2020年12月24日
(聞き手:勝島杏奈 田嶋あいか)
増えたり、減ったり、マスクに消毒、密を避ける…。いろいろやってきたけど、終わりが見えない新型コロナウイルス、「コロナ疲れ」ともささやかれるなか、これ以上の感染拡大を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?(12月22日改訂版)
学生
勝島
いろいろ対策はしていると思うのですが、感染が増えています。その1番の理由は何ですか?
気温が低くなったことなど、いろいろなことが言われているけれど、1番と言われると難しいですね。
理由として指摘されていて、私たち一人一人が考えないといけないのが、いわゆる「コロナ疲れ」です。
中村
解説委員
コロナ疲れ?
感染防止対策をやってもやっても状況がよくならないので。
“やってもやらなくても同じなんじゃないか”という感じで、だんたん対策が緩んできてしまっているのではないかということです。
学生
田嶋
わかる気もします…。
ちょっと感染者数の推移を振り返ってみます。
緊急事態宣言を出した後、ぐっと感染者が減った時期がありましたよね。
この時期の感染者は全国あわせても1日数十人程度だったんですよ。
そんなに少なかったんですね。
その後、7月から8月に第2波が来て、ピークを過ぎてどこまで下がったかというと。
9月から10月頃は1日に200人から多い時で700人くらい、1日数百人は感染者が出る状況が続いていたんですよね。
第1波の後は数十人だったのに、第2波の後は数百人もいたんですね。
そう。その頃から専門家の会議では常に注意を呼びかけていました。
この状況はいつ上昇に転じるのかわからない、何かをきっかけにまた感染の山が訪れるかもしれないとは言われていたんです。
第1波と第2波のあとでこんなに違うとは知らなかったです。
だから感染者数が下がりきっていない不安定な状態のところに、「コロナ疲れ」で少し対策が緩んでしまい、再び感染が拡大してしまった面はあると思います。
感染者が増えた理由として「Go Toトラベル」「Go Toイート」は関係あるんですか?
Go Toトラベルが関係あるのかについては諸説あります。
国はGo Toトラベルによって広がったという科学的根拠はないと言っています。
そうなんですね。
ただ、関係あると見る関係者が少なからずいるのも事実です。政府は科学的根拠がないって言うけど、関係ないと言い切ることもできないという指摘もあるしね。
一般に人の行動が増えると感染のリスクが高まるというのが感染症の専門家の考えです。
いずれにしても新幹線など移動の車内でマスクなしでしゃべらない、行った先での飲食の仕方に気をつけるといった感染対策をするのが大前提だと思います。
「Go Toイート」はどうですか?
感染を広げる場として会食が多いので、食事をする「Go Toイート」は注意が必要です。
感染者が増えた段階で、いくつかの自治体は食事券の販売をやめると表明しましたね。
なるほど。
ここも結構難しくて、飲食店は相当打撃を受けてきています。
これまで頑張れていたとしても、もうギリギリのところかもしれないし、できる対策をしてきた店も多い。
社会経済活動と感染対策をどう両立させるのかは本当に難しいと思います。
日本も感染が拡大していますが、欧米はもっと感染が広がっているという印象もあります。どういうことなのでしょうか。
確かにアジアやオセアニアの人たちは、欧米に比べて感染者数や重症者数が少ないです。
ただ、この理由は、実は大きな謎で…。
謎なんですね。
遺伝的な何かの要素がコロナウイルスに対してうまく働いているのか・・・。
その地域の人たちが昔、感染したウイルスの免疫が新型コロナウイルスにも働いているのか・・・。
あるいは、生活習慣の差が関係しているのか・・・とか、いろいろ言われてるけど、はっきりしたことはまだわからないんです。
結局、わかっていないということですね。
ノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授がそのことを「ファクターX」って言っています。
現時点でわかっていない何らかの要素があって、日本人やアジア人がかかりにくいのかもしれないという意味ですね。
ファクターXが解明されると、新型コロナウイルスに感染しにくくなる対策につなげられるかもしれません。
ほかの感染症で第2波がきた事例はありますか?
スペイン風邪という感染症が1918年にあって、「風邪」って言っても、当時の新型インフルエンザだったんですね。
知りませんでした。
第一次世界大戦の頃の話ですが、翌年の1919年の冬の方が感染が拡大しました。
今とは医療体制も違うし、ウイルスについてもよくわかっていなかったし、戦争による混乱もあって上手く抑えることができず、第2波が大きくなったんです。
医療崩壊の恐れとよく言われてますが、実際、医療崩壊してしまったらどのくらい危険なんですか?
医療崩壊の怖いところは、新型コロナウイルスの感染者だけじゃなくて、ほかの病気の患者さんも救えなくなることです。
といいますと・・・。
「いま治療した方が絶対に良い」という人の治療が後回しになってしまい、適切な治療を受ければ治る人がそうならない。
なるほど。
さらに、ある病院がその状態に陥ると、その地域のほかの病院にもしわ寄せがいくことも考えられます。
結果として地域医療が機能しなくなってしまう恐れがあるんです。
今は感染した人はどういう治療を受けているんですか?
当初とはだいぶ変わりましたね。
第1波の頃はどう治療をしていいかわからなかったので、熱が出たら熱を下げる薬を使う、肺炎になったら肺を治す薬を使うという対症療法だったんですね。
患者さんの症状を見て症状を和らげる治療をして、症状を抑えている間に本人の体力で何とか治ってほしいという治療の考え方でした。
最近は、はじめの頃に比べると、特に重症になる人たちの身体の中で何が起きているのか、どうやって治療すればいいかがわかってきたんです。
どんなことがわかってきたんですか。
感染症にかかると、体の免疫の力がはたらいてウイルスを押さえ込みますが、その免疫の力が働き過ぎて悪さをする場合があることがわかってきたんですね。
免疫って働きすぎるとダメなんですか?
