2020年11月06日
(聞き手:伊藤七海 勝島杏奈)
ニュースで日々伝えられる「日経平均株価」。新型コロナウイルスの感染拡大後、世界中で株価は乱高下しました。なぜ、株価が動くのか。株価の値上がり・値下がりは、私たちの生活にどんな影響があるのでしょうか。経済部のニュースデスクに1から聞きました。
株の基本について教えてもらいましたが、ニュースでは「日経平均株価」というのが出てきます。
いったいどう見ればいいんですか?
日経平均株価というのは、東証1部に上場しているうちの代表的な225社の株価の動きを、過去との連続性がとれるような形に計算して出す指数です。
日経平均株価
日本経済新聞社がつくる株価指数。東証1部上場企業のうち取引が活発な企業の中から、業界のバランスを考慮した225社を選定し、その株価から算出。トヨタ自動車やファーストリテイリングなどが含まれる。採用される銘柄は定期的に入れ替えが行われている。
その「平均株価」を見て、私たちは何を知ることができるんですか。
ざっくり言うと、過去からの推移です。
1つの企業で見た場合、事業が好調で儲かった時には株価が上がりますよね。
だけど225社全体の株価の上がった下がったを見ると、経済とか景気とか、日本の産業界が今どういう方向に進んでいるのか、全体の傾向としてつかむことができます。
どのくらいが普通の株価なんですか。
株価の絶対的な水準っていうよりは、矢印の向きとか角度が大事だと思います。
はい。
バブルの時には日経平均株価は3万8000円ぐらいまでいきました。
だけどバブルが崩壊して金融危機が起きて、厳しい時には7000円くらいまで下がった。
今は、そこから東日本大震災とかリーマンショックとかそういう大きなショックを経て、株価が戻ってきて2万3千円くらいになっています。
確かに株価の水準は重要なんだけれども、絶対値がどこかにあるわけでもないんです。
たしかに。
むしろ、「どうして株価がこうなってるのか」を見たほうがいい気がします。
そうすると、経済がどっちに向いてるのか分かることがあると思う。
だから僕たちも株価が「きょうは上がりました」とか、「下がりました」っていうようなことを、毎日ニュースで伝えるわけです。
じゃあ個人としては、「平均株価が上がってきてたらもう少し株を買ってみようかな」とか、そういう行動につながるんですか。
そうだね。そういう人はいると思います。
企業はこの流れから何を分析するんですか?
投資を専門にする証券会社とか銀行の担当者は株価の流れを見て、自分たちのトレーディングを考えます。
トレーディング
銀行や証券会社などの金融機関が、市場利益を獲得するために株式や債券、外国為替などを売買する取引のこと。
だけど個別の企業は、まずは自分たちの会社の株価がどうなるかっていうことを中心に考えるんじゃないかな。
やっぱり会社にとっては通信簿なので。
通信簿ですか。
新製品を出したのに、「何かいまひとつ反応が悪いな」とか。
会社にとって自社の株価の動きは自分たちのやってることに対する評価でもあるわけです。
はい。
一方で平均株価からは、「ものが売れそうかな」、「こういう状況だから作っても売れなさそうだな」というような、商売の判断をするための大きな流れが見えてくるのだと思います。
なるほど。
日経平均だけじゃなくて、ニューヨークの株価がどうなってるとか、いろいろ見ながら戦略を立てると思います。
国ごとに平均株価ってあるんですよね。
そう。アメリカのニューヨーク証券取引所でいえば、「ダウ平均株価」。
ダウ平均株価というのは、「ダウ・ジョーンズ社」っていうところが、主要企業30社株価から出したものです。
30社だけ!?
アップルとか、ボーイングとかが入っています。
世界にはいろいろな株価の指数がありますが、やっぱりアメリカの株価の動きが注目されます。
世界経済そのものの動きに近いぐらい、重要な経済圏だと見られているので。
へー!
日本とアメリカってほぼ半日の時差がありますよね。
だから、夜の間にニューヨーク市場で取り引きして株価が決まって、その結果を見て東京の人たちは東京市場で取り引きしたりします。
ニューヨークの株価がものすごく下がると、すごく気になる。
バッドニュースが来たから、東京でも株を売ったほうがいいんじゃないかという判断をすることもあるんです。
なるほど。
世界はつながっているので、景気は日本の事情だけで語れなくなってきています。
なので、世界各国の株式市場の動き、アメリカ、ヨーロッパ、中国の株価の動きは、それぞれ重要だと思います。
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結局、株価の値上がり値下がりってどういうふうに決まっていくんですか?
