3.11 東日本大震災 “M9.0巨大地震”の衝撃
「東日本大震災」は2011年3月11日午後2時46分に発生したマグニチュード9.0の巨大地震(東北地方太平洋沖地震)による死者・行方不明者が2万2200人以上にのぼる大災害です。東京電力福島第一原子力発電所の事故も発生しました。国内史上最大の地震による最大震度7の揺れ。北海道・東北・関東の沿岸を襲った大津波。そして日本の形を変えるほどの地殻変動。当時の状況と教訓です。
目次
国内観測史上最大 マグニチュード9.0の巨大地震
2011年3月11日午後2時46分。
三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生しました。
太平洋側を中心に激しい揺れに襲われます。宮城県栗原市で震度7 。震度6強は宮城県、福島県、茨城県、栃木県の4県37市町村で観測されました。
東京23区でも最大震度5強。超高層ビルなどを大きくゆっくりと揺らす「長周期地震動」も観測され、震源から遠く離れた東京や大阪でも被害が出ました。九州南部や小笠原諸島でも震度1を観測。国内の観測史上最大となる巨大地震は、日本全国を揺らしたのです。
気象庁によると、マグニチュード9.0の地震は、世界で見ても1960年のチリ地震や2004年にインドネシア・スマトラ島沖で発生した地震などに次いで、1900年以降、4番目に大きい規模の地震でした。
その後も地震活動活発に
再生時間 0:30
こちらは、2011年から2024年3月1日までに発生したマグニチュード3以上の地震を可視化した動画です。
午後2時46分の巨大地震の後も規模の大きな地震が相次ぎました。午後3時8分には岩手県沖でマグニチュード7.4の地震が発生。さらに午後3時15分には茨城県沖でマグニチュード7.6、午後3時25分には三陸沖でマグニチュード7.5の地震が発生しました。
その後も活発な地震活動が続き、気象庁によると、2021年3月までの10年間に「余震域」で発生した最大震度1以上の揺れを伴う地震は1万4000回を超えました。
巨大な断層破壊 長さ450km幅200km
マグニチュード9.0の巨大地震は東北沖の海底で起きた巨大な断層の破壊によるものでした。
東北の太平洋側には「日本海溝」があります。ここでは陸側の岩盤(北米プレート)に海側の岩盤(太平洋プレート)が沈み込んでいます。あの日、この2つの岩盤が強く密着している部分がずれ動きました。
断層の破壊が始まったのは、宮城県牡鹿半島の東南東 約130km・深さ約24km付近。断層の破壊は、うごめくように西や東へ移動。そして北側の岩手県沖の地下と、南側の福島県沖の地下へと拡大していきました。
気象庁によると、最終的に破壊された断層の領域は、岩手県宮古市の沖合い付近から茨城県の沖合い付近まで、長さ約450km・幅約200kmに達しました。東北沖ではマグニチュード7クラスの「宮城県沖地震」など、震源域を複数の領域に分けて地震が想定されていました。しかしこの巨大地震の震源域は、いくつもの領域を超え、これまでの想定をはるかに上回るものだったのです。
継続時間3分 “想定外”の長さ
巨大地震は、長い継続時間も特徴的でした。
上で示した図は、東日本大震災を引き起こした巨大地震(上・東北地方太平洋沖地震)と、過去に宮城県沖で起きた地震(下・1978年宮城県沖地震)を比較しています。巨大地震は宮城県沖地震の波形より継続時間が3倍以上あることが分かります。
断層があまりに大きかったため、破壊が終わるまで180秒(3分)程度かかりました。短い時間で地震の規模を推定し、津波警報などを発表する当時の気象庁システムの想定をも上回るものでした。
津波の高さは? 遡上高40mの場所も
最も大きな被害を出したのが大津波です。岩手県、宮城県、福島県、茨城県などの太平洋沿岸を中心に、次々に津波が押し寄せました。
気象庁検潮所で確認された津波の高さは、福島県相馬市で9.3m以上、宮城県石巻市 で8.6m以上、岩手県宮古市で 8.5m以上、茨城県大洗で 4.0m。検潮所で観測できる津波の高さをはるかに超え、実際の津波の高さが観測できない事態になったところも多くありました。
陸地を駆け上がった津波の高さはどれほどだったのか。大学や研究機関の専門家で作る「東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ」が調査を行ったところ、岩手県大船渡市綾里で 40.0m、岩手県宮古市田老地区で39.75m、宮城県女川町で35.0m、宮城県気仙沼市本吉町で26.08m、福島県相馬市尾浜で21.3m、福島県いわき市泉町下川で15.77mなど、東北の太平洋沿岸の各地で10メートルを超える場所にまで津波が到達していたことがわかりました。
また国土地理院によると、津波で浸水した面積は、青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉の6県62市町村の合わせて561平方キロメートル。東京23区の面積のおよそ9割にあたる広い範囲でした。
最大40メートルの巨大津波はなぜ起きたのか?
