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私たちは何者か~DNAで迫る現代日本人への道

2021.10.04 :

「私たち日本人とは、なにものなのか」

 

その問いは、多くの古代ファンたちの注目を集めてきました。

今回、DNAのレベルから、この謎に迫ろうという研究成果が発表。

1つの新たな可能性が示されました。

手がかりは「DNA」の解析

研究に取り組んだのは、日本やアイルランドの国際研究チーム。

中心となった金沢大学の覚張隆史助教が注目したのは、遺跡から出土した「古人骨」に含まれるDNAです。

さまざまな時代や場所の古人骨からDNAを取り出して詳しく比較すれば、現代日本人の“ルーツ”を科学的に明らかにできるのではないかと考えました。

対象となった遺跡は

覚張さんたちは、8900年前の縄文時代早期から1400年前の古墳時代終末期にかけての関東、北陸、中国、四国の6つの遺跡から出土した12体分の人骨を調べました。

DNAが残りやすいとされる頭蓋骨の「側頭部」から試料を採取し、1体1体の遺伝情報を解析。

それを、すでに公表されている北海道、東海、九州の縄文・弥生時代の人骨や、大陸で出土した8000年前から3000年前にかけての人骨の遺伝情報と比較しました。

これまでの定説は

日本人はどのようにして成立したと考えられてきたのか、少しおさらいしてみましょう。

最初に広く支持されていたのは、縄文時代から日本列島にいて主に狩猟採集を行っていた人たちと、稲作とともに大陸からやってきた人たちが交わることで、現代日本人が生まれたという説でした。

しかし、研究が進むにつれ、状況はもっと複雑だと考えられるようになりました。

縄文時代以降、もっと多くの渡来があり、交流を重ねることで、現在の日本人は生まれたのではないかというのです。

例えば、弥生時代から古墳時代に移り変わる際にも、各地に大きな墳墓が作られるようになったり、馬の飼育が始まったりして、かなりの文化的変化が生じたとされています。

こうした変化の一端を、大陸から渡来した人たちが担っていたと考えても、おかしくはありません。

現代日本人のルーツは3つ!?

さて、研究チームの解析結果を詳しく見ていきましょう。

まずは、縄文時代の人骨のDNAです。
新たに解析が行われた愛媛県の上黒岩岩陰遺跡や富山市の小竹貝塚、それに千葉県の古作貝塚など、地域はばらばらです。
しかし、いずれも大陸の人骨とは異なる独自の遺伝情報を持っていたといいます。

次は、弥生時代の人骨です。
長崎県の下本山岩陰遺跡から出土した人骨には、縄文人が持つ遺伝情報に加えて、現在のロシアのバイカル湖や中国の遼東半島周辺の「北東アジア」にルーツを持つ集団の遺伝情報が含まれていたということです。少なくとも1回、この段階で日本列島に渡来した人たちがいたものとみられます。

そして、古墳時代の人骨です。
金沢市の岩出横穴墓から出土した人骨には「縄文」と「北東アジア」に加えて中国の黄河流域など「東アジア」の広い地域にルーツを持つ集団の遺伝情報が加わっていることが明らかになったということです。

現代日本人への道は

画像提供:金沢大学
この図は、研究チームの解析結果をまとめたものです。

「縄文」と「弥生」、そして「古墳」の、それぞれの時代の人たちの遺伝情報の変遷を表しています。

時代を経るごとに遺伝情報は多様化し、徐々に本州に住む現代日本人に近くなっていったことが示されています。

研究グループは、現代日本人のルーツについて、「縄文」、「弥生」、「古墳」の少なくとも3つの異なるルーツを持つ集団の存在を重視する必要があるとみています。

「日本人の起源を捉えるスタートに」

金沢大学 覚張隆史助教
覚張さんたちは、今後もさまざまな地域や時代の古人骨のDNA解析を試みることにしています。

遺伝情報のデータが増えれば増えるほど、日本列島内での人の移動や交流の実態を詳細に明らかにできると期待しているのです。

覚張さんは「日本列島人の起源を正確に捉えるスタートに立ったのではないか。考古学の研究者とも連携しながら、さまざまな通説の再検証に挑みたい」と話しています。

古人骨のDNA分析への期待

実は、古人骨のDNA分析は、石器や土器など、間接的なデータによって推測されてきた古代の社会構造を知るうえでも、貴重な資料になると考えられています。

その1つが血縁関係や親族の在り方です。

岩出横穴墓(古墳時代)では、出土した3体分の人骨で分析が行われました。
同じ場所で出土したため、この3人には血縁があるのだろうと推測されていました。
しかし、予想は覆されました。
3人に血縁はなかったのです。

また、富山市の小竹貝塚(縄文時代)の同じような区域で見つかった4体分の人骨にも、血縁関係はありませんでした。

血縁のない人たちが同じような場所に葬られる。
それはいったいなぜなのか。
なかなか興味深くはありませんか。
医療や農業などの分野で注目を集めるDNA。

古代の人たちがどんなふうに暮らし、どんな交流をしていたのか。
DNAの解析を進めることによって、その秘密が解き明かされる日は、間近に迫っているのかもしれません。
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金沢局

森山睦雄

2004年にNHK入局。

金沢局には2018年の夏から勤務。

これまで東京のほか、秋田、高知、札幌などで取材を行ってきました。

恐竜よりも古い時代の古生物、希少な野生動物の保全、古文書や言い伝えを手がかりにした過去の巨大地震のメカニズム解明など、各地の研究者の取り組みを追いかけています。

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