STORY

「宇宙飛行士を誕生させたい」女性アナウンサーの挑戦

2022.07.01 :

13年ぶりに始まった日本の宇宙飛行士選抜試験。

 

応募したのは過去最多の4127人ですが、受験者同士がSNSで情報交換をしたり勉強会を開いたりと、前回とは違った盛り上がりをみせていて、宇宙飛行士を目指す人たちのコミュニティーも誕生しました。そのコミュニティーを牽引するのは1人の「アナウンサー」でした。

"宇宙飛行士になりたい人”を支援

榎本麗美さん。アナウンサーとして宇宙のことをいろんな人に知ってもらいたい、そんな夢を描いています。

2021年7月、宇宙好きの人たちが集まるコミュニティー「そらビ」を立ち上げました。メンバーは小学生から50代までの男女、およそ80人が在籍しています。宇宙を気軽に楽しむことをコンセプトに「宇宙(そら)」と「遊び」をかけあわせて「そらビ」と名付けられました。宇宙に関する情報発信やイベントの開催などを行っていますが、その中でも注目を集めているのが宇宙飛行士になりたい人を支援する活動です。
提供 JAXA/NASA
コミュニティー発足からまもなくして始まったのが13年ぶりとなる宇宙飛行士の募集でした。応募者はこれまでの過去最高だった前回の963人を大幅に上回る4127人。「そらビ」のメンバーも22人が挑戦しました。
【榎本麗美さん】
「宇宙飛行士を募集すると知った時、体に衝撃が走りました。目指す人たちのサポートをして、そらビから宇宙飛行士を誕生させたいです」
選抜試験の突破を目指して「そらビ」では毎月のように試験対策の講座が開かれ榎本さんはこれまでに培ったコネクションを利用し、前回の選抜試験を担当したJAXAの元職員などを講師として招きました。

講座では、何千人ものエントリーシートの中から抜きん出るためには、簡潔で強い印象が残るように書くことや、前回は英語試験や医学検査で3段階に分けて選抜したことなどをレクチャーしました。2時間を超える講座で集中力が途切れてくると、榎本さんの「げき」が飛びます。厳しい学校の先生のように引っ張っていきます。

みなさん集中して聞いていますか?全員のエントリーシート見ましたけど全員レベルが低いです。宇宙飛行士に本気でなりたいという気持ちが足りていないですよ。まだまだ自分のみせかたがへたです

報道キャスター 榎本麗美

アナウンサーも全力で 榎本さん提供
ふだん、アナウンサーとして民放テレビ局の報道番組に出演し、政治や経済、国際情勢から災害にいたるまでさまざまなニュースを担当している榎本さんが「そらビ」から宇宙飛行士を出したいと思っているのは「宇宙飛行士をもっと身近なものにしたい」と考えているからです。

「そらビ」から宇宙飛行士が誕生すれば宇宙飛行士は『特別な人しかなれない職業』から『学べば目指せる職業』へと大きく変わります。ハードルが下がることによって飛行士への関心が高まれば、仮に飛行士になれなかったとしても社会の目がもっと宇宙に向くようになると榎本さんは考えています。

そもそもアナウンサーの榎本さんがなぜここまで宇宙に関わるようになったのでしょうか?

前回の宇宙飛行士選抜試験の担当者が講師  榎本さん提供
【榎本麗美さん】
「小さいころは田んぼをかけまわったり、虫をつかまえたりと活発で、とにかく自然とふれあうのが大好きでした。夜空に輝く星を見ていると自分はなぜ他の星ではなく、地球で生まれたのだろう?と不思議に思い、次の瞬間にはその地球は宇宙の中の1つの惑星でしかない。そして宇宙もまたビックバンによって誕生したんだなとか考え出すととまらなくなるんです」
自然が大好きだった榎本さんは大学で生物系を専門にして進学。当時は研究職に就くか大学院に進むことを考えていましたが高校時代の友人がアナウンサー試験を受けるのに付き添ったのがきっかけで、榎本さんもこの道へと進むことになりました

文系の自分にもチャンスがきた

そらビのムードメーカー 藤永嵩秋さん
「そらビ」の中でも一番のムードメーカーなのが藤永嵩秋さんです。

文学部出身で、現在は建設現場で施工管理の仕事をしています。好奇心旺盛で、さまざまなことに積極的に挑戦してきた藤永さんは2年前にふと空を見上げ、「宇宙」にも行ってみたいと思うようになったと言います。

