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反田恭平が抱く危機感 夢はショパンの先にある

2021.12.02 :

ショパンのふるさと、ポーランドで10月に開かれた「ショパン国際ピアノコンクール」で、日本人として過去最高位の2位入賞という快挙を成し遂げた反田恭平さん。

帰国後、NHKの単独インタビューに応じました。

 

そこで語られたのは、日本のクラシック音楽界の未来に対する危機感です。

 

27歳の若手ながら、みずから業界を変えていきたいと、ピアニストに留まらない型破りな活動を続けてきた反田さん。

“理想の音楽家像”と、次なる夢を伺いました。

帰国後初のコンサート

11月20日、反田さんの帰国後初めてのコンサートが、東京で開かれました。
撮影:堀田力丸/提供:フジテレビジョン
演奏のあと、クラシックのコンサートでは異例のスタンディングオベーションが何度も巻き起こり、反田さんは、予定になかったアンコールに応えました。
コンサートに訪れた親子
「生で演奏が聴けて感動しました。表現力やタッチの速さが素晴らしく、涙が出そうでした」
「子どもは高校でピアノをやめようかと思っていたのですが、反田さんの快進撃を見て、僕も続けると言い出した。子どもたちに夢を与えてくれました」

NHKで演奏を披露

その5日後、反田恭平さんが、みずから車を運転して渋谷のNHK放送センターに姿を見せました。

依頼していたニュースウオッチ9と年末のEテレのクラシック番組の取材・収録のためです。
「取材が殺到していて大変で…マスクを取ると髭だらけなんですが、よろしくお願い致します」
収録では、ショパンコンクールでも弾いた「マズルカ風ロンド」「神よ、ポーランドを」「練習曲ハ長調10-1」の3曲を演奏してくれました。
演奏のあと、ニュースウオッチ9の中道洋司リポーターがお話を伺いました。

コンクールを振り返って

激闘を繰り広げた3週間のコンクール。

いつもひょうひょうとしているように見えて、実は大きなプレッシャーを感じていたといいます。
反田恭平さん
「僕はコンクールから離れていた時間が多かったですし、コンサートピアニストとして生きてきました。これから海外のコンサートも増えていくというところで国際コンクールにエントリーしたので、プレッシャーもありました。一次予選が終わったころ、僕の先生であるピオトル・パレチニさんに『耐えきれないのでコンクールをやめさせてください』とメールを打とうとしたくらいです。結果発表のアナウンスが終わってから、会場にいた先生が僕を振り向いてくれた瞬間は、涙が止まらなかったですね。ぼそっと、『本当に誇りに思う。ショパンを弾いてくれてありがとう』と言ってくれました」
すでにプロのピアニストとして活躍し、人気のあまり、日本で最もチケットが取りにくいピアニストなどとも言われる反田さん。コンクールで結果が出なければ、今後の演奏活動に影響する可能性もありました。

リスクを承知で出場を決めたのは、ある狙いがあったと言います。
「ことし、ジャパン・ナショナル・オーケストラという会社を立ち上げたのですが、所属する同世代のメンバーからすごく刺激を受けました。彼らがコンクールを目指して勉強して、帰国してから一緒に演奏するときの成長度合いがすごかった。コンクールというものはすごく人を成長させる、音楽家を育てる場なんだというのを肌で感じていました。そして、このオーケストラを有名にしたいという気持ちもあった。ショパンコンクールでは、インタビューを受けるたびに『僕はJapan National Orchestraの監督です』と話していました。『えっ知らないの?知っておいたほうがいいよ?』みたいな(笑)ファイナルの頃には、メディアの方々に知ってもらえるようになった。そうやって注目してもらうことを念頭に置いてのエントリーでしたね」

“スマートフォン世代”が変えるクラシック

反田さんが立ち上げた「ジャパン・ナショナル・オーケストラ株式会社」は、反田さんと同世代の若手の音楽家たちでつくるオーケストラ集団です。

若手の演奏機会を増やし、技術の底上げを目指そうと、2021年5月、奈良県を拠点に設立しました。
提供:Japan National Orchestra
反田さんは、このほかにも、自身の音楽レーベルを立ち上げたり、クラシック専門の音楽サロンを運営したりするなど、経営者としての顔も併せ持ちます。

去年は、コロナ禍で演奏活動が出来ないアーティストや、仕事を失ったコンサートスタッフたちの力になろうと、クラシック業界では初めて、有料配信の無観客演奏会をプロデュースしました。

ピアニストの枠に留まらず幅広く活動を続ける背景には、日本のクラシック業界の未来に対する危機感があると言います。
「日本の若手の演奏家は、上手な子でも演奏の場が少ない。日本の同世代にも世界の音楽界を引っ張っていく人たちがたくさんいるのに悔しいなという思いがあって、会社を立ち上げたり、コンサートをプロデュースしたりしています。クラシックのコンサートに来て下さる方々の年齢層は、全体的に高い。30年後、40年後に誰が来てくれるのか、僕はちょっと怖いんです。皆は心配にならないのかなと、逆に心配になりますよ。だからこそ、いまから着々と“クラシックはこんなに素晴らしいんだよ”と大衆化していかなければならない」
反田さんは現在、27歳。

SNSを使った発信にも力を入れています。

しがらみのない自分たちの世代が、業界を変えていかなければならないという使命感があるといいます。
「僕は、1人でも多くの人にクラシックに興味を持ってもらいたい。正直にいえば、クラシック業界には同調意識があると思います。この業界を変えてやる!という野心を持っている人が少ない。でも僕は、批判を浴びせられても別に何とも思わないので、その役をやりますよ、と。若い世代からしか出てこない柔軟で奇想天外なアイデアがあると思いますし、僕も同世代を見ていて刺激を受けています。“スマートフォン世代”がどうやってクラシック業界を変えていくか、我々が考えていかなければいけないと思います」

