2021年02月10日
(聞き手:勝島杏奈 田嶋あいか)
なかなか終わりが見えない新型コロナウイルス。いったいどんなウイルスなの?話題の変異ウイルスって何がちがうの?気になることを医療や科学が専門の中村幸司解説委員に1から聞きました。(2月10日再改訂版)
新型コロナウイルスの感染が日本で確認されてから1年がたちました。そもそも、いつ、どこで発生したんですか?
コロナウイルスには、ウマに感染するもの、イヌ、ネコ、イルカ、ブタ、ニワトリ、スズメなどに感染するものもあるんですよ。
いろいろな種類があるんですか?
コロナウイルスは50種類以上見つかっていて、そのうち人に感染するコロナウイルスが、これまでに6種類見つかっていたんですよね。
6種類のうち4種類は、感染するとたいてい風邪と診断されているんです。
おそらく、小さいころにこの4種類のうちいくつかにはお2人とも、かかったことがあると思いますよ。
そうなんですね。
残りの2種類が「SARS」と「MERS」。
ほかの4種類に比べて症状が重くなるので、“厄介なコロナウイルスが出てきたな”と、当時言われていたんです。
※「MERS」…Middle East Respiratory Syndromeの略。「中東呼吸器症候群」と呼ばれ、2012年に確認された。中東地域を中心に感染が報告されていて、ヒトコブラクダが感染源の1つと言われている。
※SARS…Severe Acute Respiratory Syndrome の略。「重症急性呼吸器症候群」と呼ばれる。2002年に中国で報告され、8000人以上が感染した。コウモリがもつウイルスが広がったと言われている。
そうした中、2019年の12月、中国当局が武漢で肺炎になる人を調べたら、ヒトに感染する7種類目のコロナウイルスが見つかった。
これが新型コロナウイルスでした。
なるほど。では、最近よく耳にする変異ウイルスって一体何なんですか?
人に感染するコロナウイルスは今回の新型が7種類目で、話題になっている変異ウイルスは8種類目のコロナウイルスか、というと、そうではないんです。
これまでの新型コロナウイルスがちょっと変化して兄弟みたいなものができたという感じです。変異ウイルスのことを専門家は「変異株」と呼んでいます。
何が違うんですか?
「変異」って何が変わったのかというと、人間の細胞の中にはDNAや遺伝子がありますよね。DNAってコピーして増えていくんです。
新型コロナウイルスも増えるときにコピーを作るための遺伝情報があって、その一部がほんのちょっとだけ変わったということなんです。
変異=遺伝情報の一部が変わったということ
新型コロナウイルスの遺伝情報は、文字数でいうと3万文字ぐらいです。
その3万文字を繰り返しコピーして増殖していますが、2週間に1文字くらいの頻度でコピーを間違えることがあるんです。
ですから、日本でも、新型コロナウイルスはちょっとずつ変わっているんですよ。
そうなんですか。知りませんでした。
でも、変わったとしても、ウイルスの性質に関係ないところが大半なので、日本国内では変異ウイルスがことさら問題になることはありませんでした。
一方、イギリスをはじめ、南アフリカ、ブラジルなどで報告されている変異ウイルスは、ウイルスの性質に影響するところが変わってしまったんです。
その性質が何かというと、感染力が高くなったんじゃないかと言われているんですね。
感染力が高くなってるかもってニュースで聞きました。
新型コロナウイルスって、丸いボールにトゲトゲが出てるような形をしているんです。
そのトゲトゲの先っぽがヒトの細胞に結び付いて、細胞の中に入っていくことで感染するんです。
トゲトゲがヒトの細胞と結びつくかどうかが「感染にとっては大事なところ」で、トゲトゲを作る遺伝情報がコピーミスで書き換わったんです。
なるほど。
それが、ヒトの細胞と結びつきやすい方向に変わると感染しやすくなります。
イギリスや南アフリカの変異ウイルスは、ヒトの細胞に結びつきやすい。
あるいは結び付いたあとに中に入りやすくなる変化をしたことで、ウイルスが増えやすく感染しやすくなったのではないかといわれています。
新型コロナウイルスは、
①ヒトの体内に入ると
②細胞の表面にくっつき
③細胞の中に侵入する
④ヒトの細胞の力を借りて細胞内で増殖する
⑤ウイルスは細胞を飛び出して、別の細胞の中で増殖するということを繰り返す。
変異ウイルスは、トゲトゲが変化したことで、②の段階でヒトの細胞にくっつきやすくなる、あるいは③の段階で細胞に入り込みやすくなったため、感染力が高いのではないかといわれている。
感染しやすくなる方向に変異したのって「進化した」というイメージですか?
