文化

クイーン単独インタビュー ロジャー・テイラーさん

クイーン単独インタビュー ロジャー・テイラーさん

2018.12.26

世界的に人気を誇るイギリスのロックバンド「クイーン」。

 

映画「ボヘミアン・ラプソディ」の異例の大ヒットで今、改めてその曲や、1991年に45歳の若さで亡くなった、リードボーカルのフレディ・マーキュリーの生き方が注目されています。

 

NHKはクイーンのドラマー、ロジャー・テイラーさん(69)と、ギタリストのブライアン・メイさん(71)に、それぞれロンドン近郊で単独インタビュー。映画公開後、メディアの単独インタビューは世界初です。貴重なインタビューをほぼ全文掲載します。

11月に日本で公開された映画「ボヘミアン・ラプソディ」はクイーンのリード・ボーカル、フレディ・マーキュリーを主人公に名曲が生まれた瞬間や栄光の日々を描いている。映画は当時からのクイーンのファンだけでなく、クイーンを知らない世代にも受け入れられている。

真実の物語を伝えたい

ーまず、映画「ボヘミアン・ラプソディ」についてお聞かせください。この映画には長年取り組んでこられたわけですが、完成した映画はいかがでしたか。

とにかく、大勢の人が映画を気に入ってくれて、喜んでくれてうれしかった。みんな感動してくれた。細かい事実や時系列などは違うかもしれないが、人々の心に触れ、そして観客の気持ちが少し高ぶるような、真実の物語ーーそれを伝える映画であることを僕もブライアンも望んでいた。そのとおりになったと思うよ。事実を犠牲にすることなく、かつ、みんながいい気分で映画館から出てこられるような作品にしたかった。映画がヒットしていると聞いてとてもうれしいよ。

ー映画で特に印象に残ったシーンはありますか。

最も感動したエピソードの1つがフレディと父親との関係を描いた場面だ。父親が最終的にフレディの成し遂げたことを理解し、認めてくれたシーンは最高だった。あれはすばらしい瞬間だったね。

ーあなたは高音のボーカルで知られています。「ボヘミアン・ラプソディ」のレコーディングで「もっと高く」と求められるシーンがありましたが、実際にあのようなことはあったのですか?

もっと高く!もっと高く!と言ってたけど、僕は同じ音を出していたからね。映画のシーンのとおりということではないよ。あまりにも高い音…、ア~(実際に高音を出す)、こんな音だったから、僕しか出せなかったんだ。でも、おもしろいシーンにはなったよね。

万人受けする音楽じゃない

ー日本でも映画は大ヒットです。クイーンのことを知らなかった新しいファン、若年層も映画を見て、クイーンを聴くようになりました。この現象をどうみますか?

まさに「現象」だね。すごいことだよ! 新しくファンが増えているということはすばらしいことだと思っている。僕らは古いバンドで、60年代、70年代、80年代といい時代を経験してきた。それが2018年になってもなお、若い人たち、ティーンエイジャーや20代が僕らの音楽と初めて出会っているというのは驚きだ。本当にうれしいよ。

ーどんなところが人々を魅了していると思いますか?

それは聴いた人たちに尋ねないとわからないけど、個人的には、いい音楽でクオリティーがあるところだと思う。職人的なところもあるし、声もいいし、作曲もいい。誰もが好む「カップ・オブ・ティー」じゃない、つまり万人受けする音楽ではないけどね。それにいくつかの曲にはアンセムのようなスケールの大きさがあって、それが聴く人に響いているんじゃないかな。

偉大なミュージシャン 作曲家だった

ー映画のプレミアの時だったと思いますが、あなたはフレディはミュージシャンとして、もっと注目されるべきだと話していました。どういうことかお話しいただけますか?

フレディのメディア受けする要素ーーそれは私生活やもろもろあるけれど、そうしたことが時に大げさに伝えられ、人々が彼がミュージシャンであり、その中でも一流だったいうことを忘れがちだと感じていたんだ。ショーマンで歌手というところから切り離しても、彼は偉大なミュージシャンであり、作曲家だった。だから映画ではそうした側面がきちんと描かれていることを重視した。新聞が好んで書くような話だけじゃなくてね。音楽は人々が聴くものであって、新聞が書くものじゃないからね。

ロジャーはことしのフレディの命日にインスタグラムに写真を投稿。自宅の庭に設置された巨大なフレディの像の前に立ち「古い友人に会いに」というコメントを添えている。

ー少し前にフレディの像の写真をインスタグラムに投稿していましたね。

自宅の庭にフレディの像があるんだ。かっこよくて巨大で、大好きな像。庭に像を置いたらおもしろいんじゃないかと思ってね。ライトアップすると本当に美しくて、ほかの人からは見えないところにあるんだけど、フレディが見たら大笑いするんじゃないかな。だから、いいじゃないか、ってね。

フレディは精神的な壁紙のようなもの

ーいつも像の前に会いにいくのですか?