“ピアニスト”ではなく“音楽家”として

今後、オーストリアのウィーンで、指揮者の湯浅勇治さんから本格的に指揮の手ほどきを受けるという反田さん。

実は、今回結果が出なければ、ピアノの演奏から離れることも考えていたと明かしてくれました。

コンクールを通して改めてピアノの楽しさに気づいたそうですが、音楽以外の世界にも興味は尽きないといいます。
「最近、色々な方と対談したり、違う業界の人と話したりしていて思うのは、意外と何かを突き詰めた先には似たような答えがあるんだなと感じます。音楽の世界にいるけど、いま、色んな業界や職種に興味があります。本当はアルバイトがしたいんですよ!僕のアルバイトは譜めくりだったし、結局音楽の世界なんです。ファミリーレストランとかでアルバイトをやってみたかった。焼き鳥屋で、片手で肉を持って100グラムをぴったり当てる、みたいなこともやってみたい」
反田恭平は一体、どこに向かうのか?

そのしなやかな指さばきで、焼き鳥を焼くのか?

型破りに思える発想や行動は、すべて理想の音楽家になることに繋がっています。
中道リポーターと反田さん
「音楽は軸として一生やり続ける事になると思います。本当にすばらしい音楽家は、さまざまな人生経験を持っていて引き出しがある。経験というのはクラシック音楽においても、とても大事なことだと思います。多趣味な人ほど、いろいろなピアノの音の表情があるので、演奏を聞いていても面白い。プロデュース業などの活動も、すべてが僕の中では“音楽家”になるためだと思っています。モーツァルトのように自分で曲を書いて演奏して指揮もして、ヴァイオリンもピアノも弾いて、さらにみずからパトロンを探してという、なんでも自分でやっていた時代というのが、僕の理想の音楽家像なんです。ピアニストのあり方として、ピアノだけを弾いているというのも全然ありだと思いますが、僕は音楽に関わることなら、やれることをすべてやりたい。人生1回しかないから、後悔しないで生きたい」

戦略家・反田恭平 次なる夢は

12歳の時にショパンコンクールのドキュメンタリー番組を見てから、コンクールのファイナルの舞台でショパンのピアノ協奏曲を演奏することが夢だったという反田さん。

今回、見事にその夢を叶えました。

しかし、それも反田さんが描く“戦略”の一部、「次なる夢」の通過点に過ぎないと話しました。
提供:Japan National Orchestra
「人生の最終目標に、学校をつくりたいという夢があるんです。日本から世界に音楽留学するのではなく、逆に世界から日本に留学に来てもらえるような学び舎を作りたい。日本の音楽教育が悪いとは全く思わないですし、素晴らしい先生方もいますが、日本へ留学してくる子がいないのは事実です。それを変えたい。そのために、4年前くらいから逆算して生きています。ショパンコンクールに出場したのも、学長の私が有名じゃなかったら誰も来ないと思ったからです。オーケストラを立ち上げた理由も、学校専属のオーケストラを作りたかったからなんです」
今回のショパンコンクールの2位という結果は、後輩に1位を譲るためだったと思うと語る反田さん。更なる夢が広がります。
「受賞の発表を聞いた瞬間はうれしさとともに、“やっぱりことしも日本人から1位が出なかった”と思いました。日本という国が一致団結してクラシック音楽に愛情を注ぎ、ショパンコンクールで1位が出る瞬間を、僕が生きている間に見届けたい。僕がつくった学校の卒業生が、ステージでお客さんからたくさんの拍手をもらっている姿を見て、1つの夢が終わるんじゃないかな。そのために僕は、いまある知識をこれからのピアニストに譲っていけたらと思います。やるべきことはまだまだたくさんあると思っています」
反田さんの演奏やインタビューの模様は、
▽12月2日(木)午後9時からの「ニュースウオッチ9」
▽12月31日(金)午後9時20分からの「クラシック名演・名舞台2021」(Eテレ)でお伝えします。

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科学文化部記者

加川直央

学生時代はバンドに明け暮れ、就職活動で見事に全敗。

あまりに世間知らずだったことに愕然として逆方向に針が振れ、ギターをペンに持ち替えて記者を目指す。

Webメディアやデータジャーナリズムの台頭を目の当たりにする中、動画の可能性を感じて2015年にNHK入局。

初任地の京都では、漫画やアニメの原画、レトロゲームの保存と継承の問題について取材。ファミコンの開発責任者だったレジェンド、上村雅之さんにインタビューしたことが良き思い出。

科学文化部では、主に映画とITを担当。これまでに濱口竜介監督の演出論や、クリエイターを支援する”NFT”の特集などを制作。

ものづくりする人が楽しく暮らせる社会を目指して取材中。

メディアの未来と文化全般に関心があり、好きなものはSF小説とお笑い芸人のラジオとTwitterの炎上ウォッチ。

隙あらばゲームをしています。現在の推しバンドは家主。

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アナウンサー

中道洋司

2014年入局。沖縄局、高知局を経て、2021年からニュースウオッチ9リポーター。趣味は旅行。学生時代、ピアノやコントラバスを演奏。沖縄では三線を学び、国立劇場おきなわで収録されたNHK公開番組出演時は、民謡演奏も披露。

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