ある意味そうですね。ウイルスが増えやすいように遺伝情報が変化したということで。
逆に言うと、感染しにくい方向に変化したウイルスもあったかもしれないけど、そういうのは広がらないので淘汰されていくわけですよね。
ああ、そういうことですか。
だからイギリスのケースも、変異前と変異後のウイルスが混在していますが、最初は変異したウイルスが少なかったはずなんだけれども、今は変異ウイルスの方が多くなっているんですね。
感染力が上がったこと以外に、症状が悪化する割合が増えたというようなことはあるんですか?
イギリスのジョンソン首相はそういう可能性があると発言しましたけど、正確にいうとわかっていないんですよ。
今のところ、感染しやすくなっているけれど、重症化率は大きくは変わってないと考える専門家が多いと思います。少なくともSARSのように感染すると多くの人が重篤になってしまうまでの変わり方はしていないとされています。
そうなんですね。
話が飛びますが、実は去年(2020年)も、広い意味での変異ウイルスが日本に入っていたという専門家もいます。
どういうことですか?
当初、中国の武漢で見つかったウイルスが世界中に広がりましたよね。
はい。
それがヨーロッパで、トゲトゲが変化したんです。
それが去年の3月ごろに日本に入ってきたと、それが第1波の3月から4月、5月の山になった。
武漢のウイルスよりも、変化したことによってちょっと感染力が高くなったウイルスだったという研究があります。
そうだったんですか!
今、日本にいるほとんどのウイルスは、その去年3月ごろにヨーロッパからの帰国者などから広がったウイルスなので、武漢のウイルスよりも感染力が高いウイルスが日本にいるということなんです。
いま、イギリスなどで見つかっている変異ウイルスは、去年の変異にもう一段階変異が重なったんですよ、実は。
変異ウイルスと呼ばれているものが日本でも主流になってしまうことも考えられるんですね。
その恐れはあります。
変異ウイルスは、従来のウイルスより感染力が1.7倍から2倍ぐらい高いんじゃないかと言われているので、変異ウイルスを増やさない対策が重要です。
ひとつが水際対策です。なんとか水際で抑えようと、PCR検査を受けた人しか入国できないようにして、入国してもPCR検査をやって、と。
2週間近く自宅などで療養してくださいという対策をしていましたが、さらに1月14日からはビジネス関係者を含む外国人の入国を原則として全面的に制限しています。
日本でも、静岡県や東京都などで、海外に行っていないし、外国人と接触していないのに変異ウイルスに感染した人が見つかりました。
水際対策だけでなく、こうした人たちの濃厚接触者を調査して、封じ込めることが大切です。
海外の状況をみると、一旦、変異ウイルスが入って広まってしまうと、感染が広がって感染者を減らすことが難しくなっていますね。
変異ウイルスについて中村解説委員が以下の記事で詳しい解説をしています。
「新型コロナウイルス 変異ウイルス 求められる感染対策の強化」(時論公論)
そもそもからお聞きしますが、どうしてここまで世界各国に広がっていったんですか?
まず1つは感染力が強いんです。
例えば私が感染したら、私が治るまでの間に「平均で何人の人にうつすか」で、ウイルスの感染させやすさが評価されます。
新型コロナウイルスの場合は、何も対策をしなければ大体2.5人と言われています。
何も対策をしない場合の指数は「基本再生産数」と呼ばれている。はしかは感染力が強く基本再生産数が12~18、インフルエンザは様々な報告があるが概ね2~3、MERS(中東呼吸器症候群)は1未満という報告がある。
例えば、1人が感染させるのが0.5人なら、感染力が弱くてあまり広まらないウイルスということになります。
感染力が強いのが要因のひとつということですね。
1人が平均2.5人に感染させるという話をしましたけど、分析した専門家は、感染者が10人いたら、10人がそれぞれ2.5人に感染させているわけではないとみています。
全員が感染させているんじゃないんですか?
