【熊本地震の教訓】命を守る11の防災キーワード

2016年4月14日と16日。熊本地震では2度にわたって最大震度7の激しい揺れが襲い、およそ20万戸の住宅が被害を受けたほか、災害関連死を含めて熊本県・大分県で276人が亡くなりました。
熊本地震から見えてきた命を守るための防災の教訓を11のキーワードで振り返ります。
目次
①倒壊した建物 多くが「旧耐震」

熊本地震では圧死など、地震の直接的な被害で50人が亡くなりました。
静岡大学の牛山素行教授の調査によりますと、14日の前震の後にいったん避難したものの、その後家に戻り、家で16日の本震にあって死亡した可能性が高い人が、少なくとも13人いたということです。
古い木造住宅などでは、大きな揺れの後は必ず避難することが重要です。
住宅の耐震性は「耐震診断」を受けることで確認できます。多くの自治体が診断や耐震工事に補助をしているので、不安のある方は役場に相談してみてはいかがでしょうか。
日本建築防災協会「耐震支援ポータルサイト」はこちら(NHKサイトを離れます)②相次いだ「車中泊・軒先避難」

NHKが地震発生から2週間後に、車中泊をしている100人に行ったアンケートでは、車中泊の理由について、69人が「余震が続き自宅に戻るのが怖い」、67人が「被害を受けて自宅に戻れない」と回答していました。
こうした生活が長期化したのも熊本地震の特徴です。
車中泊や避難所生活で警戒が必要なのがエコノミークラス症候群です。
③「エコノミークラス症候群」で亡くなった人も

熊本地震では、避難生活の中でこのエコノミークラス症候群を発症し、亡くなった人もいました。

防止のためには、歩いたり、軽い体操やストレッチをしたりすることや、足をマッサージすること、水分補給をこまめにすることなどが必要です。また、締め付けが強い「弾性ストッキング」をはくのも効果的です。

④避難所生活 命を救う「スフィア基準」
避難所の環境について、被災者から「避難者があふれていて雑魚寝しかできなかった」「地獄のような環境だった」などといった声も聞かれました。

例えば「1人あたりのスペースは、最低3.5平方メートル(2畳分)確保する」こと。トイレについては「20人に1つの割合で設置し、かかる時間を考慮して男女比は1:3で設置する」ことなどが定められています。
こうした基準をもとに、少しでも快適な避難所を目指していくことが災害時に命を救うことにつながります。
関連記事「命を守るスフィア基準」はこちら役場の職員の人手が限られる中で、避難所の運営に住民が協力することでスムーズに運営されたケースもありました。
多いときで700人余りが避難した西原村の河原小学校では、子どもからお年寄りまで、それぞれの得意分野を生かして役割を分担しながら避難所が運営されました。

例えば、給食調理師が炊き出しのリーダー、元自衛官がスムーズな配膳の流れを考え、中高生は小さい子どもの遊び相手を務めました。
災害時の共助、助け合いがより快適な避難所生活につながることを示した一例でした。
関連記事「命を守る避難所のTKB」はこちら⑤その情報って本当?「災害デマ」に注意!

投稿者は警察に逮捕される事態となりました。
過去の災害でも事実に基づかない情報が拡散し、混乱を起こしたケースは数多くあります。災害時、SNSなどに流れる情報が正しいかどうかは冷静に見極める必要があります。
関連記事「“地震雲”に“人工地震” いいえ、違います」はこちら関連記事「人工地震ではありません…専門家に聞きました」はこちら
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⑥「余震」という先入観…「本震」の発生

1度目の揺れ(マグニチュード6.5)の28時間後、よりエネルギーの大きい2度目の大きな揺れ(マグニチュード7.3)が発生しました。
その後、気象庁は1度目の大きな地震が「前震」で、2度目の地震が「本震」だと発表しました。
また、熊本地震を受けて、気象庁は大地震の後の防災の呼びかけ文も変更しました。
「『余震』という言葉を使うと、最初の地震よりも規模の大きな地震は発生しないという印象を与える」というのが理由です。
発生からおよそ1週間は「余震」ということばを使わず、例えば「今後1週間程度は最初の大地震と同程度の地震に注意が必要」などと呼びかけるようにしました。
⑦「病院避難」で相次いだ災害関連死
宮﨑花梨ちゃん(当時4歳)も、その1人です。

