2021年12月09日
自己分析と並ぶ就活の両輪といわれる「業界研究」。でも、何を調べたらいいのかよくわからないまま、ここまで来てしまった…。
そんな人も大丈夫。業界研究のエキスパート、『業界地図』の編集者に基本の「キ」から聞いてきました。
これから働く社会を広く見渡すための第一歩です。
(聞き手:梶原龍 田嶋瑞貴)
学生
田嶋
『業界地図』を編集している東洋経済新報社の方にお話をうかがいます。よろしくお願いします。
『会社四季報 業界地図』編集長の西澤です。
西澤さん
副編集長の松浦です。よろしくお願いします!
松浦さん
そもそも、「業界を知る」ってどういうことなんでしょうか。
世の中のルールや仕組み、結びつきなどを知ることだと思います。
その業界はどうやって利益を得ているのか、ビジネスモデルは何かということですね。
もう少し言うと、企業と企業のつながりや勢力図はどうなっているのか。
事業環境、先行きの見通し、どういう人が働いているのかなどといったベースの部分を知ることだと思っています。
なるほど。
逆にいえば、こういった仕組みを知らないと業界についての理解は得られないと思います。
「業界を知る」ことで、就活にどのように生かすことができますか?
よりリアルな実情を知ることによって、ただの憧れみたいなものから、より自分が進みたい道にフォーカスできる利点はあると思います。
もう少し具体的に教えていただけますでしょうか。
例えば、鉄鋼業界に興味があるとします。
「脱炭素社会」に向けた取り組みが急速に進む中、いま、業界全体が大きく変わっているんですが、こういう状況をちゃんとつかんでおくことによって、その業界の先行きについて考えることができます。
大学までの勉強って、どちらかというと教科書ベースの知識もたくさんあったと思うのです。
でも、教科書には載っていない知識って世の中にたくさんあるんですよね。
僕も社会人になってから知ったんですけれども、そのリアルを知るということですね。
お二人が編集している『業界地図』について、教えてください。
『業界地図』は、国内の自動車や外食、金融、建設、不動産など、あわせて174の業界を取り上げ、見開きの地図の形で表示をしている一冊です。
業界のざっくりとした現状が手短にわかるようになっています。
就活のスタートラインというイメージですよね。
そうかもしれませんね。自分の軸と世の中の軸がうまくマッチするところに進もうというのが就職活動ですから、自分に合う就職先を見つけるうえでも、業界・企業研究は重要だと思います。
『業界地図』は、大学生が業界研究をする上で定番になっているようですね。
学生
梶原
主な購読者は大学生なんでしょうか?
実は『業界地図』の読者層は大きく3つに分けられます。
まずは投資家、そして就活生。3つ目はビジネスパーソンです。
大体3分の1ずつくらいのシェアになっています。
そうなんですね!
決して就活生だけをターゲットにした本ではありません。
例えば投資家が株式を購入する際の銘柄選びの参考に使っていたり、ビジネスパーソンが営業活動の下調べに使っていたり、業界研究っていろいろなニーズがあるんです。
志望業界が決まってない就活生が業界研究を始める際、まずはどこを見たら良いでしょうか?
志望業界の選び方って100人いたら100通りの考え方があると思うんですね。
ですから、あくまで私個人の考えなんですけど、加工食品とか音楽とか何でもいいんですが、自分の見知っている業界のページを、まずはじっくり眺めていただきたいなと。
眺めるだけでいいんですか?
ぱっと見ただけではわからないくらい、細かいところまで気を配って作っているので、じーっと文章を読んでいくと、あんなことも書いてある、こんなことも書いてあるという発見がたくさんあると思います。
眺めてみて、そのページの中から自分の過去の原体験につながるキーワードを見出してほしいなと。
そのキーワードを意識して、OGOB訪問やセミナーとかに参加してみてください。
企業の声を聞きながら、自分の考えを育てていけたら良いのではないかと思います。
なるほど、引っかかったものを重点的に調べていくという形で進めていけばいいんですね。
西澤さんはどうですか?
「給料ランキング」を載せたページがあるんですが、業界によって平均年収に大きな差がある、こういうリアルがあるということは知っておいてもらいたいです。
こうした情報に触れて心が折れる場合もあるかもしれないし、それでもやってやろうと思うならそれもよしだと思います。
あとは、『2030年の業界天気図』という特集ページを、ぜひ見てほしいです。
ここでは、それぞれの業界の現状や先行きを予測して天気マークで表していますので、興味のある業界を調べるきっかけにしてもらえればと思います。
この業界の天気図ってどうやって決めているんですか?
