2020年10月12日
中小企業やベンチャー企業はただでさえ情報が少ないのに、新型コロナウィルスの経済影響もあって、先行きが不透明。でも・・・、大手にはないキラリと光る企業を自力で調べて、判断したい。そんな、みなさんに役立つノウハウを、“企業信用調査のプロ”帝国データバンクに、学生リポーターが聞いてきました。
(聞き手:勝島杏奈 田嶋あいか)
就活でベンチャー企業を調べていた時、ホームページはあるけど、財務情報などは公開されていないことが多かったです。何か他に知る方法があれば、とすごく思ったんですけど。
なるほど。身近なところですと、その企業の採用人数をさかのぼって確認してみる手がありますよ。
採用人数をさかのぼると何かわかるんですか?
例えば、2年前は3人採用だったけど、去年は10人採用しているとします。
この場合は、業績が拡大しているとか、支店を増やして人手がいるんだな・・・とかが考えられます。
逆に離職者が相次いで人手不足になっている、という可能性もありますよね。
なるほど。
それから、その企業が扱っている商品やサービスを実際に見て、本当に市場で必要とされているか、確認することも大事です。
どう確認すればいいですか?
商品ですと、本当に消費者から評価されているのか。
サービス系だったら、実際にそのお店に行ってみる。
お客さんが入っているのか、
従業員に活気があるか、
お客さんがどんな顔をしてお店から出てくるのか、
などがチェックポイントです。
たしかに。
自分で調査するって考えがなかったので、ネットの情報に頼りがちでしたけど、実際に自分の目で見てみるって大事ですね。
一番大切なのは、現場をみることですね。
アポは取らなくていいので、気になる企業の本社へ行ってみて、みんな元気で働いているかどうかを見ることです。
行ってみてガランとしていたら「あれ何で誰もいないんだろう?」って思いますよね。
はい、怪しいなって思います。
アポイントをとって行ける機会があったら、見て欲しいポイントがあります。
例えば、受付に生けた花が、きれいな形で保たれていたら、ちゃんと水をやる人がいるってわかりますね。逆に枯れてたら、全然みんなそういうところに注意を払っていない。
なるほど!
訪問される方に良い気持ちになってもらうために、清潔にしたり、整理整頓したり、花を生けたりというところに気をつかえる会社は、往々にして資金的にも気持ち的にも余力があります。
企業訪問でそこまで考えたことがなかったです。
例えば社員のゴミの捨て方が無頓着とかちょっとしたことでも、どこかに負担が偏って不満が生まれ、退職者が増え、業績悪化へ・・・ということもあります。
目に入るところから想像力を働かせて、自分の好みかそうでないかを判断していけばいいと思います。
背景を想像しながら見ることが大切なんですね。
あとは、そのベンチャー企業が取引していそうな企業や株主をヒントに探して調べるとか。
取引先は、どこで見ればいいですか?
企業のウェブサイトや会社案内ですね。
一般的に上場企業や大手企業と取引するのはハードルが高いことが多いです。
でも、そのベンチャー企業の取引先に大手企業の名前があったら取引を開始するにあたりハードルをクリアできたと見ることができます。
たしかに。
また、東京中小企業投資育成(株)など公的な投資機関が投資していれば、将来性が見込まれた会社だとみることができますね。
東京中小企業投資育成株式会社とは
中小企業投資育成株式会社法に基づいて、1963年に設立された国の政策実施機関。
中堅、中小企業に対する出資と成長支援を行う。
財務情報はどうでしょう?
ベンチャー企業の財務情報なら官報を使うのもありです。
官報?
基本的に会社には、決算を公告する義務があります。
それを守っている会社は官報等に決算公告を載せているので、そこから決算の数字が分かります。
官報は毎日発行されているものは30日以内でしたらインターネット版で誰でも見られます。
それ以前のものを検索したい場合は、最寄りの図書館などで「官報情報検索サービス」を扱っているところを探してみてください。会社名で検索することができます。
そこまでできたら本格的ですね!
官報って地方にある小さな企業も載っているんですか?
決算公告については載せている企業と載せていない企業があると思います。
三重県の郊外の出身なのですが、そうした地方の企業も官報で見られますか?
出ているかどうかは(見てみないと)わかりませんが、掲載の対象は全国の企業です。
そうなんですね。
どんな企業があるのかさえ、あんまり知らなくって。
地方のあまり知られていない企業を探すのであれば、経済産業省のウェブサイトで「地域未来牽引企業」というのがあります。
どういう企業が載っているんですか?
地域経済への影響力が大きく、成長性が見込まれ、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手、および担い手候補である企業という基準になっていますね。
試しに三重県を見てみると…
こうやっていっぱい出てきますね。
これから先、伸びていくだろうっていう期待の企業ということですか?
そういう企業もありますし、元々業績が良い企業も入っていると思います。
こんなのあるんですね。全然知らなかったです。
志望企業を決める情報収集で「これだけは最低限やっておいて」っていうアドバイスがあれば教えてください。
繰り返しになりますが、「実際に足を運んでみること」です。
イメージだけでなく可能な限り、そこで働いている人を見て、社内を観察して、その上でその会社に行きたいかどうか考えてください。
志望企業については、企業研究をし尽くしてから行きますよね?
でも、実際行ってみると「こんなにいいサービスだし、業績もいいけど、なんかここのカラー合わないかも」ということもあると思うんです。
わかります!
逆に「業績は厳しいんだけど、このサービスすごく好きだし応援したい」みたいなケースもあると思います。
実際社員の方にお会いしたらやっぱりいい会社だったとか。
倒産のリスクを考えると業績悪化はよくない要素ですけど、最後は自分で現地を訪れて、その職場で、その仕事をしたいと思うなら行くべきだと私は思います。
なるほど、勉強になります。
誰でも自分が入社した会社が倒産して欲しくはないですよね。
でも、入社する前の時点で倒産回避のことばかり考えてしまうと、自分がやりたいことが分からなくなってしまうと思うんです。
たしかにそうですね。
「業績悪化しているから嫌だ」とかいうのは簡単ですが、まだ自分は何もしていないじゃないですか。
それよりは、実際に見てその事業をやりたいかどうかで決めて、それにプラス決算書などを見て、未来があるかどうかを判断する。
もしも、未来がないと思った時は?
「この企業はこのままやっていけるか厳しいから、同じ業界で別の企業を探そう」という発想でもいいと思います。
直近の業績はよくないけれど、未来が期待できる企業の決算書ってどんなものですか?
やはり純資産というか、自己資本比率の高い会社は業績が悪化しても内部留保があって資金的余裕があると判断されるので、取引先もちょっと業績が落ちていても取引を続けますね。
あとは株主に大企業が入っていたり、大企業の子会社だったりすると倒産リスクは低いとみなされます。
企業の倒産にもいろいろあるんですね。興味が出てきました。
では、私の専門でもある企業倒産についてはまた次回お話ししましょう。
【帝国データバンク史料館より】
帝国データバンクの前身、帝国興信社(のちに帝国興信所と改名)は、民間の興信所として明治33年3月3日に設立。
右は、大正時代の信用調査報告書。
当時から調査員が直接現地を確認する調査方法が原則で、信用は5段階評価だった。(左写真は、同館学芸員の福田美波さん)
次回は、倒産の予兆がどんなところに現れるのかをおうかがいします。近日公開予定。
あわせてごらんください
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