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「アンネの日記」出版75年 新作映画に込めた思い

2022.02.16 :

「アンネの日記」

思春期の少女のみずみずしい感性があふれ、人種差別と戦争を告発する名作として世界中で長く読み継がれてきた作品だ。

 

その出版から75年となることし、日記を題材としたアニメーション映画が新たに製作された。

「子どもにも受け入れてもらえる映画にしたかった」

そう語るイスラエルの映画監督が作品に込めた思いとは。

「アンネの日記」とは

「アンネの日記」は、ナチスドイツによるユダヤ人への迫害から逃れ、2年間にわたってオランダの「隠れ家」で暮らした少女、アンネ・フランクが記したものだ。
密告によって家族は全員逮捕され、アンネは15年の短い生涯を強制収容所で終えることになる。

日記はただ1人生き残った父親の手でまとめられ、1947年に出版。すると人種差別や戦争の問題を描き、かつ、すぐれた思春期の記録だとして大きな反響を呼び、世界的なベストセラーとなった。
日本でも1952年に翻訳版が出版されて以降、長く読み継がれ、関連書籍を含めた累計の発行部数は600万部に上るという。

「子どもに受け入れてもらえる」アニメ映画に

『アンネ・フランクと旅する日記』  配給:ハピネットファントム・スタジオ   ©ANNE FRANK FONDS BASEL,SWITZERLAND
しかし、世界は動いている。
アンネの暮らした時代から変わらないこと、そして変わったこともある。

出版から75年。
アンネの父が設立したアンネ・フランク基金の発案で、新たな視点を取り入れた物語=「アンネ・フランクと旅する日記」が制作された。

このアニメーション映画のストーリーは、次のようなものだ。

主人公は、アンネが日記の中で創作した「キティー」。
想像上の少女だったキティーに命が吹き込まれ、現代のオランダに姿を現す。
キティーはアンネのように恋をし、悩みながら日記の記述をたどっていく。
そして過去の悲劇、そして今の社会が抱える問題に向き合っていく。
物語は考えさせられるものだが、色彩は美しく鮮やかで、残酷な描写はあえて避けられている。

「子どもにも受け入れてもらえる映画にしたい」

背景には作り手のそんな思いがあった。

「新しく伝えることがなければ作る意味がない」

アリ・フォルマン監督
製作にあたったのは、イスラエルのアリ・フォルマン監督。
「戦場でワルツを」という作品では、戦争の現実とそこに身を置く兵士の心理をアニメーションの手法で描き、ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞などを受賞した。

監督は、作品が日本で公開されるのを前にNHKのオンラインインタビューに応じた。
(アリ・フォルマン監督)
ホロコーストを描くことは、本当に、本当に難しい挑戦だった。私たちのゴールは、できるだけ年少の子どもにも、この映画を見てもらうことだったので、あれだけ悲惨な状況でも、なんとか受け入れてもらえるように工夫して描かなければならない。
一方で、新しく伝えることがなければ映画を作る意味がない
戦争によって子どもたちが苦しむという現実は今も変わっていないということを、アニメーションを通して、理解しやすい形で示したかった。
製作にあたっては研究者と協力し、各地の資料館を訪れたフォルマン監督。
綿密なリサーチを行ったため、完成までに8年を要したという。

アンネの日記は「常に読むべき作品」

『アンネ・フランクと旅する日記』 配給:ハピネットファントム・スタジオ   ©ANNE FRANK FONDS BASEL,SWITZERLAND
フォルマン監督にとっても、「アンネの日記」は特別な存在だという。
(フォルマン監督)
13歳という若さで書かれた作品としては、世界で一、二を争うぐらいすぐれている。才能にあふれ、観察力もある。
文学作品としてすばらしいと感じている。
出版から75年たっても色あせず、いつの時代にも通じるテーマを持ち、常に読むべき作品だと思う
残念ながら戦争が存在するかぎり、アンネの精神やメッセージは、読者にとって強く“響く”ものだろう。