本の中に定義が書いてありますが、最も好調なのが「快晴」。市場が拡大し、大半の企業が利益を伸ばしている絶好調の状態です。
逆に、どん底なのが「大雨」。多くの企業が、決算で赤字や大幅な減益となっていたり、構造的な不況状態にあったりします。
快晴、晴れ、薄曇り、曇り、雨、大雨の6段階になっています。
新型コロナが直撃したばかりの時は多くの業界で大雨となり、今は雨や薄曇りになっている企業が多いわけですね。
10年後の天気図はどう予測しているんですか?
市場の拡大を予想するのは、結構できるものなんですよ。
例えば、ゲーム産業。今も2030年の予報も晴れです。なぜかというと、単純にゲーム人口が拡大しているからです。
僕も子供の時、ファミコンでゲームをしていましたけれど、今もやっていますから。
子どもだけでなく大人にも裾野が広がり、eスポーツもどんどん盛んになっています。さらに市場が世界中に広がっていますから。
この20年以上続いているトレンドが急に変わるということは多分ないでしょうし、日本のゲーム会社の世界的競争力なども勘案して「晴れ」と予想しているんですね。
よく面接で「10年後、この会社はどうなると思いますか」っていう質問をされることがあると思うんですけど、10年後ってどうやって想像したらいいですか?
先ほど、業界を知ることとは構造やビジネスモデルを知ることだという話がありましたが、今のゲームの話はプレイする人が増えていくという業界の構造は変わらないということでした。
ただ、個々の企業がどういう動きをするかは全く想像がつかないものなんですね。
買収されるかもしれないし、とんでもない不祥事が起きて潰れてしまうかもしれない。そこは業界の衰退や成長とはちょっと違う話になります。
例えばこの業界天気図で雨や大雨になっている業界は、今不況に陥っています。
こうした業界について話をする場合は、構造的に市場が縮む中で10年後その企業のポジションをどうしていくべきなのか、ということを考えるとよいのではないでしょうか。
とても参考になります。
ここについて語れると「こいつ分析力あるな」って、プラスになるかもしれません。
もう1つ、市場が伸びている業界の例としてeコマースを見てみます。
日本の流通取引のうちeコマースが使われる割合はいま、大体10%かそれ以下だと言われています。
思ったよりまだ少ないですね。
まだまだ市場が広がっていく余地があることが容易に想像できますよね。
そして、eコマースが伸びるんだったら、“風が吹けば桶屋が儲かる”じゃないですけども、物流も必要になってきます。
だから物流業界も今後5年、10年は拡大していくと言えると思うんですよ。
このように分析的に考えていくことによって、ある程度納得感がある結論を導くことができます。
なるほど。
自分が志望する業界の業界天気予報が良くない場合は、どう考えればいいですか。
例えば市場が縮小している業界の場合、いろいろと厳しい面はあるかもしれません。
でもその現実を理解しないで突っ走ると、人生もすっ転んじゃいます。
業界天気予想が大雨から晴れに変わったことってあるんですか。
あります。今の『業界地図』には載っていないんですが、特殊土木や建設コンサルなど一部の建設関連業界はずっと公共事業の縮小で大雨状態だったんです。
ところが、近年は自然災害の増加に伴い、国土強靭化や防災関連の工事がかなり増えている。
そういうところがプラスとなり、晴れに変わりました。
このように、曇りや雨の状態が永久に続くということもまたないんです。
環境によって状態がプラスに転じることがあるんです。
大雨だからといって志望する業界を変えなくても大丈夫ということですか。
リスクをどう考えていくかということだと思います。
例えば地方銀行や造船といった構造的に厳しいといわれている業界は、5年~10年後には業界再編や景気循環で持ち直すよりは、人口減少や海外との競争激化が続くと考えられます。
一方で、直近は新型コロナで大雨になっている旅行業界やホテル業界などはコロナが終われば持ち直すと言われています。
ただ、個別具体的にみると、本当に持ち直すかどうかについては、さまざまな見方があります。
たとえば、従来の対面販売を主流としている旅行会社がネット販売をメインとする旅行会社に勝てないとか、ホテルも過当競争なのでこれ以上の成長は厳しいとか、そういう見方をする人もいます。
こうした業界の状況を踏まえて、志望する企業の5年、10年先を想像できるかどうかが、皆さんに問われているという気がしています。
どんなリスクがあるのかをきちんと把握した上で、荒波の中でも立ち向かっていくんだという気持ちがあれば、志望しても問題ありません。
次回は実際に地図を開くことで、どんな情報を読み取ることができるのか見ていきます。
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