進まないボランティアの受け入れ 支援強化へ 宿泊所整備も検討

能登半島地震で被災した地域の復旧に欠かせないのがボランティアの力です。

石川県のボランティアに参加するためにおよそ2万6200人が事前登録をしていますが、宿泊場所の不足もあり、実際に被災地で活動した人はのべ2739人にとどまっています。

このため、石川県は被災地に「仮設宿泊所」を整備し、支援を強化していきたいという考えを示しました。

約2万6200人がボランティアの事前登録しているものの…

石川県によりますと、能登半島地震を受けて県のボランティアに参加するための事前登録を行った人は、今月16日の時点でおよそ2万6200人です。

これに対し、実際に被災地で活動した人はのべ2739人にとどまっています。

受け入れ態勢整わず 3回目の応募で初参加のボランティアも

こうした中、18日、輪島市では3回目の応募で県のボランティアとして参加したグループが活動していました。

ボランティアに参加したアメリカの製薬大手の日本法人の社員たちは、先月下旬に2回、石川県のサイトを通じて七尾市のボランティアに団体として応募しましたが、すぐに締め切られ、参加できませんでした。

そして、輪島市がボランティアの募集を行った今月5日、募集開始と同時にサイトにアクセスし、県のボランティアとして参加できることになったということです。

その後、17日から2日間、全国から集まった社員20人が団体として活動を行いました。

18日は、輪島市の住宅で、社員5人と県の職員が地震の揺れで倒れたタンスを元の位置に戻したり、割れた蛍光灯の破片を掃除したりするなど、片づけ作業を行っていました。

参加した男性社員は「一刻も早く役に立ちたいという思いがあったので、実際に被災した方からお礼の言葉を聞いたときには役に立ててよかったと思いました」と話していました。

ボランティアを依頼した、この住宅に住む男性は「ボランティアが来るのはもう少し先になると思っていました。被災者の思いをくんで助けに来てくれて、これほどありがたいことはないです」と話していました。

独自の拠点設けて活動続ける専門ボランティアも

断水などの影響でボランティアの宿泊場所の確保が難しい中、支援活動の経験が豊富なボランティアの中には、独自の拠点を設けるなどして自立して活動を続ける団体もあります。

愛知県に拠点を置く災害復旧支援のボランティア団体は、地震発生直後から被災地に入り、活動を続けています。

地元の社会福祉協議会からの相談や、住民からの直接の依頼を受けて活動にあたり、在宅避難者への支援物資の配布や、被災者への炊き出し、がれきに埋もれた車の救出や、大きながれきの撤去など、活動の内容は多岐にわたるということです。

18日は珠洲市の社会福祉協議会からの依頼を受けて、本堂などが倒壊し大きな被害を受けた市内の寺で、重機を使って崩れた塀を撤去していました。

この団体は支援を長期的に続けるため、珠洲市内に寝泊まりができる独自の活動拠点を設けて活動しています。

活動拠点は、もともとはクリーニング店だった空き家で、この団体が去年5月に起きた地震の際に支援をした地元の人から紹介してもらったということです。

拠点には団体のメンバーが寝泊まりするスペースがあるほか、入浴もできるようになっています。

最近は、地元の人も使うことができる仮設のトイレも設置しました。

藤野龍夫 代表

災害復旧支援ボランティア「チームふじさん」の藤野龍夫 代表は、現在の活動状況について「団体のメンバーは、自己完結でき、車中泊も平気だという『つわもの』ばかりですが、それでも疲れがたまります。復旧を少しでも早く進めるためには多くのボランティアが宿泊し、現場で長い時間活動できる拠点づくりが必要だと思う」と指摘していました。

また、県や被災した自治体の対応については「行政側も大変だと思うが、過去にはボランティアの活動拠点をつくった被災地もある。平時から行政がボランティアの受け入れを考えることが必要だと思う」と話していました。

その上で、過去に支援した災害と比べても珠洲市では倒壊した建物が多く、高齢の住民も多いため、ボランティアの需要が高いと指摘し「特に高齢の方の住宅では若いボランティアの力が必要になる。家の中の片づけや崩れた瓦やブロック塀の撤去など、一般のボランティアでもできる作業はたくさんあるので、環境が整えばぜひ来てほしい」と話していました。

