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地震 知識 教訓

「活断層の地震」と言われて わかりますか?

「活断層がずれ動いた」

大きな地震の後、しばしばニュースで専門家が口にするこのフレーズ。阪神・淡路大震災も活断層がずれ動いたことで引き起こされた。

…と、それっぽく書き出してみたが、恥を忍んで言うと私(高杉)は災害現場での取材経験はあるもの、活断層が動くことの意味や、そもそもの定義など、きちんと理解できていない…

阪神・淡路大震災で祖父や祖母が被災していたにも関わらずだ。

だから私は、現地へと向かった。
(ネットワーク報道部 記者 高杉北斗)

※文末で活断層の位置やリスクがわかるマップを紹介

目次

    長さ10キロのずれ-兵庫県淡路島-

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    職場のある東京から5時間、新幹線とバスを乗り継いで到着したのは兵庫県淡路島にある野島断層保存館。

    1995年に阪神・淡路大震災を引き起こした地震(兵庫県南部地震)で現れた断層の一部が保存されていた。

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    地震で突然現れた高さ50センチメートルほどの食い違い。

    横にずれた側溝、アスファルトの道路が隆起し崩れた跡。

    舗装された道路がこんな形になってしまうのか…。

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    地震後に見つかった地表の変化は、最大で2メートルのずれ、段差は1.2メートルで、長さは10キロに及んでいたという。

    6434人の命を奪った阪神・淡路大震災。その原因となった活断層は大地の形をこれほどまで変えてしまった。そのエネルギーの大きさを今に伝える場所だった。

    野島断層保存館 米山正幸さん
    「今の時代、阪神・淡路大震災について、ネットで学べることもたくさんあります。発生した時間・地震の規模・死者の数。ただ、この場所は数字だけではわからない、『わずか10秒でこんなになってしまったんや』という自然災害の恐ろしさを身近に感じてもらえる体験ができると思います」
    阪神・淡路大震災
    平成7年(1995年)1月17日(火)午前5時46分、淡路島北部を震源とするマグニチュード7.3の大地震が発生し、国内で観測史上初となる「震度7」を記録。犠牲者は6434人、全半壊など被害を受けた住宅は約63万棟にのぼった。

    おじいちゃん、おばあちゃんが住んでいた町にも

    震災が発生した時、私は4歳。当然、当時の記憶はない。

    実は、淡路島から50キロほど離れた場所に今は亡き祖父母が暮らしていた。神戸市東灘区住吉台。その地域も活断層の上にある場所だった。

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    神戸市東灘区 1995年1月19日撮影

    幸い2人とも無事だったが、家の周りで建物が崩れたり、ライフラインが途絶えたりしたため、家に住めなくなった。

    2人は私たちの住む東京の家に向かうことを決めた。住吉台の家から西宮駅まで2時間の道を歩いて向かい、途中はぐれてしまうトラブルにも巻き込まれたものの、無事に東京にたどり着き避難生活を送っていたそうだ。

    今回、現地に行った際に改めて祖父母の家の周辺を見てみる。近くでは地震で土砂が崩れ、今も保全工事をした跡が残っていた。

    祖父母がなくなる前、私は何度も訪れていたにも関わらず、近くにこうした場所があることを気にもとめていなかった。

    食い違う石-静岡県函南町-

    活断層をもっと知りたい。いや知らなければならない。

    私は別の活断層の痕跡も見に行くことにした。

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    伊豆半島の北部、静岡県函南町には不規則に並んだ石がある。

    元々は円の形()に並べられていたものが、活断層が動いたことで半円が食い違うようにずれてしまっていた。

    1930年11月26日発生した「北伊豆地震」だ。

    北伊豆地震
    1930年(昭和5)年に発生したマグニチュード7.3の大地震。建物の倒壊などで259人が死亡した。写真の場所は神奈川県箱根町から静岡県伊豆市まで続く約30キロの断層帯「丹那断層」がずれた跡を残した場所で、国の天然記念物に指定されている。

    国内に2000 活断層とは

    地表に大きな変化をもたらすほどの「活断層」は、歴史に名を残す大きな地震をたびたび引き起こしている。

    そこまでは理解できた。

    だが、地面に段差が出来る「断層」と「活断層」の違いはなんなのか。いまいちわからないこともあり、改めて「活断層」の意味を調べることにした。

    国の地震調査研究推進本部によると「活断層」の定義は…

    最近の地質時代に繰り返し活動し、将来も活動することが推定される断層のこと

    地震などによって地面や岩盤がずれ動いた場所を「断層」と呼ぶ。

    それに対し「活断層」は、これまで地震を引き起こし、さらに今後も地震を起こす可能性のあることが確認された断層を指すということがわかった。

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    だが、東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震や南海トラフの地震など、ほかの地震と「活断層」の地震の違いは何なのか。