広範囲におよぶ断層のずれによって、陸側に近い海底だけでなく、日本海溝に近い海底も動いたことで、多くの海水が持ち上げられ、津波が高くなったとする研究もあります。しかし、岩手県の一部などでは、それだけでは高さを説明できない津波もあります。専門家は「海底地滑り」や「海底活断層」が影響したという研究もしていますが、10年以上がたった今も謎は残されています。
日本列島の形を変えた地殻変動
この巨大地震は日本列島の形を変えてしまうほどのものでした。
上の図は、巨大地震発生の直後と、その後1年間に国土地理院が観測した日本列島の地殻変動を強調して表現したものです。東北や東日本を中心に、東側に大きく引き延ばされていることが分かります。地震直後は真ん中の図の青色で示しているとおり、震源に近いほど沈降していることもわかります。以下は地震直後の観測地点ごとの変化です。
<水平方向>
▽宮城県牡鹿半島 5.4m
▽岩手県大船渡市 4.26m
▽福島県相馬市 2.78m
▽茨城県日立市 1.2m
▽青森県八戸市 58cm
<上下方向>
▽宮城県牡鹿半島 1.07m沈降
▽岩手県大船渡市 75cm沈降
▽福島県相馬市 30cm沈降
▽茨城県日立市 31cm沈降
▽青森県八戸市 1cm沈降
日本の測量の基準となっていた原点、東京 港区の「日本経緯度原点」も27cm東へずれ動きました。東北や関東が東に動いたため、陸地が引きのばされた形になり、日本列島の面積はおよそ1平方キロ(東京ドームの面積の約20倍)増えたとされています。
巨大地震のあとの1年間でも東北の沿岸部を中心に最大で70cm前後、東側へずれ動いたほか、10年以上たった今でも、地盤が隆起したり沈降したりといった地殻変動が観測され続けています。これは「余効変動」と呼ばれ巨大地震特有の現象で、地下深くのマントルが関わっているとも言われています。
2万人以上が犠牲に 原発事故も 震災の「課題と教訓」
東日本大震災では、「関連死」を含めた死者・行方不明者が2万2200人以上に上っています。
東京電力福島第一原子力発電所で世界最悪レベルの事故も発生、今も故郷に帰れない人がいます。
この震災では「事前想定」のあり方に加え、「津波避難」や「被災者支援」のあり方など、多くの教訓も残されました。
教訓①「想定」 “想定の対象外”だった地震・津波
東日本大震災をめぐって多く聞かれたのが「想定外」という言葉でした。
当時“1000年に1度”とも言われたような東日本大震災を引き起こした規模の巨大地震は、「想定の対象外」でした。当時の国の想定は「過去数百年間」に発生した地震や津波をもとに作られていたからです。東日本大震災クラスの巨大津波を起こしたとされる地震に869年の「貞観地震」がありましたが、調査研究は進んでいませんでした。
これについて、国の防災基本計画を作る中央防災会議は「十分反省すべき」とし、事前の想定を作る際には「あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震・津波」を想定することが基本となりました。楽観的ではなく、悲観的な想定を行うこととしたのです。
大地震のリスクがあるとされている、東北沖合の「日本海溝」や「南海トラフ」、「千島海溝」、それに「首都直下地震」の被害想定は、いずれもこの考え方をもとに作られています。
関連記事:千島海溝・日本海溝巨大地震 被害想定 死者約19万9000人
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ただ、2024年1月1日に発生した能登半島地震をめぐって、想定の甘さが専門家から指摘されています。また国の活断層のリスク評価でも、能登半島地震に関係があるとみられる活断層は含まれていないなど、断層の評価や想定が進んでいないところがあるのも現状です。
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教訓②「津波避難」 “大丈夫”と避難しなかった人も
東日本大震災による犠牲者の多くが「津波」によるものでした。
地震後の調査から、災害の規模を本来より小さく考えてしまい避難しなかった人がいたことが分かっています。
「津波の予想の高さが3メートルとなっていて大丈夫と思っていた」
「防波堤の10メートルには余裕があると思い家の中にいた」
(気象庁の聞き取り調査)
こうした声の要因の一つとされたのが、津波警報の「第1報」の内容でした。
地震の3分後に出された津波警報の「第1報」の予想高は、宮城県で6メートル、岩手県と福島県で3メートルなどと、実際の津波の高さを大きく下回りました。