趣味でスキューバダイビングのインストラクターとして活動していることもあり、その経験を生かして誰でも宇宙に行ける時代への発展を支えていきたいと、今回、宇宙飛行士選抜試験に応募しました。
【そらビ メンバー 藤永嵩秋さん】
「文系の道を進んできたけれど、その途中で宇宙分野に関わってみたいと思うようになった。自分のような人にも、初めて宇宙飛行士の門戸が開かれることになり、大きな意味があると思っています。大きな目標は誰でも宇宙に行ける時代を作っていくことなので、頑張っていきたいです」

まだ資格はないけれど挑戦しました

夢は宇宙飛行士 高校生の藤本萌歌さん
メンバーの中で誰よりも宇宙飛行士への想いが強いといわれるのが都内の高校に通う高校3年生の藤本萌歌さんです。

物心ついたときにはすでに宇宙の魅力にとりつかれていたという藤本さん。高校では天文部に所属し、宇宙を舞うチリ、“宇宙じん”について研究してきました。去年の夏には、宇宙の起源に迫ろうと、GPSやモーターなどを取り付けた大きなバルーンを天文部のメンバーと製作し、成層圏まで飛ばすことに成功。バルーンに取り付けたカメラが地球の輪郭を捉え、感動したといいます。

まだ社会人経験がないため、受験資格は満たしていませんが、2人目の女性の日本人宇宙飛行士として活躍した山崎直子さんなども学生時代から応募していたことを知り、今回、挑戦しました。藤本さんは書類選考で落ちてしまいましたが、次回以降のチャンスを本番と捉え再挑戦したいと話しています。

【そらビ メンバー 藤本萌歌さん】
「そらビは、年齢も職業も全く違う人が集まっていますが“宇宙を目指す”という共通項があることが、小さいころから宇宙に憧れていた自分にとってはすごくうれしくて、学校とは別のもう1つの居場所のような感じです。“宇宙飛行士”という大きな目標に向かって今後も頑張っていきたいです」

人類の未来に貢献したい

元JAXA宇宙飛行士の山崎直子さんと講座を開催 榎本さん提供
榎本さんは『あなたは試験を受けないのか?とよく聞かれますが私は受けません』と言います。

コミュニティーを立ち上げて運営しながら、宇宙飛行士の選抜試験に向けてすご腕の講師陣をそろえるのは自分にしかできない役目だと考えているからです。

【榎本麗美さん】
「今回の宇宙飛行士選抜試験は13年前とは違って学歴不問で間口が一気に広がった歴史的な試験であり、新しい時代が始まるのを肌で感じています。人類の可能性を切り開く宇宙飛行士を目指す人たちを私はずっとサポートしていきたいですし、多くの子どもたちに 将来、宇宙飛行士という職業に憧れをもってもらいたいと願っています。そんな大きな視野で人類の未来に貢献していきたいです」
提供 JAXA/NASA
夢の切符をかけた試験はおよそ1年かけて行われ、結果が出るのは2023年2月ごろです。

宇宙飛行士を誕生させようとする1人の女性アナウンサーの挑戦が続いています。

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水戸放送局つくば支局

平山佳奈

2019年入局。初任地の水戸放送局では、県警・司法、水戸市政などを担当。2021年から念願のつくば支局に配属になり、大好きな宇宙をはじめ、主に科学分野を取材。未来をひらく最先端テクノロジーに興味があり、テクノロジーの進化によって人々のライフスタイルがどのように変化していくのかを伝えていきたい。趣味は空を眺めること。プラネタリウムや科学館巡りも好き。

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科学文化部記者

寺西源太

奈良県出身。関西の民放から2016年にNHKに転職。2019年から科学文化部に配属され、現在は文部科学省を担当。光で魚の成長を促進する養殖技術や探査機「はやぶさ2」のサンプル帰還、生命の起源などがこれまでの取材テーマ。現在は日本の宇宙飛行士選抜試験を取材している。学生時代には伊豆・小笠原諸島の研究航海で深海から熱水を採取し、レアアースの濃度を測定した経験を生かして、深海の熱水活動の取材も進行中。柔道に明け暮れる学生時代を過ごし、柔道四段。得意技は一本背負いと寝業。

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記事の内容は作成当時のものです

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