
「市民の憩いの場にミサイルを落とすなんて」
ロシアによる軍事侵攻から7か月あまりがたった10月。
東部や南部でウクライナ軍による反転攻勢が伝えられ、首都キーウでは市民の生活にも侵攻前の日常が戻っているようにさえ表面的には感じられました。
しかし10月10日。ロシア軍はウクライナのほぼ全土へミサイル攻撃。
その後もエネルギー関連施設を狙った攻撃を続け、ウクライナでは電力事情がひっ迫。厳しい冬を前にしたウクライナの人々に戦争の現実を突きつけています。
(カイロ支局長 大橋孝臣)
突きつけられた戦争の現実
「ウー ウー ウー」
10月10日月曜日の早朝。
街じゅうに防空警報が響き渡り、警報が出たことを知らせるスマホのアプリもけたたましく音を立てました。そして、午前8時20分ごろ。
滞在先のホテルからも大きな爆発音が少なくとも3回聞こえ、外を見ると遠くで煙が上がる様子が確認できました。さらにおよそ1時間後にも3回ほどの大きな音。

キーウ市内への攻撃が確認されたのは6月以来のことでした。
日常が戻りつつあったキーウ
ミサイル攻撃の5日前の10月5日。
キーウにある日本大使館がおよそ7か月ぶりに業務を再開し、大使公邸には日の丸が掲げられました。

7日には、ウクライナの人権団体がことしのノーベル平和賞に選ばれ、私たちもキーウにある団体の事務所を取材し関係者の声を伝えました。

前線ではウクライナ軍が東部や南部でロシア軍を押し返しているというニュースが連日のように伝えられ、そのたびに日常を取り戻しつつあるのではという期待に似た空気感が広がっていたようにも感じていました。
しかし、10日の攻撃で挫かれました。
ロシア軍の攻撃はどこに?
半径およそ10メートル、深さは2メートルほどのクレーターのような穴があいていたのは、キーウ中心部にあるタラス・シェフチェンコ公園。

ウクライナの東大とも言われるキーウ大学の学舎が目の前にある市民の憩いの場で、ミサイルが着弾したすぐそばには子どもたちの遊具もありました。

市民
「子どもたちのいない時間帯だったことが不幸中の幸いです。市民の憩いの場にミサイルを落とすなんて」
「テロでしかありません」
取材に応じてくれた市民はそう語り、公園にいた7歳の男の子はひと言、「最悪だ」と、つぶやきました。
“憩いの場”も標的に
ロシア軍のミサイルは、ドニプロ川を見渡す高台にある公園にも着弾しました。

ふだん多くの市民が集まるこの公園。実は前日の日曜日、私はこの場所を訪れていました。軍事侵攻から7か月以上がたったキーウ市民はどんな日常を過ごしているのか知りたいと思い、小雨が混じるあいにくの天気でしたが、出かけたのです。
ウクライナ語がわからないこともあったかもしれませんが、少なくとも公園にいた人たちは、日曜日の午後を楽しそうに過ごしているように見えました。
ウクライナの非常事態庁によりますと全土であわせて20人が死亡した10日のミサイル攻撃。キーウでは、公園以外にも中心部にある高層のオフィスビルが大きく損傷。

ロシア軍によるミサイル攻撃が、日中、多くの人たちがいる時間だったらどうなっていたのか、想像するだけで血の気が引きました。
攻撃続くキーウ 自爆型ドローンまで
11日。再び早朝に防空警報のサイレンが鳴り響きました。
キーウ中心部への攻撃は確認されませんでしたが、ほかの都市ではミサイルなどによる攻撃が相次ぎ、その後も連日、防空警報が鳴る日々が続きました。
そしてウクライナ全土への大規模攻撃から1週間となる17日の朝。
午前6時半ごろサイレンの音で目を覚まし、「またか」そう思った矢先、「ズドーン」という、1週間前に聞いたのと同じような重く低い音が響き渡りました。さらにその30分後にも同じような爆発音が。

着弾した場所の1つは1週間前もミサイルが落ちた高層ビルの目の前、国営の電力会社の敷地内でした。キーウのクリチコ市長は「この日の攻撃で建物が被害を受け、妊娠6か月の女性など4人が死亡した」と発表。ウクライナ政府は「イラン産の自爆型の無人機による攻撃だった」としています。
厳しい冬を前に続く“現実”
ロシア軍がエネルギー関連施設を狙った攻撃を続ける中、キーウ市内でも一部の地区で停電が起き、レジャー用のバッテリーでスマホを充電する人や大きなペットボトルを両手に1本ずつ持ち、停電でエレベーターが止まった集合住宅の階段を上っていく人。

発電機を使ってなんとか営業を再開しようとしているお店もありました。 何気ない日常を切り裂くような、防空警報の音が鳴り響くたびに、キーウの市民は戦争の“現実”に引き戻される日々を送っています。