さっきも触れたけど、要するに個別企業の通信簿なので株価を決めるのは業績です。
儲かっているかどうかが一番重要。それに成長性とか将来性だね。
なるほど。
あとはやっぱり経済そのもの。
例えば大きな事件や自然災害とか、ネガティブなことが起きると株価にも直結します。
それに、政治の状況が大きく変わるとか、政策を転換するとか、そういう外部の動きも無視できません。
そうですよね。
じゃあ、例えばバブルの時はなんであんなに株価が上がったんでしょう。
当時、日本はとにかく景気をふかさなきゃいけないという状況だったんです。
政策的に金利を低くしてお金を借りやすくして、どんどん土地にお金が流れ込んでいって、過熱していった。
当時、借金して土地を買って、買ったその足で売りに行くと、もうそれで10%増しで買ってくれるとか言われていた時代だったんです。
えー!
さらに、そのお金が株に流れて株価が急騰したんです。
どこかおかしいって思いながらも、「パーティーが続いている間は楽しもうぜ!」っていうようなことが続いた。
だけど、株価は実力以上に値上がりしちゃっていた。
なので、パーンとバブルがはじけました。
株価が上がることは、一見いいことだって思ってしまうんですが。
そうですね。
株価がちょっと値上がりするのは誰も困らない、ハッピーだよねと。
でもそれを繰り返しているうちに、企業の業績とか将来性をはるかに超えるところまで株価が上がってしまったんです。
はい。
株価が急上昇するトレンドを将来性と錯覚した。
「もっといけるんじゃないか?」っていう心理が働いてしまったんですね。
それがバブルの終わりのころには、だんだんみんなおかしいと思い始めて、誰かが「ちょっとやばいから、いち抜けするよ」って売り始めます。
すると「俺も売らなきゃ」、「俺も売らなきゃ」ということが起きて株価は暴落しました。
たしかに、想像できます。
いつか終わりがくるとうすうす感じながらも、祭りの熱狂の中にみんなで身を投じていた、そんな時代だったんじゃないかなと思います。
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ちなみに、新型コロナウイルスの感染が広がって、株価もすごく動いたと思うんですが、これはなぜなんですか。
3月の上旬にアメリカも日本も株価がものすごく大きく下がって、アメリカは1987年のブラックマンデー以来の大きな下落率を記録しました。
ブラックマンデー
1987年10月19日、月曜日に起きたアメリカのダウ平均株価の大暴落。値下がり率は22.6%と、当時最大の下落。日本やヨーロッパなどに波及し、世界同時株安につながった。
どこまでコロナの感染が広がるのか、全く先が読めないっていう雰囲気でしたよね。
はい。
投資家は「値下がりのおそれがある株は全て売ってしまえ!」という雰囲気だったわけです。
もっと株価が落ちていくかもしれないんだったら、今すぐ売ったほうがいいっていう気分は分かりますよね?
はい、分かります。
ただ、そのあとは例えばアメリカだと、空前の規模の経済政策を行って、失業した人たちへの現金支給といった対応を始めました。
あるいは、中央銀行が銀行を通じて企業にお金を供給する政策もとったんです。
そうなんですね。
日本でも同じようなことをやったし、ヨーロッパでもやった。
それを見て「世界中が経済を壊さないよう、本気で支えるつもりだ」というメッセージと受け止めた。
投資家が一応信じたことで株価が戻ってきました。
なるほど。
実は結果として、いま世界にはあり得ないぐらいお金が満ち満ちてるんです。
実感がない・・・
本当に空前の規模のお金が出てるんですよ。
なので、それがあふれて、また株式市場に流れ始めているっていうのが現状なのかなと思います。
そうなんですね。
けど、旅行とか航空業界とか、すごい影響あったと思うんですけど。
そう、本当に厳しい状況の企業にとっては、株価が少し戻っただけではとても喜ぶことはできません。
ただ、株価には常に将来性を見るっていう要素もあるので、ダーンと下がったものが戻ってきていると。
投資家は「時間はかかるかもしれないけど、景気はだんだん元に戻るプロセスに入っている」と先取りしているのだと見ることもできます。
そういうことなんですか。
理屈で言うとね。
けど、現実問題として今はまだ国際的な往来は戻ってきてはいないし、また感染が広がるかもしれない。
金融の動きとは別に、ブレーキがかからざるを得ないところもあります。
ですので、株価が示しているのと同じ方向に世界が進んでいくとは必ずしも言い切れないのですが、変調を感じたときに、まっ先に反応するのが株価です。
だから、株価がどんなシグナルを発しているのか、それを読み解こうと日々ウオッチしているんです。
ここまで株について1から解説してもらいました。次回からは為替について聞きます。
編集:加藤陽平
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