10人のうちの8人は、ほとんど誰にも感染させなくて、残りの2人が感染を広げているんじゃないかと言われています。
もう1つは、これが一番やっかいなところですけども、誰が感染者なのかがわかりづらいということ。
そうですよね。
例えば(同じコロナウイルスの)SARSは、感染するとすぐに症状が悪化して、感染者かどうかがすぐわかるんですよね。
だから、感染した人を隔離することで、感染を断ち切ることができるようになる。
※SARS…Severe Acute Respiratory Syndrome の略。「重症急性呼吸器症候群」と呼ばれる。2002年に中国で報告され、8000人以上が感染した。コウモリがもつウイルスが広がったと言われている。
でも、今回の新型コロナウイルスは、もしかすると僕も感染していたかもしれないし、っていうぐらいわからないですよね。
症状の出ていない人も感染を広げる可能性があるので、なかなか食い止めるのが難しいんです。
インフルエンザと新型コロナウイルスの違いで一番難しいのは、無症状ということでしょうか。
インフルエンザは必ずしも全員を治せるわけではなく、亡くなる人もいますけれど、どういう病気なのかが長年の経験でわかっていて、治療薬もある。
そう考えると新型コロナウイルスの方が治すのが難しいという点で、危険だと考える人は多いかもしれないですね。
39度の熱が出たら、インフルエンザかコロナか自分で見分けることはできますか?
症状だけで見分けるのは難しいと思います。
わからないから、いまの状況だと、まずは、コロナを疑って行動したほうがいいですね。
コロナにしかない症状は何かありますか?
味覚異常とか嗅覚異常はコロナ特有でしょうか?
かぜでも出るケースはありますが、いまだとコロナを疑ったほうがよいと思います。
ただ、味覚に異常がでるというのも全員じゃないんですよ。
味覚が大丈夫だからコロナじゃないとはならないので、そこは要注意ですね。
オンライン診療でお医者さんに質問をして答えてもらうだけじゃわからないんですか?
それは、やっぱり検査しないとわからないです。
あと、無症状の話でいうと、新型コロナウイルスを「見えにくい感染症」と専門家が表現しています。
見えにくい?
風邪かなと思っていたり、症状もなくて普通に生活していたりするんだけど、実際は感染している人がいるから。
でも、高熱が出ていない人に「全員家で寝ていてください」と言ってもそうはうまくいかないので、感染拡大を抑えるのが難しいところですよね。
そうですよね。
その意味で、こう言えると思います。
「決定的な対策を取りにくい感染症」
見えにくいということ、SARSみたいに囲い込みができない、インフルエンザみたいに今の医療水準にお任せして治療を進めるということもできない。
これまで人類がウイルスと戦ってきた手法が、どれもうまく当てはまらないんですよね。
全く同じ行動をとった場合、若い人と高齢の人では、感染のしやすさに差はあるんですか?
感染しやすいかどうかはわからないな。
若い人の場合、本人にとっては、症状が出なかったり、お年寄りに比べて圧倒的に重症化しにくかったり、本人にとっては「たいしたことじゃないな」となる可能性は高いです。
でも、それが社会にとって安全か?っていうとそういうことではないよね。
若い人が60代以上の人と隔離された世界で生きているわけではないので、高齢者にもウイルスが広がってしまうんです。
下の2つの図のように、感染者は若い世代に多いですが、死亡する人は高齢者に多いんです。
若者にとっては危機感を自分の身近な所で感じにくいかもしれませんが、よく考えて行動することが大事だと思います。
そう思いました。
若い人は症状が出なかったり、軽かったりするケースが多いですが、後遺症に苦しむ人もいるんです。
けん怠感、気分の落ち込み、思考力の低下、息苦しさ、髪の毛が抜ける、などですね。
この後遺症のことも若い人たちに知っておいてほしいと思います。
コロナウイルス自体は、ずっと昔からあったんですか?