「行動を」そして「家族で考えて」

『アンネ・フランクと旅する日記』 配給:ハピネットファントム・スタジオ   ©ANNE FRANK FONDS BASEL,SWITZERLAND
映画の中では、キティーが難民の若者たちに助けられ、絆を深めていく。
そして終盤には、その仲間たちのためにキティーが社会に対して声を上げるシーンが描かれている。

差別を受け入れず、自分たちが生きる権利を高らかに宣言する、印象的な場面だ。
(フォルマン監督)
10代の若者が、彼女たちの行動を見て「すごい。かっこいい」と感じてくれれば。そして、自分も何か行動を起こすべき、人々のために何かをするべきだと感じてくれれば、この映画の目標・目的は達成できたのだと思う
そのうえで、これから映画を見る人たちに向けて、次のように呼びかけた。
(フォルマン監督)
まずは家族で見に行ってもらいたい。子どもにとって、親と一緒に映画を見るという経験がやはり大切だと私は思っている。そして、映画を見たあとにはぜひ、親子で話し合ってもらいたい
アンネ・フランクという少女は決してただのアイコンではない。
おもしろくて頭もいい、ちょっと意地悪なところもある。
ほかの10代の若者と同じように、複雑で人間らしい側面を持った少女だったということを知ってもらいたい。
アンネは、青春を大変な環境のもとで過ごしはしたが、実は私たちの身近にいるような等身大の女性なんだと、感じ取ってほしい。

日本の若者の受け止めは・・・

試写会に参加した東京女学館の生徒たち
都内の東京女学館では、映画の公開を前に、オンライン試写会が開かれた。
参加したのは中学3年から高校2年の生徒、合わせて30人余り。
この学校では、アンネの父親から日本に贈られたとされる「アンネ・フランクの形見」という品種のバラを育てている。
生徒たちは「アンネの日記」をテーマとした平和学習にも取り組んでいるそうだ。

1時間40分に及ぶ作品を鑑賞した生徒からは、次のような声が上がった。
「少数派の人たちへの差別はアンネの時代だけではなく現代にも通じる問 題だ。私たちは過去の歴史から学ばなければならない」

「黙っていても何も変えることはできない。苦しい状況を知ってもらうために、声を上げることの必要性を感じた」

「差別される側が何かを主張するのは難しい。差別されていない誰かが、差別される側の気持ちや考えをしっかり理解して一緒に闘うことが重要なのではないか」

「相手を知らないから大量虐殺などが起き、悲劇につながってしまう。お互いのことをしっかり知ること、お互いに理解し合うことが大切なのでは」
すでに「アンネの日記」を読んでいたという生徒たちにとっても、新たな気づきや学びがあったようだ。
アンネが残したメッセージ、そしてフォルマン監督が作品に込めた思いを、しっかりと受け止めてくれたように感じられた。

だから今、「アンネの日記」を

長く読み継がれてきた「アンネの日記」。
「タイトルやあらすじは知っているけれど…」という人が多いかもしれない。
今回の映画のほかにも、演劇やドラマ、絵本などで、その一端に触れることができる。
私も、もう一度、この本を手に取り、アンネ・フランクの人生に思いをはせてみようと思っている。
「アンネ・フランクと旅する日記」
3月11日から全国公開

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科学文化部記者

富田良

記者を志望する時に持っていた「小さい声を届けたい」という思いが、いつしか「ほかの人が注目していないけれど発信すべき人物や話題を取り上げたい」という方向にシフトチェンジ。いろんな分野に関心を持って手を出し、ゼロから勉強する…という繰り返し。興味は尽きません。

前任地の長崎で経験した原爆・平和関連の取材は、ライフワークとして何らかの形で携わり続けていきたいと思っています。文化担当ですが休みはスポーツに時間を割いており、特に走ることが生きがいになりつつあります。マラソンや駅伝の企画を作ることがひそかな夢。

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