科学

米ケリー特使「水素研究開発で日米連携を」

米ケリー特使「水素研究開発で日米連携を」

2023.04.27

アメリカで気候変動問題を担当するケリー特使がNHKのインタビューに応じ、「『水素』は、世界が頼ることになる非常に重要なエネルギー源の1つになりうる」と述べた上で、日本などと連携して実用化に向けた研究開発を急ぐ必要があると強調しました。

(札幌放送局記者・黒瀬総一郎)

気候変動は地球の危機

アメリカの元国務長官で、バイデン政権で気候変動問題を担当しているケリー特使は、札幌市で開かれたG7=主要7カ国の気候・エネルギー・環境大臣会合に出席したあと、NHKの単独インタビューに応じました。 

ケリー特使は、はじめに気候変動への強い危機感を示しました。

「気候変動は危機的で、私たちが直面する最大の課題の1つだ。地球は急速に温暖化していて、世界で大規模な洪水が発生するなど、危機を過小評価することは出来ない」

カギを握るのは「水素」

そのうえで、温室効果ガスの排出量を削減するため、クリーンエネルギーへのより早い移行が求められ、「水素」がカギを握る可能性があると指摘しました。

「水素は、世界が頼る非常に重要なエネルギー源の1つになりうる。水素はトラックによる陸上輸送や海運の燃料になりうるなどさまざまな可能性を秘めている」

水素は、石油などの化石燃料に代わる次世代の燃料として期待されています。化石燃料に頼ってきた産業の脱炭素化にも貢献できる可能性があるためです。

そして、温室効果ガスの排出を削減するには、風力や太陽光などの再生可能エネルギーで生み出された電気を活用して水素を製造することが求められています。

ただ、水を電気で分解して水素を製造したり、安全に保管・輸送したりする技術は、コスト面で課題があると指摘します。

「私たちには課題がある。水素が将来の燃料になるかどうかは、水素を分離するのにかかるコスト、貯蔵できるコストによって決まる」

世界で開発競争が加速 日米連携を

アメリカでは、こうした技術開発を加速させるため、2021年に成立した「インフラ投資法」に基づき、支援を打ち出しています。

具体的には、水素の製造コストを大幅に下げる技術開発や、全米各地で水素の製造から利用までを一貫して行う「水素ハブ」の設立に、大規模な資金を投入する形です。

「現在、水素は1キログラムあたり4ドルまたは5ドルほどの製造コストがかかっていて実用化に向けては約1ドルに下がらなければならない。私たちは目標を達成せねばならず、そこにたどり着くには最良のプロセスを見つけるための競争が必要だ」

その上で、ケリー特使は、日本などと「水素」の実用化に向けた研究開発を急ぐ必要があると指摘しました。

「新たな燃料になるのではとの期待から、中東や東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカも水素に注目していて、世界が大きく動き出している。実用化に向けた研究開発が日本とアメリカのあいだで重複しないよう分担すべきだ」

次世代エネルギー活用は住民の選択が重要

北海道は洋上風力など再生可能エネルギーの新たな拠点になることが期待されています。ケリー特使は、こうしたエネルギーをどう生かしていけるかは、そこに住む人たちの選択が重要だと語りました。

「北海道を始め、それぞれの地域がどのエネルギーを使うことを選ぶかで、脱炭素に大きく貢献できる可能性もある」

そのうえで、水素の活用に向けた社会の変革について、最後にこう述べました。

「地球温暖化対策はあと6、7、8年が勝負のときだ。私たちは、産業革命以来の最大の変革を迎えているが恐れることはない。大きなチャンスだ」

日本は燃料電池自動車など水素を活用する技術を世界に先駆けて実用化してきました。

ウクライナ情勢を受けて、EUが再生可能エネルギー由来の水素の活用に向けた動きを加速させるなど、国際競争が加速するなか、日本がアメリカとともに世界をリードできるのか、注目していきたいと思います。

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