いやいや、でも毎日、目にしているよ。(拳を掲げて)フレディが「イェア!!」ってやってるのを思い出すよ。彼は頭の中にいつもある壁紙のようなものだ。忘れることなんてないよ。いなくなってずいぶんたつけど、忘れたことなどない。僕たちの一部なんだ。ブライアンも僕も、いつもフレディが隅っこにいるような気がしていて、なにかについて話している時もフレディがどう思うか、わかっている気分になっているんだ。

映画の軸となっているのは移民であり、同性愛者としても世間から好奇の目で見られたフレディのマイノリティとしての苦悩だった。

ー映画では、移民やゲイというフレディのマイノリティとしての苦悩が描かれていました。フレディにもっとも近しい存在だったあなたから見て、そうした苦悩を感じることはありましたか?

あった。彼には二面性があったように思う。あの時代は今とはずいぶん違って(偏見が強かった)から、もっといろいろなことが秘密にされていたし、フレディはすごく困惑していたと思う。彼はとても美人なガールフレンドもたくさんいたんだよ。その1人をめぐってもめたこともあったかな(笑)。だから…そうだね、彼の中で常になにかが対立していたし、映画はフレディのこうした心情を正確に描いていたと思うよ。

ーなにか具体的なエピソードを教えてもらえますか?

それは一切言わないよ(笑)

皆 何かしらのマイノリティー

ー映画で描かれたフレディの生き方を通じて、マイノリティーが直面する困難について考える人たちもいるでしょう。そうした映画のメッセージについてどう思いますか?

多くの人は皆、何かしらのマイノリティーだと思う。そうした人たちが共感できることがあれば、そしてそこから力をもらうことができればいいなと思うよ。いまは境界線や壁、それに文化的な規制が多すぎるけど僕はそのいずれにも同意しない。ぼくらは自由に考えを持つべきだし、みんな違っていいじゃないか。

映画のクライマックスとして描かれたのは、1985年にイギリスとアメリカを主会場に開かれたチャリティ・コンサート「ライヴ・エイド」だ。クイーンはこのコンサートで最も会場を沸かせたバンドの1つだった。

クイーンへの愛があふれていた

ーライヴ・エイドについて聞かせてください。映画ではライヴ・エイドがクライマックスでした。グループにとってライヴ・エイドはどのような役割を果たしたのでしょうか。

クイーンは当時、解散の危機というわけでは…、まあ、解散の危機に近い感じにはなっていて、僕らはバンド活動に飽きて、そして疲れた感じになっていたんだけど、ライヴ・エイドで、その時期から脱したというのはあった。自分たちはイケてるバンドで、人々の間にクイーンに対する愛があふれていることを思い出させてくれて、僕たちは大きな自信を取り戻したんだ。

ーその時期を脱した結果として、クイーンは、フレディがいないけれども、今も活動を続けているということになりますね。

そのとおり。バンドの活動メンバーは、今はブライアン・メイと僕の2人だが、関係性はある意味、一層近くなった気がするよ。僕らは、これこそが人生で、運命なんだと思うようになったし、楽しんでいる。
今はアダム・ランバートというすばらしい歌手とともに、美しいコンビネーションを作っている。僕らよりはるかに若いけど、うまくいってるんだ。彼は聡明で、最も美しい声の持ち主だね。だから僕らはこれこそが今やることだって思っているし、活動ができるかぎり楽しくやるんだって思っているよ。
いつまで続くかわからないけど今は演奏するのが楽しいし、次のツアーがいつかわからないけど楽しみにしているよ。

トウモロコシ畑のように

ーライヴ・エイドのステージに立った時のことをどのように覚えていますか?全く新しいなにかだったのでしょうか。

バンドにとっては未知の世界だった。昼間で、照明もなく、僕らはふだん着だったからね。だからとにかくいいパフォーマンスをしよう、音楽で勝負だと思ったんだ。なんとなく覚えてるな。17分のセットで、「Radio GaGa」をたたきながら会場を見て、観客が盛り上がってる、いい感じだ、と思った。
その10分後、終盤の「伝説のチャンピオン」の途中、会場を見渡すと観客の手がトウモロコシ畑のように大きく揺れていたんだ。「やった!うまくいった!俺たちはやったんだ!」って思ったよ。いい気分だった。

ーもう1つ、ライヴ・エイドの有名な場面が、フレディと観客とのかけあいです。あれはいつごろから、どのようにして始まったのですか?