花梨ちゃんには生まれながらの心臓病があり、旧熊本市民病院に入院していました。熊本地震の時は手術後で、絶対安静が必要でした。

しかし、新耐震基準を満たしていなかった病院の建物は、地震によってダメージを受けて倒壊するおそれがあり、ライフラインも寸断するなどして、医療が継続できない状態に。花梨ちゃんは100キロ離れた福岡の病院への転院を強いられ、転院後、亡くなりました。
熊本地震まで国の耐震基準を十分に満たしていない病院も多く存在しました。耐震化や病院の機能継続のための対策が求められています。
関連記事「一度は助かった命 震災関連死」はこちら⑧危険度「Sランク」活断層 全国に31

活断層とは日本の内陸や周辺海域にある断層で、地質調査などで繰り返しずれ動いて地震を起こしていたことが確認されているものをいいます。
活断層による地震は震源が比較的浅く、内陸で起きると熊本地震や阪神淡路大震災のように甚大な被害をもたらします。
関連記事「活断層と言われてわかりますか?メカニズムは?」はこちら2023年1月1日の時点で、最も切迫度が高い「Sランク」に分類されている活断層は全国に31あります。

「日奈久断層帯」の一部区間はこのSランク。
熊本地震のときは動かなかった南側の区間、いわゆる“割れ残り”の「日奈久区間」「八代海区間」で、地震の危険性が高いとされているのです。
九州大学や京都大学などが日奈久断層帯を調査した結果、日奈久断層帯がずれ動いた場合、熊本市から八代市付近にかけては最大震度7の強い揺れが起こると予想されています。

八代海では地震からすぐに津波が発生するおそれも指摘されていて、備えが必要です。
関連記事「内陸直下 活断層による地震に警戒を」はこちら⑨「盛り土」「軟弱地盤」は被災リスクも…
熊本地震では、谷を埋めたり斜面に土を盛ったりして平らな土地を作る「盛り土」で造成された土地が崩壊するケースがありました。

すべての場所で危険なわけではありませんが、盛り土のリスクは、過去の災害でも指摘されています。

また、地下の柔らかい地盤、「軟弱地盤」によって揺れが増幅されることがあります。被害の大きかった益城町の中心部では、地下に複雑に「軟弱地盤」が広がっていた可能性が指摘されています。
関連記事「揺れを増大させる軟弱地盤」はこちら関連記事「盛り土のリスクを調べるには?」はこちら
⑩「BCP」で事業継続

ソニーの関連会社など、熊本に集積していた多くの半導体製造の工場が被災。その影響は全国のサプライチェーンに波及しました。
こうした連鎖的な影響は東日本大震災のときも課題として指摘されました。災害などがあっても企業が主力事業を継続できるよう準備しておく「BCP(Business Continuity Plan)=事業継続計画」の重要性が、熊本地震でも改めて認識されました。
関連記事「BCPとは・・・どうやって作る?」はこちら関連記事「ここから始めるBCP ガイドブック」はこちら
⑪命を救う「コールトリアージ」

熊本市や益城町、西原村を管轄する熊本市消防局には地震直後から通報が殺到。
前震の発生した14日から本震のあった16日までの間に、平常時の約10倍にあたる2800件余りがよせられました。
しかし、通報の6割にあたる1700件は、救助や救急とは関係のない、緊急度の低い通報でした。「停電した」「避難所はどこか」などの問い合わせが非常に多かったといいます。
熊本市消防局はこの教訓をもとに、通報の重要度を判断するための「コールトリアージ」のマニュアルを全国で初めて作成して、次の地震に備えています。

しかし、私たち市民の通報の使い方も重要です。本当に必要なところに救助を向かわせるため、災害の直後、緊急度の低いライフラインの問い合わせなどの通報はひかえるようにしましょう。
われわれ市民にも冷静な判断が求められます。
関連記事「熊本地震 救助・救急に無関係の通報6割」はこちら関連記事「大災害時代 助けが来ないかもしれない…」はこちら
熊本地震の教訓を、次の災害への備えに

都市部を2度にわたって突然襲い、災害関連死を含めて270人以上が亡くなった熊本地震。地震大国・日本ではどこでも同じような地震が起こる可能性があります。また、南海トラフ巨大地震への備えも必要です。
「病院避難」によって娘の花梨ちゃんを災害関連死で亡くした宮﨑さくらさんは、私たちに「同じような災害があったときに、二度と同じ亡くなり方をする人が出てほしくない。教訓を生かしてほしいんです」と語ってくれました。
あなたや家族の命、財産を守るため、熊本地震で得られた学びや教訓をぜひ覚えておいてほしいと思います。
熊本放送局 記者 岸川優也
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