    「活断層」で起きる地震にはどのような特徴があるのか、それを知る上で重要なメカニズムの違いを確認することにした。

    地震が起きるメカニズムは、大まかに2つに分けられる(火山性の地震を除く)。

    海溝型地震
    海と陸のプレート境界で起こる地震(例:東日本大震災)
    活断層による地震
    陸のプレート内部がずれて起こる地震(例:阪神・淡路大震災、熊本地震)
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    内閣府のHPより

    ➀の「海溝型地震」に比べて、②の「活断層による地震」は、震源が浅く、激しい揺れは局地的になるものの、人間が住む場所と近い場合、被害が大きくなりやすいという特徴があった。

    また、阪神・淡路大震災をもたらした活断層のように、地上に段差や亀裂が生じることもあり、激しい揺れに加えて地表の変化によって建物などに壊滅的な被害がでるということだった。震源の浅い活断層の地震では地震計に観測されてもすぐに揺れが襲い「緊急地震速報」が間に合わないこともある。

    “ずれ”の種類も重要

    大きなタイプの違いを学んだ後に疑問に思ったのが、その「ずれ方」だ。

    活断層を調べていくと「正断層」「逆断層」「横ずれ断層」という表現が。地震のニュースでもよく耳にする、この「ずれ方」にどんな意味があるのか。

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    地震調査推進研究本部のHPより

    なるほど、縦のずれ方には、押す力による「逆断層」、引きちぎるような力による「正断層」があり、すれ違うようにずれるのが「横ずれ断層」であるのか。

    でも、地面が「縦」にずれても「横」にずれても、激しい揺れによって被害が出ること自体は変わらないのであれば、さほど重要な話ではないのでは…。

    そう考えて専門家に取材すると・・・。

    「海底での“ずれ”の違いは津波に影響する。日本海側の事例を調べるとよくわかる」

    ずれの違いが津波に影響する??

    早速、調べてみた。

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    気象庁のHPより

    岩盤が縦方向にずれる「逆断層」や「正断層」は、海水を押し上げたり引き下げたりする力が強いため、大きな津波を引き起こすおそれがある。一方、「横ずれ断層」の場合、海水を押し上げる力が弱く、津波の被害は少ない傾向にあるということだった。

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    1993年 北海道南西沖地震(奥尻島)

    日本海で起きた地震を確認したところ、津波による大きな被害がでた1983年「日本海中部地震」、1993年「北海道南西沖地震」などは海底の活断層が縦の方向にずれることで引き起こされた地震だった。

    特に陸に近いところに活断層(海底活断層・海陸断層とも呼ばれる)がある日本海側では、地震の発生からわずか数分で津波が到達する場所もあり、「ずれ方」を知ることは津波のリスクを知ることにもつながることがわかった。

    あなたの近くにある活断層の調べ方

    活断層そのものに対する理解が進んだところで次に気になったことがその位置だ。

    「何を見て活断層の場所やリスクを把握すればいいのか」調べることにした。

    活断層を見つける方法としては、阪神・淡路大震災が発生する以前から地形を航空写真などで見たり、古い文章の記録を探ったりして痕跡を探す方法がとられている。

    しかし、具体的にどれだけの頻度で地震が起きうるのか、確認する方法は難しいという。数百年に一度起きる「海溝型の地震」に比べ、「活断層の地震」が起きる周期は、数千年から数万年とも言われているため、記録が残っていない場合も多いそうだ。

    このため、よくとられる手法が「穴を掘る」こと。

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    「トレンチ」と言われるこの地道な作業。活断層があると推定される場所に大きな穴を掘り、そこに現れた地層の食い違いが繰り返し見て取れるかを確認。さらに地層の古さや含まれる物質を確認するなどして年代を特定していく…。

    このほかにも震動探査や音波探査などもあるそうだが、国は、こうした調査の結果、地震が起きた場合に社会や経済に大きな影響を与える114の活断層を「主要活断層帯」と認定。想定される地震の規模と発生確率を公表している。

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    全国の活断層(出展:地震調査研究推進本部)

