COLUMN

漫画を守りたい 海賊版サイトとの闘い

2022.03.09 :

「1兆19億円」

 

出版社などで作る一般社団法人「ABJ」は、海賊版サイトで漫画を“タダ読み”されたことによる被害の額が去年、1兆円を超えたという試算を明らかにした。

 

誰かが海賊版サイトにアクセスすれば、運営者には大きな広告収入が入るという。
一方で、その漫画を描いた作者にもたらされる収入はゼロだ。

 

漫画業界を脅かす海賊版サイト。
今の動きを取材した。

広がり続ける海賊版被害

作者の許可を得ずに漫画の画像をインターネットに掲載し、誰でも見られる状態にする「海賊版サイト」。
有名なのは2016年ごろに開設された「漫画村」を巡る事件だ。
このサイトの元運営者は、著作権法違反などの罪に問われ、去年6月、福岡地方裁判所で実刑判決を受けた。

しかし、被害は今も拡大し続けているという。

ABJの“キーマン”に聞くと

伊東敦さん ⓒ木村和敬
ABJの広報部会長を務める伊東敦さんに取材すると、海賊版サイトとの闘いの一端が見えてきた。
(伊東敦さん)
漫画村事件のあと、海賊版被害の深刻さが伝わり、多くの皆さんの協力でさまざまな施策を積み重ねてきたのに、被害が増えているのはやはりショックです。
それでも、野放しにして、誰も声を上げなくなって、みんながタダで漫画を読むのが当たり前になってしまったら、豊かでおもしろい作品を読めなくなる時代が来てしまうかもしれない。

だから諦めずに啓発を

ABJの啓発キャンペーン
だからこそ、伊東さんたちは、さまざまな啓発キャンペーンを行っている。
2月からは赤塚不二夫さんの代表作「天才バカボン」のキャラクターが登場する「転載はバカボン」の連載をツイッターで開始した。
バカボンパパが泥棒にそそのかされて「海賊版サイト」を作ってしまうというストーリーだ。

(伊東さん)
前回実施したキャンペーンでは、『きみを犯罪者にしたくない』と訴えました。
海賊版をダウンロードすると捕まってしまうかもれないという、やや脅すような内容でしたが、それでは届かない人たちに向けて、今回は少し笑わせながら、何か心にしみるメッセージを送りたいと考えました。啓発も、手を替え品を替えてやっていかざるをえません。諦めるわけにはいかないんです。

デジタルの「希薄さ」が理由?

なぜ、海賊版サイトは減らないのだろうか。
2019年に行われた総務省の調査では、海賊版サイトを利用した「経験がある」という人は、回答を寄せたおよそ2000人のうち、半数近く(47.5%)にのぼった。
なぜ、デジタルになったとたん、タダで漫画を読むことに罪悪感を覚えない人がいるのだろう?
伊東さんは、次のように考えている。
(伊東さん)
デジタルゆえの存在感の薄さや軽さがあるのかもしれません。
しかし、デジタルだろうが紙だろうが、本来、漫画家が創作に費やした努力は変わりません。
作品に込めた思いも変わらない。
デジタルなら痛みはないということではないんです。

「海賊版サイト拡大阻止を」提訴

一方、海賊版サイトの拡大を、別の方法で阻止しようとする動きもある。
2月、日本の4つの出版社(講談社、KADOKAWA、小学館、集英社)は、アメリカのIT企業「クラウドフレア」に対し、4億6000万円の損害賠償などを求める訴えを起こした。

実は、この企業が海賊版サイトを運営しているわけではない。
提訴の理由は「著作権侵害をしていることが明らかな漫画の海賊版サイトにサービスを提供した」というものだ。
福井健策弁護士
いったいなぜ、このような形の裁判にしたのだろうか。
原告弁護団の1人、福井健策弁護士に取材すると、次のような説明があった。

