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地震 水害 知識

日本海側 地震直後に津波到達する「海陸断層」が多数存在

東日本大震災では、10メートル以上の大津波が甚大な被害をもたらしましたが、津波のリスクには到達するまでの早さもあります。特にそのリスクが高い日本海について、国の研究プロジェクトが、新たな調査結果を取りまとめました。津波を引き起こすおそれのある断層は合わせて185あり、中には陸と海にまたがるように断層が伸び、地震直後に津波が到達する「海陸断層」が多数あるとして、専門家は「リスクを認識して地域の防災に役立ててほしい」と指摘しています。

2021年4月に放送されたニュースの内容です

目次

    海陸断層は30余り

    東京大学地震研究所やJAMSTEC=海洋研究開発機構、それに新潟大学などは東日本大震災の発生を受け、文部科学省のプロジェクトとして日本海側で起こりうる地震や津波の調査を8年がかりで進め、ことし2月、全国の結果を取りまとめました。

    陸と海で実施した構造探査や最新の地質調査の結果なども踏まえ、津波を引き起こす可能性のある断層が合わせて185あるとしています。特に北海道から北陸にかけては「海陸断層」とも言われる陸と海にまたがるものや、沿岸との境界にある断層が合わせて30余りあるとみられることが分かりました。

    津波の高さは最大数メートルと、10年前の大津波に比べ高くはないものの、津波の最大波が到達する時間でみると数分から10分程度のところもあり、30分から40分前後だった10年前の東北に比べると極めて早いということです。

    日本海では1983年の日本海中部地震や1993年の北海道南西沖地震など、繰り返し地震や津波の大きな被害が出ています。

    しかし、過去の記録が少ないことなどから分からないことも多いのが課題です。

    7年前に公表された国の検討会の津波想定は、「高さ」としての最大クラスを抽出することが目的で、沖合にある長さ40キロ以上の断層が中心となっており、今回は陸に近い断層も含めた全体像を取りまとめました。

    1964年の新潟地震の際に震源となった断層は海側でしたが、今回の調査でその南西にある阿賀野川の河口付近にも断層があると推定されました。海側のものも含めて「海陸断層」の可能性が高いということです。

    「日本海地震・津波調査プロジェクト」の研究代表で、東京大学地震研究所の篠原雅尚教授は「海陸断層の近くでは大きな揺れのすぐあとに津波が来るので避難は特に難しくなる。まずはリスクを認識し、地域の防災や町づくりの議論に役立ててほしい」と話していました。

    海陸断層では揺れも強く

    海陸断層は陸に近い場所や真下が震源となることから、早い津波に加えて、激しい揺れに伴う被害も深刻です。

    強震動が専門で京都大学防災研究所の岩田知孝教授は、新潟県や秋田県の海陸断層などで揺れのシミュレーションをしたところ、最大震度は7になるおそれもあるということです。

    岩田教授は、震源から近いことに加え、沿岸部では地盤が弱いことから揺れが広い範囲に伝わりやすく、断層の破壊が始まる場所が変われば揺れが強くなる範囲も変わるということです。

    激しい揺れでは大規模な液状化も

    激しい揺れでは建物が被害を受けるリスクがありますが、東日本大震災でも発生したような液状化も起きるおそれがあります。

    新潟地震では大規模な液状化が発生し、アパートが倒壊したり、橋が大規模に損傷したりする大きな被害が出ました。

    プロジェクトのメンバーで、地質学が専門の新潟大学災害・復興科学研究所の卜部厚志教授によりますと、日本海側や沿岸部の低地では地盤が弱いところが多いため、液状化の危険性は広い範囲にあるとしています。

    卜部教授は「陸にかかる断層で地震が起きた場合、甚大な建物被害や広い範囲での液状化も予想される。すぐに津波が迫るところに液状化も起きると、人々が避難する際、大きな影響が出るおそれもある」と指摘しています。

    “早い津波”への対応 避難マップ作り

    ※実際の音声が聞こえます

    再生時間 0:40

    避難が困難な“早い津波”にどう備えるか。街と津波の特性を知って1分でも1秒でも早く、安全な場所に逃げようという取り組みも始まっています。

    国の主要活断層帯の一つである長岡平野西縁断層帯は「海陸断層」の一つで、今回のプロジェクトでも新たに津波のシミュレーションが行われました。

    この津波で大きな被害を受けるおそれがある新潟市中央区では、今回のプロジェクトに参加している新潟大学の卜部厚志教授の監修で、地区ごとに独自に避難マップ作りを進めています。

    マップの特徴は津波が到達するまでの時間を色分けしているほか、一人一人にとって最適な避難場所や方法を細かく設定していることです。

    港に面した沼垂地区では、防潮堤などがなく道路沿いに低い土地が広がっているため、わずかな時間で津波が浸水すると想定されています。市が指定した津波避難ビルから300メートル以上離れた場所に住んでいる人もいて、間に合わないおそれもあるとして5階建てのパチンコ店の立体駐車場や民間企業のビルなど3か所に地震時に避難させてもらえるよう、住民などが中心となって交渉しました。地図上には「高い建物」として表示されているほか、水の流れやすい方向と、避難する際のルートも書き込まれ、安全な場所により短時間で逃げられるようにしました。

