地震 教訓 知識

“災害デマ”はなぜ拡散するのか 「善意」が被害を拡大させる

災害時に必ず流れるデマや根拠のないうわさ。首都直下地震が起きると、近年にない深刻な事態につながるおそれがあると専門家は指摘します。SNSの発達で「拡散」のスピードが、かつてなく速くなっていることも原因です。“災害デマ”は、なぜ拡散するのか。理解するためのキーワードは、「不安」、「怒り」そして「善意」です。(社会部 災害担当記者 森野周)

目次

首都直下地震の“デマ” 最悪のシナリオは

首都直下地震が起きた際、デマやうわさで、どのような被害が発生するのか。災害時のデマに詳しい東京大学准教授の関谷直也さんは人の命が失われるような事態が起きるおそれもあると指摘します。

その大きな原因は「人口の集中・密集」です。関谷さんが、地震のあとに起きる可能性があると考える「最悪の流れ」は、次のようなものです。

・避難所に人が密集 正しい情報が不足 多くの人が不安を抱えた状況に
・「火災旋風」などの被害に関するデマやうわさが広まり、誰かが騒ぎだす
・その大声をきっかけに人々が「パニック状態」になる
・避難所の狭い出入口から逃げようと人が一斉に向かい、「将棋倒し」が起きる…

関谷さんは「首都直下地震では人口が集中する東京特有のデマやうわさの被害が発生する可能性がある」と指摘します。

デマの要因「不安」「怒り」「善意」

なぜ、災害時にはデマや根拠のないうわさが生まれ、そして拡散するのか。関谷さんはその主な要因を3つに分類します。「不安」「怒り」そして「善意」です。

東日本大震災であった実際の例です。千葉県市原市の製油所が爆発したとき「有害物質の雨が降る」という、うわさが出ました。結果的に根拠がない情報でしたがSNSで瞬く間に拡散しました。

激しく炎を上げるコンビナート 2011.3.11千葉 市原

関谷さんは、得体の知れないことが起きているという「不安」、いつ事態が収まるのかという「怒り」、そして、「少しでも人の助けになる情報を伝えよう」という「善意」の3つが組み合わさって拡散したと考えています。

SNS普及で拡散早く

この3つの要素は、インターネットを利用する人の感情との親和性も高く、デマやうわさの拡散の速度はSNSの普及でかつてなく早くなっていると言います。

関谷さん
「ふだんのうわさは『誤っている』と分かれば沈静化するケースも多いが災害後の“デマ”やうわさはファクトチェックができません。そうした中でも、「不安」と「怒り」に「善意」が加わって結果的に“デマ”が拡散されていくのです」

関東大震災 “うわさ”が殺害に

災害時のデマやうわさで気になるのが「差別」の問題です。96年前、1923(大正12)年に起きた関東大震災。国の中央防災会議の報告書によりますと「朝鮮人が井戸の水に毒を入れたらしい」といったうわさを元に、多くの朝鮮半島や中国からの出稼ぎ労働者、地方出身者などが民衆や軍、警察によって殺害されました。その数、数千人とも言われています。

関東大震災 東京 有楽町付近の火災

関谷さんは、当時の外国人排斥の動きが、災害後の「不安」や「怒り」と結びついて、殺害につながった可能性があると分析しています。

首都直下地震で「外国人デマ」は…

今でも災害のたびに外国人に関する根拠のないうわさが流れます。東日本大震災では、宮城県石巻市で「中国人の窃盗団が略奪をしている」といううわさが広がりました。実際には、こうしたケースは確認されなかったと言います。

東京で増え続ける外国人労働者や外国人観光客。首都直下地震で同じようなことが起きないか心配になります…。関谷さんに率直に聞いてみました。

関谷さん
『首都直下地震でも確実に外国人に関するデマやうわさが拡散すると思います。そもそもデマやうわさはインターネットがなかったとしても「不安」や「怒り」に よって広まります。さらにデマやうわさは、今のネット空間と非常に親和性が高い。首都直下地震のような極限の状況でどのような影響が出るのか、専門家でも予測が難しいというのが正直なところです」

“災害デマ”にだまされないためには

“災害時のデマ”にだまされないためにはどうすればいいのか。関谷さんは「特効薬はない」としたうえで、「“デマ”やうわさの構造」を知ることが重要だと言います。

関谷さん
「『流言は智者に止まる』という格言があります。根拠のないうわさが広まっても知恵のある人はそれを他人に話さないから噂はそこで止まるという意味です。“デマ”やうわさは不安や怒り、善意といった「感情」と結びつくことを知ったうえで本当かどうかわからない情報がきた時にうのみにしない。拡散しない、すぐに行動につなげないという「情報に対する態度」を身につけることが大事です。過去の災害で起きたデマやうわさについても、できるだけ知っておいてほしい」

また、行政や企業、報道機関が、正しい「一次情報」を速やかに伝えることも、大事だと指摘します。

関谷さん
「デマやうわさが広まるのは情報が不足していることを表しています。東日本大震災のときの千葉県の製油所の爆発では、企業が「有害物質の雨が降る」といううわさを企業がすぐに否定する情報を出し、比較的早く収まった。デマやうわさを防ぐことはできないが、ひとつひとつしっかりした情報を出すしかない」

「加害者」にならないためにも…

「不安」、「怒り」、「善意」による情報の拡散。災害時だけでなく、日々、SNSなどで目にする光景だと思います。感じたのは、自分が「だまされる側」になるだけでなく、「デマを拡散する加害者」になってしまう可能性もあるということです。

災害時に深刻な事態を生まないために、単なるデマやうわさの問題と軽視せずに、日ごろから考えておくことが大事だと感じます。