科学と文化のいまがわかる
原子力
2022.11.24
いま、大きな転換点を迎えている原子力発電。
政府はエネルギーの安定供給と脱炭素社会の実現に向けて「原発」を最大限活用する新たな方針を打ち出している。
しかし、大きな課題として残されているのが、原発から出るいわゆる「核のごみ」の処分だ。
2年前、その処分地の選定に向けた第1段階の調査が、全国で初めて北海道の寿都町と神恵内村という2つの自治体でスタートした。
調査の目安はおよそ2年とされ、11月17日で2年が経過。
「住民が対話をしづらい“空気”がある」
現場を取材すると、難しい現状が見えてきた。
(札幌放送局記者 黒瀬総一郎 生田真尋 科学文化部記者 吉田明人)
「核のごみ」の最終処分場の選定に向けた調査を行っているのは、NUMO=原子力発電環境整備機構。
電力会社を中心に設立された国の認可法人だ。
「寿都町と神恵内村の文献調査をこちらの部屋で主にやっています」
東京・港区のオフィスビルの一室。
「サイト評価室」と書かれた部屋に、NUMO技術部の兵藤英明部長が案内してくれた。
部屋では職員たちが、研究論文を読み込んだり、パソコンの画面で拡大して表示された地形図を細かく読み解いたりしていた。現在20人あまりが調査にあたっているという。
「核のごみ」は、原発で使った燃料を処理したあとに出る放射能レベルが極めて高い廃棄物だ。
国は、地下300メートルより深い岩盤に埋める「地層処分」を行う方針で、放射線量が下がるまで数万年にわたって閉じ込めるとしている。
「核のごみ」の処分地の選定は3段階で行われる予定だ。
現在、第1段階の「文献調査」が進められている。対象の自治体には、国から地域振興などの交付金として最大20億円が支払われる。
「文献調査」では、活断層や火山など処分場として適切でない場所がないか、論文や地形図など、700点あまりの資料を詳しく調べている。
調査は終盤を迎えていて、次の段階に進むことができるのか、NUMOとして評価することになる。
「情報をちゃんと読み解いてまとめているような段階です。処分地選定に向けた調査は初めてのことで、情報をどう評価していくかが少し難しいところかなと思います」
NUMOが調査と並行して進めているのが、住民どうしの対話の促進だ。
調査が行われている自治体のひとつ、寿都町で開かれてきた「対話の場」。
“将来、処分場受け入れの是非を判断することになった際に役立ててもらいたい”。
その趣旨のもと、安全性や地域振興などをテーマに、2年間で10回以上開いてきた。
ただ、議論の広がりには課題を感じていると、NUMOの坂本隆理事は明かす。
「対話の場としての活動は定着してきているのではないかと思います。ただ町民の皆様への輪の広がりはまだないと思います」
人口およそ2700の寿都町。
文献調査が始まったのは2年前。町長が調査に応募した。
町長は、国の交付金を活用して地域の発展につなげるとともに、議論を広げたいという思いがあったという。
当時の会見でも、次のように述べていた。
「核のごみの議論が進まない。ここを一石を投じる今が一番のタイミングではないか」
しかし、現場で取材を進めると、住民がむしろ対話しづらくなっている現状が見えてきた。
寿都町で電器店を営む田中則之さん。
調査は処分場の建設にただちにつながるわけではなく、交付金などのメリットもあるとして賛成している。
田中さんは対話の場に参加してきたが、ある思いを打ち明けてくれた。
「会の中で発言すると個人が特定されて、おまえなにえらそうなこと言ってるんだみたいなことを言われるのがみんなにとっては発言しづらいなというのがあると思うんですよ。自分の心底の意見を言って活発な意見を言いたいというのはどうしても削がれちゃうのかなという気がしています」
同じく対話の場に参加する、町議会議員の幸坂順子さん。
調査に反対の立場だが、町民みんなで議論していく問題だと考えていた。
しかしいま、この問題が住民との会話で出ることはほとんどないという。
「『もうそんなややこしいこと話したくない』みたいな。なんかそういう違う意見を言うことがケンカみたいに捉えられてしまって、だから議論ができないんですよ。『核のごみ』に触れないで、日常の会話が行われているというところですね」
議論が地元だけに押しつけられていると感じている人もいた。
三木信香さん。
「対話の場」のメンバーではないが、「核のごみ」の処分は本来、国民ひとりひとりが考えるべき問題だという。
「何かのテレビで、『もう寿都に決まったんでしょ』って答えているおじいちゃんがいて。だからやっぱりみんな他人ごとなんだなというのをすごい感じましたね。こんな2700人だけでもめていたって、どうにもならない。本当にみんな、国民全体で考えてほしい問題だと思います」
こうした声をどう受け止めているのか。NUMOの近藤駿介理事長に話を聞いた。
近藤理事長は、議論しやすい環境を作るためにも、取り組みを強化していくと話した。
「全国で説明をしてきているわけですが、引き続きといいますか、一段とですね、その取り組みを強化していかなければならないと。そして地域でも、あらゆる状況を探って、フェーストゥーフェースでお互い対話をしていくという機会を見出すことに全力を尽くさなければならない。なかなか答えはでませんが、しかしそういうことでしか、この道は開けないと思っています」
なぜこうした状況になっているのだろうか。
そもそも「地層処分」をするという大前提に対する国民的な理解や議論が足りていないことを示しているとも言えるのではないか。
処分地選定をめぐって国は、2000年に法律をつくり、核のごみを「地層処分」すると決めたが、調査に名乗りを上げた地域で激しい対立を招いた例もあり選定は進まなかった。
これを教訓に、国は2015年に方針を見直して、国が前面に出て理解を促進するとしてきた。
そのひとつが「科学的特性マップ」と呼ばれる地図だ。
火山や活断層の周辺などは黄色。科学的に適性がある可能性の高い範囲を緑色と色分けした。
国はこうしたマップを使い、全国で説明会を開くなどしてきた。
ただ寿都町で住民が大きな負担を感じている現状を見ると、十分だったとは言いがたい。
次の段階の調査に進むには道知事の同意も必要になるが、鈴木知事は反対の姿勢で、見通しは立っていないのが実情だ。
北海道の現状を考えたとき、海外から学べることはないのか。
世界では、いずれの原子力利用国も「地層処分」する方針で処分地の選定を進めている。
これまでにフィンランドとスウェーデンが処分地を決め、フランスも決定間近だが、いずれも選定には20年から30年と長い時間を要し、まだ調査段階で決まっていない国も多い。
日本よりも先の段階に進んでいる国の多くは、少なくとも調査段階では複数の地域を対象に影響評価や地元との議論をしている。
「例えばある期限を区切って、それまでの間に現状の2か所よりも多い数の地域に調査を受け入れていただけるような状況をつくって、そしてそれらの地域での調査も終わったところで、一斉に各地域に次の段階に進むかどうか、今回の文献調査の結果を踏まえて地域の皆さんに判断してもらう、そういうような進め方に少し修正するというようなこともありうるのではないかと思います」
難しい現状を受け止めて、改善すべき点はないか。国は考える必要があるのではないかと思う。