活動時間確保へ きょうから1日4時間以上の活動可能に

ボランティアの活動を強化するため、きょう新たな動きがありました。
石川県では、被災地の道路状況が悪く、移動に長時間かかることや現地で宿泊先の確保が難しいことから、災害廃棄物の片づけなどを行う一般のボランティアについて、県の特設サイトで募集し、人数を限定して金沢市から日帰りのバスで派遣しています。

しかし、現場で活動できる時間が短いという声があがり、石川県は活動時間を4時間以上確保するため、19日から帰りのバスの時間を、輪島市、珠洲市、能登町で1時間半、穴水町では1時間、遅らせることにしました。

活動時間が1時間半長くなった珠洲市では、19日はおよそ30人のボランティアたちが10人一組となって活動しました。

このうち、野々江町で1人で暮らす番匠重男さん(71)の自宅では、ボランティアが延長された時間を活用して周りの壊れたブロック塀を拾い集めたり、破損した家財などを片づけたりする姿が見られました。

大阪から来た2回目の参加だというボランティアの男性は「先週も珠洲市で活動しましたが時間が短かったです。きょうからは延長されたので、体力を出し切って被災者の役に立ちたいです」と話していました。

ボランティアを依頼した番匠さんは近くの避難所で生活しながら、片づけのため自宅に戻る日々を続けていましたが、3週間ほど前に腰を痛め、それ以降は片づけができなくなっていたといいます。

番匠重男さん

19日に初めてボランティアが自宅に来たということで「重いものを持ってくれるし、仕事が早いし、感謝感激です」と話していました。

ボランティアのとりまとめを行っている珠洲市社会福祉協議会の塩井豊 事務局長は「地震前と比べて金沢から来るのに2倍の時間がかかることもあり、個人のボランティアが殺到すれば渋滞も起きかねないと心配していて、今は事前登録して来てもらうのがよいと考えています。その中で活動時間を少しのばせれば、少しでも作業が進んでいくと思います」と期待感を示していました。

馳知事 被災地に「仮設宿泊所」整備の考え示す

石川県の馳知事は、能登半島地震の被災地で職員やボランティア向けの宿泊場所が不足し、現地での活動時間が限られていることを受けて、県や自治体が設置し民間の事業者が運営する「仮設宿泊所」を整備したいという考えを示しました。

能登半島地震で大きな被害を受けた石川県内では、自治体から派遣された職員のほか、ボランティアやインフラの工事を担う事業者など、1日にあわせて8000人ほどが被災地に入り、復旧作業にあたっています。

ただ、宿泊施設のほとんどが被災して営業できなくなっているため、多くの人は寝袋を使った避難所での寝泊まりや長時間の移動を強いられ、現地での活動時間が限られることが課題となっています。

これについて石川県の馳知事は、19日の記者会見で「県はおよそ1200人分の宿泊場所を確保しているが、いまだ不足している。今後は中長期の職員の派遣やボランティア活動の本格化で宿泊の需要は増加する」として、被災地に「仮設宿泊所」を整備したいという考えを示しました。

県や自治体が土地を確保したうえでコンテナハウスなどのプレハブ式の施設を整備し、被災したホテルや旅館の事業者に運営を任せる方向で検討しているということです。

有料とすることで、宿泊場所の確保とともに、被災したホテルなどの支援にもつなげることを想定しているということです。

馳知事は「活動拠点近くの宿泊場所が不足しているために支援者が十分に活動できない状態にある。迅速な復旧のために宿泊の拠点となる施設の確保と充実が重要だ」と述べました。

専門家「多様な受け入れルートつくり 活動進める仕組み必要」

防災が専門で、災害ボランティアにも詳しい神戸大学の室崎益輝 名誉教授は「被災者のニーズに応えられるだけのボランティアが被災地の中に入りきれていないのが現状だ。移動手段や受け入れ態勢の限定が原因だと考えるが、現場のニーズから考えれば、なるべく努力をして1人でも多くのボランティアが被災者のもとに行けるように考えるべきだ」と話しています。

その上で「今回は比較的、県が責任を持ってやろうという姿勢や意識が強いと思う。それはとてもいいことで、ボランティアの背中を押す役割を行政は持っているが、一方で、ボランティア自身の自発性や自主性をどう引き出していくかも重要だ。多様な受け入れのルートをつくり、行政や地域のコミュニティー、ボランティア団体などが力をあわせて活動を進めていく仕組みが必要だ」と指摘しています。