ライヴ・エイドの数年前、3年前かな…。観客と僕たちが一体になるいい方法だということがわかって、観客も歌って、僕らに呼応するように促したんだ。そしてフレディはこういったかけあいの達人になった。だからこそ彼が「We are the champions(俺たちはチャンピオン)」と歌うとき、それはバンドのことではなくて、その場にいるみんながチャンピオンなんだ。それはとてつもない一体感で、それがクイーンのすべてだよ。

ーあのフレディの呼びかけのフレーズは、どうやってできたんですか?

彼がつくりだしたんだよ。「エーーーーーオウ」ってね。彼はこういうのが上手だった。みんなをぐいぐい引っ張る力があったんだ。そして、どのステージも違うやりかただった。1回1回、違うんだ。

楽器の名手が出てこない

ーさきほど「Radio GaGa」の話があったので…

そんな話、したっけ?(笑)

ー「Radio GaGa」では「年月を経て音楽が変わっていく」ということを歌っていますね。昨今の音楽をめぐる変化についてどう感じていますか?

そうだね、いま僕らは音楽を変えていっているわけではないし、僕らはクイーン、そのままだ。音楽がどう変わっていっているか、いい答えは思いつかない。機械化が進みすぎているとも思う。マシンやチューニングが多すぎて…最近、楽器の名手というのが出てきていないように思う。サンプリングやスタジオでのトリックに頼りすぎて、昔と比べて楽器に真剣に取り組む人が少なくなったのかもしれない。オートチューンというのが好きではないんだけど、今やそこら中にあふれているよね。誰かがマイクに向かって歌って、それを調整する。それは僕にとっては気分が悪い。ホイットニー・ヒューストン、あれこそが歌だ。アレサ・フランクリンはオートチューナーなんて必要としない。

ーそして、ラジオがテレビに、テレビがストリーミングになりました。

当時は音楽専門チャンネルがアメリカで成功して、ビデオが音楽そのものよりも大事であるかのようになってしまった。レコードをつくるより、ビデオに10倍もの制作費を費やすようになってしまったんだ。誤った方向に向かって行っていると感じたよ。ラジオを通じて音楽を愛するようになった僕らも、高額な制作費をかけてビデオをつくるようになったんだから、あまり言えないけどね。

特別な思いを持つ曲は

ーそして、ストリーミングでは代表曲「ボヘミアン・ラプソディ」が20世紀に発表された曲で再生回数が1位になりましたね。

光栄な気持ちもあるし、幸運だとも思うし、いまだに時代のトレンドになれることをうれしく思うよ。でも、言っておくとほかにもいい曲をいっぱい作ったんだよ。

ーそういえば過去のインタビューで「ボヘミアン・ラプソディ」がいちばんのお気に入りではない、と語っていましたね。

大好きな曲だよ。すばらしい曲だと思う。いちばんのお気に入り、というのは難しいな。好きな曲はいっぱいあって、順番をつけたくはないと思っているんだ。でも「アンダー・プレッシャー」には特別な思いを持っているよ。関わっていた人々は最高だったし、楽しかった。あの曲に対する個人的な満足感がそう言わせるのかな。メッセージもあったし。お気に入りはいっぱいあるよ。

クイーンは1975年に初来日。熱狂的な歓迎を受け、以来、日本が好きだと公言している。

カナザワ? 海沿いの町だよね

ー映画が日本で公開され、改めて日本ではクイーンが日本のことが好きなバンドという側面も注目されています。クイーンは日本のファンが最初に見いだしたんだ、と言う人もいますが、正確にはどうでしょうか?

ちょっと複雑なんだ。僕らはイギリスで少し人気で、アメリカでも少し人気だった。でも日本に行ったら、大人気だった。日本は最初にクイーンに夢中になってくれた国なんだ。初めて羽田に着いたときのことは忘れられない。ツアーはまるで夢みたいだった。僕たちは日本の文化が大好きになった。フレディはとくにとりつかれていたね。ショッピングのためだけに東京に2週間も行ってしまうんだ。

ーこれまでに何度日本を訪問しましたか? 日本に来たときに必ず行く場所などはあるのでしょうか。

日本でやったあるツアーでは、あちこちに行ったよ。あれは、カナザワ?海沿いの町だよね? そこにも行ったし、いろいろな町を訪れた。東京と大阪だけで公演ということも少なくなかった。僕のヒーローでもある、ジョニ・ミッチェル、ボブ・ディランと一緒にコンサートをしたこともあった。大阪の郊外にある大きなお寺で、YOSHIKIと演奏したよ。

ー最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。

どんな世代であろうと、クイーンが好きな人たちに感謝したいし、うれしく思っている。日本とはすばらしい歴史があるからね。日本はわれわれに多くのものを与えてくれたし、僕たちが日本の皆さんに喜びと、もしかしたら、時には感動の涙も提供できたのであれば本当にうれしいよ。ありがとう!

27日は、ギタリスト、ブライアン・メイさんへのインタビューを掲載します。

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