前述したように巨大地震の断層破壊は3分程度続きました。今の技術ではマグニチュード8を超えるような地震の規模を短時間に正確に推計することができないのです。実際に地震直後に気象庁が推計した地震規模は、マグニチュード7.9(最終的に9.0と推計)。これをもとに推計した津波の予想高が過小になってしまったのです。
このため気象庁は、巨大地震の際にも警報の内容が過小にならないようシステムを見直すとともに、過小評価の可能性がある場合、津波予想高を「巨大」などと表現し、非常事態であることを伝えるよう改めています。
“巨大防潮堤”が誘った油断も
また “巨大防潮堤”の存在も避難の遅れにつながったとされています。
高さ10メートルの防潮堤に囲まれ、「津波防災の先進地」として知られていた岩手県宮古市の田老地区では、181人が犠牲となりました。「防潮堤が油断につながった」という証言があります。
田老地区に限らず、災害規模を本来より小さく考えてしまい、避難できなかった人が多くいたと考えられます。
関連記事:巨大防潮堤が生み出す“射流” とは~足首の高さで流される津波
そして、避難したにも関わらず、命を落とした人も多くいたことも忘れてはいけません。一度避難したあとに自宅に戻った人や、車で避難して渋滞などに巻き込まれて逃げ遅れた人がいました。指定避難所に逃げたにもかかわらず、津波の犠牲になった人も多数いたという重い事実もあります。
こうした教訓を忘れず、津波のおそれがある場合には「高台など安全な場所に逃げて命を守ること」を徹底することが重要です。
NHKの『呼びかけ』も見直し
“大丈夫だろう”という思いを打ち破り、「避難行動」に移るには、大きなハードルがあります。命の危険が迫った時にどうすれば行動してもらうことができるのか。NHKでも東日本大震災をきっかけに、「命を守る呼びかけ」が見直され、今も訓練を続けています。
関連記事:「東日本大震災を思い出してください!」その時、ことばで命を守れるか
教訓③「被災者支援」避難所・災害弱者・住宅・行政対応の課題
「被災者支援」をめぐっても多くの課題が残り、今も支援が必要とされているものもあります。
避難所 劣悪な環境 “関連死”も
まずは、「避難所」の問題です。
避難所の設置や運営では、指定避難所に十分な物資がなかったり、指定外の場所が避難所として使われたために、被災者に十分な物資が届かないことがありました。また仕切りがなく、多くの人が雑魚寝で過ごすなどして、インフルエンザが集団発生した避難所もあり、衛生や健康管理に問題がありました。
名取市の避難所では、「雑魚寝」で、床で寝る「ストレス」を受けて「睡眠不足」に陥り、その結果「体力や免疫力が低下」し、「呼吸器系疾患」を起こす人が出ていたことも専門家の調査で分かっています。
“女性視点” “災害弱者”対応 今も課題に
現場での意思決定者がほとんどが「男性」だったことも課題とされました。
女性専用の物干し場や更衣室、授乳室がないなど、避難生活に困難を抱える女性が多数に上ったためです。同じように、高齢者や障害者など、「災害弱者」とされる被災者への対応ができない避難所も多くありました。「災害弱者」への対応は、能登半島地震でも大きな課題なっています。
関連記事:避難所の女性トイレは男性の3倍必要~命を守る「スフィア基準」
関連記事:能登半島地震 命をつなぐ「福祉避難所」 避難者受け入れられない施設相次ぐ
東日本大震災での「災害関連死」の死者は、3794人(令和5年3月31日時点)。
対策のカギとして、医師や専門家で作る学会は、避難所の環境改善には、「トイレ・キッチン・ベッド」の頭文字を取った避難所の「TKB」が重要だとして、導入の動きが出ています。
今も続く“住まい”の課題
「住まい」は、今も影響が続く課題です。
東日本大震災では多くの人が家を失い、一時、11万人が自治体が提供する仮設住宅に入居しました。ただ、用地や建設機材確保が思うように進まず、建設に時間がかかったほか、室内の防寒や部屋の広さが十分でないなどの課題もありました。
民間の賃貸住宅を仮設住宅として使う、いわゆる「みなし仮設」も東日本大震災をきっかけに活用が進みましたが、申し込みが殺到した上、不動産会社と自治体間とのルールが明確でなく、事務処理が大幅に遅れるといった事態も起きました。
そして、入居者の「孤立」は今も続く課題です。災害公営住宅では、誰にもみとられずに亡くなる『孤立死』が相次いでいるほか、震災から10年以上たって孤立を深めている人もいて、支援が必要な状況が続いています。