CDNとは

海賊版サイトにIT企業が提供していたのは、「コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)」と呼ばれるサービスだ。
元のサイトのサーバーから送信されたデータを一時的に複製。
世界各地に設置されたサーバーに、複製されたデータを置くという。
このため、利用者のアクセスは複製データに分散され、海賊版サイトのサーバーにだけ集中することがない。
海賊版サイトにはひと月に億単位のアクセスがあるが、負荷が分散化されることにより通信速度は維持される。

タダ読みをする人はサクサクと漫画を読むことができ、海賊版サイトの運営者にはどんどん広告収入が入ってくるなど、それぞれに大きなメリットがもたらされてしまうというのだ。
(福井弁護士)
CDNは正しく使われればとても有用なものです。
しかし、悪用されてしまうと、いわば億単位のアクセスをさばくことができるようになる。
悪用を防ぐため、多くのCDN事業者は、事前にサイト運営者の情報を確認し、規約に違反した場合には契約を解除するなど、厳密な対応を取っています。
ところが、このIT企業の場合は、悪用防止対策が不十分で、海賊版サイトにとって使いやすいサービスになっていると福井さんは主張する。
海賊版サイトの多くが、この企業のサービスを利用しているとみている。
(福井弁護士)
クラウドフレアには、再三呼びかけても十分な協力を得ることができませんでした。
海賊版サイトへの協力をやめてもらうために裁判もやむなしという判断に至りました。
「漫画BANK」のサイト(すでに閉鎖)
なぜ海賊版サイトを訴えないのかと疑問を感じる人もいるだろう。
実際に「漫画村」や「漫画BANK」といった海賊版サイトは閉鎖に追い込まれている。

しかし、そうしたサイトを1つなくすためには、途方もない労力が必要なのだと福井弁護士は明かす。
(福井弁護士)
海賊版サイトに対して、摘発につながるような努力は続けています。
しかし、ほとんどの海賊版サイトは海外に拠点を持っています。
海外での法的手続きを進め、運営者の情報をとり、それを現地の機関に提供して、摘発を目指す。各国政府の協力も求めて、非常に大規模な『摘発作戦』を展開する必要があります。その間に時間は経過し、利用者はどんどん増えてしまいます。
だからこそ、IT企業側に海賊版サイトへのサービス提供をやめてもらえれば、海賊版の根絶につながるかもしれないんです。

IT企業「侵害に寄与するものではない」

訴えを起こされたあと、「クラウドフレア」は、私たちの取材に対し、次のようにコメントした。
クラウドフレアは、世界中のウェブサイトがセキュリティとパフォーマンスのサービスを容易に利用できるようにすることで、インターネットをより安全、効率的、かつ信頼性の高いものにすることに貢献しています。
最近の米国連邦裁判所の判断では、クラウドフレアのCDNとパススルー・セキュリティ・サービスは侵害に寄与するものではないということが認められています。
海賊版の問題を非常に深刻に受け止めており、この問題の実際の責任者である当事者に対するアクションを促進するために、さまざまな手段を講じています。
まだ、訴状を拝見しておりませんが、クラウドフレアの対応によって、この問題が解決することはないと考えています。私たちは、権利者や日本政府と積極的に議論を続けていきます。

漫画の未来は

裁判は年単位の時間がかかると見込まれるが、どのような判断が下されるのか、注目したい。

魅力的な漫画を楽しむことができる今の環境が、読者の行動によって失われてしまう。
そんな未来は、避けたいと思っている。

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科学文化部記者

富田良

記者を志望する時に持っていた「小さい声を届けたい」という思いが、いつしか「ほかの人が注目していないけれど発信すべき人物や話題を取り上げたい」という方向にシフトチェンジ。いろんな分野に関心を持って手を出し、ゼロから勉強する…という繰り返し。興味は尽きません。

前任地の長崎で経験した原爆・平和関連の取材は、ライフワークとして何らかの形で携わり続けていきたいと思っています。文化担当ですが休みはスポーツに時間を割いており、特に走ることが生きがいになりつつあります。マラソンや駅伝の企画を作ることがひそかな夢。

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記事の内容は作成当時のものです

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