そういうふうに考える方が自然なのかなとは思いますけれど、いつからあったのかは、はっきりしないですね。
「SARS」は2002年、「MERS」は2012年に見つかったんです。
比較的最近のことなんですね。
コロナウイルスは専門家の方々の間では警戒されていたウイルスなんですか?
多くの専門家は、新型コロナウイルスは現れるかもしれないと思ったけども、こんな大変なウイルスとは思っていなかったと思うんです。
さっき言ったように、人に感染するコロナウイルスは6種類わかっていたけれども、4種類は普通の風邪で、SARSは症状が分かりやすいので封じ込めができた。
MERSも世界的な大流行にはなっていない。
だから、新しいコロナウイルスが出たとしても、抑え込めるか、そこまで広がらないのではないかということで、あまり警戒されていなかった。
新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)を引き起こす危険性について書かれた書籍はありましたけど、現実的に考えていた専門家は、世界的にもそんなに多くはなかったと思います。
ところで、2009年の新型インフルエンザって覚えていますか?
かかった記憶があります。
次に新しいウイルスが世界中で大流行するとしたら、新型インフルエンザだと思っていたわけですよ。
国も専門家も、WHOもそう思っていたし、私も思っていたんです。新型インフルエンザの方が目の前にある危機だったんですよね。
感染するときは基本的に飛まつ感染が主な原因なんですか?
飛まつと接触ですね。
接触は僕が感染者だったとすると、触ったところを誰かがもう1回触って感染するということです。
人は生活してると、どうしても顔を触るんですよ、鼻とか口とか。
目のところも結構感染しやすいところで、だから目をかくとそれで感染する恐れがあります。
そうなんですね。
あとは「マイクロ⾶まつ感染」といって、換気の悪い空間では、数ミクロンという細かい粒になって空気中を漂って感染すると考えられていますね。
マイクロ飛まつ感染の対策には、いわゆる「三密」の回避と換気、そしてマスクが大切だと言われています。
基本的な対策ですね。
そう。マイクロ飛まつを含む飛まつ感染と接触感染を避けることを徹底的にすれば、感染のリスクが抑えられて、流行を抑えられるだろうということで対策しているんだよね。
飛まつが飛びにくくなるのでマスクをして、飛ぶと困るから2メートル以上離れましょうっていう「ソーシャルディスタンス」を徹底すると。
特に、マスクをせずに大声を出したり、歌を歌ったりして周りの人に感染させてしまうケースが相次いでいます。
注意しないといけませんね。
そして、知らないうちに⼿で触ったウイルスが⼝や鼻、⽬から感染しないように、手洗いをして、感染リスクを国民全体で下げようということなんですよね。
飛まつと接触がメインであれば、もし満員電車で新型コロナウイルスにかかっている人が隣にいても、その人がひと言もしゃべらなくて、触れもしなければ感染しないんですか?
しゃべらなければリスクは抑えられます。ただ、手すりなどに触っているかもしれません。
とりあえずは、無用に喋らないと。喋るのと喋らないのとでは大違いなので、喋らない・触らない・お互いにマスクして、手は頻繁に洗って消毒することが大事だと思います。
新型コロナウイルスの指数は、何も対策をしないと2.5でした。この指数は1を超えると感染が拡大し、1未満だと感染者が減少に向かいます。
どうしたらいいんですか?
1未満にしたいですね。
私たちは、3密の回避やマスク、手洗いといった対策をしていますが、これは、この指数を下げることに他なりません。
そういうことだったんですね。
対策をしないと指数は2.5に近づき、1を超えてしまうので、私たちは常に対策を続ける必要があるんです。
対策をゆるめてはいけないんですね。
専門家が対策の徹底を呼びかけているのは、こういうことからなんです。
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▽都道府県ごとの感染者数や最新のニュースなどをまとめた新型コロナ特設サイトはこちらからご覧ください
編集 宮脇麻樹
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