    マップ作りに携わった竹田良性さんは「津波のとき、地区のどこから影響が始まって被害がどう広がるか、どこに行けば助かるかが分かる、よい地図ができたと思います。お年寄りも含めて全員が安心・安全に避難できるようこれからも考えていきたい」と話していました。

    新潟市中央区は、合わせて7つの地区でこうした「自主避難マップ」を作り、住民に配って確実な避難に役立ててもらうことにしています。

    新潟大学の卜部教授は「津波が早く迫るから『どうしようもない』ではなく、地域の中のリスクや使える資源を捜し出して共有することで住民の理解度や防災への意識は高まるので、太平洋側を含め、ほかの地域でも大いに参考になる取り組みだと思う。各地で早く迫る津波に対する備えが進んでほしい」と話していました。

    日本海側の津波リスク 過去に広範囲で繰り返し到達の痕跡

    また「日本海地震・津波調査プロジェクト」が沿岸各地にある地層を調べた結果、北海道の南西部では過去およそ9000年間に20回も津波が押し寄せていた可能性を示す痕跡が見つかっていたほか、西日本の日本海側でも複数の痕跡が見つかったことがわかりました。手がかりが少ない日本海側での津波のリスクを知る貴重な成果だと期待されます。

    日本海側では1983年の日本海中部地震や、1993年の北海道南西沖地震など、繰り返し地震や津波の大きな被害が出ていますが、記録が少ないことなどから、起こりうる地震や津波の実像はよくわかっていません。

    東日本大震災の発生を受けて新潟大学などが日本海各地の沿岸の地層から海の砂や貝など津波が運んだものとみられる堆積物を8年かけて詳しく調べました。

    その結果、北海道の奥尻島でおよそ9000年に20回、青森県の五所川原市でおよそ8000年に9回、新潟県の佐渡島でおよそ9500年に24回、津波が押し寄せていた可能性を示す痕跡が見つかっていたことがわかりました。

    また、北日本や北陸よりさらに手がかりの少ない西日本でも、鳥取県北栄町

    でおよそ6000年に4回、山口県下関市でおよそ7000年に2回、津波が押し寄せたとみられる痕跡が確認されたということです。

    研究グループは、日本海の海底地形や断層の特性などからみて、同じ断層が繰り返しずれ動いたのではなく、東北の津波が山陰地方に到達するなど、別々の断層が引き起こした津波が各地に押し寄せていた可能性があるとしています。

    「日本海地震・津波調査プロジェクト」で津波堆積物の調査を行った新潟大学の卜部厚志教授は「日本海側の各地で、どれぐらい津波が来るのか初めて全体像が明らかになり、地域ごとにリスクを評価する指標が得られたと考えている」と話していました。

    断層多い日本海 影響は広範囲に

    今回の調査では、鳥取県で見つかった堆積物と、東北で見つかった堆積物の年代が非常に近いことがわかり、同じ地震によってもたらされた津波である可能性も指摘されています。

    プロジェクトのメンバーの1人で津波のメカニズムに詳しい東京大学地震研究所の佐竹健治教授は、津軽海峡の西で大地震が起きたと想定し、津波の広がり方をシミュレーションしました。

    津波は北海道や青森県、秋田県などの沿岸に、地震発生からすぐに押し寄せます。

    その後、ところどころ水深が浅くなる複雑な海底地形などが影響して津波は回り込むような動きをし、影響は広い範囲に及びます。

    能登半島や中国地方の沿岸にも押し寄せるほか、韓国やロシアなど近隣の国の沿岸にも到達します。

    大陸にぶつかった波が跳ね返り、再び日本に押し寄せるなどして、数日間にわたって影響が続くこともあるということです。

    佐竹教授は「日本海側では遠くの海域で起きた津波でも広い範囲で影響が出やすい特徴がある。震源から離れた地域でも油断はできない」と話しています。

    各地の調査結果詳細

    今回の調査で明らかになった津波が押し寄せたとみられる回数は以下の通りです。

    ▽北海道の奥尻島で9000年に20回
    ▽青森県の五所川原市で8000年に9回
    ▽秋田県のにかほ市で3000年に4回
    ▽山形県の飛島で3000年に4回
    ▽山形県の酒田市で3000年に2回
    ▽新潟県の村上市で9000年に9回
    ▽新潟県の佐渡島で9500年に24回
    ▽富山県の射水市で8000年に4回
    ▽福井県の高浜町で5000年に2回
    ▽鳥取県の北栄町で6000年に4回
    ▽島根県の隠岐の島で5000年に3回
    ▽山口県の下関市で7000年に2回
    ▽長崎県の壱岐島で7500年に2回。


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