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相次ぐ災害 図書館に求められる「水への備え」

2020.04.30 :

本を読みたいときに利用できる図書館。本の貸し出しだけでなく、地域の貴重な資料を守ることも重要な役割です。
その使命を果たす上で課題が浮き彫りになったのが、半年前に起きた台風19号=東日本台風です。浸水や雨漏りで書籍や資料が水につなるなど、被災した図書館は全国で100か所以上にのぼりました。
図書館の水害対策はどうなっているのか。全国の都道府県立の図書館にアンケート調査を行ったところ、対策が進んでいない実態が明らかになってきました。
本を水からどう守るのか、現状を取材しました。

本棚を伝わる水

本が水にぬれるとどうなるのか。去年の台風19号で浸水被害を受けた長野県千曲市の更埴(こうしょく)図書館で、当時の館長・北島正光さんに話を聞くことができました。近くを流れる川が氾濫して館内に広く水が流れ込み、北島さんが駆けつけた時には、床上7センチほどの高さまで水につかっていたといいます。
一見すると本は水につかっておらず、被害を免れたかに思われましたが、手に取って見ると、多くの本が水浸しになっていました。本を並べた木製の本棚が水を吸い上げ、それが資料へと伝わっていたのです。結局、二度と手に入らない郷土資料を含む1000冊以上を処分せざるをえなくなりました。
また、比較的被害が少なかった本もインクがにじんだままで、ぬれた部分にキッチンペーパーをはさむなどして元どおりにする作業が、今も続いています。
台風の被害を受けて、本棚をブロックでかさ上げするなどしていますが、抜本的な対策はいまだ講じることができていません。
北島さんは「図書館が水害に遭うことはは全く想定していなかったので、今回の災害で考えないといけないことがたくさんあることが確認できました。現在行っている対策だけでは十分ではなく、ハード面での整備や災害時に迅速に動けるような体制づくりなど、やらなくてはいけない課題は多いと思います」と話していました。

対策や準備「行っていない」が6割

去年の台風19号のあと、図書館の被害について取材していた私は、本にとって大きな弱点である水への備えが十分に行われているかどうかを把握するために、アンケートを考えました。
ことし3月、都道府県立の47図書館に、アンケートの調査用紙を送付。すべての図書館から有効な回答をいただきました。
最初の質問は、単刀直入に「水害を想定した資料防災の対策や準備を行っているか」というもの。全体のおよそ6割にあたる29の図書館が「行っていない」と回答しました。
その理由を複数回答で問うと、「その他」が23と半数以上を占め、その多くが、高台にあることなどから浸水の被害を想定していないという内容でした。しかし、近年の災害では、地震でスプリンクラーや配管が壊れたり、大雨によって屋上の排水がつまって天井から水漏れしたりと、浸水以外の原因による被害が相次いでいます。高台にあるからといって、安心することはできません。

必要性は感じているが・・・

一方で、準備や対策を行っていないと回答した図書館に、準備や対策の必要性を感じているか尋ねたところ、29館のうち27館が「感じている」と回答しました。
また、水害に遭った場合、対策はどの程度できるかという質問に対する回答は、「ある程度対応できる」が19館と最も多く、「十分対応できる」も3館ありましたが、「あまり対応できない」が9館、「ほとんど対応できない」が3館ありました。
最後に、資料防災を進めるにあたっての課題や悩みを自由記述で尋ねたところ、「対策を施すための予算確保に向けた調整に多大な労力が必要となる」とか、「水害に特化してどのような対応が可能か、日頃どのような備えをしておくべきかなどの情報が不足している」など、思うように対策をとることができない実情がうかがえました。

吸水紙やタオルを各所に

そんな中、「準備や対策を行っている」と回答したうえで、その具体的な内容が最も充実していたのが、東京都立中央図書館です。浸水が起こりにくい高台にありますが、これまでも何度か水の被害に見舞われてきました。
平成22年9月の集中豪雨では、漏水によって資料が水損。当時は対策や準備が十分ではなく、修復が間に合わずに処分せざるを得なくなった本もありました。
そして、東日本大震災。図書館で資料保全を担当する眞野節雄さんは、図書資料の救助にあたった岩手県陸前高田市で、海水を含み原型をとどめないほど傷んでしまった本の山を目にしました。
「水によって失われる本を1冊でも多く救いたい」。眞野さんはこの時の経験をもとに、資料の避難手順などを示したマニュアルの整備や資材の準備などを手探りで進めていきました。さらに、水にぬれた本を復元するための技術も、試行錯誤を重ねながら職員どうしで習熟していきました。
本が水にぬれた時に大切なのは、早急に本を処置することです。眞野さんは、さまざまなタイプの吸水紙やタオルなど、水けをできるだけ早く吸収するための資材を、館内の各所にそろえました。さらに、修復に取りかかるまでの間、カビが生えたり腐敗してしまうことを防ぐための冷凍庫も用意しました。
こうした備えの大切さが実証されたのが、5年前の台風です。天井から雨漏りが発生し、460冊あまりの本が水濡れの被害に遭いましたが、整備していたマニュアルや資材などのおかげで職員はスムーズに本の救出や修復に取りかかり、結果としてすべての本を復元することができたのです。

「地域の歴史を伝えるような郷土資料などは、その図書館にとって命とも思えるものであることを、東日本大震災の時に陸前高田の資料を修復して、しみじみと実感しました。すべての資料を救うことは難しいかもしれませんが、まさに地域の宝というものをぜひとも一点でもいいから救おうと思ってもらいたい」(眞野節雄さん)

水への備えを広げる

都立中央図書館では、水害を想定した訓練を今も定期的に行っています。さらに、訓練の動画をみずから制作して公開することで、ほかの図書館にも水に備える必要性を訴えています。こうした取り組みの評判が広く伝わり、近年は全国の図書館から視察の依頼も増えているということです。
「近年の相次ぐ水害を受けて、各地の図書館の意識も高まってはきていると思いますが、特に水害の経験がない場所では『自分たちの図書館は大丈夫』とまだ思っているのではないかと思います。人手やお金をかけなくても、いざという時にどういう行動をすればいいかメモでもいいのでまとめておくことや、最低限の資材を準備しておくことなど、少しでもできることから、減災への準備につなげていってほしい」(眞野節雄さん)
図書館の日々の業務は多岐にわたり、水害対策まで手が回らないという施設も少なくありません。それでも、その地域にとって貴重な資料を後世に伝えるために、「災害が起きた時に本をどう守るか」ということを職員やスタッフが日頃から意識する必要性を、今回の取材を通じて強く感じました。
ことしもまもなく雨の季節を迎えます。想定外の災害が相次ぐ中、本を水から守る対策を進めることは、図書館の大きな使命の1つと言えると思います。
               
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科学文化部記者

富田良

平成25年入局。金沢局を経て平成28年から長崎局で勤務し、原爆を中心に戦争関連の課題や文化財をめぐる問題点などを取材。令和元年夏から科学文化部で文芸や学術などを担当

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記事の内容は作成当時のものです

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