    この図を見ると、よりリスクが高い活断層を確認することができる。特筆すべきは赤で示された31の活断層。阪神・淡路大震災が発生した直前に匹敵するかそれ以上に地震の発生が切迫していると言うことだった。

    主要活断層帯がなければ安心…とは言えないワケ

    この「主要活断層帯」の位置を事前に把握しておくことで、地震被害に遭うリスクを減らせるのではないだろうか。

    そう考えていたところ、ある専門家からひとこと…

    「でもね、高杉記者が知っているであろう地震の多くは、主要活断層帯以外で起きている」

    「え…」

    つまり、地震が起きるまで活断層が把握されていなかった場所でも地震が起きている、ということだった。

    活断層のずれが地表に現れていなかったり、浸食や土が積もってしまったりしたことによって、痕跡がわかりづらくなり、確認されていない活断層も数多く存在するそうだ…。

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    北海道胆振東部地震

    実際、2004年の「新潟県中越地震」や2008年の「岩手・宮城内陸地震」、私が北海道に勤務していた時に取材した2018年の「北海道胆振東部地震」も、それまで確認されていなかった活断層が引き起こしたとされている。

    阪神・淡路大震災の後、国が活断層の本格的な調査に乗り出して以降、主要活断層帯で起きた地震は2014年の「長野県北部の地震(神城断層)」と2016年の「熊本地震(布田川断層帯)」の2つだけだった。

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    2016年 熊本地震で地表に現れた「横ずれ断層」

    活断層を知る意味は?

    つまり「日本列島では地震はどこでもおかしくないから常に備えを」ということになる。

    よく呼びかけられることばで、私もニュースの企画で定型句的に使ってしまっている。

    だったら「活断層を知ること」に果たしてどこまで意味があるのだろう・・・。

    また、頭が混乱してきた…。

    そこで、活断層や地震のメカニズムに詳しい東北大学の遠田晋次教授に、失礼ながら「活断層を知ることの意味」について質問をぶつけてみた。

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    東北大学 遠田晋次教授
    「確かに、活断層がどこにあるかを知ったからといって、地震災害のすべてを防げる訳じゃありません。ただ、自分の身の回りに地震を繰り返し起こしてきた活断層がある。これを知るだけでも、自分が命を守るためにどうすべきか、危機感を持って判断する材料になるんです。また断層のずれ方などを知ることも重要です。活断層は地図上ではどうしても線で描かれますが地中で傾いていることもある。ずれ方によっては直上だけではなく、離れた場所でも被害が大きくなることもあります」

    続けて遠田さんは、活断層のリスクを人任せでなく「自分で知る」ことの重要性も話してくれた。

    「自分の身の回りの活断層のリスクを知れば、例えば、けがをしないように自宅の安全対策をどうするか、交通機関がまひして帰宅困難になったときにどうするか、停電して家族と連絡が取れなかったときにどうやって連絡を取り合うかなど、自分や家族、大切な人それぞれの身を守る方法を考えることにつながると思います。災害時、行政に頼り切りになるのではなく、自分で命を守ることができるよう、自分で情報をとることが大事だと思います」

    「活断層を詳しく知っても地震のリスクは減らせない」でも「危機感を持って命を守る具体的な判断材料になる」ということだった。

    活断層は地震の“証拠”

    私自身もそうだったが、地震が多い日本では、地震に対する“漠然”とした不安がある。漠然としているがために自分が防災対策に乗り出すには腰が重くなりがちだ。

    しかし、遠田さんの言うように、「活断層」は過去に地震を起こしてきた具体的な“証拠”だ。この証拠をもとに危機感を持って具体的な対策を進めることができる。

    実際に今回、私は「阪神・淡路大震災」を引き起こした活断層という“証拠”を見ることから取材を始めた。そしてそれをきっかけに活断層のリスクを知り、具体的な防災対策を考えることになった。まさにこれが活断層を詳しく知ることの意味だと感じた。

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    ただ、リスクに関する多くの情報が公表されている一方で、その情報は一般の人が調べて理解するにはあまり身近ではないように感じた。

    記者として防災情報を伝える際、リスクをどう身近に感じてもらえるかという点にこだわっていきたいと再認識させられる取材だった。

    ネットワーク報道部 記者 高杉北斗

    活断層をマップで知るサイトは

    ①地震調査研究推進本部(NHKサイトを離れます)

    ②国土地理院の地理院地図(電子国土Web)(NHKサイトを離れます)

    ③J-SHIS 地震ハザードステーション(NHKサイトを離れます)


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