関連記事:“湾岸タワマン”から福島の避難者が見た風景 ~東雲住宅は今
教訓④「広域・大規模災害への即応体制」
被害がきわめて広域に及んだ東日本大震災では、「広域・大規模な災害への即応体制」のあり方も課題となりました。「南海トラフの巨大地震」など広域災害の備えにもつながる教訓です。
“防災拠点喪失”も
岩手県大槌町では役場が津波に襲われて町長を含む職員40人が犠牲となり、“防災拠点”が失われました。震災では東北を中心に28の自治体庁舎が使えなくなり、被災者支援の遅れにつながりました。
国は自治体に対し、災害時にも業務が続けられるよう事前に代替庁舎を決めておくことなどを求めていますが、進んでいないところもあるのが現状です。
“受援力”=支援を受ける力も課題に
役場は使えるものの、対応力の限界を超え、行政機能が著しく低下する自治体も多くありました。
救助や行方不明者の捜索、医療支援やインフラ復旧など、全国から大規模な応援が入って役割を果たした一方、支援規模が最大となる中、受け入れ体制が十分でなく、被災自治体の支援ニーズの把握も十分できないなど「受援体制」に課題が残りました。震災後の法改正で「応援・受援」は明確に位置づけられ、国は自治体に対し、災害時の「応援・受援」体制を整えるよう求めています。
同じように、「ボランティア」の受け入れも、円滑な運用に至るまで時間がかかりました。被災地ニーズの把握や被災地で活動を行う組織間の連携や調整が課題となり、2016年には全国の災害ボランティア団体が集まるネットワーク「JVOAD」が発足し、活動を続けています。
特定非営利活動法人 JVOAD(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)※NHKサイトを離れます
ボランティア受け入れは2024年の能登半島地震でも課題となっていて、被災者支援に結びつけていく仕組みと体制が必要とされています。
関連記事:進まないボランティアの受け入れ 支援強化へ 宿泊所整備も検討
“物資届かず” 「プッシュ型支援」生まれるきっかけに
「物資支援」に関する教訓も生まれ、新たな仕組みができるきっかけになりました。
当時は、被災自治体からの要請を受け、物資供給する「プル型」と呼ばれる支援が基本でしたが、行政機能が著しく低下した自治体も多い中、必要な物資に関する情報は得られず、物資供給が滞ったほか、在庫管理のノウハウが不足し、義援物資であふれる拠点もありました。
震災後の法改正で、命を守るために必要な物資を、自治体からの具体的な要請を待たずに国が緊急輸送する「プッシュ型支援」が行われるようになったほか、ノウハウを持つ物流会社との連携も進んでいます。
教訓⑤「帰宅困難者」首都圏で515万人
都市部や観光地を中心に大量の「帰宅困難者」も出ました。
東北では、避難所に想定以上の人が集まって混乱したり、物資不足につながりました。首都圏の1都4県では帰宅困難者の数は515万人に上ったとみられ、30キロ以上を歩いて帰った人も多かったといいます。
想定される「首都直下地震」が起きた場合、その数は最大で800万人と推計され、「群集雪崩」の発生など命に関わるリスクも懸念されています。有効な対策は一定期間、「帰らない」ことですが、それができるよう社会全体で備えを進める必要があります。
関連:それでもあなたは帰りますか? 帰宅困難者「群集雪崩」の危険
ここまでに書いた教訓は、ほんの一部にすぎません。
「東京電力福島第一原発事故」も重なったこれまでにない規模の広域・複合災害だった東日本大震災では、「救助活動」や「災害廃棄物の処理」、「復興制度」を含む法律上の問題など、このほかにも多くの課題と教訓が残されました。
その後の災害対応に生かされているものがある一方、2024年の能登半島地震災害でも同じような課題が起きています。
「備えたことしか、役にはたたなかった」
東日本大震災当時、陸・海・空を管轄する国土交通省の出先機関のトップを務めた官僚の言葉です。
経験のない大災害に直面しながら、ヘリの運用や道路啓開、被災地支援など数々の判断を迫られた決断は、震災が起きる前までの「備え」が支えていたというのです。
関連記事:備えたことしか、役には立たなかった ~ある官僚の震災~
「災害大国」とも言われる日本に住む私たちが今できることは何か。
2011年3月11日。
あの日、何が起きたのかを知り、災害の「備え」につなげていく必要があります。
⇒特設サイト「3.11 伝え続ける 東日本大震災から13年 」
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