたニホンウナギを、長年、自宅で飼育し、体長は80センチに(すでに死亡)。

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