人の体は、ウイルスなど外から入ってきたものを攻撃しようとする機能を持っているんです。これを免疫と言います。
その作用が過剰に出てしまうことがあるようなんです。これを『サイトカインストーム』(免疫の暴走)と言っています。
ウイルスも攻撃するけど、攻撃しなくてもいい自分の体の細胞まで攻撃してしまうので、そこで炎症が起きて重症化することがわかってきました。
そんなことが起こるんですね。
あと、血管の中で血液が固まる血栓ができる人が重症化しやすいこともわかってきたんですね。
血栓ですか。
血栓ができて血管が塞がると、血液が通らなくなってその先の細胞に酸素や栄養がいかなくなる。
特に肺の血管はすごく細かくなるので、その血管が詰まると肺の機能が低下して重症化する。
肺に影響が出るってよく耳にします。
血栓が脳の血管の狭いところでつまると、脳梗塞みたいな症状を起こす人もいます。
肺が悪くなったり、脳梗塞になったり、症状は多様だけれども、それは血栓が様々な臓器に飛んでいるからじゃないかと言われています。
なるほど。
免疫が過剰にはたらかないようにする薬や血栓ができにくくなる薬はあるんです。
さらにその免疫が強くなりすぎているか、血栓ができやすいかどうか検査で診断することもできるんですよ。
診断できるんですね。
重症化しそうだとわかると、血栓を抑えるために血液をサラサラにする薬を使ったり、免疫の力が働き過ぎる場合はそれを弱める薬を使ったり。
いろいろ検査をして、この人はどういうパターンで悪化しそうかがだんだんわかるようになってきている。
検査して何らかの兆候があったらそうした薬で重症化を防ぐという「攻めの治療」ができるようになって、致死率や重症化率が下がってきています。
治療が進化してきたと。
さらに、もう少し積極的な治療法として、新型コロナウイルスに感染して治った人の血液を使う治療方法があります。
感染して回復した人は、新型コロナウイルスに対する免疫ができます。
難しい言葉でいうと、体の中に「抗体」という新型コロナウイルスをやっつけてくれる物質ができているので、その物質を抜き出して、苦しんでいる患者に投与するというものです。
そんな方法があるんですね。
ただ、1人の血液から数人分程度しかできないので、大量生産には向かないんです。
そこで、そういう成分を人工的に作るという方法もあって、いま日本でも臨床研究が行われています。
だけど、現時点では値段が高いという問題もあります。大量生産で値段を下げられるかも注目されています。
できることは、いろいろありそうですね。
そう、ワクチンや新しい治療薬ができるまでの間、何にもできないかというとそうではないんです。
先回りして治療することで重症化させない、あるいは重症化した患者の命を救う治療がだんだんできてきているのが現状ですね。
PCR検査は、なかなか検査が受けられないと言われていましたが、いまはどうなんですか?
●新型コロナウイルスの検査
PCR検査…病原体の遺伝⼦を検出する検査で、いま感染しているかどうかを調べる。精度はある程度高いが、検査結果の判明までに時間がかかる。
前よりは受けやすくはなったし、受ける体制も増えてきているのが実態です。
保健所の業務があまりにも多すぎるということもPCRの検査数が増えなかった背景にありますね。
感染した人が誰と接触したか、その中で濃厚接触者は誰なのかを調べて、その人のPCR検査を手配することも保健所がやっていた。
大変ですね。
今は民間の検査機関でも検査ができるようになりましたし、PCR検査も唾液を使う方法など比較的いろいろな方法が開発されてきているので、そういう意味では受けやすくなってきています。
ただ、民間の検査機関については、PCRで陽性になった場合の対応に注意すべき点があります。
どんなところですか?
陽性になっても、保健所に届けられなかったり、医療機関に結びつかなかったりして、結局、再び医療機関で検査を受けないといけないケースもあるんです。
それに、これはどの検査でも言えることですが、実際には感染しているのに結果が陰性になったり、逆に感染していないのに陽性になることもあり、検査にはいろいろ注意が必要なんです。
PCR検査の供給量としては足りているんですか?
足りているかと言われると難しいです。
2月、3月は、医師がこの人は検査したほうがいいと思う人でも1週間ぐらい待つとかありましたよね。
当時(検査数は)1日数百件でしたが、いまは1日数万単位でできるようになっています。
さらに、抗原検査と組み合わせるなどして、検査を受けやすいようにしています。
抗原検査…病原体のタンパク質を見つける検査。結果が出るまでの時間が短く、コストも低いが、PCR検査に比べても精度は低い。インフルエンザの診断をする時に病院などで行われている検査がこれ。
抗体検査…過去にその病原体に感染していたかどうか、つまり免疫があるかどうかの検査。
ただ、感染者が多くなると、保健所も十分な対応が難しくなってきます。
韓国では当初から検査が多かったですが、2015年にMERSが院内感染で広がった時、政権が「対応ができなかった」とすごく批判されたんです。
その経験があるので、韓国はPCR検査などの感染症の体制をぐっと高めたというのがあります。中国もSARSの時の経験があります。
そうなんですね。
結局SARSもMERSも、日本に入ってこなかったのは良かったんですが、逆に言うと日本で危機感がなかなか高まらなかったんです。
対岸の火事ではなく、もっと自分たちのこととして考えればよかった、これは大きな反省点ですね。
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編集 宮脇麻樹
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